損益計算書とキャッシュフローでみるサプライチェーン経営戦略

更新日

投稿日

 生産(供給)と販売(需要)の調整(同期化)は、SCMの焦点となるテーマです。SCMで重要なのは在庫についての認識です。サプライチェーンの3大連鎖業務は、「販売」と「生産」と「資材調達」です。ストック経営とフロー経営について、損益計算書とキャッシュフローにおけるこれらSCM3大連鎖業務についてのポイントを下図1に示します。 サプライチェーンの損益計算書とキャッシュフロー

 図1.損益計算書経営とキャッシュフロー経営 

 まず図左側の損益計算書のみの経営をみてみましょう。決算期に顧客や販社への押し付け販売による売上増加を計ると売掛金が膨らみます。実需に基づかない大ロット生産によりコスト削減を計ると、製品在庫・中間仕掛在庫が膨らみます。生産需要を考えないでまとめ買いをすることで、資材コストは安くなりますが資材在庫は膨らみます。どれも一時的な会計利益は増大しますが、キャッシュフローは悪化するのです。 

 一方右側のキャッシュフロー経営ではどうでしょうか。回収を考えて顧客に在庫があれば無理をして販売しません。ですから売上は一時的に下がりますが売掛金は減ります。必要な数だけ実需に合わせて生産するため、ロットが小さくなり稼働率が落ちコストが上がります。そのかわりに製品在庫や仕掛在庫は増えません。生産実需に合わせて資材を仕入れるため、小口多頻度購買となり資材コストは上がるかもしれません。しかしこのことによって資材在庫は減ります。 

 どの3大連鎖業務においても、図左の損益計算書のみの経営とはことなり、図右のキャッシュフロー経営では一時的会計利益は悪化しますがキャッシュフローは増大します。近年のように製品ライフサイクルが短い時代では、設計変更・モデルチェンジにともなう在庫の陳腐化コストが大幅に削減されます。長い目でみると会計利益上もキャッシュフロー上の収益も向上・安定します。売掛金も棚卸在庫も固定資産も、資産が多くなるほど収益性のリスクが高くなる時代です。SCMのテーマは利益とキャッシュフロー、在庫と欠品、顧客満足とコストなどのように、トレードオフ(相反する: 一方を良くしようとすると他方が悪くなる)の関係にある問題を解決することです。 

 ロジスティクスに関するプロフェッショナルは、従来、どれだけ運搬や保管の仕事をもらうかを考える...

 生産(供給)と販売(需要)の調整(同期化)は、SCMの焦点となるテーマです。SCMで重要なのは在庫についての認識です。サプライチェーンの3大連鎖業務は、「販売」と「生産」と「資材調達」です。ストック経営とフロー経営について、損益計算書とキャッシュフローにおけるこれらSCM3大連鎖業務についてのポイントを下図1に示します。 サプライチェーンの損益計算書とキャッシュフロー

 図1.損益計算書経営とキャッシュフロー経営 

 まず図左側の損益計算書のみの経営をみてみましょう。決算期に顧客や販社への押し付け販売による売上増加を計ると売掛金が膨らみます。実需に基づかない大ロット生産によりコスト削減を計ると、製品在庫・中間仕掛在庫が膨らみます。生産需要を考えないでまとめ買いをすることで、資材コストは安くなりますが資材在庫は膨らみます。どれも一時的な会計利益は増大しますが、キャッシュフローは悪化するのです。 

 一方右側のキャッシュフロー経営ではどうでしょうか。回収を考えて顧客に在庫があれば無理をして販売しません。ですから売上は一時的に下がりますが売掛金は減ります。必要な数だけ実需に合わせて生産するため、ロットが小さくなり稼働率が落ちコストが上がります。そのかわりに製品在庫や仕掛在庫は増えません。生産実需に合わせて資材を仕入れるため、小口多頻度購買となり資材コストは上がるかもしれません。しかしこのことによって資材在庫は減ります。 

