「あったらいいな」を技術シーズ起点に発想する~製薬会社の新しいアイデア創出に向けた取り組み

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♦新製品開発のアイデア創出に“新たな風”吹き込む

 小林製薬(大阪府)社は「“あったらいいな”をカタチにする」のスローガンの下、医薬品や芳⾹剤、栄養補助⾷品(サプリメント)、日用雑貨品などの分野で様々な製品を提供するだけでなく、現状の事業領域にこだわらない、より幅の広い「⼈と社会に素晴らしい『快』を提供する」という経営理念に基づいた事業活動を推進しています。

 今回は世の中のニーズを先取りした製品開発を行うためには「情報収集」と「アイデア発想」の方法を常に変化させていくことが必要と考え、2016年にアイデア社からシーズドリブンQD手法コンサルティングとGoldfireソフトウェアを導入し、両者を活用した取り組みを進めている同社日用品事業部の事例を紹介します。

1. 新製品の市場定着に課題

 同社は「ブルーレット」、「熱さまシート」、「消臭元」、「命の母A」など昔から誰にも知られている製品がラインアップに名を連ねています。このほか、特徴の一つとして「毎年リリースする新製品の数が多い」こともあげられるのですが、意外にも新製品が売上全体に占める割合は目標には届かず、売り上げの多くを既に商品ブランドが確立した既存製品に助けられているのが現状で、新製品は上市しているものの、それが「市場に根付き、柱として成長するまでにはなかなか至らない」という大きな課題を抱え、製品開発部門でも危機感を持っていたそうです。

 話をうかがうと、これまで新製品開発において同社では、ユーザインで新商品のアイデアを出すという手法は、マーケティングだけでなく研究部門にも根付いていたようで、まずお客様のことを考え「こういう人がこんな問題を抱えているから、このようなアイデアをソリューションとして提供しましょう」といったアプローチを行っていたそうです。

2.「自前意識」からの脱却 ~コンサルとGoldfire導入

 手法自体に問題はないのですが「新商品のアイデア創出の方法がそれ一辺倒になっている」と当時から問題意識を持っていようです。研究開発部には日々展示会や原料メーカーなどから様々な技術やシーズの提案があるのですが「そうした技術やシーズをアイデアに繋げ辛い」という自覚が大きな課題となっていました。また「アイデアの会社」としての意識も強く根付いていたことから、アイデア創出に他社の力を借りたり、その出し方を外部から学ぶということに対して消極的だったのです。

 このような社内事情を背景に2016年、同部に新製品開発特命チームが発足したことを機に「技術シーズを商品アイデアに繋げることと、その手法に長けた他社の力を活用してみよう」という流れとなり、アイデア社のコンサルとソフトウェアを導入することになったのです。

 導入後はこれまで同社にはない手法だったことから戸惑いもあったようですが「新製品開発特命チームだけで色々題材を変えながら行っても同じ結果が出るのか」など試行錯誤を重ね検証したそうです。そうした中から社長プレゼンに繋がったアイデアなども出てくるようになり「使い甲斐ある手法だ」と確信してもらえました。

 ただ、同手法を進めるにあたっては、社外から取り入れた仕組みに対する拒否反応(自前意識)も想定されたため少しずつ賛同してくれる“社内フォロワー”を増やしていったそうです。

3. 成功事例積み上げ  “社内フォロワー”増やし

 商品開発や研究開発におけるアイデア創出プロセスの中で、同社では社内共有フォルダに蓄積されている情報をGoldfireで知識ベース化しています。特許や文献など社外情報の知識ベースと合わせて、多くの研究者が技術情報を効率良く探すためにこのソフトウェアを普段から利用しているそうです。例えば「何かを冷やす製品を開発する」というテーマを持つ研究者が、入り口の段階で「冷却する技術として、世の中にはどんな技術があるのか」について広くリサーチしたり、何かピンポイントの課題がある時、その解決策の過去事例情報をダイレクトに検索する…などです。

 日常的にこのような活用を進めることで、まだ少数ですが研究者の中から「着目している技術シーズを展開し、新商品アイデアに繋げる」ことにチャレンジする人も出てきています。

