メーカー物流の勘所 (その1)

投稿日

1. サプライチェーン全体のリードタイム短縮

SCM
 メーカー物流の勘所はどこにあるのでしょうか。物流会社がメーカーの物流業務を受注しようと思っても、この点について正しく理解していないと受注はおろか提案も受け入れてもらうことはできないでしょう。メーカーは単なるものづくりの機能を持っているだけではありません。市場のニーズを的確に把握し、資材や部品を調達してそれを加工、組み立てし、超短納期で製品をお客様に届けることにあります。つまりメーカーの機能はサプライチェーンそのものにあると言っても過言ではありません。もし物流会社がメーカーから仕事を取りたいのであれば、このサプライチェーン業務ができるかどうかが分かれ目であると言えるでしょう。
 
 単にものを移動させるという機能ではなく、在庫管理をどうするか、運ぶタイミングとスピードをどうするか、パッケージング機能をどうするかなど、物流的な役割は多岐にわたっています。メーカーの中でも物流を単なるものの移動ととらえている向きもあります。しかしとどまるところのない国際競争に生き残るためにはやはりサプライチェーンという視点で考えていかなければならないと思います。
 
 メーカーにとっての物流の最大の狙い目はどこにあるのでしょうか。もちろんコストを最小限に抑えることは当然ですが、一番気にしなければならないのは「リードタイム」だと思います。極力短納期でものを調達し、超短納期で加工・組立を行い、短納期でお客様に製品を届けるのです。お客様は欲しいと思った時に製品が手に入らない場合、他社製品に乗り換えてしまいます。つまりメーカー物流はスピードが命だと言えるでしょう。そこでこのスピードについて目標を定め、それを実現できる方策を考える必要があります。では個々の物流についてその方策について考えていきましょう。
 
 まず調達物流についてみていきましょう。日本には真の調達物流が無いと言われます。なぜならサプライヤー側がお客様にものを届けることが日本の商習慣だからです。もちろん、サプライヤー側がお客様(この場合は工場)に届ける際に超短納期を意識して対応できるのであれば問題はありません。しかしサプライヤー側の発想は必ずしもそうではなさそうです。
 

2. 調達物流の改善

 サプライヤー側も物流コストを下げたいため、お客様に対してまとめてものを引き取ることを要請します。たとえば10トン車が満載になる単位での荷の引き取りを要望するのです。これが1日以内で消費できる分量であればまだ許せるのですが、何日分にも相当する量であればお客様、すなわち工場側も簡単に受け入れることはできません。こういったサプライヤーが何社もあるのであれば、工場側にいくら置き場所があっても足りません。余分な在庫管理も発生するので、何とかしなければならないという発想に至ります。
 
 そこで工場側でものを引き取りに行こうという考え方が出てきます。調達もリードタイム短縮が命題ですから、できるだけ調達ロットを小さくし、今必要なだけ調達したいと考えます。自分たちが必要な分だけ引き取るので、その分だけサプライヤーの軒下に置いておいて欲しいとサプライヤーに要望するのです。サプライヤーにとってもこれで場所が小さくて済みますし、自分たちも小ロット生産が可能となって体力向上につながるため悪い話ではありません。工場は複数社を巡回し、トラックをいっぱいにしながら自分たちが欲しい分量の資材や在庫を引き取って来ます。今までサプライヤーが個々に契約していた物流会社との契約も、工場側が荷主となる一本化が図られるため、物流コス...

1. サプライチェーン全体のリードタイム短縮

SCM
 メーカー物流の勘所はどこにあるのでしょうか。物流会社がメーカーの物流業務を受注しようと思っても、この点について正しく理解していないと受注はおろか提案も受け入れてもらうことはできないでしょう。メーカーは単なるものづくりの機能を持っているだけではありません。市場のニーズを的確に把握し、資材や部品を調達してそれを加工、組み立てし、超短納期で製品をお客様に届けることにあります。つまりメーカーの機能はサプライチェーンそのものにあると言っても過言ではありません。もし物流会社がメーカーから仕事を取りたいのであれば、このサプライチェーン業務ができるかどうかが分かれ目であると言えるでしょう。
 
 単にものを移動させるという機能ではなく、在庫管理をどうするか、運ぶタイミングとスピードをどうするか、パッケージング機能をどうするかなど、物流的な役割は多岐にわたっています。メーカーの中でも物流を単なるものの移動ととらえている向きもあります。しかしとどまるところのない国際競争に生き残るためにはやはりサプライチェーンという視点で考えていかなければならないと思います。
 
 メーカーにとっての物流の最大の狙い目はどこにあるのでしょうか。もちろんコストを最小限に抑えることは当然ですが、一番気にしなければならないのは「リードタイム」だと思います。極力短納期でものを調達し、超短納期で加工・組立を行い、短納期でお客様に製品を届けるのです。お客様は欲しいと思った時に製品が手に入らない場合、他社製品に乗り換えてしまいます。つまりメーカー物流はスピードが命だと言えるでしょう。そこでこのスピードについて目標を定め、それを実現できる方策を考える必要があります。では個々の物流についてその方策について考えていきましょう。
 
