物流安全の勘所、危険を感じたらそこで仕事を止める勇気を持つこと

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 改善活動

 

1. 荷役安全と運輸安全マネジメント

物流は特に安全上の注意が必要な業務ですが、どんな仕事であれ安全第一であることは間違いありません。今回は、物流安全について考えてみたいと思います。まず労災保険率(令和3年度)について確認していきましょう。特に物流に関係する業種とその保険率は以下の通りとなります。

物流に関係する業種とその保険率】(単位は1/1000)

  • 交通運輸事業    : 4
  • 貨物取扱事業    : 9
  • 港湾貨物取扱事業  : 9
  • 港湾荷役業     : 13
  • 倉庫業       : 6.5

 

この保険率が大きければ大きいほど危険な仕事だと考えられます。物流関係業種を挙げましたが飛び抜けて大きいわけではありません。かといって極めて低い部分に入るかといえばそうでもありません。特に荷役作業については事故が発生しやすく、公道を運送する時も他者との事故のリスクがあります。

 

この内後者の運送におけるリスクについては国土交通省主導の『運輸安全マネジメント』という取組があります。

 

また構内荷役やフォークリフトの安全につきましては労働安全衛生法の適用を受け、厚生労働省が管轄省庁ということになります。まず『安全運輸マネジメント』について確認していきましょう。以下に国土交通省が記している本制度の趣旨を引用します。

 

『安全運輸マネジメント』本制度の趣旨:国土交通省からの引用

『本制度では、事業者においては、自らが自主的かつ積極的に輸送の安全の取組みを推進し、構築した安全管理体制をPDCAサイクル※により継続的に改善し、安全性の向上を図ることが求められています。(※ Plan Do Check Act(計画の策定、実行、チェック、改善)のサイクル)
また、国土交通省においては、事業者の安全管理体制の実施状況を確認する運輸安全マネジメント評価を行うこととされ、本評価では、国土交通省の評価担当者による経営トップ及び安全統括管理者等の経営管理部門へのインタビューと文書・記録類の確認を通じ、事業者が構築した安全管理体制の更なる向上に資するため、創意工夫がなされている事項、熱心に取り組んでいる事項、優れている事項等について評価を行うとともに、継続的に取り組む必要があると思われる事項、工夫の余地のある事項、更に推進すると効果が向上すると思われる事項等について助言を行います。』

 

上記で引用の『安全運輸マネジメント』制度では経営トップによる積極的な取組が求められています。つまり活動は部下に丸投げということは許されず、経営トップの参画が重視されるという点で注意が必要です。

 

 

2. ヒヤリハットメモの活用

運輸安全マネジメントは主として運送上の安全について規定していますが、常日頃のドライバー教育についても重視されています。ドライバーの過労や過積載は事故につながる可能性が高いため特に重視されています。ドライバーを一堂に集めることは難しいかもしれませんが、何回かに分けてでも実施しなければなりません。

 

ドライバーからヒヤリハットメモを提出してもらうことも社内で定着させましょう。なかなかメモを提出してもらえないことも考えられます。しかし会社員である以上会社の指示に従わないということはあり得ないことではないでしょうか。メモを定期的に提出してくれた場合に報奨を出すことも含め、この制度は必ず実行していきましょう。

 

物流現場ではフォークリフトの荷扱い時の事故が多いようです。そこでフォークリフトの荷扱い時のルールを明確に定める必要があります。フォーク(爪の部分)を人にぶつけてしまうと重大事故につながります。これを考慮し、フォーク走行は原則としてバック走行とする。また前進走行をせざるを得ない場合はパレットをフォークに載せ、フォークをむき出しにして走らせないような工夫も必要でしょう。

 

荷崩れしやすい段積みも要注意です。安定感の悪い荷物を高く積み上げると何かの際に荷崩れを起こす可能性があります。したがいまして段積み時の高さ制限を一律に定めるとともに、特に安定感の悪い貨物については2段までとするといった柔軟な対応も望まれます。

 

倉庫内作業でもヒヤリハットメモを出してもらうルールを決めましょう。高所からのものの落下、フォークリフトと人の干渉、扱い物の危険度など作業者の経験値は重要です。発火の恐れのあるもの、爆発の可能性があるもの、有害ガスを発生させる可能性があるものなど貨物自体の特性による個別管理も大切になって来るでしょう。できれば社内に安全管理を専任で行う人を設け、その人に各物流現場を見て回ってもらうことも有効かもしれません。

