ROIC(Return On Invested Capital)マネジメントとは 

投稿日

 
  ROIC(Return On Invested Capital)マネジメントとは 

 

ROICマネジメントの取り組みが多くの上場企業で行われるようになった経緯と理由を解説します。

【目次】

    1. 伊藤レポートと日本企業におけるROE経営の必要性

    日本での資本生産性を意識した経営が行われる様になった発端である「伊藤レポート」について簡単に触れておきます。「伊藤レポート」は、経済産業省内に設置されたプロジェクト「持続的成長への競争力とインセンティブ―企業と投資家の望ましい関係構築」の最終報告書として、2014年にまとめられたもです。このレポートは、アベノミクスの理論的な根拠を示すものとなっています。レポートの中では、企業の資本生産性の向上に関して以下の様な提言が行われています。 

     

    <伊藤レポートにおける資本生産性の向上に関する提言>

    ・「日本経済を継続的な成長軌道に乗せていくためには、ミクロの企業レベルでの競争威力を強化し、その稼ぐ力を高めていくことが急務である。」という問題認識に立って、その「資本生産性」をいかに向上させるかが日本経済立て直しの鍵である。

    ・そのためには、ROE(自己資本利益率)の向上を経営目標とする企業運営の確立が必要である。 

     

    つまり、なかなかデフレから脱却できない日本経済の根本的問題点は、企業が「生産性」に基づいた経営を行っていないというのが伊藤レポートでの基本的な問題認識です。したがって、各企業が「生産性」、つまり「資本生産性」を意識した経営を行うために、これまでのような単なる売上や営業利益率重視ではないROEにフォーカスした経営が重要であるとしたのです。そして、政府の諮問会議では異例とも言える具体的なその数値目標が示されました。

     

    それが「ROE 8%超」です。この目標が、上場企業の経営目標となって今日に至っています。 

     

    2. ROEの問題点

    ROE(自己資本利益率)は下記の通り、純利益を自己資本で割ったKPIです。 

    ROE = 純利益/自己資本 =(当期純利益/売上高)×(売上高/総資産)×(総資産/自己資本)

       = 売上高純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ

    ROEは自己資本をいかに効率的に運用して、最終的な利益、純利益を生み出しているかの資本生産性を示しています。2014年以降、生産性の向上に敏感な上場企業においては、資本生産性ROEが中期経営計画や決算報告に示されるようになりました。ただし、上記の式からも分かるように、自己資本を意図的に調整し見かけ上ROEが改善されたかのように見せることができるのがROEの欠点です。

     

    3. ROEの問題点を解決するKPI、ROIC

    このような欠点を補うために、ROICによるKPIマネジメントが提案される様になりました。 

    ROIC(Return On Invested Capital) = NOPAT/投下資本

    NOPAT(Net Operating Profit After Taxes) :税引き後営業利益
    投下資本:有利子負債+自己資本 

    株主資本比率を意図的に操作しても分母の投下資本を簡単には変えられませんし、事業負債(買掛金)を除いた純粋な投下資本で計算するので資本の提供者としての資本生産性をより正確に表しています。つまり小手先で操作することが難しく株主と債権者からの調達コストに対応した収益力が正しく評価されます。

     

    また、分子は税引き後営業業利益のため、営業外損益や特別損益が含まれていないため、本業の儲けがより正確に数字に反映されます。

     

    以上が、ROICはROEの問題点を解決するKPIである理...

     
      ROIC(Return On Invested Capital)マネジメントとは 

     

    ROICマネジメントの取り組みが多くの上場企業で行われるようになった経緯と理由を解説します。

    【目次】

      1. 伊藤レポートと日本企業におけるROE経営の必要性

      日本での資本生産性を意識した経営が行われる様になった発端である「伊藤レポート」について簡単に触れておきます。「伊藤レポート」は、経済産業省内に設置されたプロジェクト「持続的成長への競争力とインセンティブ―企業と投資家の望ましい関係構築」の最終報告書として、2014年にまとめられたもです。このレポートは、アベノミクスの理論的な根拠を示すものとなっています。レポートの中では、企業の資本生産性の向上に関して以下の様な提言が行われています。 

       

      <伊藤レポートにおける資本生産性の向上に関する提言>

      ・「日本経済を継続的な成長軌道に乗せていくためには、ミクロの企業レベルでの競争威力を強化し、その稼ぐ力を高めていくことが急務である。」という問題認識に立って、その「資本生産性」をいかに向上させるかが日本経済立て直しの鍵である。

      ・そのためには、ROE(自己資本利益率)の向上を経営目標とする企業運営の確立が必要である。 

       

      つまり、なかなかデフレから脱却できない日本経済の根本的問題点は、企業が「生産性」に基づいた経営を行っていないというのが伊藤レポートでの基本的な問題認識です。したがって、各企業が「生産性」、つまり「資本生産性」を意識した経営を行うために、これまでのような単なる売上や営業利益率重視ではないROEにフォーカスした経営が重要であるとしたのです。そして、政府の諮問会議では異例とも言える具体的なその数値目標が示されました。

       