 このような形で展開してきたことに対する効果について、同社では既に社内でもソフトウェアの活用が浸透し、例えば「必要な情報がどこにあるのか分からない」というような時も、「だったらGoldfireで一度探してみれば?」と合言葉のように耳にするようになってきたそうです。

 一方、本当に進めたい「技術シーズから新商品アイデアへの展開」については、まだ人によって評価はまちまちで、「そんな方法に頼らなくてもアイデアは出せる」と拒否反応を示す人もいれば、新しいやり方にも抵抗なく取り組む人もいるなど「まだ道半ば」といった感じです。また「実際にシーズドリブンのアプローチを使って出したアイデアが研究開発テーマとして通ったものもありますが、それらアイデアの製品化フェーズはまだこれからなので成功事例を少しずつ積み上げながら、フォロワーを増やしてくことが大切だ」と話しています。

4. 中堅から若手へ、活用広がる  ~他事業部への展開も視野

 同社で活用を進める層をキャリア的にみると中堅層が多く「使い出して上手くいったことを若手に展開していく」といったパターンが多いようです。日用品事業部では20~30代社員が構成比で75%を占めるなど、若年層が中心となり波及させていっているようですが、新しいものに対し好奇心旺盛なベテラン社員は使用に積極的だそうです。また、技術シーズを起点にそこから新商品のアイデアへ展開するという取り組みに...

♦新製品開発のアイデア創出に“新たな風”吹き込む

 小林製薬(大阪府)社は「“あったらいいな”をカタチにする」のスローガンの下、医薬品や芳⾹剤、栄養補助⾷品(サプリメント)、日用雑貨品などの分野で様々な製品を提供するだけでなく、現状の事業領域にこだわらない、より幅の広い「⼈と社会に素晴らしい『快』を提供する」という経営理念に基づいた事業活動を推進しています。

 今回は世の中のニーズを先取りした製品開発を行うためには「情報収集」と「アイデア発想」の方法を常に変化させていくことが必要と考え、2016年にアイデア社からシーズドリブンQD手法コンサルティングとGoldfireソフトウェアを導入し、両者を活用した取り組みを進めている同社日用品事業部の事例を紹介します。

1. 新製品の市場定着に課題

 同社は「ブルーレット」、「熱さまシート」、「消臭元」、「命の母A」など昔から誰にも知られている製品がラインアップに名を連ねています。このほか、特徴の一つとして「毎年リリースする新製品の数が多い」こともあげられるのですが、意外にも新製品が売上全体に占める割合は目標には届かず、売り上げの多くを既に商品ブランドが確立した既存製品に助けられているのが現状で、新製品は上市しているものの、それが「市場に根付き、柱として成長するまでにはなかなか至らない」という大きな課題を抱え、製品開発部門でも危機感を持っていたそうです。

 話をうかがうと、これまで新製品開発において同社では、ユーザインで新商品のアイデアを出すという手法は、マーケティングだけでなく研究部門にも根付いていたようで、まずお客様のことを考え「こういう人がこんな問題を抱えているから、このようなアイデアをソリューションとして提供しましょう」といったアプローチを行っていたそうです。

2.「自前意識」からの脱却 ~コンサルとGoldfire導入

 手法自体に問題はないのですが「新商品のアイデア創出の方法がそれ一辺倒になっている」と当時から問題意識を持っていようです。研究開発部には日々展示会や原料メーカーなどから様々な技術やシーズの提案があるのですが「そうした技術やシーズをアイデアに繋げ辛い」という自覚が大きな課題となっていました。また「アイデアの会社」としての意識も強く根付いていたことから、アイデア創出に他社の力を借りたり、その出し方を外部から学ぶということに対して消極的だったのです。

 このような社内事情を背景に2016年、同部に新製品開発特命チームが発足したことを機に「技術シーズを商品アイデアに繋げることと、その手法に長けた他社の力を活用してみよう」という流れとなり、アイデア社のコンサルとソフトウェアを導入することになったのです。

