リーンシックスシグマと根回し

 
  
リーンシックスシグマ
 
 業務改革のやり方を体系的に整理したものとして、リーンシックスシグマはその最たるものです。しかし、業務改善のような利害関係が衝突するプロジェクトではまず十分な根回しを行って、利害関係を調整してからプロジェクトを始めないと、プロジェクトは必ずと言ってよいほど頓挫します。根回しは、プロジェクトが始まってから行うものではなく、プロジェクトを始める前に行うものだからです。
 
 よく「日本独特の根回しは、意思決定を遅らせ、責任所在を曖昧にするから良くないものだ」という論調を目にします。つまり、「意思決定のスピード化を図るためにも、責任ある担当者の決断で業務を迅速に進めることが、企業の競争力につながる」というものです。リーンシックスシグマ、特にリーンを学ぶ前は、なんとなく欧米流ビジネスのような気がして、僕もそれが正しいのではないかと思っていました。
 
 リーンを勉強するにあたり、色々と米国人によって書かれたリーンの本を読んでみました。そしてまず思ったことは、「やけに日本語の言葉が多いな」ということでした。Kaizen や Kanban はもとより、5S(Seiri、Seiton、Seiso、Seiketsu、Shituke)や3M(Muri、Muda、Mura)など、良く使う日本語が次々と出てきます。もっともリーンは、トヨタを手本としているので当然かもしれませんが、日本語を知らない欧米人は混乱するのではないかと、逆に心配になったくらいです。日本人の僕でさえ、Yokoten (縦の方針管理に対して、横への展開、つまり横展のこと)という言葉に出くわしたときは混乱したくらいですから。
 
 Nemawashi(根回し)も、そんなリーンの単語の一つです。それまで欧米流ビジネスは日本独特の根回しに対して否定的だと思っていたのですが、驚いたことにリーンは、根回しに対してとても肯定的でした。「プロジェクトの前に十分根回しを行い、利害関係者の同意・協力を得ることで、プロジェクトの成功率と実行速度があがる」ためです。リーンはこれを、トヨタの強さの秘密のように捉えています。大切なことは、プロジェクトを立ち上げる前に「価値を共有すること」が根回しであり、それはプロジェクト実行中の利害調整とは違う、ということです。先のメルマガの記事では、根回しと利害調整を混同しているように僕には読めました。
 
 さて、リーンシックスシグマ(またはシックスシグマ)は、根回しについてどう答えているでしょうか。本をいくら読んでも Nemawashi という単語は出てきません。しかし、プロジェクト定款(Project Charter)、利害関係者分析、コミュニケーション計画の重要性について説いています。
 
 プロジェクト定款には、次のような情報を記載します。
 
  • プロジェクトリーダー、スポンサー、チャンピオン、メンター
  • 現状の問題点
  • プロジェクトの範囲
  • プロジェクトの概要
  • 顧客の利益
  • ビジネス上の利益
  • 改善の対象と軽量方法(ターゲット値)
  • 主要なチームメンバー
  • 必要な資源(人、モノ、金)
  • スケジュール(マイルストーン)
  • 認識しているプロジェクトのリスク
 
 項目は簡単ですが、プロジェクト定款を作るのはそれほど簡単ではありません。プロジェクト定款を発行するまでには、多くの利害関係者から同意と協力を得る必要があるからです。同意と協力を得るためには、色々と資料を用意する必要もあります(トヨタ流でいけば、A3企画書のようなもの)。そして不思議なもので、プロジェクト定款で手を抜くと、必ずといってよいほどプロジェクトの実行で苦労します。プロジェクト定款を発行することは、まさに根回しそのものです。
 
 利害関係者分析では、まず利害関係者をその態度、実行力、権力、興味などから、いくつかに類型します。そしてプロジェクトの成功に有利に働くよう、類型に従って、彼らとのコミュニケーション計画を立てていきます。またRASCI マトリックスを使って、プロジェクトが実施される前に、責任の所在を明確にしておきます。
 
 リーンシックスシグマは「根回し」という単語こそは用いませんが、ツールやテンプレートを順序良く使って「体系的に」根回しを行っていきます。根回し作業だけとっても、やはりリーンシックスシグマは体系的だと、改めて思いました。
 

この記事の著者

津吉 政広

リーンやシックスシグマ、DFSSなど、問題解決のためのフレームワークを使った新製品の開発や品質の向上、プロセスの改善を得意としています。「ものづくり」に関する問題を一緒に解決してみませんか?

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