      それが「ROE 8%超」です。この目標が、上場企業の経営目標となって今日に至っています。 

       

      2. ROEの問題点

      ROE(自己資本利益率)は下記の通り、純利益を自己資本で割ったKPIです。 

      ROE = 純利益/自己資本 =(当期純利益/売上高)×(売上高/総資産)×(総資産/自己資本)

         = 売上高純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ

      ROEは自己資本をいかに効率的に運用して、最終的な利益、純利益を生み出しているかの資本生産性を示しています。2014年以降、生産性の向上に敏感な上場企業においては、資本生産性ROEが中期経営計画や決算報告に示されるようになりました。ただし、上記の式からも分かるように、自己資本を意図的に調整し見かけ上ROEが改善されたかのように見せることができるのがROEの欠点です。

       

      3. ROEの問題点を解決するKPI、ROIC

      このような欠点を補うために、ROICによるKPIマネジメントが提案される様になりました。 

      ROIC(Return On Invested Capital) = NOPAT/投下資本

      NOPAT(Net Operating Profit After Taxes) :税引き後営業利益
      投下資本:有利子負債+自己資本 

      株主資本比率を意図的に操作しても分母の投下資本を簡単には変えられませんし、事業負債(買掛金)を除いた純粋な投下資本で計算するので資本の提供者としての資本生産性をより正確に表しています。つまり小手先で操作することが難しく株主と債権者からの調達コストに対応した収益力が正しく評価されます。

       

      また、分子は税引き後営業業利益のため、営業外損益や特別損益が含まれていないため、本業の儲けがより正確に数字に反映されます。

       

      以上が、ROICはROEの問題点を解決するKPIである理由です。しかし実は、ROICマネジメントを行っている多くの企業でも、生産性向上の実効は上がっていないのです。

       

      ◆関連解説記事:ROIC経営を取り入れている企業が直面している問題、現場がそれでは動けないこと

       

      【出典】コヒーレント・コンサルティング HPより、筆者のご承諾により編集して掲載。

      連載記事紹介:ものづくりドットコムの人気連載記事をまとめたページはこちら!

       

      【ものづくり セミナーサーチ】 セミナー紹介:国内最大級のセミナー掲載数 〈ものづくりセミナーサーチ〉 はこちら!

       

         続きを読むには・・・


      この記事の著者

      小山 太一

      SCMの効率を新しいKPIで見える化し、問題点を明らかにします。 新しいKPI 『面積原価』は、評価に時間軸を含めることで、リードタイム・在庫・原価のトレードオフを解決します。

      SCMの効率を新しいKPIで見える化し、問題点を明らかにします。 新しいKPI 『面積原価』は、評価に時間軸を含めることで、リードタイム・在庫・原価のトレ...


      「財務マネジメント」の他のキーワード解説記事

      もっと見る
      労働分配率・社員一人あたり、時間あたり付加価値額 管理成果見える化とは(その1)

        【管理成果の見える化とは 連載目次】 1. 労働分配率・社員一人あたり、時間あたり付加価値額 2. 損益分岐点  ...

        【管理成果の見える化とは 連載目次】 1. 労働分配率・社員一人あたり、時間あたり付加価値額 2. 損益分岐点  ...


      原価と利益の関係性とは

      1.赤字でも受注するか?  今回は、飛行機チケットを販売する会社の経営者という想定から入りましょう。飛行機を飛ばすときの条件を以下のように設定します。 ...

      1.赤字でも受注するか?  今回は、飛行機チケットを販売する会社の経営者という想定から入りましょう。飛行機を飛ばすときの条件を以下のように設定します。 ...


      設備投資に活用したい事業再構築補助金(その3)

           前回の設備投資に活用したい事業再構築補助金 (その2)に続いて解説します。 1. 市場ニーズの証明と売上計画の根拠の示...

           前回の設備投資に活用したい事業再構築補助金 (その2)に続いて解説します。 1. 市場ニーズの証明と売上計画の根拠の示...


      「財務マネジメント」の活用事例

      もっと見る
      調達段階のコストダウン (その3)

        【調達段階のコストダウン 連載記事】   1.製品に占める調達材料費 2.相見積りの弊害 3.資材・購買でのコス...

        【調達段階のコストダウン 連載記事】   1.製品に占める調達材料費 2.相見積りの弊害 3.資材・購買でのコス...


      海外子会社で発覚した不正経理の事例

       本稿では、ある上場企業の海外子会社で発生した着服について考えます。  以下は、実際に報道された新聞記事の要約です。事件がここまで大きくなってしまった背...

       本稿では、ある上場企業の海外子会社で発生した着服について考えます。  以下は、実際に報道された新聞記事の要約です。事件がここまで大きくなってしまった背...


      金型メーカーの診断事例:原価管理・会社全般

       筆者が金型メーカー向けに行っている企業診断の内容について解説します。この診断は金型メーカーで行われる作業工程の流れに合わせ、項目を分けて行っています...

       筆者が金型メーカー向けに行っている企業診断の内容について解説します。この診断は金型メーカーで行われる作業工程の流れに合わせ、項目を分けて行っています...