習熟曲線効果からみるコストダウンの着眼点(その1)

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習熟

 

【習熟曲線効果からみるコストダウンの着眼点 連載記事】

 1.習熟曲線効果は効果的なコストダウンツールか

 
 コストダウンクライアント企業の部長さんとの打合せで、顧客から頻繁にコストダウンの依頼がきており、困っていると話をされました。それで、具体的に「どのようなコストダウンの依頼なのですか。」と尋ねてみました。その返答は、「よくわからないのだか、習熟曲線効果というのがあって、累積生産数量が2倍になるとそのコストが20%下がる。」と顧客から説明されたそうです。その会社は、ニッチな設備機械を作っていて、その業界ではトップクラスにありました。
 
 顧客は、注文台数の累積が200台目を超えて、注文台数100台目の2倍になった。したがって、100台目のコストから20%削減できているはずである。だから、100台目の単価の20%のコストダウンしてほしいというものです。習熟曲線効果は、さらに累積生産台数が200台から400台目になると、コストも前述と同様に20%削減できることになるという法則のようなものです。しかし、クライアント企業の生産活動では、確かに累積生産台数が200台を超えているが、100台時のコストから20%という大きくなストダウンは進んでいないため、相談があったのです。
 
 習熟曲線という言葉は、作業者の習熟度(あるいは経験度)によって生産の効率化が図れることであると理解していました。習熟曲線効果を調べましたところボストン・コンサルティング・グループによって、「多くの業界で見られる“同一製品の累積生産量が増えるにしたがって、単位あたり総コストが一定の割合で低下をしていく“というパターンを示す曲線」と紹介されていました。
 
 さらに一般的にということで、累積生産量が倍増するごとに、コストが20~30%ずつ逓減するとされる。これが、先程の累積の生産数量が2倍になるとコストが20%削減されるという話のことなのです。そして、削減する割合(20~30%のコストダウン)が、習熟率と呼ばれていました。また、習熟率は、業界や製品によって異なるものとも紹介されていました。
 
 この習熟曲線効果の結論は、企業競争において累積生産数量が倍増すれば、コストダウンによって、コスト競争力が維持できることから、競争要因として重要であること。また、習熟曲線効果は、企業の努力が必要であり、そのための投資をすべきであると結論付けていました。
 

1.1 習熟曲線効果を生む要因

 
 習熟曲線効果は、ボストン・コンサルティング・グループによって、軍需をはじめ機械工具、自動織機、自動車組立、化学プラントなど多くの製品や産業で分析が進められていました。これらの分析では、製品の累積生産数量(経験量)が、単位あたり労働投入量を規定する重要な要因であると確認されています。そして、ボストン・コンサルティング・グループでは、この習熟曲線が、効力を発揮した要因について、次の項目を掲げています。
 
     【習熟曲線効果の要因】
 
      ① 作業者の能率向上      ② 方法改善・作業改善
      ③ 新しい生産工程       ④ 生産設備の性能向上
      ⑤ 活用資源ミックスの変更   ⑥ 製品の標準化
      ⑦ 製品設計          ⑧ 歩留りの向上
 

1.2 習熟曲線効果の要因考察

 
①作業者の能率向上は、作業を繰り返すことによって、要領やコツを得て作業を最短距離で進めようとするなどの熟練度が増します。この結果、能率の向上が図れることです。これは、一般に製造現場の管理監督者の指導や作業者の努力による部分であり、狭義の習熟(熟練)です。
 
②方法改善・作業改善は、作業の専門化や作業方法の改善を指しています。
具体的には、3Sの中の専門家による生産性のアップ、工程改善、動作改善などがあたります。これは、生産部門内の生産技術、製造技術といった製造活動をサービス支援する部門が担当しているものです。
 
③新しい生産工程は、新しい製法や工法の開発によって、生産性をアップすることを指しています。これは、生産活移動における設備機械の検討になりますので、生産部門内の設備管理、生産技術といった部門が担当することになります。
 
④生産設備の性能向上は、従来の設備に対して改善を図ることによって、生産性をアップすることです。これも、生産活移動における設備機械の検討になりますので、生産部門内の設備管理、生産技術といった部門が担当するものです。
 
⑤活用資源ミックスの変更は、製造の4M(材料、設備機械、作業者、方法)の組合せを変更することによって、生産性をアップすることを指しています。たとえば、熟練の作業者から非熟練の作業者へ、作業者から設備機械にといった変更です。これは、生産部門内の生産技術、製造技術といった製造活動をサービス支援する部門が担当しているものです。
 
⑥製品の標準化は、作業の繰り返しを高め、作業の単純化や標準化を推進することになります。この結果が、生産性をアップすることに繋がります。習熟曲線効果では、部品レベルでの標準化することによって、より大きなコストダウン効果を生んでいると報告されています。
 
⑦製品設計は、製品開発の経験を積むことによって、顧客ニーズを的確にとらえることができるようになり、そのニーズに合った製品仕様や性能にブラシアップすることができる。その結...

