生産管理システム構築のポイント

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 『〇〇生産管理パッケージは最適な生産管理の実現を約束します』生産管理パッケージベンダの宣伝文句には、そのベンダの生産管理パッケージを導入しさえすれば、在庫、納期から原価まですぐに適切管理できるようなことが書いてあります。その宣伝文句を鵜呑みにして安易に生産管理パッケージを使って生産管理システムを構築してしまう工場が後を絶ちません。しかし、こうした安易なシステム導入で工場の経営効率を高めていくことはできません。そこで、生産管理システム構築のポイントをまとめました。
 

1.生産管理の理論を勉強する

 
 生産管理ステムの構築にあたっては、対象工場の製品、製造方法、特性にあった生産管理システムの開発検討をすべきということは誰もが指摘することです。
 
 そのためには構築プロジェクトを開始する前に関係者全員で基本的な生産管理理論を勉強することが大切です。勉強不足のままにシステム構築作業に入ると、何のために生産管理システムを構築するのか、生産管理システムの運用において現場が注意するべきことは何かといったことが曖昧になり、いつまでたってもシステムが完成しない、システム本番以後もトラブルが多発する、といったことにもなりかねません。
 
 また、生産管理の勉強をしっかりとしていればベンダのSEのスキルや業務知識を正しく見極めることができるようになります。最近はベンダのSEの力不足が顕著になってきていますのでこの点には注意が必要です。
 

2.アドオンはいいが、カスタマイズはしてはならない

 
 生産管理パッケージのベンダに提案依頼すると、不足した機能はカスタマイズで行う旨の提案をしてくることがよくあります。この提案には気をつけましょう。生産管理パッケージは生産管理理論に添った開発されているはずです。下手にカスタマイズをすると根幹部分の理論のつじつまが合わなくなる可能性があります。とくにデータ項目の変更追加などのデータベースの改造やロジックの変更が必要となるカスタマイズには注意しましょう。
 
 自社に合わないパッケージは躊躇せずに合わないと判断し、下手に改造しないで使わない決断をすることが重要です。自社にあうかあわないかどうかは少しでも生産管理の勉強をすればわかるはずです。この判断をベンダにさせてはいけません。
 

3.社内の意識統一ができないプロジェクトは失敗する

 
 生産管理ステムの構築においては現場要員のプロジェクト参画が必須事項です。そのため彼らの協力が得られないプロジェクトは最初から失敗する可能性が高くなります、ある意味「敵は社内にあり」といっても過言ではありません。
 
 生産管理システムを運用するのは現場要員です。現場要員がシステムに対して誤った情報やあいまいな情報をインプットするような状況では、せっかくのシステムも機能しません。現場には実績データのインプットを行うことが求められているのに、あとになって辻褄合わせ的なデータを入力してしまうといったことです。
 
 ただし、現場要員が故意に誤った情報をインプットすることは実際には少ないようです。一番問題なのは、よかれと思って行う行動が混乱を起こす要因となることです。代表的な行動に「サバを読む」という行為があります。
 
 次のような話です、本来の納期は5日後なのに、納期遅れがあるとまずいと心配した人があえて納期は4日後とインプットする。逆に本来のリードタイムは10日なのに、もしも何かあったらというリスクを考慮してリードタイムを12日と回答する。また、売れはじめたら欠品が起きないように手配数量をわざと増やす。
 
 また、サバ読みは、気が利くといわれている優秀な現場要員ほどよく行います。確かに人間同士の阿吽の呼吸で行なってきた現場では、こうしたサバ読みが作業をうまく回す秘訣になっていたこともありました。
 
 しかし、コンピュータの運用においては必ずしもいい状態ではありません。コンピュータで計算したり、指示したりした内容の精度が落ちる原因となるからです。もしもコンピュータから出てくるデータの精度に対して現場が少しでも疑問を持った場合、現場はその数字を信じなくなる可能性があります。サバ読み問題以外にも現場要員の意識が低いと次のような問題が起きやすくなります。
 
