「なぜなぜ分析」と現場の「カイゼン」の本当の意味

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 自動車業界は、毎年、常に数々のリコールが実施されています。ところで「トヨタ式なぜなぜ5回」は、大野耐一氏の著書「トヨタ生産方式」の中で解説されています。しかしそれは、自動車の量産が始まった初期の工場で現場指導として行われたもので、そのまま現在の工場には当てはまりません。実際の現場で「なぜなぜ分析」を行うことは、まずありえません。なぜこんなにリコールが多いのか。大量リコールが続くワケとして多くの自動車関係者は次の4つの理由を挙げています。
 
 
(1) 自動車の電子化が進みソフトウエア開発が複雑化したことで、不具合自体が増えているという見方。
(2) 部品の共通化が進んだことで1つの不具合が多くの車種に影響するため、リコールとなった場合の規
  模が拡大する、という解説。
(3) 2004年の三菱自動車のリコール隠しや2010年のトヨタの品質問題などを教訓に、日本メーカーが従
  来ならリコールをしなかった問題でもリコールで対処するようになったことで件数が増加していると
  言う見方。
(4) グローバル展開の加速、開発期間の短縮により開発技術者の絶対数が不足、十分な時間が取れない中
  で、開発を強いられてると言う見方。
 
 ただ、これらの理由は、メーカー側の言い訳でしかないように思えます。2014年の「タカタ」のエアバックの欠陥に代表されるように、生命にかかわる欠陥を世の中に流出させながら、作り手の論理を振りかざすことは許されません。日本自動車工業会の豊田章男会長(トヨタ社長)が「リコールの判断が、以前の法令遵守や技術的な問題があるかどうかから、お客様の安心安全に変わってきている」「リコール=悪と考えないでいただきたい。間違いが見つかったときには即直して、お客様の安全安心を確保する。ご理解いただきたい」と述べていますが、いささか売り手の論理が見え隠れします。
 
 「間違いが見つかったときには即直して・・・」とは、欠陥が流出することを前提とした発言であり、これは責任ある立場のコメントとして許されないものです。「複雑な作りになった」「共通化が進んだ」というなら、品質管理も従来に増して、いやその時代に合わせて、そのやり方を変えていかねばなりません。
 

【大野耐一氏のなぜなぜ分析の問題点】

 
 自動車メーカーの品質管理手法は、今や、時代に合わなくなっているのではないでしょうか。ここでは、なぜなぜ分析の問題点を考察します。次の例でこれを考えましょう。
 
1. なぜ機械が止まったのか? オーバーロードが掛かってヒューズがきれたから
2. なぜオーバーロードが掛かったか? 軸受け部の潤滑が十分でないから
3. なぜ十分に潤滑しないのか? 潤滑ポンプが十分組み上げていないから
4. なぜ十分組み上げないのか? ポンプの軸が摩耗してガタガタになっているから
5. なぜ摩耗したのか? ろ過器が付いていないので切粉が入ったから
 
 なぜなぜ分析の解説では、なぜの追及が足りないとヒューズの取り換えやポンプの軸の取り換えの段階で終わってしまい、数か月後に同じトラブルが再発する。五回のなぜを自問自答することによって、物事の因果関係と、その裏に潜む本当の原因を突き止めることができる。と大野氏が解説しています。その中で
 
 (1) 物事の因果関係とは何か?  
 (2) その裏に潜む本当の原因とは何か? 
 
