デザインによる知的資産経営:知的資産の活用事例と進め方(その2)

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 知的資産を有効活用することが、イノベーションにつながります。妹尾堅一郎氏は、「日経デザイン」2013年6月号で以下のように語っています。「イノベーションというと誰もが超高度技術を使いたがるんですが、身近な技術でもっとできることがあるんだということを知ってもらいたい」
 

3.知的資産の活用事例

 
 筆者の手元にある前掲の「日経デザイン」から知的資産を活用したと思われるケースとして、以下にモンベル社の事例を紹介します。
 

(1)たき火で発電

 
 図2に示す製品は、アウトドアにおける有名ブランドのモンベルが輸入・販売するキャンプストーブです。薪などを燃やすストーブに、その熱を受けて発電する発電装置を取り付けたものです。加えて、電気でファンが稼働し、燃焼室の中に空気を送り込むことによって燃焼効率が向上、たき火の火力が増すという機能もあります。
 
               知的資産
    図2.「BioLite キャンプストーブ(POTアダプター)」※画像提供:株式会社モンベル
 
 「薪などを燃やすストーブ」も「熱を受けて発電する装置」も、それ自体は目新しいものではありません。発電は、火力発電も原子力発電も、熱を電気に変換していることに変わりはないのですから……。決して高度な技術を使ったものではありませんが、それが価値あるデザイン(商品)として高く評価されています。その理由は、応用範囲の広さです。
 
 また、前掲「日経デザイン」には以下の記述があります。「『開発のきっかけはアフリカへの支援だった』とモンベル営業部の鈴木弥氏は説明する。アフリカは地域によってはかまどがまだ多く使われており、一酸化炭素による事故や、煙が引き起こす病気に悩まされている人が多い」この問題意識に基づき開発されたのが、本製品でした。
 

(2)知的資産との関係

 
 ここからは、筆者の解釈・推測にすぎず、開発者の見解ではありませんが、この開発に寄与した「知的資産」について考えてみます。少なくとも、以下の知的資産が絡んでいるのではないでしょうか。
 
【第一段階(現状認識)】
 
  ① ストーブを含む、アウトドア製品やアウトドア活動についての知見
  ② アフリカなどでは現在でも「かまど」が使われているという知見
  ③「 かまど」においては燃焼不良の問題が発生しているという知見
  ④ キャンプでも「かまど(ストーブ)」が使われているという知見
  ⑤ 熱があれば発電できるという知見
 
【第二段階(自社製品との関係の理解)】
 
  ① 自社製品の「ストーブ」は熱を出しているという知見
  ② 熱を出している「ストーブ」は「発電」に利用できるという発想
 
【第三段階(売れる商品とするために)】
 
  ①「 燃焼不良」「発電できる」というだけでは、日本の需要者に伝わりにくいという知見
  ② 緊急時にスマホなどの充電が可能という、訴求ポイントを作るという知見
 
 この製品には細部の仕組みについて特許があるのかもしれませんが、基本的には発熱する「ストーブ」と、その熱を受けて発電する発電装置とを結合したものであることから、おそらく最先端の技術はないでしょう。それでも、今まで市場に存在しなかった製品は開発できるのです。ポイントは、開発者が各知見を認識(情報を共有)していたこと、「熱を出しているストーブは発電に利用できる」
 
 第二段階の②という発想ができたことに尽きます。ここで、製品としては一応完成するのですが、「緊急時にスマホなどに充電可能」(第三段階②)という味付けをすることで、「商品」として完成したのだろうと思います。
 
 もし、この開...
 知的資産を有効活用することが、イノベーションにつながります。妹尾堅一郎氏は、「日経デザイン」2013年6月号で以下のように語っています。「イノベーションというと誰もが超高度技術を使いたがるんですが、身近な技術でもっとできることがあるんだということを知ってもらいたい」
 

3.知的資産の活用事例

 
 筆者の手元にある前掲の「日経デザイン」から知的資産を活用したと思われるケースとして、以下にモンベル社の事例を紹介します。
 

(1)たき火で発電

 
 図2に示す製品は、アウトドアにおける有名ブランドのモンベルが輸入・販売するキャンプストーブです。薪などを燃やすストーブに、その熱を受けて発電する発電装置を取り付けたものです。加えて、電気でファンが稼働し、燃焼室の中に空気を送り込むことによって燃焼効率が向上、たき火の火力が増すという機能もあります。
 
               知的資産
    図2.「BioLite キャンプストーブ(POTアダプター)」※画像提供:株式会社モンベル
 
 「薪などを燃やすストーブ」も「熱を受けて発電する装置」も、それ自体は目新しいものではありません。発電は、火力発電も原子力発電も、熱を電気に変換していることに変わりはないのですから……。決して高度な技術を使ったものではありませんが、それが価値あるデザイン(商品)として高く評価されています。その理由は、応用範囲の広さです。
 
 また、前掲「日経デザイン」には以下の記述があります。「『開発のきっかけはアフリカへの支援だった』とモンベル営業部の鈴木弥氏は説明する。アフリカは地域によってはかまどがまだ多く使われており、一酸化炭素による事故や、煙が引き起こす病気に悩まされている人が多い」この問題意識に基づき開発されたのが、本製品でした。
 

(2)知的資産との関係

 
 ここからは、筆者の解釈・推測にすぎず、開発者の見解ではありませんが、この開発に寄与した「知的資産」について考えてみます。少なくとも、以下の知的資産が絡んでいるのではないでしょうか。
 
【第一段階(現状認識)】
 
  ① ストーブを含む、アウトドア製品やアウトドア活動についての知見
  ② アフリカなどでは現在でも「かまど」が使われているという知見
  ③「 かまど」においては燃焼不良の問題が発生しているという知見
  ④ キャンプでも「かまど(ストーブ)」が使われているという知見
  ⑤ 熱があれば発電できるという知見
 
【第二段階(自社製品との関係の理解)】
 
  ① 自社製品の「ストーブ」は熱を出しているという知見
  ② 熱を出している「ストーブ」は「発電」に利用できるという発想
 
【第三段階(売れる商品とするために)】
 
  ①「 燃焼不良」「発電できる」というだけでは、日本の需要者に伝わりにくいという知見
  ② 緊急時にスマホなどの充電が可能という、訴求ポイントを作るという知見
 
 この製品には細部の仕組みについて特許があるのかもしれませんが、基本的には発熱する「ストーブ」と、その熱を受けて発電する発電装置とを結合したものであることから、おそらく最先端の技術はないでしょう。それでも、今まで市場に存在しなかった製品は開発できるのです。ポイントは、開発者が各知見を認識(情報を共有)していたこと、「熱を出しているストーブは発電に利用できる」
 
 第二段階の②という発想ができたことに尽きます。ここで、製品としては一応完成するのですが、「緊急時にスマホなどに充電可能」(第三段階②)という味付けをすることで、「商品」として完成したのだろうと思います。
 
 もし、この開発の成果が特許になるとしても、それはこの開発の成果であって、開発のベースではありません。開発のベースは技術ではなく、「かまどを良くしたい」という特許とは無関係の意識なのです。
 
 以上を整理すると、この開発において特許などの産業財産権はおそらく寄与していないのであり、寄与したのは社員の知識(知見)と、熱を発生するという自社製品の特質と、熱を必要とするという発電の特質とを結び付ける発想にあったということができます。
 
 次回は、3.知的資産の活用事例の(3)開発の視点を解説します。
 
 

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この記事の著者

峯 唯夫

「知的財産の町医者」として、あらゆるジャンルの相談に応じ、必要により特定分野の専門家を紹介します。

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