原子力発電の技術と事業運営の特徴(その2)


 前回の「原子力発電の技術と事業運営の特徴(その1)」から続きます。

3.原子力発電の原価構造と経済性向上の鍵

 原子力発電所はとても大きな施設で、主機設備(原子炉、蒸気タービン、発電機、復水器冷却のための海水取放水設備、排気塔、制御室)一式の建設費用は千億円単位の中ほど(電気出力110万kWの沸騰水型軽水炉の場合)で、同出力の火力発電設備の数倍程度になります。主機の他に放射性廃棄物処理設備、送電線への接続設備、輸送船のための港湾、純水製造設備、軽油設備、補助ボイラーと重油設備、放射線管理設備、セキュリティのための物的防護設備、低レベル放射性廃棄物保管設備、事務所などが発電所共通に必要となります。

 一方、原子燃料はウラン鉱石の採掘、精錬、転換、濃縮、成型加工、輸送を経て発電所に準備されますが、単位電力量(1kWh)に占めるコストは前記の設備代よりはるかに小さく、ほんの数パーセントとみられています。

 このことからすぐにお分かりの通り、稼働率向上が経済性確保のための絶対的な必要条件となります。この事情は燃料コストが半分以上になっている火力発電所とは大きく異なり、電力供給上の使われ方も違うわけです。

4. 平和利用と兵器

 原子力発電の燃料である核燃料物質(ウランやプルトニウム)は核兵器にも使用されます。平和的な原子力発電からの転用を防ぐために、日本では外国為替及び外国貿易法の枠組みの中に安全保障貿易管理と呼ばれる規制の仕組みを作り、化学/生物兵器、ミサイルなどの大量破壊兵器と併せて、日本国内及び技術や機器の輸出先の国々による核兵器の製造を抑止しています。しかしながら、この転用可能性や一部の非核兵器国の武力的野心が原子力の平和利用にも疑念を持たせる一因となっています。

5. 安全管理体制

 5.1 便益とリスクの両面性

 いかなる道具もそれを使用することによる便益とリスクを伴います。身近な例を挙げると自動車はどうでしょうか。国内では毎年5千人ほどの方が交通事故で亡くなりますが、自動車の便益は極めて大きく、危ないから無くそうなどという意見は出ません。エネルギー分野でガスの例を見てみると、絶えざる安全性の向上で事故の件数は大きく減少しているものの、やはり一定のリスクを伴います。もう過去のことになりましたが、国内の石炭の採掘では多くの犠牲者が出ました。原子力という道具も同様ですが、便益、リスクともに際立って大きく、国民の意見はなかなか一致しません。
 リスクを最小化することこそ科学技術の役割ですが、原子力産業についても歴史の中で数々の大失敗を経験し、福島事故が最新の事例になってしまいました。

 5.2 安全管理の責任

 原子力産業のもう一つの特殊性は、利用する際の安全管理の責任の所在です。即ち、使用者/運転者(発電の場合は電力会社)が全ての責任を負い、施設の設計、製造にかかわった事業者は損害に対して免責となることが原子力損害の賠償に関する法律に明記され、またこの法が適用される場合には、製造物責任法は適用されません。運転者が安全管理の全責任を負うというのは、実は国内の法制度だけではなく、全世界の原子力産業界の共通ルールでもあります。

 こういった事情を反映して、電力会社の原子力発電所内では運転部門は補修部門や技術支援部門に対して安全管理上の指示をし、また施設の作業等で状態を変更することを許可する立場にあります。この組織的な風土は1960年代に米国から原子力発電システムが導入されたときに併せて取り入れられ、同じ電力会社の中でも火力発電部門には無いものです。


 この原稿を書かせていただけることになったとき、ものづくりの専門家の皆さまにユーザーとしての提言を出せればという思いもありましたが、そんな領域には全く届かず、いわば当たり前の基礎の解説ということになってしまいました。ものづくり素人の私も、いずれは専門家の皆様に役に立てていただける話をご提供できることを目指して参りたいと考えています。


この記事の著者

白柳 春信

 原子力発電事業を中心に、原子力と放射線をめぐる広範囲の懸案事項において、お考えをまとめるお手伝いをします。

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