付加価値のある物流とは

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1.生産パフォーマンスと物流のサービス度

メーカーではものづくりが主体のため、あまり物流には目が向いていないように感じます。しかし、もしメーカーで物流を改善すれば、大きく生産効率が向上することがあるのです。工場において生産活動と物流活動はあえて切り離して考える必要はないのではないでしょうか。大きな会社になればなるほど、生産は製造課が行い、物流は物流課が実施するといった組織の分割が行われています。

 

ものづくりの過程で発生する物流はあくまでも生産の一部ととらえ、製造課の中に物流を担当する人を入れてくと良いと思います。ここを分断させてしまうと物流の面倒を見てくれる人がいなくなり、一気に物流が弱体化する可能性があるからです。

 

一つ例を挙げると技能向上の課題があります。製造課ではものづくりの基本技能を確立するとともに、それをしっかりと後輩に伝授していく仕組みが構築されますが、物流については自分たちの業務ではないと認識した途端に、この技能向上のループから外されてしまいます。例えば工程間運搬や保管、出庫作業などの物流基本技能についても、工場の中できちんと体系立てた技能向上の対象とされなくなる可能性があります。結果的に物流作業を行う人たちだけで、自己流の技能向上がなされていきます。まだ意識して取り組まれている場合は良いのですが、技能向上すら行われなくなってしまうこともあり得るのです。


同じ工場で、同じ建屋の中にいるのに片や製造はきっちりと人財育成が行われている一方で、物流は誰からも育成されることが無いまま現状に至っている可能性があるのです。もし工場管理者の意識の中に「物流は直接作業ではない」という考えがあるとしたら、それは大きな損をしている可能性があります。


物流は生産工程に部品を届けますが、この届け方次第で生産効率が何十パーセントも差がつくことをご存知でしょうか。ある工場ではサプライヤーから納入された荷姿のままラインサイドに置いてくるだけ。一方別工場ではきちんと生産作業者の手元まで、生産順で部品だけを納入容器から取り出して渡してあげる。この違いははっきり言って大変大きな差となります。前者の場合は部品を取るために歩行が発生したり、今使う部品を取る際に迷いが発生したりします。後者ではそのようなロスはないのです。物流のサービス度合いの違いで、生産工程はパフォーマンスがよかったり悪かったりするのです。まずはこの点に気づいていただきたいのです。

 

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2.物流で実行すること

製造業の経営者や管理者は生産活動には興味を持つものの、物流には無関心であるとよく言われます。物流について学生時代にきっちりと勉強したことがある人は皆無かもしれません。一方でものづくりに関してはさまざまな技術が工学として学ぶ機会が与えられています。


技能検定の分野でも加工技術やプレス技術などの資格はしっかりと確立されていますが、物流に関する技能検定は存在しません。この現象は製造業だからということではなく、日本全体の構造的な問題であると言えそうです。欧米では技術として認められているロジスティクスですが、日本では物流学科は数えるほどしか存在しないのです。このような物流を取り巻く環境や、その生い立ちで物流が進化する過程をたどるには道が険しいと思わざるを得ないのです。


ただし、環境や生い立ちのせいにしているだけでは何も進みません。もし今、会社の中で物流の地位が低いのであれば、自分たちに起因する要因を探ってみる必要がありそうです。たとえば生産工程には標準作業書が整備されているものの、物流工程にはそれが無い。生産工程には標準時間が設定されていても、物流工程では設定されていない。このような状況があったとしましょう。たしかにこのような状況が多くの会社で存在しています。これは何を示しているのでしょうか。それはずばり「物流の努力不足」に他なりません。なぜ生産でできていることが物流でできないのでしょうか。


物流は仕事の波動が大きいから標準化はできないとか、定型的な作業が少ないので標準時間設定には向かない、といったもっともらしい言い訳をする物流管理者がいます。もしそのような考え方であれば、いつまでたっても物流の地位が向上しないことは目に見えています。なぜなら自ら努力をしようという意思がないからです。まずは必要であるといわれる項目について、生産と同じことをしない限りスタートラインには立てないと考えるべきです。もしその意思が無いのであれば、いつまでたっても生産の下請作業の域を脱することはできないでしょう。