 導入後はこれまで同社にはない手法だったことから戸惑いもあったようですが「新製品開発特命チームだけで色々題材を変えながら行っても同じ結果が出るのか」など試行錯誤を重ね検証したそうです。そうした中から社長プレゼンに繋がったアイデアなども出てくるようになり「使い甲斐ある手法だ」と確信してもらえました。

 ただ、同手法を進めるにあたっては、社外から取り入れた仕組みに対する拒否反応(自前意識)も想定されたため少しずつ賛同してくれる“社内フォロワー”を増やしていったそうです。

3. 成功事例積み上げ  “社内フォロワー”増やし

 商品開発や研究開発におけるアイデア創出プロセスの中で、同社では社内共有フォルダに蓄積されている情報をGoldfireで知識ベース化しています。特許や文献など社外情報の知識ベースと合わせて、多くの研究者が技術情報を効率良く探すためにこのソフトウェアを普段から利用しているそうです。例えば「何かを冷やす製品を開発する」というテーマを持つ研究者が、入り口の段階で「冷却する技術として、世の中にはどんな技術があるのか」について広くリサーチしたり、何かピンポイントの課題がある時、その解決策の過去事例情報をダイレクトに検索する…などです。

 日常的にこのような活用を進めることで、まだ少数ですが研究者の中から「着目している技術シーズを展開し、新商品アイデアに繋げる」ことにチャレンジする人も出てきています。

 このような形で展開してきたことに対する効果について、同社では既に社内でもソフトウェアの活用が浸透し、例えば「必要な情報がどこにあるのか分からない」というような時も、「だったらGoldfireで一度探してみれば?」と合言葉のように耳にするようになってきたそうです。

 一方、本当に進めたい「技術シーズから新商品アイデアへの展開」については、まだ人によって評価はまちまちで、「そんな方法に頼らなくてもアイデアは出せる」と拒否反応を示す人もいれば、新しいやり方にも抵抗なく取り組む人もいるなど「まだ道半ば」といった感じです。また「実際にシーズドリブンのアプローチを使って出したアイデアが研究開発テーマとして通ったものもありますが、それらアイデアの製品化フェーズはまだこれからなので成功事例を少しずつ積み上げながら、フォロワーを増やしてくことが大切だ」と話しています。

4. 中堅から若手へ、活用広がる  ~他事業部への展開も視野

 同社で活用を進める層をキャリア的にみると中堅層が多く「使い出して上手くいったことを若手に展開していく」といったパターンが多いようです。日用品事業部では20~30代社員が構成比で75%を占めるなど、若年層が中心となり波及させていっているようですが、新しいものに対し好奇心旺盛なベテラン社員は使用に積極的だそうです。また、技術シーズを起点にそこから新商品のアイデアへ展開するという取り組みについて、他事業部への展開も考えているとのことです。

 一方で取り組みに消極的な人たちなどから社内理解を得るため「実績づくりに重点を置いた」といい、実績を評価する上で、単に何件のアイデアが開発テーマとして通ったかという結果視点だけでなく、“アイデア創出のプロセスをどう変えてきたか”といったプロセス視点でも実績を示すように努めてきたといいます。「アイデア自身だけでなく、どういうプロセスでそのアイデアが出てきたかを社内に示していくことも大切と感じた」と振り返り、「社内でGoldfireを使い情報を上手く探したり、(同事業部が)展開しているプロセスでアイデアを創出する人が出てくるのを見ると嬉しい」とも話していました。

 また「シーズドリブンの考え方とソフトウェアを活用し、研究開発部門が『技術シーズを、顧客価値に翻訳』することで、研究開発とマーケティング部門のより密接な協働を促し、事業部一体で新商品のアイデアを創出できるようにしてきたい」と今後の展開を見据えていました。

 いかにして技術を効果的に事業へ繋げていくかを模索しているR&Dや製品開発部門の方々にとって、きっと触発されることの多い話だったのではないでしょうか。

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この記事の著者

笠井 肇

QFD、TRIZ、QEを駆使した絶対的強みの確立

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