ミスは設計で防げるか?〜ヒューマンエラーと機械設計の交差点〜

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  ミスは設計で防げるか?〜ヒューマンエラーと機械設計の交差点〜
【目次】

    製造現場や製品使用の場面で発生する事故や不具合。その原因をたどっていくと、多くは「人のミス」、つまりヒューマンエラーに行き着きます。しかし、単純に「作業者が注意不足だった」と結論づけてしまうのは危険です。現実には、そのミスが起こる環境や仕組みを作ったのは設計側であるケースが少なくありません。設計者の仕事は、図面やCADデータを作るだけではありません。「人が安全・確実・効率的に作業できる状態をデザインする」ことが重要です。今回は、ヒューマンエラーの基本と、設計によって防げるエラー予防の考え方、そして現場で役立つ具体例をご紹介します。

     

    1. ヒューマンエラーとは何か

    ヒューマンエラーは、単なる「うっかり」から深刻な事故まで幅広く、発生の仕組みを理解することが対策の第一歩です。

    【ヒューマンエラーの主な分類】

    • スリップ(Slip)・・・・・意図は正しいが、動作や操作が間違う。例:似た形のボタンを押し間違える
    • ラプス(Lapse)・・・・・記憶や注意が抜け落ちる。例:ネジの締め付けを一箇所忘れる
    • ミステイク(Mistake)・・判断や計画自体が誤っている。例:安全装置を無効化する操作が正しいと思い込む

     

    発生要因は、疲労、時間的プレッシャー、習慣化による油断、情報不足、過剰な情報などです。例えば、組立ラインで左右対称の部品を反対に取り付けてしまった事例は、まさに設計段階での「区別しやすさ」への配慮不足から生じたエラーです。

     

    2. 設計とエ...

      ミスは設計で防げるか?〜ヒューマンエラーと機械設計の交差点〜
    【目次】

      製造現場や製品使用の場面で発生する事故や不具合。その原因をたどっていくと、多くは「人のミス」、つまりヒューマンエラーに行き着きます。しかし、単純に「作業者が注意不足だった」と結論づけてしまうのは危険です。現実には、そのミスが起こる環境や仕組みを作ったのは設計側であるケースが少なくありません。設計者の仕事は、図面やCADデータを作るだけではありません。「人が安全・確実・効率的に作業できる状態をデザインする」ことが重要です。今回は、ヒューマンエラーの基本と、設計によって防げるエラー予防の考え方、そして現場で役立つ具体例をご紹介します。

       

      1. ヒューマンエラーとは何か

      ヒューマンエラーは、単なる「うっかり」から深刻な事故まで幅広く、発生の仕組みを理解することが対策の第一歩です。

      【ヒューマンエラーの主な分類】

      • スリップ(Slip)・・・・・意図は正しいが、動作や操作が間違う。例:似た形のボタンを押し間違える
      • ラプス(Lapse)・・・・・記憶や注意が抜け落ちる。例:ネジの締め付けを一箇所忘れる
      • ミステイク(Mistake)・・判断や計画自体が誤っている。例:安全装置を無効化する操作が正しいと思い込む

       

      発生要因は、疲労、時間的プレッシャー、習慣化による油断、情報不足、過剰な情報などです。例えば、組立ラインで左右対称の部品を反対に取り付けてしまった事例は、まさに設計段階での「区別しやすさ」への配慮不足から生じたエラーです。

       

      2. 設計とエラーの関係

      ヒューマンエラーは現場の問題とされがちですが、設計の段階で「ミスを誘発しない仕組み」を作れば大幅に減らせます。

      【設計ミスが引き起こした事例】

      • 操作パネルのボタン配置が用途ごとに整理されておらず、緊急停止ボタンの押し間違いが発生
      • 同じサイズのボルトを複数種類使用しており、組立時に混同
      • 点検作業のためにカバーを外す必要があるが、構造が複雑で復旧時に部品を付け忘れる事案が多発

       

      これらはいずれも「人が注意すれば防げる」ではなく、「人が間違えようのない形にできた」事例です。

       

      3. 設計で防げるヒューマンエラー

      ヒューマンエラーを防ぐための設計は、心理学・人間工学・製造技術が交差する領域です。

      【設計で防げるヒューマンエラーに対する工夫】

      • 操作性の向上・・・形状や配置を直感的に。重要なスイッチは大きく、誤操作を招く位置には置かない
      • 視認性の確保・・・メーターの針やデジタル表示は一目で判断できる大きさ・色で
      • 組立性の向上・・・左右非対称形状やキー溝で取り付け方向を限定
      • 安全構造・・・・・ガードやインターロック機構で危険部に接近できないようにする
      • ポカヨケ・・・・・色分けや形状差、センサーによる誤部品検出

       

      たとえば、自動車の燃料給油口はガソリン車とディーゼル車でノズル径を変えて誤給油を防いでいます。これは、まさに設計によるヒューマンエラー防止の好例です。

       

      4. エラー予防設計の思考法とツール

      経験や勘だけでなく、体系的な方法でリスクを洗い出すことが重要です。

      【エラー予防設計の思考法とツール】

      • DfX・・・・・・・・・・・・・  DfS(安全設計)、DfM(製造配慮)、DfA(組立配慮)など
      • FMEA(故障モード影響解析)・・不具合の発生確率や影響度を定量的に評価
      • HAZOP・・・・・・・・・・・・設計や工程の異常を系統的に抽出
      • チェックリスト・レビュー・・・ 属人化を防ぎ、複数の視点で確認

       

      これらのツールは大企業だけでなく、中小企業の現場改善にも応用可能です。

      5. 図面で防ぐ配慮

      図面は「設計の最終的な意思表示」であり、現場との誤解を生まないことが重要です。

      • 寸法記載ミスや単位の混在防止
      • 紛らわしい寸法は補足説明を追加
      • 公差や表面粗さを明確化
      • 注意喚起表示の適切な配置

       

      製造現場との事前のすり合わせも有効で、作業者が迷わず加工・組立できる図面は結果的にエラー低減につながります。

       

      6. まとめ

      ヒューマンエラーは避けられない現象ですが、「人間はミスをする」という前提に立ち、設計段階でその影響を最小化することは可能です。現場を知る設計者こそが、事故や不具合を未然に防ぐ最後の砦です。今回ご紹介したのは概要にすぎません。次のリンクのオンデマンドセミナーでは、この記事に関連した内容をさらに掘り下げ、実際の事例・映像・演習を交えて解説します。操作性・組立性・安全性の設計改善ヒントから、FMEAやポカヨケ設計の実践方法まで、日々の設計業務にすぐ役立つ知識を体系的に学べます。設計で現場を変える第一歩を、オンデマンドセミナーから始めてみませんか。

       

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      この記事の著者

      森内 眞

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