生産工程が長年かけて築き上げてきたことと同じことを物流でも実行する必要があります。誰がやるのでしょうか。それは物流に携わる人が自ら行うしかないのです。努力不足の物流からの脱却が第一歩なのです。

 

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3.物流の付加価値

物流が生産と同じラインに立てたとしたら、そこからは物流のステータスを向上するために、そして会社をよくするために貢献していかなければなりません。工場の物流は実は「付加価値のある物流」を実行できる立場にあります。その付加価値のある物流について確認していきましょう。


ここでいうところの付加価値とは「生産管理」のことを指します。物流が生産管理?と疑問に思うかもしれませんが、間違いありません。物流がやるべきことは生産管理なのです。物流はものを運ぶことが仕事であり目的であると思われている方が大半かと思います。もちろん全くこの考え方が間違っているわけではありません。工場の中の物流は生産工程に部品や完成品を入れる出荷用の容器を運びます。この作業のことを供給と呼びます。しかしこれはあくまでも手段であって目的ではありません。では物流の目的とは何でしょうか。それは部品や容器を運ぶことを通して生産統制を行うことです。生産現場では本来であれば生産計画通りのものづくりを行います。この生産計画とは決められた時間内で、決められた数の生産を行うことです。実際にはこの計画に対して実際には「遅れ進み」が発生しています。場合によっては計画を無視して、勝手に生産順番や生産量を変更したりするケースも見...

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1.生産パフォーマンスと物流のサービス度

メーカーではものづくりが主体のため、あまり物流には目が向いていないように感じます。しかし、もしメーカーで物流を改善すれば、大きく生産効率が向上することがあるのです。工場において生産活動と物流活動はあえて切り離して考える必要はないのではないでしょうか。大きな会社になればなるほど、生産は製造課が行い、物流は物流課が実施するといった組織の分割が行われています。

 

ものづくりの過程で発生する物流はあくまでも生産の一部ととらえ、製造課の中に物流を担当する人を入れてくと良いと思います。ここを分断させてしまうと物流の面倒を見てくれる人がいなくなり、一気に物流が弱体化する可能性があるからです。

 

一つ例を挙げると技能向上の課題があります。製造課ではものづくりの基本技能を確立するとともに、それをしっかりと後輩に伝授していく仕組みが構築されますが、物流については自分たちの業務ではないと認識した途端に、この技能向上のループから外されてしまいます。例えば工程間運搬や保管、出庫作業などの物流基本技能についても、工場の中できちんと体系立てた技能向上の対象とされなくなる可能性があります。結果的に物流作業を行う人たちだけで、自己流の技能向上がなされていきます。まだ意識して取り組まれている場合は良いのですが、技能向上すら行われなくなってしまうこともあり得るのです。


同じ工場で、同じ建屋の中にいるのに片や製造はきっちりと人財育成が行われている一方で、物流は誰からも育成されることが無いまま現状に至っている可能性があるのです。もし工場管理者の意識の中に「物流は直接作業ではない」という考えがあるとしたら、それは大きな損をしている可能性があります。


物流は生産工程に部品を届けますが、この届け方次第で生産効率が何十パーセントも差がつくことをご存知でしょうか。ある工場ではサプライヤーから納入された荷姿のままラインサイドに置いてくるだけ。一方別工場ではきちんと生産作業者の手元まで、生産順で部品だけを納入容器から取り出して渡してあげる。この違いははっきり言って大変大きな差となります。前者の場合は部品を取るために歩行が発生したり、今使う部品を取る際に迷いが発生したりします。後者ではそのようなロスはないのです。物流のサービス度合いの違いで、生産工程はパフォーマンスがよかったり悪かったりするのです。まずはこの点に気づいていただきたいのです。

 

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2.物流で実行すること

製造業の経営者や管理者は生産活動には興味を持つものの、物流には無関心であるとよく言われます。物流について学生時代にきっちりと勉強したことがある人は皆無かもしれません。一方でものづくりに関してはさまざまな技術が工学として学ぶ機会が与えられています。


