チャンバー内のメンテナンスに、マグネット活用の可能性

投稿日

 
 成膜装置のチャンバー内は、着膜により汚染が進み、異常放電や発塵の原因となります。そのため定期的に着膜をリセットする必要がありますが、密着性のより成膜技術で積層された膜は容易には剥離されません。
 
 生産性の高いライン程、メンテナンスが大変な負担となっています。そこで検討したい、マグネットを活用した生産性改善を考えてみます。
 

1. チャンバー内のパーツのメンテナンス

 成膜装置のチャンバー内は、ワークだけに膜がつくわけではなく、チャンバー内全体に付着します。この膜は、メンテナンス時に水分を吸着して真空度を悪化させたり、発塵源となったりします。またプラズマ状態を変える可能性もあります。そのため、定期的に膜を除去する必要があります。
 
 通常は「防着板」と呼ばれるSUSなどでできた板をチャンバー(とくに成膜室)の内壁に設置して、チャンバー内壁に直接膜がつかないようにしています。防着板は定期的なメンテナンスで、スペア品と交換され、使用済みの防着板は薬液洗浄などで膜を除去して再生されます。
 

2. パーツの交換作業の課題

 防着板の取り換え作業は、大型装置になると大変な重作業となり、時間もかかります。4m級の大型成膜装置は立型装置となることが多いのですが、チャンバー内作業が高所作業となり、防着板の取り換え作業のために足場を組みます。
 
 板の取り付けは従来、ボルトで固定され、取り換えにはスパナを使用します。熱や着膜による応力を受ける防着板は脱落や変形が起こると装置の搬送トラブルとなりますので、しっかり固定される必要があります。しかし、ボルトの着脱作業は大変時間がかかります。またボルト締め付け作業でネジ部で少なからず発塵しますし、カジリなどが生じることも少なくありません。
 

3. 防着板取り付けの改良アイデア

 そこで、防着板の取り付け方法の改良が検討されます。六角ボルトから蝶ナットへの変更や、クランプ機構を使った固定方法が発案されています。メンテナンス性は、品質や生産速度などの目に見えやすい課題と比較すると、改善が進まないケースもありますので、ぜひ積極的に検討をしたいところです。
 
 防着板は、熱による変形、着膜による応力変形が発生しますので、チャンバーへのしっかりとした装着が必要です。安易に構造変更すると、脱落などのリスクがありますので、注意して進める必要があります。
 

4. マグネットの活用

 便利で発塵性の少ない方法として検討したい技術が、2018年の日本ものづくりワールドで出展されていました。冶具やアタッチメントをワンタッチで交換できるマグネット保持ツールです。
 
 生産マネジメント
 
 このツールは名前の通り、磁力によって固定をします。レバーを回すと、マグネットの位置が変わり、固定とリリースが容易に切り替わります。この種のツールはプラントや機械加工装置で、重量物を含めた加工ワークや金型などのハンドリングに使用されています。この機構は成膜装置の...
 
 成膜装置のチャンバー内は、着膜により汚染が進み、異常放電や発塵の原因となります。そのため定期的に着膜をリセットする必要がありますが、密着性のより成膜技術で積層された膜は容易には剥離されません。
 
 生産性の高いライン程、メンテナンスが大変な負担となっています。そこで検討したい、マグネットを活用した生産性改善を考えてみます。
 

1. チャンバー内のパーツのメンテナンス

 成膜装置のチャンバー内は、ワークだけに膜がつくわけではなく、チャンバー内全体に付着します。この膜は、メンテナンス時に水分を吸着して真空度を悪化させたり、発塵源となったりします。またプラズマ状態を変える可能性もあります。そのため、定期的に膜を除去する必要があります。
 
 通常は「防着板」と呼ばれるSUSなどでできた板をチャンバー(とくに成膜室)の内壁に設置して、チャンバー内壁に直接膜がつかないようにしています。防着板は定期的なメンテナンスで、スペア品と交換され、使用済みの防着板は薬液洗浄などで膜を除去して再生されます。
 

2. パーツの交換作業の課題

 防着板の取り換え作業は、大型装置になると大変な重作業となり、時間もかかります。4m級の大型成膜装置は立型装置となることが多いのですが、チャンバー内作業が高所作業となり、防着板の取り換え作業のために足場を組みます。
 
 板の取り付けは従来、ボルトで固定され、取り換えにはスパナを使用します。熱や着膜による応力を受ける防着板は脱落や変形が起こると装置の搬送トラブルとなりますので、しっかり固定される必要があります。しかし、ボルトの着脱作業は大変時間がかかります。またボルト締め付け作業でネジ部で少なからず発塵しますし、カジリなどが生じることも少なくありません。
 

