潜在課題 技術企業の高収益化:実践的な技術戦略の立て方(その4)

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 今回の解説は実践的な技術戦略の立て方その4、「潜在課題の発見」についてです。この解説を読むことで、次世代の成長のタネを作る上で必要な研究開発テーマの創出方法の一つである顧客課題の発見について学ぶことができます。

 2020年はコロナウイルスの影響から新しい生活様式が進んでいます。ICT活用に関しては「時計の針をすごく進めた」とか「時代が十年進んだ」と進化がもてはやされています。そのうちの一つが、通勤レスや単身赴任レスなどの勤務形態に関するものではないでしょうか?

 私達は、通勤や単身赴任は当たり前と考えていたのですが、もはや当たり前ではなくなりました。数年後には「以前そういうコトをしていた時代があったね」と振り返るでしょう。

 コロナ禍以前も、ICT技術で本来は出勤などしなくても良かったのですが、出勤していたのです。なぜかというと、それが当たり前だからです。このように、当たり前だと思っている非効率や課題を潜在課題といいます。

技術マネジメント

 コロナ前は大変だけど当たり前だから出勤していたのですが、ICT技術を知っていれば本来は出勤しなくても良かったのです。こんなコトは結構あります。ハンコもその一つで、なくなろうとしています。

 

1. 潜在課題を解決する商品や技術

 潜在課題について分かりやすい例を挙げましたが、ビジネスで潜在課題を発見すると良いテーマになります。解決する技術を作ることで大きく改善できるからです。最近では、潜在課題を解決する商品や技術には、AI(人工知能)などのソフトウェアものが意識されると思います。

 私の属する弁理士の業界では、特許検索を自動化したり、検索結果の分析を自動化することにとどまらず、中には明細書作成を自動化するソフトウエアなども出ています。従来は人がしなければならないと思っていたものが、これらによって解決されつつあります。そして、解決する商品はすごく注目を集めています。

 また、物流業界でも進化が進んでいます。物流拠点での荷物の仕分け分野で、ロボティクスとソフトウェアを活用した自動化・無人化によって、コロナの影響で増えた大量の通販の物流が捌(さば)けていますが、アマゾンやダイフク(物流自動化装置の販売会社)の株価はここ最近、値上がりを続けています。

 このように、潜在課題を解決する商品を販売すると儲(もう)かるのです。

 逆に課題を解決しているのに、儲からない商売があります。それが何かというと、下請け取引です。下請けがなぜ課題を解決していながら儲からないかといえば、顕在課題に対応しているからです。

 顕在課題は、解決策をお客様が知っている課題です。どうすれば良いのか分かるから、代わりも探しやすい。替えがきく仕事はどうしても安くなってしまいます。

 

2. どうすれば潜在課題を見つけられるか?

 潜在課題を見つける方法は大きく分けて2通りあります。一つは営業マーケティングで見つけるもの。もう一つは研究開発で見つけるものです。

 この解説では、後者の研究開発で見つける潜在課題についてお話したいと思います。研究開発で見つけられる潜在課題の情報源は何かといえばズバリ、特許情報です。参考になる特許さえ見つけることができれば、潜在課題は把握できたも同然となります。

 では、どのようにして潜在課題を発掘する特許を見つけることができるのでしょうか?それは、適切な検索をすることです。その検索の仕方はケースバイケースなのですが、化学業界の例で示してみましょう。

 専門性はそれほどでもありませんが、お付き合いください。樹脂の中にフィラーを入れて熱伝導度の高い樹脂を作る(高熱伝導樹脂)開発が行われています。この高熱伝導樹脂の用途の一つにヒートシンク(放熱部材)があります。

 高熱伝導性樹脂をヒートシンクに適用するに際して、潜在課題を把握するためにはどうしたら良いでしょうか?ここで特許文献の活用ができます。

 どういう特許文献が参考になるのでしょうか?従来、ヒートシンクには熱伝導性の高い金属が用いられてきたわけですが、このヒートシンクへの要求は、金属のヒートシンクの開発に関する特許文献に書いてあるのです。