 この2つの意味は何でしょうか。50年前の工場の現場では、品質管理のレベルもまだ低く、原因究明もままならない現場の人たちのやる気を起こすため、大野耐一氏が考案した現場管理の一手段が「なぜなぜ分析」だったのでしょう。
 
 大野氏のあげている、なぜなぜ5回の例は、(1)の個別不良の原因を因果関係を明らかにして、対策せよと言っているのです。ところが、(2)その裏に潜む本当の原因とは何かの解析方法については、明解な解説はしていません。きっと、管理システムの欠陥を究明して、機械の保守点検、フィルターの定期交換のことが頭に浮かんでいたかも知れません。しかし、この当時、そこまでできるレベルではなかった、機械を管理するルールは十分できていなかった、そこで難しいことを言っても現場の人間ができるはずもないと考えたのかも知れません。
 
 なぜ、フィルターの付いている機械を購入しなかったのか?なぜ、ポンプが壊れるまで放置したのか?という仕組み(基本ルール)の欠陥に触れない限り、また同様な問題が発生します。なぜなぜ分析の目的は「二度と同じ不良を発生させないようにするため」「その裏に潜む本当の原因とは何か?」を突き止めるために行われなければならないのです。
 
 大野氏の時代の品質管理の主体は「現場のカイゼン」でした。ところがよく考えてみると、カイゼンの名を借りた是正処置(もぐらたたき)に主眼が置かれていたのです。この考えのもとで作られた製品は、市場で必ずトラブルを起こします。なぜなら工場で発見されなかった不良が市場に出てから発生するのです。この開発体制は、市場でトラブルが発生したら対策するという典型的なもぐらたたきの開発体制となっていないでしょうか。品質管理は不良や故障の発生を未然に防ぐ「予防処置」の考え方に切り替えな
けれ...
 
 
 自動車業界は、毎年、常に数々のリコールが実施されています。ところで「トヨタ式なぜなぜ5回」は、大野耐一氏の著書「トヨタ生産方式」の中で解説されています。しかしそれは、自動車の量産が始まった初期の工場で現場指導として行われたもので、そのまま現在の工場には当てはまりません。実際の現場で「なぜなぜ分析」を行うことは、まずありえません。なぜこんなにリコールが多いのか。大量リコールが続くワケとして多くの自動車関係者は次の4つの理由を挙げています。
 
 
(1) 自動車の電子化が進みソフトウエア開発が複雑化したことで、不具合自体が増えているという見方。
(2) 部品の共通化が進んだことで1つの不具合が多くの車種に影響するため、リコールとなった場合の規
  模が拡大する、という解説。
(3) 2004年の三菱自動車のリコール隠しや2010年のトヨタの品質問題などを教訓に、日本メーカーが従
  来ならリコールをしなかった問題でもリコールで対処するようになったことで件数が増加していると
  言う見方。
(4) グローバル展開の加速、開発期間の短縮により開発技術者の絶対数が不足、十分な時間が取れない中
  で、開発を強いられてると言う見方。
 
 ただ、これらの理由は、メーカー側の言い訳でしかないように思えます。2014年の「タカタ」のエアバックの欠陥に代表されるように、生命にかかわる欠陥を世の中に流出させながら、作り手の論理を振りかざすことは許されません。日本自動車工業会の豊田章男会長(トヨタ社長)が「リコールの判断が、以前の法令遵守や技術的な問題があるかどうかから、お客様の安心安全に変わってきている」「リコール=悪と考えないでいただきたい。間違いが見つかったときには即直して、お客様の安全安心を確保する。ご理解いただきたい」と述べていますが、いささか売り手の論理が見え隠れします。
 
 「間違いが見つかったときには即直して・・・」とは、欠陥が流出することを前提とした発言であり、これは責任ある立場のコメントとして許されないものです。「複雑な作りになった」「共通化が進んだ」というなら、品質管理も従来に増して、いやその時代に合わせて、そのやり方を変えていかねばなりません。
 

【大野耐一氏のなぜなぜ分析の問題点】

 
 自動車メーカーの品質管理手法は、今や、時代に合わなくなっているのではないでしょうか。ここでは、なぜなぜ分析の問題点を考察します。次の例でこれを考えましょう。
 
1. なぜ機械が止まったのか? オーバーロードが掛かってヒューズがきれたから
2. なぜオーバーロードが掛かったか? 軸受け部の潤滑が十分でないから
3. なぜ十分に潤滑しないのか? 潤滑ポンプが十分組み上げていないから
4. なぜ十分組み上げないのか? ポンプの軸が摩耗してガタガタになっているから
5. なぜ摩耗したのか? ろ過器が付いていないので切粉が入ったから
 
