海外進出時の物流留意点とは

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サプライチェーンマネジメント

 

1. 日本はレアな環境での物流業務

今や大企業に限らず、中小企業も海外進出が当たり前の時代となりました。人財の層が厚くない中小企業では誰が何をやったらよいのか、迷いどころかもしれません。ましてや物流という領域は企業内でもあまり手を付けられていない分野でもありますから尚更です。そこで、海外進出時の物流上の留意点について確認しておきたいと思います。

 

日本の物流はこの狭い国土の中で行われますから、まず私たちの頭の中にある物流像を一度ゼロクリアして考えてみることも必要です。なぜなら、私たちの物流の常識は海外では非常識でもあるからです。多くの海外の国々で行う物流は日本より過酷です。安易に日本と同じ考え方で海外に出ていくとやけどをする可能性がありますから注意が必要です。

 

輸送一つを取ってみても、ここまで道路が完備されており、グローバル的にみるとほとんどが「短距離輸送」ですから、こんなにやりやすい環境はないといえるでしょう。

 

倉庫管理でも同様です。皆さんが実際に倉庫業務を行っている過程で、どれだけものが紛失しますでしょうか。従業員について退社時に持ち物検査を行っているでしょうか。多分そんなことは実施していないと思います。日本という国は性善説で成り立っているからです。物流現場も例外ではありません。従業員が会社の物品を持ち出すなど想定していないのではないでしょうか。

 

しかし海外で物流倉庫オペレーションを行うに当たっては、盗難があることを前提に仕事の設計を行う必要があります。つまり私たちは世界的に見てもレアな環境で物流業務を行っていると考えた方がよさそうです。自分たちの常識は世界では通用しないと割り切った方がよいのです。

 

よく笑い話にされますが、海外で「ウイングタイプのトラック」を前提に物流設計したものの、ウイングトラックそのものが調達できないという事実があります。日本ではごく当たり前に使われているアルミウイング車は日本だからこそ使えると考えるべきです。なぜなら、そのようなトラックを置いておいたらサイドを破られて中身を盗まれてしまうからです。

 

ウイングトラック前提で設計された物流ヤードにはドックが設置されていません。つまりトラックの高さにあったプラットフォームが無いために、ものの出し入れに大変苦労するわけです。このオペレーションはその物流ヤードが改善されない限り、延々と続くことになります。日本人の「非常識」が招いた不幸だと考えざるを得ないのです。

サプライチェーンマネジメント

 

2. 海外物流業務の人的資源マネジメント

日本では作業の概略は説明するものの、作業手順や作業速度などは作業者任せにしているところが多いようです。海外で物流業務を行う際の人的資源マネジメントは、国内とは大きな違いがあります。

 

物流は比較的初心者でもやりやすい仕事であるという理由と、管理者のマネジメント力不足の理由からそうなっていると考えられるのです。前者の理由はものづくりに比べて作業が比較的単純であり、誰でもできる仕事が多いことに起因します。たとえばピッキング作業であれば、オーダーシートを見てその品物を取り出すという仕事です。特殊な技術を必要としません。

 

後者の理由は物流が人財が育っていない業種であることがその根本にあります。本来であれば仕事を標準化し、それを部下に教え込む必要があるのですが、そのプロセスさえできない人が管理者になっているという事実があります。

 

しかし、これは日本だから成立していることと考えるべきです。なぜなら、日本以外の国は大方契約社会だからです。従業員といえども、会社との間にある種の契約が成り立っているのです。その例を考えてみましょう。ピッキング作業であれば、作業のやり方を定義し、その通りにやってもらうことが従業員との間の契約ということになります。もしここで作業手順や品質のポイント、作業速度などを規定していなかったらどのようなことが起きるでしょうか。

 

商品に傷がついたり、納期に作業が間に合わなかったりする可能性があります。最悪、顧客へのデリバリーに支障をきたすことも出てくるかもしれません。この時に日本の常識で従業員を叱るとどうなるでしょうか。従業員にしてみれば指示されていないことで叱られている、これは理不尽だと感じることでしょう。

 

