TRIZ、QFD、デザイン技法で大学の創造的ヒトづくり

更新日

投稿日

1.大学ものづくり教育の課題

 金融緩和による株高政策や一部企業の賃上げで、見かけ上の好景気は感じられますが、まだまだ予断を許さない状況のように思われます。約10年前、ものづくり基盤を担っている大学工学部の教員から、就職難の根本原因は社会経済環境要因だけではないとの指摘が出ていました。思考能力の低下、コミュニケーション能力の低下、チャレンジ精神欠如などがその原因に挙げられます。そのような中、大学教育の意義や目的を再吟味し、本質的対応策を講じてできた新しいものづくり教育の試行結果を紹介します。

 

2.実践的創造性を育てる教育コンセプト

 2005年から山口大学工学部では、4年生を対象にプロジェクト型実践教育を試行しています。教育のあるべき姿を目指した取り組みに、筆者もプログラム開発と試行に参画しました。主旨は、学生が社会環境変化に対応できる判断基準を養い、ものづくりにおける創造性の基盤を構築することに設定しました。つまり、課題解決スキル、コミュニケーション能力、チャレンジ精神、仕事をやりきる力に自信を持てるようにするわけであり、2014年度で通算10クール目を迎えました。

 

3.創造的ヒトづくりの具現化策

 前項を実現する具体的プログラムは、機械、電気・電子、情報、土木、化学、デザインなどの学科の垣根を越えたものとしました。専門分野の違う学生が、コミュニケーションを図りながら商品等を企画、設計しながら、仕事の進め方を学び、パワーポイントとパネルにまとめて発表します。マーケティング、品質機能展開(QFD)、創造性開発手法(TRIZ)、デザイン、CAD/CAMなどのスキルも活用します。つまり、顧客ニーズやデザインを含めた商品開発を通じたシステム的アプローチとしたわけです。おそらく、ここまでデザイン技法も含んだシステマチックなものづくり講座は他に類を見ないのではないでしょうか。

 

4.創造的ヒトづくり教育の結果と将来展望

 図1に、学んだ技法の種類と将来どの技法が役立つと思ったかを聞いたアンケート結果を整理しました。その結果、従来の方法と比べ、主に3つの発見がありました。

  1. 学部の垣根を越えたディスカッションを実施したことで、チームメンバーを認め合い、苦手なコミュニケーションを克服できる力が養えたこと。
  2. マーケティング手法を駆使した商品コンセプトの設定、課題設定、アイデア出し、プレゼンテーションなどの業務プロセスを通じて、期待以上に課題解決能力が養われたこと。
  3. 予め価値観アセスメントによるチーム編成を実施したことで、リーダーシップやチャレンジ精神、創造性などのコンピテンシー(思考・行動特性)を高めるプログラムを加速できたこと。

 今後の展開としては、社...

1.大学ものづくり教育の課題

 金融緩和による株高政策や一部企業の賃上げで、見かけ上の好景気は感じられますが、まだまだ予断を許さない状況のように思われます。約10年前、ものづくり基盤を担っている大学工学部の教員から、就職難の根本原因は社会経済環境要因だけではないとの指摘が出ていました。思考能力の低下、コミュニケーション能力の低下、チャレンジ精神欠如などがその原因に挙げられます。そのような中、大学教育の意義や目的を再吟味し、本質的対応策を講じてできた新しいものづくり教育の試行結果を紹介します。

 

2.実践的創造性を育てる教育コンセプト

 2005年から山口大学工学部では、4年生を対象にプロジェクト型実践教育を試行しています。教育のあるべき姿を目指した取り組みに、筆者もプログラム開発と試行に参画しました。主旨は、学生が社会環境変化に対応できる判断基準を養い、ものづくりにおける創造性の基盤を構築することに設定しました。つまり、課題解決スキル、コミュニケーション能力、チャレンジ精神、仕事をやりきる力に自信を持てるようにするわけであり、2014年度で通算10クール目を迎えました。

 

3.創造的ヒトづくりの具現化策

 前項を実現する具体的プログラムは、機械、電気・電子、情報、土木、化学、デザインなどの学科の垣根を越えたものとしました。専門分野の違う学生が、コミュニケーションを図りながら商品等を企画、設計しながら、仕事の進め方を学び、パワーポイントとパネルにまとめて発表します。マーケティング、品質機能展開(QFD)、創造性開発手法(TRIZ)、デザイン、CAD/CAMなどのスキルも活用します。つまり、顧客ニーズやデザインを含めた商品開発を通じたシステム的アプローチとしたわけです。おそらく、ここまでデザイン技法も含んだシステマチックなものづくり講座は他に類を見ないのではないでしょうか。