 なぜなぜ分析の解説では、なぜの追及が足りないとヒューズの取り換えやポンプの軸の取り換えの段階で終わってしまい、数か月後に同じトラブルが再発する。五回のなぜを自問自答することによって、物事の因果関係と、その裏に潜む本当の原因を突き止めることができる。と大野氏が解説しています。その中で
 
 (1) 物事の因果関係とは何か?  
 (2) その裏に潜む本当の原因とは何か? 
 
 この2つの意味は何でしょうか。50年前の工場の現場では、品質管理のレベルもまだ低く、原因究明もままならない現場の人たちのやる気を起こすため、大野耐一氏が考案した現場管理の一手段が「なぜなぜ分析」だったのでしょう。
 
 大野氏のあげている、なぜなぜ5回の例は、(1)の個別不良の原因を因果関係を明らかにして、対策せよと言っているのです。ところが、(2)その裏に潜む本当の原因とは何かの解析方法については、明解な解説はしていません。きっと、管理システムの欠陥を究明して、機械の保守点検、フィルターの定期交換のことが頭に浮かんでいたかも知れません。しかし、この当時、そこまでできるレベルではなかった、機械を管理するルールは十分できていなかった、そこで難しいことを言っても現場の人間ができるはずもないと考えたのかも知れません。
 
 なぜ、フィルターの付いている機械を購入しなかったのか?なぜ、ポンプが壊れるまで放置したのか?という仕組み(基本ルール)の欠陥に触れない限り、また同様な問題が発生します。なぜなぜ分析の目的は「二度と同じ不良を発生させないようにするため」「その裏に潜む本当の原因とは何か?」を突き止めるために行われなければならないのです。
 
 大野氏の時代の品質管理の主体は「現場のカイゼン」でした。ところがよく考えてみると、カイゼンの名を借りた是正処置(もぐらたたき)に主眼が置かれていたのです。この考えのもとで作られた製品は、市場で必ずトラブルを起こします。なぜなら工場で発見されなかった不良が市場に出てから発生するのです。この開発体制は、市場でトラブルが発生したら対策するという典型的なもぐらたたきの開発体制となっていないでしょうか。品質管理は不良や故障の発生を未然に防ぐ「予防処置」の考え方に切り替えな
ければならないのです。例えば、エアバッグの問題にしても、
 
〔製品設計ミス説〕
 タカタのみが爆薬として硝酸アンモニウムを使っているが、これは経年変化で変質・変形しやすく、製造後10年も過ぎると爆発性に変化が起きる。これを評価しなかった設計ミスであるとする説。
 
〔工程作業ミス説〕
 海外工場へ製造を移管した時、工程設計に指示したことに違反した作業が行われた予期しない事態が発生し、「こうせよ」とQC工程表や作業標準に規定してあるのにその通りにしなかったものが、そのまま良品として出荷されたのは、工程設計に問題があると言う説。
 
 不良や故障をあらかじめ予測して作り込みを行う上流工程の機能設計、信頼性設計の手抜きと言う以外にこの問題は考えられないのです。原発の放射能漏れも同様に、想定外の津波が来たので仕方がないと言い訳はできません。想定外をあらかじめ予期し、対策を組み込むことが予防処置です。製品設計も、製造工程の設計もそのことを主体に実施しなければ、設計を行っているとは言えません。
 
  

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この記事の著者

濱田 金男

製造業に従事して50年、新製品開発設計から製造技術、品質管理、海外生産まで、あらゆる業務に従事した経験を基に、現場目線で業務改革・経営改革・意識改革支援に取り組んでいます。

製造業に従事して50年、新製品開発設計から製造技術、品質管理、海外生産まで、あらゆる業務に従事した経験を基に、現場目線で業務改革・経営改革・意識改革支援に...


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