 

安全はすべてに優先しますからとにかく愚直に続け、ちょっとしたことも見逃さないような態度で管理していくことが望ましいと思います。

 
 SCM

 

3. 5S活動は安全の基本

物流現場は製造現場に比べて5Sはあまり進んでいません。しかし物流は5Sができて初めてまともな仕事ができると言っても過言ではありません。物流安全のために明らかに効果がある活動が5S活動です。5Sはほぼ万能ともいえる活動ですから徹底して実行することでいろいろな効果が期待できます。そんな中でも特に安全に効果が大きいので一緒に考えていきたいと思います。

 

物流現場は製造現場に比べて5Sはあまり進んでいません。しかし物流は5Sができて初めてまともな仕事ができると言っても過言ではありません。倉庫内作業を見ていると床にものが直置きされており、人が歩くときに危険である状況を目にすることがあります。

 

直置きするなとは言いませんが、そうする場合には「置き場を定め」「そこを明確に区画」するこ...

 改善活動

 

1. 荷役安全と運輸安全マネジメント

物流は特に安全上の注意が必要な業務ですが、どんな仕事であれ安全第一であることは間違いありません。今回は、物流安全について考えてみたいと思います。まず労災保険率(令和3年度)について確認していきましょう。特に物流に関係する業種とその保険率は以下の通りとなります。

物流に関係する業種とその保険率】(単位は1/1000)

  • 交通運輸事業    : 4
  • 貨物取扱事業    : 9
  • 港湾貨物取扱事業  : 9
  • 港湾荷役業     : 13
  • 倉庫業       : 6.5

 

この保険率が大きければ大きいほど危険な仕事だと考えられます。物流関係業種を挙げましたが飛び抜けて大きいわけではありません。かといって極めて低い部分に入るかといえばそうでもありません。特に荷役作業については事故が発生しやすく、公道を運送する時も他者との事故のリスクがあります。

 

この内後者の運送におけるリスクについては国土交通省主導の『運輸安全マネジメント』という取組があります。

 

また構内荷役やフォークリフトの安全につきましては労働安全衛生法の適用を受け、厚生労働省が管轄省庁ということになります。まず『安全運輸マネジメント』について確認していきましょう。以下に国土交通省が記している本制度の趣旨を引用します。

 

『安全運輸マネジメント』本制度の趣旨:国土交通省からの引用

『本制度では、事業者においては、自らが自主的かつ積極的に輸送の安全の取組みを推進し、構築した安全管理体制をPDCAサイクル※により継続的に改善し、安全性の向上を図ることが求められています。(※ Plan Do Check Act(計画の策定、実行、チェック、改善)のサイクル)
また、国土交通省においては、事業者の安全管理体制の実施状況を確認する運輸安全マネジメント評価を行うこととされ、本評価では、国土交通省の評価担当者による経営トップ及び安全統括管理者等の経営管理部門へのインタビューと文書・記録類の確認を通じ、事業者が構築した安全管理体制の更なる向上に資するため、創意工夫がなされている事項、熱心に取り組んでいる事項、優れている事項等について評価を行うとともに、継続的に取り組む必要があると思われる事項、工夫の余地のある事項、更に推進すると効果が向上すると思われる事項等について助言を行います。』

 

上記で引用の『安全運輸マネジメント』制度では経営トップによる積極的な取組が求められています。つまり活動は部下に丸投げということは許されず、経営トップの参画が重視されるという点で注意が必要です。

 

 

2. ヒヤリハットメモの活用

運輸安全マネジメントは主として運送上の安全について規定していますが、常日頃のドライバー教育についても重視されています。ドライバーの過労や過積載は事故につながる可能性が高いため特に重視されています。ドライバーを一堂に集めることは難しいかもしれませんが、何回かに分けてでも実施しなければなりません。

 

ドライバーからヒヤリハットメモを提出してもらうことも社内で定着させましょう。なかなかメモを提出してもらえないことも考えられます。しかし会社員である以上会社の指示に従わないということはあり得ないことではないでしょうか。メモを定期的に提出してくれた場合に報奨を出すことも含め、この制度は必ず実行していきましょう。