 検索すると例えば、以下のような文献に当たることができます。明細書によると、温かい空気の対流性を高めるために放熱フィンを斜めに配置するという記載が見て取れます。

技術マネジメント

出典:特開2013-175608 出願人 スタンレー電気

 明細書によれば、このヒートシンクは金属でできているようですが、表面積を増やすため樹脂を使い、同じような構成で採用できないか?と検討することができます。

 金属の削り出しや組み立てより、射出成形の方が安く済みそうだという認識は誰にでもあると思います。そのため、コスト面は良いとして問題は性能です。実際に放熱できなければ採用されませんので、放熱性能という基本性能は当然必要です。

 ここまでは顕在化した課題です。潜在課題はここから。コストや放熱性能は満たせるとして、その他に課題はないのかと考えていきます。そうすると、図面のような形状を射出成形で実現できなければならないという課題が浮かび上がってくるのではないでしょうか?

 お客様の潜在課題は、そう、成形性です。成形性とは、射出成形において難形状の成形しやすさを表す言葉です。

 抽象化・一般化すると、このようになります。

技術マネジメント

 

3. 潜在課題の発掘法

 このように、知財情報を利用することで、潜在課題に関する情報を得ることができます。もちろん万能ではありませんし、当たり外れはあります。しかし、サンプルワークに求められる程度の...

 

 今回の解説は実践的な技術戦略の立て方その4、「潜在課題の発見」についてです。この解説を読むことで、次世代の成長のタネを作る上で必要な研究開発テーマの創出方法の一つである顧客課題の発見について学ぶことができます。

 2020年はコロナウイルスの影響から新しい生活様式が進んでいます。ICT活用に関しては「時計の針をすごく進めた」とか「時代が十年進んだ」と進化がもてはやされています。そのうちの一つが、通勤レスや単身赴任レスなどの勤務形態に関するものではないでしょうか?

 私達は、通勤や単身赴任は当たり前と考えていたのですが、もはや当たり前ではなくなりました。数年後には「以前そういうコトをしていた時代があったね」と振り返るでしょう。

 コロナ禍以前も、ICT技術で本来は出勤などしなくても良かったのですが、出勤していたのです。なぜかというと、それが当たり前だからです。このように、当たり前だと思っている非効率や課題を潜在課題といいます。

技術マネジメント

 コロナ前は大変だけど当たり前だから出勤していたのですが、ICT技術を知っていれば本来は出勤しなくても良かったのです。こんなコトは結構あります。ハンコもその一つで、なくなろうとしています。

 

1. 潜在課題を解決する商品や技術

 潜在課題について分かりやすい例を挙げましたが、ビジネスで潜在課題を発見すると良いテーマになります。解決する技術を作ることで大きく改善できるからです。最近では、潜在課題を解決する商品や技術には、AI(人工知能)などのソフトウェアものが意識されると思います。

 私の属する弁理士の業界では、特許検索を自動化したり、検索結果の分析を自動化することにとどまらず、中には明細書作成を自動化するソフトウエアなども出ています。従来は人がしなければならないと思っていたものが、これらによって解決されつつあります。そして、解決する商品はすごく注目を集めています。

 また、物流業界でも進化が進んでいます。物流拠点での荷物の仕分け分野で、ロボティクスとソフトウェアを活用した自動化・無人化によって、コロナの影響で増えた大量の通販の物流が捌(さば)けていますが、アマゾンやダイフク(物流自動化装置の販売会社)の株価はここ最近、値上がりを続けています。

 このように、潜在課題を解決する商品を販売すると儲(もう)かるのです。

 逆に課題を解決しているのに、儲からない商売があります。それが何かというと、下請け取引です。下請けがなぜ課題を解決していながら儲からないかといえば、顕在課題に対応しているからです。

 顕在課題は、解決策をお客様が知っている課題です。どうすれば良いのか分かるから、代わりも探しやすい。替えがきく仕事はどうしても安くなってしまいます。

 

2. どうすれば潜在課題を見つけられるか?

