人的資源マネジメント:幸せは何からできている(その1)

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 今回は、充実感、満足感、幸福感を実感できるよりよい日常を過ごすためのポジティブ心理学を、その理論やデータとともに紹介したいと思います。
 
 前回は主観的ウェルビーイングについて解説し、その主要な要素である人生の満足度を計測し、何が幸福に関係するのかについて解説しました。ただ、人生の満足度や幸福感は人によって様々ですし、収入や学歴、社会的地位などとの相関も様々だということをお伝えしました。
 
 実際、人生の満足度を高めることが幸福度を高めることになるというのは、幸福を少々単純化しすぎているという懸念から、当初は人生の満足度を高めることを目標にしていたポジティブ心理学も、今は幸福について新しい考え方を構築して研究を進めています。今回はこの新しい考え方を紹介したいと思います。
 

1. 幸福理論の限界

 
 ポジティブ心理学がテーマとしていた幸福は、人生の満足度尺度によって計測でき、それを高めることが目標でした。これを「幸福理論」とよんでいます。しかし、人生の満足度尺度は、回答しているときの気分に左右されるという問題があります。また、気分が幸せに関係することは間違いありませんが、気分だけで幸せが決まってしまうわけではないはずです。ポジティブ感情(気分)が低くても充実した日々を過ごしている人もいるはずです。
 
 幸福を人生の満足度で考える「幸福理論」は、気分という感情を計測し、気分がよい状態を最大化することを目的としているわけですが、単純にひとつの尺度で幸福をとらえることには限界があるのです。さらに、幸せを感情で評価するのか、理性で評価するのかという問題もあります。人生の満足度尺度は、気分(感情)で質問に答えている割合が多いわけですが、人生のハシゴは感情よりも理性を優先して回答することがわかっています。
 
人的資源マネジメント図193. 感情と理性
 
 人生の満足度尺度や人生のハシゴ以外にも幸福度を計測する尺度はいろいろあり、使う尺度によって、感情(気持ち)を優先するのか理性(合理性)を優先するのかの傾向はあるのですが、そもそも、人は感情と理性の間で揺れながら幸せかどうかを評価するという性質を持っています。たとえば、「幸せはおカネで買える」ということを肯定するのは感情(気持ち)では納得いかないと思うものの、理性的(合理的)に考えるとおカネはあった方がいいという判断になることも特別なことではありません。幸せの評価にはいろいろな要素が複雑に絡み合っているのです。
 
 このようなことから、幸福は単純な一元的な尺度では計測できないことが明らかになり、ポジティブ心理学において幸福理論を継続することには限界が見えてきました。その結果、ポジティブ心理学は、幸福は多元的なものであり、その構成要素を理解することが大切だという姿勢に変わったのです。
 

2. ウェルビーイング理論

 
 現在のポジティブ心理学は、幸福は一元的なものととらえていた「幸福理論」から、幸福は多元的なものであり、その構成要素を理解するのが大切だという「ウェルビーイング理論」に変わっています。そして、「Flourish」とよんでいる「持続する幸福」が目的になっています。
 
 持続する幸福を求めるというのはウェルビーイングを高めることであり、ウェルビーイングは計測可能な独立した5つの要素で構成されています。つまり、人生における幸せとは、持続する幸福を追求することであり、そのためにはウェルビーイングの5つの要素を高める必要があるということです。5つの要素はどれも単独ではウェルビーイングを定義できるものではありませんが、どれもがウェルビーイングに関係するのです。
 
  人的資源マネジメント図194. 幸福理論 vs. ウェルビーイング理論
 
 図194は、幸福理論とウェルビーイング理論との違いを整理したものです。幸福理論が目標としていた人生の満足度は、ウェルビーイング理論ではポジティブ感情の中に含まれています。
 
 さらに、ウェルビーイングの5つの要素を支えるものとして、「強みの徳性(Character Strength)」 があります。人間には、親切心や、勇気、ユーモア、正直さなど、時代や民族、国などによって変わることのない普遍的な 24 の「徳」があり、誰もがその中でもとくに自分の強みとなる「徳」を持っています。それをその人の「強みの徳性」と...
 今回は、充実感、満足感、幸福感を実感できるよりよい日常を過ごすためのポジティブ心理学を、その理論やデータとともに紹介したいと思います。
 
 前回は主観的ウェルビーイングについて解説し、その主要な要素である人生の満足度を計測し、何が幸福に関係するのかについて解説しました。ただ、人生の満足度や幸福感は人によって様々ですし、収入や学歴、社会的地位などとの相関も様々だということをお伝えしました。
 
