顧客と共同開発することで、技術動向や課題を深く知る

1.顧客と共同開発する意味

 顧客との共同開発は、ある具体的な製品や技術で一つの成果を決めて、その成果に向けて取り組むものです。しかし、ここでは顧客を深く理解することを目的に、顧客との共同開発を進めることについてお話します。次のディスコ記事の抜粋をご覧ください。

東京・大森海岸にあるディスコ本社を訪ねると、試作品を手にした半導体メーカーの担当者の姿を目にする。彼らの目的は試し切り。新しいウェハーの切断や研削を実験するためにわざわざ足を運んでいる。
(中略)
実験室の数は本社だけで77室。ここに、レーザーやダイシングソー、グラインダーなど主力商品を配置している。年間のテストカットは海外を含めると約3000件。テストカットを通して、半導体業界の技術動向や企業が直面している課題を知ることができる

出所:日経ビジネス2010年7月12日号、「ディスコ、切・削・磨で世界一」

 この記事の中にディスコが毎年多くの顧客と共同開発を行うことで半導体業界の技術動向や顧客課題を理解していると書かれているように、顧客との共同開発を活用することで顧客のことを深く理解することができるのです。

 

2.顧客を知るための共同開発は質より量

 具体的な製品や技術的な成果を得るための共同開発を行うとき、共同開発までの手続きは、知財マネジメントのリスクなど、共同開発のプロセスでは自社-顧客の間で「取引コスト」も存在し、簡単に取り組めるようなものではありません。ですから、それなりの効果が期待できる規模のテーマでないと共同開発を進めるのが難しいため、自社も共同開発先の顧客も、慎重にテーマを検討するというのが普通であると思います。その結果、成果(『質』)を期待し、共同開発するテーマ数も限定されて来ます。

 しかし、顧客やその業界を深く理解しようとするのなら、多くの顧客と多くの共同開発を行って、顧客や業界を多面的に見るチャンスを得ることが重要になります。1つ1つのテーマの成果を期待しないということではありませんが、極論すると成果の質より量が重要になります。

 

3.顧客を共同開発に引っ張り込む

 量を追求した顧客との共同開発を進めようと思うなら、そのための仕組みが必要です。一件々々共同研究をこちらから『取りに行く』ような活動では、多くの共同開発を実現することは難しくなります。向こうから来てもらう、つまり顧客を共同開発に引っ張り込むことができるのが理想的です。この点で前記ディスコのやり方は、

 半導体の進化とともに、顧客の相談は難易度が上がっている。だが、ディスコの技術者はあきらめない。ある方法を試してダメならまた違う方法を考える。「ここの技術者は最後までついてきてくれる」(半導体メーカー主任技師)

出所:日経ビジネス2010年7月12日号、「ディスコ、切・削・磨で世界一」

 つまり、顧客の技術者が何かに困ると、「ディスコに聞いてみよう」という気にさせるということです。ディスコでは、そのために自社の技術者の顧客の相談に対しては、難しくても積極的に応えるということを徹底しているのです。もちろん顧客の要求は千差万別ですし、現状の技術には限界がありますから、全ての要求に100%応えることは現実的には不可能でしょうが、結果より姿勢を問われているのです。加えて、現状の技術ではできないことを見つけることも目的ですので、既存の技術では達成できないことを見つける活動も重要なのです。

 

4.質より量を追求する

 質より量を追求すると、一テーマ当りの顧客とのコミュニケーションは浅くなるという問題が生まれます。これは、顧客を深く理解することと逆行するように思えます。

 この問題に対しては、一顧客の理解に留まらず、複数の顧客を横串で見ることで、業界全体を俯瞰的に見渡すことを重視します。このため、共同開発から得られた顧客についての情報は、組織全体で共有するようにします。また顧客との共同開発の会話の中で積極的に質問を投げかけると、その場で相当のことが聞けるようになります。特にディスコのように先方から相談に来ている場合には、その点の質問が大変しやすいという利点があります。

 

5.効率的な共同開発処理体制

 共同開発の量を追求するのですから、通常の開発を行っている技術者が対応するには限界があります。そのためには、ディスコが77もの実験室を持つように、それ相応の体制が必要でしょう。またそういった体制を持つことで、顧客を共同開発に引き込む有力なツールになります。

 ただし、箱だけ作って魂が入らないようなことがないように注意しましょう!


この記事の著者

浪江 一公

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。

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