40の発明原理とは、キーワードからわかりやすく解説

 

1. 40の発明原理とは

TRIZの40の発明原理は、発想技法TRIZの骨格をなすサブツールで、アルトシュラーおよびその弟子たちが数百万の特許を分析して抽出した40個の発明パターンです。類似の手法であるオズボーンのチェックリストが提示する9つのパターンが、40になったと考えれば理解しやすいかと思います。 40ものパターンを全て検討するのは非効率なので、ある特性を良くすると別の特性が悪くなるという「技術的矛盾」の形を見つけ出し、それら両特性を用意された39の中から選んでマトリクス表を参照する事で、優先度の高い発明原理を知るという仕組みが秀逸です。

2. 40の発明原理の主な活用法

(1)慣習的に使われている方法

問題が発生したときは、パニックになったりして精神的な余裕がないようです。矛盾問題として捉え、課題を抽象化してから矛盾表から発明原理を検索するには、かなりの訓練が必要です。推薦したいのは,40の発明原理に日ごろから親しんでおくこと。あるいは、発明原理を全部スキャンして発想すること。TRIZそのものを理解していなくても、藁にもすがりたい人には、強力なヒントとなります。

(2)矛盾Matrixから発明原理を抽出する方法

矛盾 Matrix表の縦横の軸には、39×39の特性(パラメータ)が配置されています。縦軸から「改善する特性」横軸から「悪化する特性」を選ぶと、両者の交点に「発明原理(principle)」が提示されます。 この発明原理をヒントに解決策を発想します。例えば、改善する特性で「移動物体の体積」悪化する特性で「移動物体の面積」を選ぶと,矛盾 Matrix表の交点に「01、分割原理」「04、非対称原理」「07、入れ子原理」「17、他次元移行原理」を確認できます。

3. 40の発明原理で考えるキャリアチェンジ:事例

「自分はこうしたい」「○○ができる」等及びそれに伴う障害、リスク等の矛盾点から、次のような対応策を創出してもらいました。例えば「11、事前保護原理」をヒントに思考すると、転職する前に、もう少し強みを強化して市場価値を上げておこう。「17、他次元移行原理または36、相変化原理」等をヒントに、買収企業のノウハウも吸収してしまえばよい。「01、分割原理」をヒントに、転職を見据えて、やりがいのあることをボランティアや副業として始めよう。キャリアカウンセラーでなくても、40の発明原理をヒントに視点を変えるだけで、本質的な解決策を自分自身で、いくつも探すことができます。

4. 矛盾マトリックスを深く理解する:本質と利用上の注意点

矛盾マトリックスは、40の発明原理を効率的に利用するための優れたツールですが、その本質は発明原理の適用範囲を絞り込むためのガイドであると理解することが重要です。このマトリックスは、数百万件の特許分析に基づいて「ある特性同士が矛盾する場合、歴史的にどの発明原理が多く使われてきたか」という統計的な傾向を示しています。つまり、示される原理は「最良の解」を保証するものではなく、「試す価値のある有力なヒント」にすぎません。

これを利用する際の重要な注意点は、矛盾の定義です。39の特性パラメータの中から、自分の抱える問題をいかに正確に抽象化して当てはめるかが鍵となります。例えば、「製品の信頼性(改善したい特性)」と「製品の複雑さ(悪化する特性)」という技術的矛盾がある場合、マトリックス上で交差する原理は、その解決策の方向性を示唆します。しかし、この抽象化がずれていると、示された原理は的外れなものになりかねません。このため、実際の課題をTRIZの言葉に変換する訓練が不可欠となります。

さらに、マトリックスには「物理的矛盾」は考慮されていません。物理的矛盾とは「あるモノが、ある場所で、ある瞬間には『Aという状態』でなければならないが、同時に『非Aという状態』でなければならない」というように、一つの特性に対する要求が相反する状態を指します。例えば、「この部品は強くなければならないが、同時に軽くなければならない」といった矛盾です。TRIZでは、この物理的矛盾を解決するための分離原理(時間、空間、条件、全体と部分による分離)が別に用意されており、マトリックスだけでは対応できない問題領域があることも認識しておくべきです。

 

5. 発明原理を使いこなすための「抽象化」の視点

40の発明原理を真に使いこなすためには、「抽象化(モデル化)」の能力を高めることが決定的に重要です。TRIZのプロセスは、具体的な問題を抽象的なモデルに変換し、モデルに対して抽象的な解決策(発明原理)を適用した後、その結果を具体的な解決策に戻すという流れを取ります。

この抽象化こそが、異なる分野での知識の転用を可能にするTRIZの真骨頂です。例えば、「07、入れ子原理」は、「ある物体を別の物体の内部に配置する」という抽象的なパターンを示しています。この原理は、マトリョーシカ人形のような省スペース化のアイデアだけでなく、ソフトウェアの階層構造や、組織における部署の機能の包含関係など、形のない問題に対しても適用できます。

キャリアチェンジの事例で言えば、「17、他次元移行原理」は、問題解決のフィールドを「時間」「空間」「構造」といった次元で捉え直すことを促します。転職を考える際に、「現在のスキルを時間軸で未来に活かすのではなく、空間軸(異なる業界・国)や構造軸(異なる職種・役割)で再配置できないか」と考えるのは、この原理の応用です。視点の変更を促すことで、固定観念を打破し、問題の定義そのものを変える力を持つのです。

  

6. 他の発想・創造性技法との連携

TRIZの40の発明原理は、他の創造性技法や問題解決手法と組み合わせて使うことで、その効果を増幅させることができます。

例えば、ブレーンストーミングやKJ法といった発散型の技法で大量のアイデアを生成した後、解決すべき核心的な矛盾を特定する際にTRIZを導入できます。発散によって得られた雑多なアイデア群の中から、最も解決が困難な「技術的矛盾」を抽出。この矛盾をマトリックスにかけ、得られた発明原理をシネクティクスの「類比思考」(直接類比、象徴類比など)と組み合わせることで、さらに斬新で具体的な解決策を生み出すことが可能になります。

また、デザイン思考のプロセスにおいても、TRIZは「プロトタイプとテスト」の段階に入る前、つまり「アイデア発想」のフェーズで、質の高いジャンプを提供する「触媒」として機能します。ユーザーの抱える**「不満」を矛盾として抽象化できれば、40の発明原理は、既存の枠に囚われない革新的な製品やサービスを生み出すための強力なツールセット**となります。発明原理の体系的な知識は、単なる思いつきではない、再現性のあるイノベーションへの道筋を照らしてくれるのです。 

 

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