技能検定の分野でも加工技術やプレス技術などの資格はしっかりと確立されていますが、物流に関する技能検定は存在しません。この現象は製造業だからということではなく、日本全体の構造的な問題であると言えそうです。欧米では技術として認められているロジスティクスですが、日本では物流学科は数えるほどしか存在しないのです。このような物流を取り巻く環境や、その生い立ちで物流が進化する過程をたどるには道が険しいと思わざるを得ないのです。


ただし、環境や生い立ちのせいにしているだけでは何も進みません。もし今、会社の中で物流の地位が低いのであれば、自分たちに起因する要因を探ってみる必要がありそうです。たとえば生産工程には標準作業書が整備されているものの、物流工程にはそれが無い。生産工程には標準時間が設定されていても、物流工程では設定されていない。このような状況があったとしましょう。たしかにこのような状況が多くの会社で存在しています。これは何を示しているのでしょうか。それはずばり「物流の努力不足」に他なりません。なぜ生産でできていることが物流でできないのでしょうか。


物流は仕事の波動が大きいから標準化はできないとか、定型的な作業が少ないので標準時間設定には向かない、といったもっともらしい言い訳をする物流管理者がいます。もしそのような考え方であれば、いつまでたっても物流の地位が向上しないことは目に見えています。なぜなら自ら努力をしようという意思がないからです。まずは必要であるといわれる項目について、生産と同じことをしない限りスタートラインには立てないと考えるべきです。もしその意思が無いのであれば、いつまでたっても生産の下請作業の域を脱することはできないでしょう。


生産工程が長年かけて築き上げてきたことと同じことを物流でも実行する必要があります。誰がやるのでしょうか。それは物流に携わる人が自ら行うしかないのです。努力不足の物流からの脱却が第一歩なのです。

 

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3.物流の付加価値

物流が生産と同じラインに立てたとしたら、そこからは物流のステータスを向上するために、そして会社をよくするために貢献していかなければなりません。工場の物流は実は「付加価値のある物流」を実行できる立場にあります。その付加価値のある物流について確認していきましょう。


ここでいうところの付加価値とは「生産管理」のことを指します。物流が生産管理?と疑問に思うかもしれませんが、間違いありません。物流がやるべきことは生産管理なのです。物流はものを運ぶことが仕事であり目的であると思われている方が大半かと思います。もちろん全くこの考え方が間違っているわけではありません。工場の中の物流は生産工程に部品や完成品を入れる出荷用の容器を運びます。この作業のことを供給と呼びます。しかしこれはあくまでも手段であって目的ではありません。では物流の目的とは何でしょうか。それは部品や容器を運ぶことを通して生産統制を行うことです。生産現場では本来であれば生産計画通りのものづくりを行います。この生産計画とは決められた時間内で、決められた数の生産を行うことです。実際にはこの計画に対して実際には「遅れ進み」が発生しています。場合によっては計画を無視して、勝手に生産順番や生産量を変更したりするケースも見受けられます。


このような生産現場による勝手な行動を阻止し、計画通りの生産を実行させる役割が物流に課されているのです。物流は生産工程に「生産計画の数だけ」部品を届けます。そしてその数に見合った数の出荷容器を届けます。これによって、生産現場の勝手な行動ができなくなるのです。


時々見受けられる問題として、生産過程で部品を壊してしまうことがあります。これを適正に処理すれば在庫差異にはつながりませんが、壊したことをとがめられるのを恐れて壊れた部品を隠し、在庫処理を行わないことがあります。このような問題も、物流が生産きっかりの部品を届けることで避けることができます。もし部品を壊してしまったのであれば、生産工程から不足分を物流倉庫まで取りに来てもらうとともに、きちんと在庫処理を行うのです。


また、完成品についても出荷時刻に合わせて物流が生産現場に引き取りに行きます。これによって生産現場が遅れ進みなく、生産運営できるように徐々に改善が進むと思われます。

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いかがでしょうか。工場運営に大変プラスに働く付加価値のある物流についてご理解いただけたのではないでしょうか。ぜひ今一度「生産と物流の関り」を振り返り、物流として何をなすべきかについて考えていただきたいと思います。

 

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この記事の著者

仙石 惠一

物流改革請負人の仙石惠一です。日本屈指の自動車サプライチェーン構築に長年に亘って携わって参りました。サプライチェーン効率化、物流管理技術導入、生産・物流人材育成ならばお任せ下さい!

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