部品メーカーのサプライチェーン戦略

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 どんな業界においても、マイクロソフトやインテルのようになる経営体は数社に限られるでしょう。

 米国では完成品メーカーで直接サプライするモジュールメーカーを、一次階層という意味からTier1(ティアワン)とし、そしてサプライチェーン上流の2次、3次部品サプライヤーを、Tier2(ティア ツー)Tier3(ティア スリー)と呼びます。自社の持っているコア・コンピタンスが適切に認識されること、インテグレーターとして周辺の技術を束ねる能力、そして業務同期化のサプライチェーンマネジメントの能力などが、Tier1となる企業に要求されます。もちろん全ての部品メーカーがモジュールメーカーを目指すことが必ずしも得策とはいえません。積極的に攻めたつもりで、返り討ちにあって討ち死にするかもしれません。これは、サプライチェーン上での自社のポジショニングを間違えたことを意味します。この場合、顧客・競合相手、そして自社を対象とするしっかりした戦略を立案し、分析することを要します。

 筆者はコンサルタントとして主に戦略立案支援の仕事をしています。「孫子の兵法」同様に戦略作りの基本は、市場(顧客・競合)を知って自社を知ることです。企業ごとに立案するモデルを一律に導くことはできません。モジュール化の動きのように、自社の上流と下流の業務のみでなく、組立上同じモジュール内にあっても技術は全く違う部品生産を持ち込むことが重要で、これが戦略的に優位にたつ方法かもしれません。すなわち分析にあたっては図1のように、上下左右の連鎖する業務を対象とすることが重要です。

部品メーカーのサプライチェーン戦略 

図1.部品メーカーの戦略立案ガイドライン

 自社の存在感を上げるということは、自社の製品(部品・技術)がサプライチェーンの次工程から最終ランナーである完成品メーカー、ユーザーまでの付加価値・顧客満足度を最大にすることです。サプライチェーン上の上流と下流の付加価値の統廃合という、攻める面と守る面の2面性をもつ事例が、既報の自動車業界のモジュール化に示されています。

 ほとんどのメーカーは自社のコア・コンピタンスの分析結果から判断すべきで、メインプレーヤーたるモジュールサプライヤーとして真っ向から勝負を仕掛けるべきではありません。得策といえることは、大手ブランドの傘の下で最初は力をつけることでしょう。IBM陣営であったマイクロソフトの当初の戦略は、対アップル社のパソコン戦争の一部を担当することでした。コア・コンピタンス獲得戦略として、名もなきメーカーにとって確立された有名ブランドを利用する下請け戦略は、安全でリスクのない重要な戦略といえます。徳川幕府を支える一国を支配するほうが、体制が決定している戦場でむやみに覇をとなえる石田光成になるよりも、はるかに戦...

 どんな業界においても、マイクロソフトやインテルのようになる経営体は数社に限られるでしょう。

 米国では完成品メーカーで直接サプライするモジュールメーカーを、一次階層という意味からTier1(ティアワン)とし、そしてサプライチェーン上流の2次、3次部品サプライヤーを、Tier2(ティア ツー)Tier3(ティア スリー)と呼びます。自社の持っているコア・コンピタンスが適切に認識されること、インテグレーターとして周辺の技術を束ねる能力、そして業務同期化のサプライチェーンマネジメントの能力などが、Tier1となる企業に要求されます。もちろん全ての部品メーカーがモジュールメーカーを目指すことが必ずしも得策とはいえません。積極的に攻めたつもりで、返り討ちにあって討ち死にするかもしれません。これは、サプライチェーン上での自社のポジショニングを間違えたことを意味します。この場合、顧客・競合相手、そして自社を対象とするしっかりした戦略を立案し、分析することを要します。

 筆者はコンサルタントとして主に戦略立案支援の仕事をしています。「孫子の兵法」同様に戦略作りの基本は、市場(顧客・競合)を知って自社を知ることです。企業ごとに立案するモデルを一律に導くことはできません。モジュール化の動きのように、自社の上流と下流の業務のみでなく、組立上同じモジュール内にあっても技術は全く違う部品生産を持ち込むことが重要で、これが戦略的に優位にたつ方法かもしれません。すなわち分析にあたっては図1のように、上下左右の連鎖する業務を対象とすることが重要です。

部品メーカーのサプライチェーン戦略 

図1.部品メーカーの戦略立案ガイドライン

 自社の存在感を上げるということは、自社の製品(部品・技術)がサプライチェーンの次工程から最終ランナーである完成品メーカー、ユーザーまでの付加価値・顧客満足度を最大にすることです。サプライチェーン上の上流と下流の付加価値の統廃合という、攻める面と守る面の2面性をもつ事例が、既報の自動車業界のモジュール化に示されています。

 ほとんどのメーカーは自社のコア・コンピタンスの分析結果から判断すべきで、メインプレーヤーたるモジュールサプライヤーとして真っ向から勝負を仕掛けるべきではありません。得策といえることは、大手ブランドの傘の下で最初は力をつけることでしょう。IBM陣営であったマイクロソフトの当初の戦略は、対アップル社のパソコン戦争の一部を担当することでした。コア・コンピタンス獲得戦略として、名もなきメーカーにとって確立された有名ブランドを利用する下請け戦略は、安全でリスクのない重要な戦略といえます。徳川幕府を支える一国を支配するほうが、体制が決定している戦場でむやみに覇をとなえる石田光成になるよりも、はるかに戦略的であるのに似ています。 

 部品メーカーにとって長期に勝ち残っていけるるかどうかの分かれ目は、業界地図がすでに塗られてしまっているところと、野心ある経営者にとって戦国時代ともいえる競争がまだ続いているところとを見極めることでしょう。コア・コンピタンスに磨きをかけること以外に生き残る手段はありません。

 

  • 〔参考文献〕
  • ・日経メカニカル(1999.1
  • ・「サプライチェーンマネジメント」(今岡善次郎著、工業調査会)
  • ・「図解100語でわかるサプライチェーンマネジメント」(工業調査会)

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この記事の著者

今岡 善次郎

在庫が収益構造とチームワークの鍵を握ります。人と人、組織と組織のつながり連鎖をどうマネジメントするかを念頭に現場と人から機会分析します。

在庫が収益構造とチームワークの鍵を握ります。人と人、組織と組織のつながり連鎖をどうマネジメントするかを念頭に現場と人から機会分析します。


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