「USIT」とは、キーワードからわかりやすく解説
1. 「USIT」とは
USITとは、Unified Structured Inventive Thinking(統合的構造化発明思考法)の頭文字であり、体系的なアイデア発想法です。 同じ発想法のTRIZは、つぎはぎで考案されたためにその体系が分かりにくいという反省に立ち、発明考案の手順を明確にしたものです。 TRIZの始祖アルトシュラ―の弟子が80年代にイスラエルで考案し、90年代に米国フォード社のシカフスが改良し、2000年以降世界に広まりました。 大きく1)問題定義、 2)問題分析、 3)解決アイデア出しの3ステップから構成されます。
TRIZは、企業の技術者・研究者にとって必須アイテムであり、必ず身に付けておくことが必要であるとは言っても、学ぶためだけに長時間を費やすことは非常に困難と言うより殆ど無理な注文というものです。TRIZを学ぶために長時間をかけず、また誰にでも容易に実行できるようにするにはどうしたらよいか。それは「USIT(ユーシット)」を用いることです。
2. 「USIT」の特徴
システム記述の概念が簡単・明快 で、「モノ(構成因子)」「性質」「機能」の概念でシステムを考えます。複数のコンセプトを迅速に生成します。そのために、問題分析の明確なプロセスを持ちます。
(1)問題分析の手順
・課題定義
- モノ(構成因子)/性質/機能 による分析
- 理想モデルによる分析
- 時間・空間の特性分析
ここから問題を考え課題達成に必要な「キーワード」を得ます。
(2)問題解決技法を大幅に簡略化
・3種類の技法+体系化+組み合わせ
このために「アイデア発想の視点」が用意されています。又、ソフトツールを使わないでも問題解決ができ、技術者が容易に学習・記憶できる技法です。
3. 「USIT」の核心、キーワード駆動型の思考プロセス
USITが「キーワード」を重視するのは、問題解決への道筋を、誰もが理解しやすく、再現性の高い明確なステップで踏破するためです。問題分析の過程で得られた「キーワード」は、単なる単語の羅列ではなく、システムの「モノ」「性質」「機能」の相互作用の中で、課題の核心を突く「矛盾」や「理想状態とのギャップ」を凝縮したものです。
【問題分析からキーワードの抽出へ】
USITにおける問題分析は、まず対象システムを「モノ(構成因子)」、それらが持つ「性質」、そしてそれらが行う「機能」という三つの単純明快な概念で記述し、現状を正確に把握することから始まります。
【システム記述と要因分析】
モノ(構成因子): システムを構成する要素(例:部品、材料、環境など)をリストアップします。
性質: 各モノが持つ特徴や属性(例:硬さ、温度、色、形状など)を特定します。
機能: モノとモノの間、またはモノと外部との間でどのような作用があるか(例:保持する、加熱する、伝達する、変形させるなど)を洗い出します。
【理想モデルによる分析】
「もし理想的なシステムならば、この問題はどのように解決されるか?」を問いかけ、理想状態と現状との間に存在する「ギャップ」を浮き彫りにします。理想状態の記述は、問題解決の「目指すべきゴール」を明確にし、解決策の方向性を示唆します。
【時間・空間の特性分析】
問題が発生する「時間的」な推移や「空間的」な配置・構造に注目し、特定の時間・場所でのみ問題が発生する要因を深掘りします。これにより、問題の「制約条件」や「トリガー」を特定できます。
これらの分析を通じて、システムの機能不全、望ましくない作用、理想状態との乖離といった問題の核心を表す「重要な単語やフレーズ」が自然と抽出されます。これらが「キーワード」となり、後のアイデア発想フェーズの「トリガー」として機能します。
4. 「USIT」のシンプルな解決技法、アイデア発想の視点
USITの大きな特徴は、TRIZで数百に及ぶ「発明原理」や「分離原理」などを、わずか3種類の基本的な解決技法に集約し、さらに「アイデア発想の視点」として体系化した点にあります。この簡略化により、技術者は複雑なルールを暗記することなく、本質的な発想の枠組みを迅速に適用できます。USITで用いられる3種類の基本技法は、問題解決の主要なアプローチをカバーしています。
【二つの方法による解決】
分離(Separation): 問題の要素や機能を時間的または空間的に分離し、問題が起きない状況を作り出す、または望ましい機能のみを発揮させることを考えます。
統合(Integration): 複数の要素を一つにまとめたり、機能を兼ね備えさせたりすることで、新たな解決策やシステムの簡素化を図ります。
【次元の変更による解決】
次元の変化: システムの「次元」(例:長さ、 面積、 体積、線面、 空間、静的 、動的、 時間変化)や「属性の次元」(例:連続、 離散、均質、 不均質)を変えることで、問題を回避したり、新たな作用を生み出したりする方法です。
【特性の変更による解決】
属性の変換: システムの「モノ」や「性質」を、それが持つ「キーワード」に関連付けて逆転、極端化、無効化、あるいは別の属性に置き換えることを試みます。例えば、「硬い」という性質を「柔らかい」に変えてみる、「動く」という機能を「止める」に変えてみるなど、対極的な視点を持つことで、現状の制約を打ち破るアイデアを導き出します。
【アイデア発想の視点とキーワードの組み合わせ】
これらの技法は、「アイデア発想の視点」という明確なチェックリストとして整理されています。技術者は、問題分析で抽出された「キーワード」(例:「摩擦」「熱」「振動」「不均一」など)を、これらの視点(例:分離、統合、次元変化、属性変換)と意図的に組み合わせることで、効率的かつ網羅的に解決アイデアを生成します。例えば、「熱を分離できないか?」(熱源と対象物を隔離する)、「振動を次元変化させて利用できないか?」(振動を上下方向だけでなく回転方向に変える)といった具体的な発想の連鎖が生まれます。
USITは、この「キーワードと発想視点の組み合わせ」を中核とすることで、個人のひらめきに頼らず、誰もが一定水準以上のアイデアを系統立てて生み出すことを可能にしています。これにより、TRIZの持つ強力な解決論理を、技術者が日常業務で無理なく適用できるツールとして完成させているのです。