習熟

 

【習熟曲線効果からみるコストダウンの着眼点 連載記事】

 1.習熟曲線効果は効果的なコストダウンツールか

 
 コストダウンクライアント企業の部長さんとの打合せで、顧客から頻繁にコストダウンの依頼がきており、困っていると話をされました。それで、具体的に「どのようなコストダウンの依頼なのですか。」と尋ねてみました。その返答は、「よくわからないのだか、習熟曲線効果というのがあって、累積生産数量が2倍になるとそのコストが20%下がる。」と顧客から説明されたそうです。その会社は、ニッチな設備機械を作っていて、その業界ではトップクラスにありました。
 
 顧客は、注文台数の累積が200台目を超えて、注文台数100台目の2倍になった。したがって、100台目のコストから20%削減できているはずである。だから、100台目の単価の20%のコストダウンしてほしいというものです。習熟曲線効果は、さらに累積生産台数が200台から400台目になると、コストも前述と同様に20%削減できることになるという法則のようなものです。しかし、クライアント企業の生産活動では、確かに累積生産台数が200台を超えているが、100台時のコストから20%という大きくなストダウンは進んでいないため、相談があったのです。
 
 習熟曲線という言葉は、作業者の習熟度(あるいは経験度)によって生産の効率化が図れることであると理解していました。習熟曲線効果を調べましたところボストン・コンサルティング・グループによって、「多くの業界で見られる“同一製品の累積生産量が増えるにしたがって、単位あたり総コストが一定の割合で低下をしていく“というパターンを示す曲線」と紹介されていました。
 
 さらに一般的にということで、累積生産量が倍増するごとに、コストが20~30%ずつ逓減するとされる。これが、先程の累積の生産数量が2倍になるとコストが20%削減されるという話のことなのです。そして、削減する割合(20~30%のコストダウン)が、習熟率と呼ばれていました。また、習熟率は、業界や製品によって異なるものとも紹介されていました。
 
 この習熟曲線効果の結論は、企業競争において累積生産数量が倍増すれば、コストダウンによって、コスト競争力が維持できることから、競争要因として重要であること。また、習熟曲線効果は、企業の努力が必要であり、そのための投資をすべきであると結論付けていました。
 

1.1 習熟曲線効果を生む要因

 
 習熟曲線効果は、ボストン・コンサルティング・グループによって、軍需をはじめ機械工具、自動織機、自動車組立、化学プラントなど多くの製品や産業で分析が進められていました。これらの分析では、製品の累積生産数量(経験量)が、単位あたり労働投入量を規定する重要な要因であると確認されています。そして、ボストン・コンサルティング・グループでは、この習熟曲線が、効力を発揮した要因について、次の項目を掲げています。
 
     【習熟曲線効果の要因】
 
      ① 作業者の能率向上      ② 方法改善・作業改善
      ③ 新しい生産工程       ④ 生産設備の性能向上
      ⑤ 活用資源ミックスの変更   ⑥ 製品の標準化
      ⑦ 製品設計          ⑧ 歩留りの向上
 

1.2 習熟曲線効果の要因考察

 
①作業者の能率向上は、作業を繰り返すことによって、要領やコツを得て作業を最短距離で進めようとするなどの熟練度が増します。この結果、能率の向上が図れることです。これは、一般に製造現場の管理監督者の指導や作業者の努力による部分であり、狭義の習熟(熟練)です。
 
②方法改善・作業改善は、作業の専門化や作業方法の改善を指しています。
具体的には、3Sの中の専門家による生産性のアップ、工程改善、動作改善などがあたります。これは、生産部門内の生産技術、製造技術といった製造活動をサービス支援する部門が担当しているものです。
 
③新しい生産工程は、新しい製法や工法の開発によって、生産性をアップすることを指しています。これは、生産活移動における設備機械の検討になりますので、生産部門内の設備管理、生産技術といった部門が担当することになります。
 
④生産設備の性能向上は、従来の設備に対して改善を図ることによって、生産性をアップすることです。これも、生産活移動における設備機械の検討になりますので、生産部門内の設備管理、生産技術といった部門が担当するものです。
 
⑤活用資源ミックスの変更は、製造の4M(材料、設備機械、作業者、方法)の組合せを変更することによって、生産性をアップすることを指しています。たとえば、熟練の作業者から非熟練の作業者へ、作業者から設備機械にといった変更です。これは、生産部門内の生産技術、製造技術といった製造活動をサービス支援する部門が担当しているものです。
 
⑥製品の標準化は、作業の繰り返しを高め、作業の単純化や標準化を推進することになります。この結果が、生産性をアップすることに繋がります。習熟曲線効果では、部品レベルでの標準化することによって、より大きなコストダウン効果を生んでいると報告されています。
 
⑦製品設計は、製品開発の経験を積むことによって、顧客ニーズを的確にとらえることができるようになり、そのニーズに合った製品仕様や性能にブラシアップすることができる。その結果、原材料の節約や生産工程の効率向上、安価な材料などを図れるということです。
 
⑧歩留りの向上は、上記の要因によって向上することです。
 
 この習熟曲線効果は、冒頭で申し上げたように取引先との値引き交渉の道具ではありませんでした。会社のコスト戦略での優位性を確保するために役立てるものです。また、習熟率(製品のコストダウンの割合)は、業界や製品だけでなく、工場や生産工程によっても変化してくること、製品に加えられる設備機械と作業者の割合の比率の違いなどで異なってきます。
 
 そして、基礎技術が確立してくると、飛躍的なコストダウンや性能向上が難しくなってくること、むしろ付随して安全性や環境問題への対応が求められることがあり、コストダウンが狭まってきます。さらに、習熟曲線効果は、企業の努力と市場や顧客からの圧力の大きさによっても変わってくるとも記載されていました。
 
次回、習熟曲線効果からみるコストダウンの着眼点(その2)では、習熟曲線効果とコストダウンの着眼点を解説します。
 
 

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この記事の著者

間舘 正義

製品を切り口に最適コスト追求のためのコスト・ソリューションを提供します。

製品を切り口に最適コスト追求のためのコスト・ソリューションを提供します。


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