3. 防着板取り付けの改良アイデア

 そこで、防着板の取り付け方法の改良が検討されます。六角ボルトから蝶ナットへの変更や、クランプ機構を使った固定方法が発案されています。メンテナンス性は、品質や生産速度などの目に見えやすい課題と比較すると、改善が進まないケースもありますので、ぜひ積極的に検討をしたいところです。
 
 防着板は、熱による変形、着膜による応力変形が発生しますので、チャンバーへのしっかりとした装着が必要です。安易に構造変更すると、脱落などのリスクがありますので、注意して進める必要があります。
 

4. マグネットの活用

 便利で発塵性の少ない方法として検討したい技術が、2018年の日本ものづくりワールドで出展されていました。冶具やアタッチメントをワンタッチで交換できるマグネット保持ツールです。
 
 生産マネジメント
 
 このツールは名前の通り、磁力によって固定をします。レバーを回すと、マグネットの位置が変わり、固定とリリースが容易に切り替わります。この種のツールはプラントや機械加工装置で、重量物を含めた加工ワークや金型などのハンドリングに使用されています。この機構は成膜装置の防着板に応用すれば、メンテナンス作業の時間を大幅に短縮することが期待できます。
 

5. 導入の課題

 真空成膜装置へ応用するには、真空環境への対応、入熱への耐久性を持った材質選定、プラズマによる劣化の影響を受けない設計などが必要となります。大型の成膜装置への適用は、現状の防着板の更新や改造が必要になるため、新規設備導入時に検討をすることが近道となるでしょう。
 
 成膜装置において、メンテナンス作業は品質確保上必要な作業であるものの、作業時間は稼働ロスとして扱われるために、作業を高速化するための工夫が欠かせません。扱いづらい所はどんどん改良していくことが必要で、それによって作業者の負荷軽減と安全の確保につながってきます。
 

   続きを読むには・・・


この記事の著者

大薗 剣吾

①技術士の中でも数少ない「薄膜の専門家」です。コーティング・パターニング・表面処理の課題に対応します。②FPD、半導体、車載、医療、住環境、IoT、通信等への「固有技術の用途開発」を行います。

①技術士の中でも数少ない「薄膜の専門家」です。コーティング・パターニング・表面処理の課題に対応します。②FPD、半導体、車載、医療、住環境、IoT、通信等...


「生産マネジメント総合」の他のキーワード解説記事

もっと見る
デュアルシステムとは(3) 【快年童子の豆鉄砲】(その92)

    5. 日本版デュアルシステムを導入するには 1)文科省の対応 文科省に問い合わせしたところ「日本版デュア ルシステ...

    5. 日本版デュアルシステムを導入するには 1)文科省の対応 文科省に問い合わせしたところ「日本版デュア ルシステ...


製造現場の活用で固定費削減:改善のヒント(その8)

【改善のヒント連載目次】 1. 儲かる現場づくりとは 2. チームとして改善を進める 3. 現場から人を抜く 4. からくり改善とは 5...

【改善のヒント連載目次】 1. 儲かる現場づくりとは 2. チームとして改善を進める 3. 現場から人を抜く 4. からくり改善とは 5...


仕事の評価基準 儲かるメーカー改善の急所101項(その99)

  7、これからのモノづくり経営  前回の儲かるメーカー改善の急所101項(その98)投資の判断基準に続いて、解説します。 ◆ 仕事の...

  7、これからのモノづくり経営  前回の儲かるメーカー改善の急所101項(その98)投資の判断基準に続いて、解説します。 ◆ 仕事の...


「生産マネジメント総合」の活用事例

もっと見る
あるメーカーのマシニングセンターを使う金型メーカーに共通した病とは

   日々のコンサルティング業の合間に、お問い合わせいただいた金型メーカーや部品加工メーカーの皆さんに行っている無料診断ですが、全国の色々...

   日々のコンサルティング業の合間に、お問い合わせいただいた金型メーカーや部品加工メーカーの皆さんに行っている無料診断ですが、全国の色々...


クリーンルームの停電復帰後対応とは

        今回は、クリーンルームの停電復帰後対応を解説します。停電が発生するとクリーン度を維持できなくなり、クリーンルームの停電復帰後対応には...

        今回は、クリーンルームの停電復帰後対応を解説します。停電が発生するとクリーン度を維持できなくなり、クリーンルームの停電復帰後対応には...


汎用3次元CAMの活用 伸びる金型メーカーの秘訣 (その17)

 今回、紹介する機械加工メーカーは、株式会社W精密です。同社は創業して11年目の比較的若い企業であり、主な事業内容は、産業機械・専用機などで用いられる金属...

 今回、紹介する機械加工メーカーは、株式会社W精密です。同社は創業して11年目の比較的若い企業であり、主な事業内容は、産業機械・専用機などで用いられる金属...