 潜在課題を見つける方法は大きく分けて2通りあります。一つは営業マーケティングで見つけるもの。もう一つは研究開発で見つけるものです。

 この解説では、後者の研究開発で見つける潜在課題についてお話したいと思います。研究開発で見つけられる潜在課題の情報源は何かといえばズバリ、特許情報です。参考になる特許さえ見つけることができれば、潜在課題は把握できたも同然となります。

 では、どのようにして潜在課題を発掘する特許を見つけることができるのでしょうか?それは、適切な検索をすることです。その検索の仕方はケースバイケースなのですが、化学業界の例で示してみましょう。

 専門性はそれほどでもありませんが、お付き合いください。樹脂の中にフィラーを入れて熱伝導度の高い樹脂を作る(高熱伝導樹脂)開発が行われています。この高熱伝導樹脂の用途の一つにヒートシンク(放熱部材)があります。

 高熱伝導性樹脂をヒートシンクに適用するに際して、潜在課題を把握するためにはどうしたら良いでしょうか?ここで特許文献の活用ができます。

 どういう特許文献が参考になるのでしょうか?従来、ヒートシンクには熱伝導性の高い金属が用いられてきたわけですが、このヒートシンクへの要求は、金属のヒートシンクの開発に関する特許文献に書いてあるのです。

 検索すると例えば、以下のような文献に当たることができます。明細書によると、温かい空気の対流性を高めるために放熱フィンを斜めに配置するという記載が見て取れます。

技術マネジメント

出典:特開2013-175608 出願人 スタンレー電気

 明細書によれば、このヒートシンクは金属でできているようですが、表面積を増やすため樹脂を使い、同じような構成で採用できないか?と検討することができます。

 金属の削り出しや組み立てより、射出成形の方が安く済みそうだという認識は誰にでもあると思います。そのため、コスト面は良いとして問題は性能です。実際に放熱できなければ採用されませんので、放熱性能という基本性能は当然必要です。

 ここまでは顕在化した課題です。潜在課題はここから。コストや放熱性能は満たせるとして、その他に課題はないのかと考えていきます。そうすると、図面のような形状を射出成形で実現できなければならないという課題が浮かび上がってくるのではないでしょうか?

 お客様の潜在課題は、そう、成形性です。成形性とは、射出成形において難形状の成形しやすさを表す言葉です。

 抽象化・一般化すると、このようになります。

技術マネジメント

 

3. 潜在課題の発掘法

 このように、知財情報を利用することで、潜在課題に関する情報を得ることができます。もちろん万能ではありませんし、当たり外れはあります。しかし、サンプルワークに求められる程度のものは、この潜在課題から抽出することができます。

 商品開発のためにはサンプルワークを通じて顧客からさらに有用な情報を得るのが大切ですが、技術戦略の段階では、この程度の情報でも十分に検討材料にすることができます。成形性を確保するための樹脂流動性やフィラーの配合比率などが研究テーマとして上がれば、それに予算や工数を積んでおくことで研究が可能になるからです。

 樹脂流動性やフィラーの配合比率を検討して置くことで成形性を上げ、複雑形状にも対応可能にしておくことで、顧客要望が具現化した時に成形が可能・容易ということをアピールするのです。

 仮に競合製品が、成形性という課題に気づかずに放熱性とコストだけで検討していた場合には、成形性という特徴は、自社の優位性になります。そのような優位性をできるだけ作って知財を取っていれば、その優位性の積み重ねで価格主導権が取れることになります。そうすると、儲かるのです。

 

 さて、今回は潜在課題を解決することの大切さやそのノウハウについて共有してきました。その中の最初の一つ、潜在課題発掘法は、社内でぜひ実施していただきたい事項の一つです。オススメです。ぜひやってみてください。

 

 【出典】株式会社 如水 HPより、筆者のご承諾により編集して掲載

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この記事の著者

中村 大介

若手研究者の「教育」、研究開発テーマ創出の「実践」、「開発マネジメント法の導入」の3本立てを同時に実践する社内研修で、ものづくり企業を支援しています。

若手研究者の「教育」、研究開発テーマ創出の「実践」、「開発マネジメント法の導入」の3本立てを同時に実践する社内研修で、ものづくり企業を支援しています。


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