AIに“匠の技”は教えられるか?

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あるワーキンググループの挑戦が、日本のものづくりの未来を照らした日

―【速報】IVIアワード2025、最優秀賞は「人とAIの協調」へ!マツダ主導WGが描く未来の工場―

「IVIつながるものづくりアワード2025」会場 2025年6月12日

【写真説明】「IVIつながるものづくりアワード2025」会場 2025年6月12日

【目次】

    日本のものづくりのデジタルトランスフォーメーション(DX)をリードする「インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI)」は6月12日、「IVIつながるものづくりアワード2025」の結果を発表。マツダ株式会社がファシリテーターを務める「”人作業のミスゼロ化”への挑戦~ 生成AI活用可能性の探求~」が、最優秀賞の栄冠に輝いた。
    AIが人に取って代わるのではなく、熟練作業者を支援し、高品質なものづくりを実現する「人とAIの協調」。その成功の裏側には、緻密な現場分析を可能にした専門家とテクノロジーの存在があった。

    【写真説明】受賞式後メンバーで記念写真。表彰状を持つのがチームでファシリテータを務めたマツダ森 尊道氏。研究パネルを持つのが筆者

     ■AIの”眼”を鍛える。緻密な現場分析が成功の鍵


    では、彼らは具体的にどのようにして”ミスゼロ化”への道筋を描いたのだろうか。
    この挑戦の核となったのが、参加企業の一社である株式会社ブロードリーフのシニアエバンジェリスト、大岡明と、同社が開発した動作分析ソフトウェア『OTRS10』だ。
    研究チームはまず、広島県に所在するマツダ本社工場のエンジン組み立てラインで「Gemba Walk(現場巡回)」を行い、現地現物から研究を開始した。そして、このWGが掲げるテーマ「人作業のミスゼロ化」の実現に向け、その議論の中でOTRS10を活用。実際の製造現場の映像から「人・モノ・機械」の動きを精密にデータ化するIE(IndustrialEngineering:産業工学)のプロセスを活用し従来アナログで判断していたミス要因をデジタル化した。次に、AIが映像から作業の意味を解釈できるよう、チームメンバーで...

    あるワーキンググループの挑戦が、日本のものづくりの未来を照らした日

    ―【速報】IVIアワード2025、最優秀賞は「人とAIの協調」へ!マツダ主導WGが描く未来の工場―

    「IVIつながるものづくりアワード2025」会場 2025年6月12日

    【写真説明】「IVIつながるものづくりアワード2025」会場 2025年6月12日

    【目次】

      日本のものづくりのデジタルトランスフォーメーション(DX)をリードする「インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI)」は6月12日、「IVIつながるものづくりアワード2025」の結果を発表。マツダ株式会社がファシリテーターを務める「”人作業のミスゼロ化”への挑戦~ 生成AI活用可能性の探求~」が、最優秀賞の栄冠に輝いた。
      AIが人に取って代わるのではなく、熟練作業者を支援し、高品質なものづくりを実現する「人とAIの協調」。その成功の裏側には、緻密な現場分析を可能にした専門家とテクノロジーの存在があった。

      【写真説明】受賞式後メンバーで記念写真。表彰状を持つのがチームでファシリテータを務めたマツダ森 尊道氏。研究パネルを持つのが筆者

       ■AIの”眼”を鍛える。緻密な現場分析が成功の鍵


      では、彼らは具体的にどのようにして”ミスゼロ化”への道筋を描いたのだろうか。
      この挑戦の核となったのが、参加企業の一社である株式会社ブロードリーフのシニアエバンジェリスト、大岡明と、同社が開発した動作分析ソフトウェア『OTRS10』だ。
      研究チームはまず、広島県に所在するマツダ本社工場のエンジン組み立てラインで「Gemba Walk(現場巡回)」を行い、現地現物から研究を開始した。そして、このWGが掲げるテーマ「人作業のミスゼロ化」の実現に向け、その議論の中でOTRS10を活用。実際の製造現場の映像から「人・モノ・機械」の動きを精密にデータ化するIE(IndustrialEngineering:産業工学)のプロセスを活用し従来アナログで判断していたミス要因をデジタル化した。次に、AIが映像から作業の意味を解釈できるよう、チームメンバーである各社のプロが持つ現場ノウハウを結集し、「動作カテゴライズ(分類)」の検証を繰り返すことで、暗黙知の形式知化を進めていった。 