 実際、人生の満足度を高めることが幸福度を高めることになるというのは、幸福を少々単純化しすぎているという懸念から、当初は人生の満足度を高めることを目標にしていたポジティブ心理学も、今は幸福について新しい考え方を構築して研究を進めています。今回はこの新しい考え方を紹介したいと思います。
 

1. 幸福理論の限界

 
 ポジティブ心理学がテーマとしていた幸福は、人生の満足度尺度によって計測でき、それを高めることが目標でした。これを「幸福理論」とよんでいます。しかし、人生の満足度尺度は、回答しているときの気分に左右されるという問題があります。また、気分が幸せに関係することは間違いありませんが、気分だけで幸せが決まってしまうわけではないはずです。ポジティブ感情(気分)が低くても充実した日々を過ごしている人もいるはずです。
 
 幸福を人生の満足度で考える「幸福理論」は、気分という感情を計測し、気分がよい状態を最大化することを目的としているわけですが、単純にひとつの尺度で幸福をとらえることには限界があるのです。さらに、幸せを感情で評価するのか、理性で評価するのかという問題もあります。人生の満足度尺度は、気分(感情)で質問に答えている割合が多いわけですが、人生のハシゴは感情よりも理性を優先して回答することがわかっています。
 
人的資源マネジメント図193. 感情と理性
 
 人生の満足度尺度や人生のハシゴ以外にも幸福度を計測する尺度はいろいろあり、使う尺度によって、感情(気持ち)を優先するのか理性(合理性)を優先するのかの傾向はあるのですが、そもそも、人は感情と理性の間で揺れながら幸せかどうかを評価するという性質を持っています。たとえば、「幸せはおカネで買える」ということを肯定するのは感情(気持ち)では納得いかないと思うものの、理性的(合理的)に考えるとおカネはあった方がいいという判断になることも特別なことではありません。幸せの評価にはいろいろな要素が複雑に絡み合っているのです。
 
 このようなことから、幸福は単純な一元的な尺度では計測できないことが明らかになり、ポジティブ心理学において幸福理論を継続することには限界が見えてきました。その結果、ポジティブ心理学は、幸福は多元的なものであり、その構成要素を理解することが大切だという姿勢に変わったのです。
 

2. ウェルビーイング理論

 
 現在のポジティブ心理学は、幸福は一元的なものととらえていた「幸福理論」から、幸福は多元的なものであり、その構成要素を理解するのが大切だという「ウェルビーイング理論」に変わっています。そして、「Flourish」とよんでいる「持続する幸福」が目的になっています。
 
 持続する幸福を求めるというのはウェルビーイングを高めることであり、ウェルビーイングは計測可能な独立した5つの要素で構成されています。つまり、人生における幸せとは、持続する幸福を追求することであり、そのためにはウェルビーイングの5つの要素を高める必要があるということです。5つの要素はどれも単独ではウェルビーイングを定義できるものではありませんが、どれもがウェルビーイングに関係するのです。
 
  人的資源マネジメント図194. 幸福理論 vs. ウェルビーイング理論
 
 図194は、幸福理論とウェルビーイング理論との違いを整理したものです。幸福理論が目標としていた人生の満足度は、ウェルビーイング理論ではポジティブ感情の中に含まれています。
 
 さらに、ウェルビーイングの5つの要素を支えるものとして、「強みの徳性(Character Strength)」 があります。人間には、親切心や、勇気、ユーモア、正直さなど、時代や民族、国などによって変わることのない普遍的な 24 の「徳」があり、誰もがその中でもとくに自分の強みとなる「徳」を持っています。それをその人の「強みの徳性」とよびます。自分の強みの徳性を知って、活用することがウェルビーイングの5つの要素を高めるために大切なことです。
 

3. PERMA

 
 それでは、ウェルビーイングの5つの構成要素を紹介しましよう。
 
 ポジティブ感情(Positive Emotions)」「エンゲージメント(Engagement)」「関係性(Relationships)」「意味・意義(Meaning)」「達成(Accomplishments)」の5つです。それぞれの頭文字をとって「PERMA」とよばれています。そして、「強みの徳性(Character Strength)」が5つの構成要素を支えています。
 
 人的資源マネジメント図195. PERMA
 
 各構成要素は次回に解説を続けます。
 

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この記事の著者

石橋 良造

組織のしくみと個人の意識を同時に改革・改善することで、パフォーマンス・エクセレンスを追求し、実現する開発組織に変えます!

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