この例の場合、日本と同様に作業者任せにした管理者の責任だと考えるべきだと思います。海外の場合、任せれば「思った通りに動いてくれる」ということはあり得ません。人のマネジメントに苦労する日本人支援者がいますが、まずはその支援者を教育する必要があると思います。やはり最低限、仕事の基準と手順を定め、その通りに動いてもらうようにトレーニングすることが海外では必要になってくるのです。

サプライチェーンマネジメント

 

3. 海外物流、日本との条件差

海外で物流を企画する際には日本との条件差を十分考慮する必要があります。輸送を考慮すると、距離の違いが最大の差となります。

 

日本と現地との間の輸送や、第三国間での輸送、現地の内陸輸送など、いずれを取っても長距離輸送になります。そうなると物流コスト面で大きな負担となるとともに、品質についても長距離輸送に適したものにする必要があります。ここで特に手を付けるべきは荷姿です。いかに効率の良いパッケージを作るかが品質とコストを大きく左右するのです。そこで海外物流を検討する際には荷姿技術をよく理解した人をアサインすることが重要になってくるのです。

 

次に物流インフラの話に触れておきましょう。海外では物流インフラがあまり発達していないところがあります。物流インフラとは港湾や空港、道路や物流倉庫などを指します。

 

これらのインフラが現時点でどこまで整備されているのか、さらに将来的には新たにどこまで整備される計画があるのか、これらについて調べておく必要があります。もしか...

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1. 日本はレアな環境での物流業務

今や大企業に限らず、中小企業も海外進出が当たり前の時代となりました。人財の層が厚くない中小企業では誰が何をやったらよいのか、迷いどころかもしれません。ましてや物流という領域は企業内でもあまり手を付けられていない分野でもありますから尚更です。そこで、海外進出時の物流上の留意点について確認しておきたいと思います。

 

日本の物流はこの狭い国土の中で行われますから、まず私たちの頭の中にある物流像を一度ゼロクリアして考えてみることも必要です。なぜなら、私たちの物流の常識は海外では非常識でもあるからです。多くの海外の国々で行う物流は日本より過酷です。安易に日本と同じ考え方で海外に出ていくとやけどをする可能性がありますから注意が必要です。

 

輸送一つを取ってみても、ここまで道路が完備されており、グローバル的にみるとほとんどが「短距離輸送」ですから、こんなにやりやすい環境はないといえるでしょう。

 

倉庫管理でも同様です。皆さんが実際に倉庫業務を行っている過程で、どれだけものが紛失しますでしょうか。従業員について退社時に持ち物検査を行っているでしょうか。多分そんなことは実施していないと思います。日本という国は性善説で成り立っているからです。物流現場も例外ではありません。従業員が会社の物品を持ち出すなど想定していないのではないでしょうか。

 

しかし海外で物流倉庫オペレーションを行うに当たっては、盗難があることを前提に仕事の設計を行う必要があります。つまり私たちは世界的に見てもレアな環境で物流業務を行っていると考えた方がよさそうです。自分たちの常識は世界では通用しないと割り切った方がよいのです。

 

よく笑い話にされますが、海外で「ウイングタイプのトラック」を前提に物流設計したものの、ウイングトラックそのものが調達できないという事実があります。日本ではごく当たり前に使われているアルミウイング車は日本だからこそ使えると考えるべきです。なぜなら、そのようなトラックを置いておいたらサイドを破られて中身を盗まれてしまうからです。

 

ウイングトラック前提で設計された物流ヤードにはドックが設置されていません。つまりトラックの高さにあったプラットフォームが無いために、ものの出し入れに大変苦労するわけです。このオペレーションはその物流ヤードが改善されない限り、延々と続くことになります。日本人の「非常識」が招いた不幸だと考えざるを得ないのです。

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2. 海外物流業務の人的資源マネジメント

日本では作業の概略は説明するものの、作業手順や作業速度などは作業者任せにしているところが多いようです。海外で物流業務を行う際の人的資源マネジメントは、国内とは大きな違いがあります。

 

物流は比較的初心者でもやりやすい仕事であるという理由と、管理者のマネジメント力不足の理由からそうなっていると考えられるのです。前者の理由はものづくりに比べて作業が比較的単純であり、誰でもできる仕事が多いことに起因します。たとえばピッキング作業であれば、オーダーシートを見てその品物を取り出すという仕事です。特殊な技術を必要としません。