 

物流現場ではフォークリフトの荷扱い時の事故が多いようです。そこでフォークリフトの荷扱い時のルールを明確に定める必要があります。フォーク(爪の部分)を人にぶつけてしまうと重大事故につながります。これを考慮し、フォーク走行は原則としてバック走行とする。また前進走行をせざるを得ない場合はパレットをフォークに載せ、フォークをむき出しにして走らせないような工夫も必要でしょう。

 

荷崩れしやすい段積みも要注意です。安定感の悪い荷物を高く積み上げると何かの際に荷崩れを起こす可能性があります。したがいまして段積み時の高さ制限を一律に定めるとともに、特に安定感の悪い貨物については2段までとするといった柔軟な対応も望まれます。

 

倉庫内作業でもヒヤリハットメモを出してもらうルールを決めましょう。高所からのものの落下、フォークリフトと人の干渉、扱い物の危険度など作業者の経験値は重要です。発火の恐れのあるもの、爆発の可能性があるもの、有害ガスを発生させる可能性があるものなど貨物自体の特性による個別管理も大切になって来るでしょう。できれば社内に安全管理を専任で行う人を設け、その人に各物流現場を見て回ってもらうことも有効かもしれません。

 

安全はすべてに優先しますからとにかく愚直に続け、ちょっとしたことも見逃さないような態度で管理していくことが望ましいと思います。

 
 SCM

 

3. 5S活動は安全の基本

物流現場は製造現場に比べて5Sはあまり進んでいません。しかし物流は5Sができて初めてまともな仕事ができると言っても過言ではありません。物流安全のために明らかに効果がある活動が5S活動です。5Sはほぼ万能ともいえる活動ですから徹底して実行することでいろいろな効果が期待できます。そんな中でも特に安全に効果が大きいので一緒に考えていきたいと思います。

 

物流現場は製造現場に比べて5Sはあまり進んでいません。しかし物流は5Sができて初めてまともな仕事ができると言っても過言ではありません。倉庫内作業を見ていると床にものが直置きされており、人が歩くときに危険である状況を目にすることがあります。

 

直置きするなとは言いませんが、そうする場合には「置き場を定め」「そこを明確に区画」することが大切です。通路はものの置場ではありません。保管場は保管場として他のエリアと区分しなければなりません。つまり倉庫の使い方がポイントなのです。

 

この場所ではものを保管する。ここはピッキングを行うための通路なのでものは置かない。フォークリフトが新入できるのはこのエリア。といったように使い方を明らかに区分することです。

 

先にも記しましたがフォークリフトは非常に危険な機械です。物流では当然のようにフォークリフトを使っていますができれば使いたくないのがフォークリフトです。製造会社ではフォークリフトを使わない工場づくりが進んでいます。つまり高いところにものを置くことを無くす、荷姿は手でハンドリングできる大きさにするなどといった工夫をしていくことでフォークリフトを無くしていっているのです。

 

物流現場では保管効率を向上するためにフォークリフトは使わざるを得ない状況にあることが多いため、少なくともフォークリフトが動けるエリアを限定することが必要ではないでしょうか。保管効率を向上させるために移動棚を導入している倉庫もあると思います。移動棚とは棚自体が移動し、特定の棚間だけに通路ができるしくみになっています。

 

もしかしたら皆さんはこういったタイプの書庫をご覧になったことがあるかもしれません。移動時に人がはさまれて負傷するようなことが発生しないように安全装置を含めた検討が必要です。自動倉庫についても同様です。機械には必ず危険が伴います。それを安全装置や安全ルールで克服する必要があるのです。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

いかがでしょうか。物流現場に存在する危険を除去するとともに隠れた危険に対処するために社内でルールを定め、それを守っていく風土を醸成していくことが大切です。安全はすべてに優先します。危険を感じたらそこで仕事を止める勇気を持つことが必要です。ものを落として壊してしまうことを恐れ危険な動作をしてしまうことはありませんか?常に物流現場では安全第一を心がけましょう。

 

 

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この記事の著者

仙石 惠一

物流改革請負人の仙石惠一です。日本屈指の自動車サプライチェーン構築に長年に亘って携わって参りました。サプライチェーン効率化、物流管理技術導入、生産・物流人材育成ならばお任せ下さい!

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