デザインによる知的資産経営:各部門の役割(その5)

更新日

投稿日

 前回のその4に続いて解説します。知的資産経営において、企業の知的資産を集積して利用することが重要であり、全部門の力が必要です。今回は、最終回として開発部門と管理部門がどのように知的資産経営に関わるかについて解説します。
 

6.開発部門

 
 社内の各部門が上述のような活動をすれば、新商品の開発に際しては、従前になく多くの質的に異なる情報が取得できるはずです。そして、それらの情報の源は社内にあり、いつでも使える具体的な情報です。加えて、各社員が個々に保有する情報もデータベースに取り込まれるならば、新商品の開発に必要な「需用者の潜在願望」を探し出す作業も比較的容易になり、視野も広がるものと思います。
 
 その結果として、今までの市場調査や顧客情報という外部情報を頼りにしていた商品開発から、自社独自の情報に基づいた独自の視点からの商品開発に移行するという変化が期待できます。すなわち、マーケット追随やマーケットイン、そしてプロダクトアウトからの決別です。
 
 ここで留意すべきは、「企業理念」や「規範」というバックボーンがあるとしても、自社が保有する(各部門から集積された)膨大な「知的資産」を読み解いて新商品の方向性を決定し、開発するために、それなりのスキルが必要であるということです。「こんな商品」という方向性が提示された下での開発とは全く次元が異なります。
 
 知的資産のデータベース構築におけるデータベースの設計には工夫が必要であり、データを読み解くスキルの学習も必要になると思います。このように言うと腰が引けてしまうかもしれませんが、とっかかりとしては、既存製品に知的資産から得た知見で「味付けした」製品を商品化するところからスタートすればいいでしょう。その商品が成功すれば、「味付け」の重要性が社員に共有され、「味付け」の度合いが徐々に高まり、真にイノベーティブな商品を開発できるようになるのです。
 

7.管理部門

 
 各部門から提供される知的資産の情報、そして前号までに述べた従業員個人が保有する情報を集めたデータベースは、いわゆる経営管理部などで構築され、管理されることになると思いますが、データベースは検索のしやすさが命です。この構築・設計に際しては十分な検討が必要です。
 
 ここで注意したいのは、データベースに情報があるだけでは足りないということです。データベースに登録される情報は情報のエッセンスであり、その情報を詳しく知るには元情報にアクセスする必要があると思います。元情報にアクセス可能であることは、データベースに必須です。
 

8.デザインによる知的資産経営のまとめ

 
 以上のように各部門が機能するならば、自社の情報、市場情報、顧客情報が集約され、それらと「企業理念」を照合して企業の進む方向を策定し、新商品を提案できるように...
 前回のその4に続いて解説します。知的資産経営において、企業の知的資産を集積して利用することが重要であり、全部門の力が必要です。今回は、最終回として開発部門と管理部門がどのように知的資産経営に関わるかについて解説します。
 

6.開発部門

 
 社内の各部門が上述のような活動をすれば、新商品の開発に際しては、従前になく多くの質的に異なる情報が取得できるはずです。そして、それらの情報の源は社内にあり、いつでも使える具体的な情報です。加えて、各社員が個々に保有する情報もデータベースに取り込まれるならば、新商品の開発に必要な「需用者の潜在願望」を探し出す作業も比較的容易になり、視野も広がるものと思います。
 
 その結果として、今までの市場調査や顧客情報という外部情報を頼りにしていた商品開発から、自社独自の情報に基づいた独自の視点からの商品開発に移行するという変化が期待できます。すなわち、マーケット追随やマーケットイン、そしてプロダクトアウトからの決別です。
 
 ここで留意すべきは、「企業理念」や「規範」というバックボーンがあるとしても、自社が保有する(各部門から集積された)膨大な「知的資産」を読み解いて新商品の方向性を決定し、開発するために、それなりのスキルが必要であるということです。「こんな商品」という方向性が提示された下での開発とは全く次元が異なります。
 
 知的資産のデータベース構築におけるデータベースの設計には工夫が必要であり、データを読み解くスキルの学習も必要になると思います。このように言うと腰が引けてしまうかもしれませんが、とっかかりとしては、既存製品に知的資産から得た知見で「味付けした」製品を商品化するところからスタートすればいいでしょう。その商品が成功すれば、「味付け」の重要性が社員に共有され、「味付け」の度合いが徐々に高まり、真にイノベーティブな商品を開発できるようになるのです。
 