 まず調達物流についてみていきましょう。日本には真の調達物流が無いと言われます。なぜならサプライヤー側がお客様にものを届けることが日本の商習慣だからです。もちろん、サプライヤー側がお客様(この場合は工場)に届ける際に超短納期を意識して対応できるのであれば問題はありません。しかしサプライヤー側の発想は必ずしもそうではなさそうです。
 

2. 調達物流の改善

 サプライヤー側も物流コストを下げたいため、お客様に対してまとめてものを引き取ることを要請します。たとえば10トン車が満載になる単位での荷の引き取りを要望するのです。これが1日以内で消費できる分量であればまだ許せるのですが、何日分にも相当する量であればお客様、すなわち工場側も簡単に受け入れることはできません。こういったサプライヤーが何社もあるのであれば、工場側にいくら置き場所があっても足りません。余分な在庫管理も発生するので、何とかしなければならないという発想に至ります。
 
 そこで工場側でものを引き取りに行こうという考え方が出てきます。調達もリードタイム短縮が命題ですから、できるだけ調達ロットを小さくし、今必要なだけ調達したいと考えます。自分たちが必要な分だけ引き取るので、その分だけサプライヤーの軒下に置いておいて欲しいとサプライヤーに要望するのです。サプライヤーにとってもこれで場所が小さくて済みますし、自分たちも小ロット生産が可能となって体力向上につながるため悪い話ではありません。工場は複数社を巡回し、トラックをいっぱいにしながら自分たちが欲しい分量の資材や在庫を引き取って来ます。今までサプライヤーが個々に契約していた物流会社との契約も、工場側が荷主となる一本化が図られるため、物流コストも下がると思われます。
 
 この引き取り方式は日本と商習慣が異なる欧米では一般的ですが、日本ではまだまだなじみがないと思います。しかしいったん始めてみると工場側ですべてコントロールできるため、非常に良いアイテムであることに気づくでしょう。メーカーはこの真の調達物流を実現することを考えていくべきでしょう。自分たちのサプライチェーンは自分たちでコントロールすることが必要であることは間違いありません。したがってパートナーとして選ぶ物流会社もこの調達物流の目的を理解し、それができる能力を持つ会社を選ぶ必要があります。また同じトラックに複数のサプライヤーの荷を混載することになりますので、資材や部品を入れる容器を統一化し、積み重ねが可能となるように改善することが求められます。
 
 次回は、メーカー物流の勘所 (その2)在庫管理の考え方を解説します。
 

   続きを読むには・・・


この記事の著者

仙石 惠一

物流改革請負人の仙石惠一です。日本屈指の自動車サプライチェーン構築に長年に亘って携わって参りました。サプライチェーン効率化、物流管理技術導入、生産・物流人材育成ならばお任せ下さい!

物流改革請負人の仙石惠一です。日本屈指の自動車サプライチェーン構築に長年に亘って携わって参りました。サプライチェーン効率化、物流管理技術導入、生産・物流人...


「サプライチェーンマネジメント」の他のキーワード解説記事

もっと見る
ギリギリまで作らない、運ばない、仕入れない 【連載記事紹介】

  ◆ ギリギリまで作らない、運ばない、仕入れないとは ネット時代は個別化要求時代で、多様化した商品を並べても選択するよりは、自分だけの...

  ◆ ギリギリまで作らない、運ばない、仕入れないとは ネット時代は個別化要求時代で、多様化した商品を並べても選択するよりは、自分だけの...


サプライチェーンマネジメントの最終目標とは

 サプライチェーンマネジメントは、企業のキャッシュフローのスピードを上げて、企業の生命力を強くすることが最終目標です。血液の流れが円滑であることが生命力の...

 サプライチェーンマネジメントは、企業のキャッシュフローのスピードを上げて、企業の生命力を強くすることが最終目標です。血液の流れが円滑であることが生命力の...


SCMの適切な評価指標 SCM最前線 (その11)

1. SCMには適切な評価指標がない    自社のSCMがどのレベルにあるのかは、興味深い問題でしょう。競合する企業のSCMレベルが自社に対...

1. SCMには適切な評価指標がない    自社のSCMがどのレベルにあるのかは、興味深い問題でしょう。競合する企業のSCMレベルが自社に対...


「サプライチェーンマネジメント」の活用事例

もっと見る
事業継続を脅かすリスク 物流BCPについて考える(その1)

       【物流BCPについて考える 連載目次】 1. 事業継続を脅かすリスク 2. 事業中断時...

       【物流BCPについて考える 連載目次】 1. 事業継続を脅かすリスク 2. 事業中断時...


荷受場と出荷場の改善:物流倉庫の改善に取り組もう(その2)

   ◆ まずは物流倉庫の荷受場と出荷場の改善から  前回の物流倉庫のレイアウト改善:物流倉庫の改善に取り組もう(その1)に続いて解説します。 ...

   ◆ まずは物流倉庫の荷受場と出荷場の改善から  前回の物流倉庫のレイアウト改善:物流倉庫の改善に取り組もう(その1)に続いて解説します。 ...


現場から出てくる発想:現場発信型の改善(その1)

  ◆ 物流現場の不便をすくい上げよう  物流現場を良くしていくためには作業者の方が普段感じていることをすくい上げることから始めるべきで...

  ◆ 物流現場の不便をすくい上げよう  物流現場を良くしていくためには作業者の方が普段感じていることをすくい上げることから始めるべきで...