 どの3大連鎖業務においても、図左の損益計算書のみの経営とはことなり、図右のキャッシュフロー経営では一時的会計利益は悪化しますがキャッシュフローは増大します。近年のように製品ライフサイクルが短い時代では、設計変更・モデルチェンジにともなう在庫の陳腐化コストが大幅に削減されます。長い目でみると会計利益上もキャッシュフロー上の収益も向上・安定します。売掛金も棚卸在庫も固定資産も、資産が多くなるほど収益性のリスクが高くなる時代です。SCMのテーマは利益とキャッシュフロー、在庫と欠品、顧客満足とコストなどのように、トレードオフ(相反する: 一方を良くしようとすると他方が悪くなる)の関係にある問題を解決することです。 

 ロジスティクスに関するプロフェッショナルは、従来、どれだけ運搬や保管の仕事をもらうかを考えるにすぎず荷主の利益やキャッシュフローへの関心はありませんでした。ところがロジスティクスが、利益やキャッシュフローの元になる在庫やモノの移動などにともなう情報を発生させています。

 SCMは現場からの経営論です。荷主である顧客のSCMを理解することはどんな業種の経営にも最重要な顧客満足度に欠かせないことです。ロジスティクスの現場で発生している情報が、経営戦略に活かされる時代になっているのです。

   続きを読むには・・・


この記事の著者

今岡 善次郎

在庫が収益構造とチームワークの鍵を握ります。人と人、組織と組織のつながり連鎖をどうマネジメントするかを念頭に現場と人から機会分析します。

在庫が収益構造とチームワークの鍵を握ります。人と人、組織と組織のつながり連鎖をどうマネジメントするかを念頭に現場と人から機会分析します。


「サプライチェーンマネジメント」の他のキーワード解説記事

もっと見る
保管作業を考える 物流改善ネタ出し講座 (その8)

  【物流改善ネタ出し講座 連載目次】 1. なぜ物流は宝の山なのか 2. 宝の山の見つけ方 3. フォークリフトを考える 4. 荷姿...

  【物流改善ネタ出し講座 連載目次】 1. なぜ物流は宝の山なのか 2. 宝の山の見つけ方 3. フォークリフトを考える 4. 荷姿...


物流不良撲滅 物流品質の向上 (その4)

1.工場の評判を落とす出荷品質不良  前回の第3回に続いて解説します。工場におけるものづくり品質は不良が起こりにくい工法を生産技術部門で開発し、それ...

1.工場の評判を落とす出荷品質不良  前回の第3回に続いて解説します。工場におけるものづくり品質は不良が起こりにくい工法を生産技術部門で開発し、それ...


ギリギリまで作らない、運ばない、仕入れない (その7)

1.韓国の事例    前回のその6に続いて解説します。今回使用するデータは「読者が理解しやすい」を前提に、数字は円表示するとともに多少まるめ...

1.韓国の事例    前回のその6に続いて解説します。今回使用するデータは「読者が理解しやすい」を前提に、数字は円表示するとともに多少まるめ...


「サプライチェーンマネジメント」の活用事例

もっと見る
海外進出時に物流面で留意すべきこと

◆ 経済成長とともに海外物流の役割が変化  既に海外進出している企業も、これから海外進出する企業も、再度その役割に応じた機能が達成できているかを確認...

◆ 経済成長とともに海外物流の役割が変化  既に海外進出している企業も、これから海外進出する企業も、再度その役割に応じた機能が達成できているかを確認...


標準作業と標準時間 物流労務費改善への取り組み(その3)

  ◆ 物流作業進捗を確認する  物流現場における作業スピードについて考えていきましょう。大前提となるのはいつも申し上げている通り、作業...

  ◆ 物流作業進捗を確認する  物流現場における作業スピードについて考えていきましょう。大前提となるのはいつも申し上げている通り、作業...


仕事の標準化 物流と管理技術(その1)

  ◆ 標準化の重要性  物流業の人と話をしていると、管理技術の導入がまだまだだと感じることがあります。この管理技術ですが、特に物流現場...

  ◆ 標準化の重要性  物流業の人と話をしていると、管理技術の導入がまだまだだと感じることがあります。この管理技術ですが、特に物流現場...