      動作カテゴライズ OTRS10分析画面 ※メーカー提供サンプル

      【写真説明】動作カテゴライズ OTRS10分析画面 ※メーカー提供サンプル

      現場エンジニアのノウハウが可視化されてゆく。
      さらに分析は深掘りされ、「本当に価値を生んでいる作業」と「付加価値の少ない作業(ムダ・ムラ・ムリ)」を徹底的に洗い出し、その解析手順を確立。最終的に、「ミスを誘発しやすい作業」の根本的な要因を特定し、作業全体の流れの中でその関連性を解き明かした。
      そもそも生成AIは、人間からの「言語化された指示」がなければ機能しない。今回の挑戦で人間がすべきだったのは、目の前の作業の言語化だけではない。ミスの定義やその判定基準といった、熟練者だけが持つ「暗黙知」としてのノウハウを、AIが理解できる言葉に翻訳する必要があったのだ。現場映像を精密に解析できるOTRSは、この「暗黙知の形式知化」に絶大な効果を発揮。そうして得られた知見が、AIへの最適な指示内容、すなわち「プロンプト」を構築する上での、決定的なヒントとなったのである。 

      最優秀賞の賞状 研究参加企業の幅がうかがえる

      【写真説明】最優秀賞の賞状 研究参加企業の幅がうかがえる

       ■業界の垣根を越えた「オールジャパン」での挑戦 

      この「オールジャパン」での挑戦を象徴するエピソードがある。ワーキンググループのメンバーは実際にマツダの製造ラインに足を運び、共同でフィールドリサーチを実施した。その際、ブロードリーフ社の『OTRS10』が、企業間の“共通言語”となったのだ。各社の専門家がOTRSをプラットフォームとして使うことで、現状把握から課題整理、そして具体的なカイゼンアイデア出しまでを、驚くほど効果的に進めることができたという。
      このワーキンググループの最大の特徴は、マツダをはじめ、いすゞ自動車、ヤマザキマザック、YKK AP、パナソニック インダストリーなど、多様な製造企業のプロが参加している点にある。彼ら「現場を知るプロ」たちが、たった一つの現場、一つの作業に対して、それぞれの知見からアイデアを出し、OTRSを通じて可視化し、議論を重ねて言語化していく。この協業プロセスそのものが、特定の企業だけでは決して得られない、汎用性の高い「製造現場でAIを使うための重要なノウハウ」へと昇華されていったのだ。
      個々の企業が持つ課題や技術を「持ち寄り」、共同で解決策を探る。IVIが設立趣意書で掲げる「つながる工場」の理念が、まさにこのプロジェクトで花開いたと言えるだろう。

      マツダでのフィールドリサーチ時の集合写真。写真中央マツダ森氏、最前列左から2人目ブロードリーフ大岡氏

      【写真説明】マツダでのフィールドリサーチ時の集合写真。写真中央マツダ森氏、最前列左から2人目は筆者

       ■未来へ続く挑戦。「社会実装」への期待 

      もちろん、その道のりは平坦ではない。発表によれば「AI判定の精度向上と安定性」や、実際の工場への「社会実装にはまだハードルがある」という。
      しかし、今回の受賞は、その挑戦が持つ大きな可能性を社会に示したことに他ならない。人とAIが手を取り合い、より高品質で、より人間的なものづくりを実現する。そんな未来の工場像の実現に向け、彼らの挑戦はこれからも続いていく。今回の受賞は、日本の製造業にとって、新たな時代への確かな一歩となるだろう。

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      【IVIとは】インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ

      IoT時代におけるものづくりとITの融合によって可能となる“つながる”ものづくりを、“ゆるやかな標準”というコンセプトをもとに実現することを目的として2015年6月に設立された、製造業を中心としたフォーラムです。
      ■活動と規模 「人・現場主体」を理念に、多様な企業が参加する「ワーキンググループ(WG)」活動を通じて、現場の課題解決やAI活用などの具体的なお手本(リファレンスモデル)を共同で構築しています。 オムロン、パナソニック ホールディングス、マツダ、日立製作所、三菱電機、ブロードリーフなど、国内外の主要な製造業やIT企業を中心に192社・団体、595名(2025年3月31日時点)が参加し、知見を共有しています。
      ■国際連携 ものづくりの国際標準化をリードする米国のIIC(インダストリアル・インターネット・コンソーシアム)と連携する、日本で唯一の公式な団体でもあります。


      関連情報
      インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ
      IEとOTRS (ものづくりドットコム解説記事)
      作業時間9割削減!OTRS+AIがもたらす生産性向上の最前線(ものづくりドットコム専門家対談)

      記事:株式会社ブロードリーフ シニアエバンジェリスト 大岡明

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      この記事の著者

      大岡 明

      改善技術(トヨタ生産方式(TPS)/IE)とIT,先端技術(IoT,IoH,xR,AI)の現場活用を現場実践指導、社内研修で支援しています。

      改善技術(トヨタ生産方式(TPS)/IE)とIT,先端技術(IoT,IoH,xR,AI)の現場活用を現場実践指導、社内研修で支援しています。


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