 

後者の理由は物流が人財が育っていない業種であることがその根本にあります。本来であれば仕事を標準化し、それを部下に教え込む必要があるのですが、そのプロセスさえできない人が管理者になっているという事実があります。

 

しかし、これは日本だから成立していることと考えるべきです。なぜなら、日本以外の国は大方契約社会だからです。従業員といえども、会社との間にある種の契約が成り立っているのです。その例を考えてみましょう。ピッキング作業であれば、作業のやり方を定義し、その通りにやってもらうことが従業員との間の契約ということになります。もしここで作業手順や品質のポイント、作業速度などを規定していなかったらどのようなことが起きるでしょうか。

 

商品に傷がついたり、納期に作業が間に合わなかったりする可能性があります。最悪、顧客へのデリバリーに支障をきたすことも出てくるかもしれません。この時に日本の常識で従業員を叱るとどうなるでしょうか。従業員にしてみれば指示されていないことで叱られている、これは理不尽だと感じることでしょう。

 

この例の場合、日本と同様に作業者任せにした管理者の責任だと考えるべきだと思います。海外の場合、任せれば「思った通りに動いてくれる」ということはあり得ません。人のマネジメントに苦労する日本人支援者がいますが、まずはその支援者を教育する必要があると思います。やはり最低限、仕事の基準と手順を定め、その通りに動いてもらうようにトレーニングすることが海外では必要になってくるのです。

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3. 海外物流、日本との条件差

海外で物流を企画する際には日本との条件差を十分考慮する必要があります。輸送を考慮すると、距離の違いが最大の差となります。

 

日本と現地との間の輸送や、第三国間での輸送、現地の内陸輸送など、いずれを取っても長距離輸送になります。そうなると物流コスト面で大きな負担となるとともに、品質についても長距離輸送に適したものにする必要があります。ここで特に手を付けるべきは荷姿です。いかに効率の良いパッケージを作るかが品質とコストを大きく左右するのです。そこで海外物流を検討する際には荷姿技術をよく理解した人をアサインすることが重要になってくるのです。

 

次に物流インフラの話に触れておきましょう。海外では物流インフラがあまり発達していないところがあります。物流インフラとは港湾や空港、道路や物流倉庫などを指します。

 

これらのインフラが現時点でどこまで整備されているのか、さらに将来的には新たにどこまで整備される計画があるのか、これらについて調べておく必要があります。もしかしたらこの物流インフラの整備状況によって新工場の建設地が変更になることもあるかもしれません。

 

人財の採用のしやすさも重要ポイントです。地域によって人の採用は大きく変わってきます。一定の人数を確保できる見通しはあるのか、その地域の人件費のレベルはどうなのか、特に労働集約型の物流にあっては慎重に見定めるべき情報だと思います。

 

少々細かい話にはなりますが、物流機器の調達についても考えておくとよいかもしれません。例えば容器について。鉄製容器や樹脂製容器を日本ではよく使っていると思います。製品品質を考慮した時に、こういったツールは日本と同じものを使いたくなると思います。

 

こういった容器類が現地で調達できるのかどうか。そしてその製品特有の専用容器を製作できるメーカーは存在するのかどうか。もしかしたら日本から輸入しなければならないことも出てくるかもしれません。これに意外と手間取ることも予想されます。

 

このように、海外物流を検討する際には重要なのに意外と盲点になる点があるかもしれません。今日本で行っている物流に関し、現地ではどのような形態が考えられるかじっくりと考えてみる必要がありそうです。

 

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この記事の著者

仙石 惠一

物流改革請負人の仙石惠一です。日本屈指の自動車サプライチェーン構築に長年に亘って携わって参りました。サプライチェーン効率化、物流管理技術導入、生産・物流人材育成ならばお任せ下さい!

物流改革請負人の仙石惠一です。日本屈指の自動車サプライチェーン構築に長年に亘って携わって参りました。サプライチェーン効率化、物流管理技術導入、生産・物流人...


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