 

4.創造的ヒトづくり教育の結果と将来展望

 図1に、学んだ技法の種類と将来どの技法が役立つと思ったかを聞いたアンケート結果を整理しました。その結果、従来の方法と比べ、主に3つの発見がありました。

  1. 学部の垣根を越えたディスカッションを実施したことで、チームメンバーを認め合い、苦手なコミュニケーションを克服できる力が養えたこと。
  2. マーケティング手法を駆使した商品コンセプトの設定、課題設定、アイデア出し、プレゼンテーションなどの業務プロセスを通じて、期待以上に課題解決能力が養われたこと。
  3. 予め価値観アセスメントによるチーム編成を実施したことで、リーダーシップやチャレンジ精神、創造性などのコンピテンシー(思考・行動特性)を高めるプログラムを加速できたこと。

 今後の展開としては、社会人となった学生の意識変容を追跡評価していくこととしています。

 

注) コンピテンシー(思考・行動特性)とは、仕事の成果に直結する要素としての「行動特性・発揮能力」です。その分野に秀でた人とそうでない人の間にある差を行動特性として可能な限り外に見える形の要素で表現した尺度であり、具体的には、挑戦心、チームワーク、達成志向力、学習力、コミュニケーション力、課題解決力、共感性、交渉力、柔軟性、価値観などの、目に見えにくい特性をアセスメントして評価することです。

 創造的ものづくり教育

図1 「将来役立つ技法は?」のアンケート結果

◆関連解説『TRIZとは』

   続きを読むには・・・


この記事の著者

粕谷 茂

「感動製品=TRIZ*潜在ニーズ*想い」実現のため差別化技術、自律人財を創出。 特に神奈川県中小企業には、企業の未病改善(KIP)活用で4回無料コンサルを実施中。

「感動製品=TRIZ*潜在ニーズ*想い」実現のため差別化技術、自律人財を創出。 特に神奈川県中小企業には、企業の未病改善(KIP)活用で4回無料コンサルを...


「TRIZ」の他のキーワード解説記事

もっと見る
イノベーション活動とTRIZ(その2)

 何を作ったら良いか分らない状態の下で、新商品/新システムを考え出すために、イノベーション活動とTRIZの表題で、前回のその1に続いて解説します。 ◆T...

 何を作ったら良いか分らない状態の下で、新商品/新システムを考え出すために、イノベーション活動とTRIZの表題で、前回のその1に続いて解説します。 ◆T...


TRIZ によるロジカルアイデア創造法(その5)

第2章:TRIZトゥリーズとは(創造的問題解決の技法) 前回のその4に続いて解説します。 ◆TRIZの説明ページへのリンク 2.誰もがよいアイデアを...

第2章:TRIZトゥリーズとは(創造的問題解決の技法) 前回のその4に続いて解説します。 ◆TRIZの説明ページへのリンク 2.誰もがよいアイデアを...


TRIZ によるロジカルアイデア創造法(その8)

(2) 技術システムの進化の流れ(トレンド)を活用する方法 ◆TRIZの説明ページへのリンク    「矛盾」の解決に加えて、もう一つのやり...

(2) 技術システムの進化の流れ(トレンド)を活用する方法 ◆TRIZの説明ページへのリンク    「矛盾」の解決に加えて、もう一つのやり...


「TRIZ」の活用事例

もっと見る
QFD-TRIZを活用した革新的製品開発への挑戦

♦ 限られた人員、予算で効率的にヒット製品を 1. QFD-TRIZ導入の背景  今回は創業当初から電磁バルブなどの「機器事業」と、198...

♦ 限られた人員、予算で効率的にヒット製品を 1. QFD-TRIZ導入の背景  今回は創業当初から電磁バルブなどの「機器事業」と、198...


自動車部品メーカーの「待ち受け型から提案型製品開発」への転換~QFD-TRIZの活用

※画像はイメージです  今回はステアリングシャフトやドアヒンジなどの輸送用機器メーカーで2015年からTRIZを活用した技術課題解決力の強化、シーズ...

※画像はイメージです  今回はステアリングシャフトやドアヒンジなどの輸送用機器メーカーで2015年からTRIZを活用した技術課題解決力の強化、シーズ...


精密鍛造金型メーカーが自社技術を起点に新商品開発に取り組んだ事例

※イメージ画像 1. 自社技術起点に新商品開発  今回は、精密鍛造金型メーカーとして創業し、現在は研究開発から部品製造まで精密鍛造に関するトータル...

※イメージ画像 1. 自社技術起点に新商品開発  今回は、精密鍛造金型メーカーとして創業し、現在は研究開発から部品製造まで精密鍛造に関するトータル...