7.管理部門

 
 各部門から提供される知的資産の情報、そして前号までに述べた従業員個人が保有する情報を集めたデータベースは、いわゆる経営管理部などで構築され、管理されることになると思いますが、データベースは検索のしやすさが命です。この構築・設計に際しては十分な検討が必要です。
 
 ここで注意したいのは、データベースに情報があるだけでは足りないということです。データベースに登録される情報は情報のエッセンスであり、その情報を詳しく知るには元情報にアクセスする必要があると思います。元情報にアクセス可能であることは、データベースに必須です。
 

8.デザインによる知的資産経営のまとめ

 
 以上のように各部門が機能するならば、自社の情報、市場情報、顧客情報が集約され、それらと「企業理念」を照合して企業の進む方向を策定し、新商品を提案できるようになると思います。すなわち、市場で独自の立場をつくることができるということです。
 
 ここまで製造業を対象として話してきましたが、これはサービス業にも当てはまるはずです。セントラルキッチンを持ったファミレスチェーンの場合、セントラルキッチンは「製造部門」であり、店舗で働く従業員は「営業部員」に対応します。上述のように、営業部員すなわち顧客・市場と直接的に接する人たちが、どのような情報を開示してくるかということが極めて重要です。
 
 

   続きを読むには・・・


この記事の著者

峯 唯夫

「知的財産の町医者」として、あらゆるジャンルの相談に応じ、必要により特定分野の専門家を紹介します。

「知的財産の町医者」として、あらゆるジャンルの相談に応じ、必要により特定分野の専門家を紹介します。


「知的財産マネジメント」の他のキーワード解説記事

もっと見る
デザインによる知的資産経営:「知的資産」の保護(その4)

 今回は、特許権等の「産業財産権」としては保護されない「知的資産」をどのように守ったらいいのかについて、不正競争防止法による保護を中心として、連載で具体的...

 今回は、特許権等の「産業財産権」としては保護されない「知的資産」をどのように守ったらいいのかについて、不正競争防止法による保護を中心として、連載で具体的...


「地域団体商標」の活用とは

 毎年数回、地域の機関から依頼を受けてセミナーを行っていますが、最近は、知的財産権について話してほしい、というような「制度」の解説を求められることはほとん...

 毎年数回、地域の機関から依頼を受けてセミナーを行っていますが、最近は、知的財産権について話してほしい、というような「制度」の解説を求められることはほとん...


無料で利用できる特許情報を活用するには

【目次】 1.特許情報とは  我が国の特許制度は先願主義を採用していますので、企業、大学、研究所等で開発された技術はいち早く特許庁...

【目次】 1.特許情報とは  我が国の特許制度は先願主義を採用していますので、企業、大学、研究所等で開発された技術はいち早く特許庁...


「知的財産マネジメント」の活用事例

もっと見る
デザインによる知的資産経営:「ブランドづくり」(その4)

 前回のその3に続いて解説します。   3.ブランドが縛りに  「ブランドが縛りになる」。これは、あまりいわれていない言葉だと思います。ルイ・ヴ...

 前回のその3に続いて解説します。   3.ブランドが縛りに  「ブランドが縛りになる」。これは、あまりいわれていない言葉だと思います。ルイ・ヴ...


特許解析、ミクロマップの面白さ

◆ 特許解析、マクロマップからミクロマップへ  わたくしが研究開発から離れ、知的財産部(知財部)に異動してきたきっかけは、世界中から集まる発明情報を...

◆ 特許解析、マクロマップからミクロマップへ  わたくしが研究開発から離れ、知的財産部(知財部)に異動してきたきっかけは、世界中から集まる発明情報を...


特許出願とその後の展開

    研究開発の仕事の中で、特許を調査する、出てきた結果で特許出願を行う、ということは日常的に行われています。私の場合は、昔は多い...

    研究開発の仕事の中で、特許を調査する、出てきた結果で特許出願を行う、ということは日常的に行われています。私の場合は、昔は多い...