•先行手配部分の管理が軽視されやすく、過剰部品在庫や欠品問題が誘発されやすい
 
•顧客要求納期重視の裏で、作業改善や管理数字収集がおざなりにされやすい
 
•全体最適思考が機能せず、各人の経験に頼った業務管理となりやすい
 

4.マスタデータ、在庫データが整備されないとシステムは機能しない

 
 生産管理システムに限らず、システムの構築作業は予定時期には本番開始できない傾向があります。しかも期間だけが超過ならまだしも、開発期間延長によって開発費用も膨れ上げってしまうこともあります。その原因の一つがユーザ側の作業が遅延することです。代表的なユーザー側作業に、システム運用の基盤となるマスタデータの整備作業があります。
 
 生産管理システムでは、部品マスタの整備が最も大変な作業です。何万点もある部品の名称から購入先(製造工程)、単価、購入ロット数、リードタイムを本番運用開始時期までに準備することが求められます。マスタデータの整備を専任で行う要員がアサインできればいいのですが、現業と兼務状態の要員にこうした大量の作業を時間通りにこなしてもらおうとすると、大抵無理が生じます。現行システムからの単純移行であっても、データの内容に関するチェック作業は欠かせませ...
 『〇〇生産管理パッケージは最適な生産管理の実現を約束します』生産管理パッケージベンダの宣伝文句には、そのベンダの生産管理パッケージを導入しさえすれば、在庫、納期から原価まですぐに適切管理できるようなことが書いてあります。その宣伝文句を鵜呑みにして安易に生産管理パッケージを使って生産管理システムを構築してしまう工場が後を絶ちません。しかし、こうした安易なシステム導入で工場の経営効率を高めていくことはできません。そこで、生産管理システム構築のポイントをまとめました。
 

1.生産管理の理論を勉強する

 
 生産管理ステムの構築にあたっては、対象工場の製品、製造方法、特性にあった生産管理システムの開発検討をすべきということは誰もが指摘することです。
 
 そのためには構築プロジェクトを開始する前に関係者全員で基本的な生産管理理論を勉強することが大切です。勉強不足のままにシステム構築作業に入ると、何のために生産管理システムを構築するのか、生産管理システムの運用において現場が注意するべきことは何かといったことが曖昧になり、いつまでたってもシステムが完成しない、システム本番以後もトラブルが多発する、といったことにもなりかねません。
 
 また、生産管理の勉強をしっかりとしていればベンダのSEのスキルや業務知識を正しく見極めることができるようになります。最近はベンダのSEの力不足が顕著になってきていますのでこの点には注意が必要です。
 

2.アドオンはいいが、カスタマイズはしてはならない

 
 生産管理パッケージのベンダに提案依頼すると、不足した機能はカスタマイズで行う旨の提案をしてくることがよくあります。この提案には気をつけましょう。生産管理パッケージは生産管理理論に添った開発されているはずです。下手にカスタマイズをすると根幹部分の理論のつじつまが合わなくなる可能性があります。とくにデータ項目の変更追加などのデータベースの改造やロジックの変更が必要となるカスタマイズには注意しましょう。
 
 自社に合わないパッケージは躊躇せずに合わないと判断し、下手に改造しないで使わない決断をすることが重要です。自社にあうかあわないかどうかは少しでも生産管理の勉強をすればわかるはずです。この判断をベンダにさせてはいけません。
 

3.社内の意識統一ができないプロジェクトは失敗する

 
 生産管理ステムの構築においては現場要員のプロジェクト参画が必須事項です。そのため彼らの協力が得られないプロジェクトは最初から失敗する可能性が高くなります、ある意味「敵は社内にあり」といっても過言ではありません。
 
 生産管理システムを運用するのは現場要員です。現場要員がシステムに対して誤った情報やあいまいな情報をインプットするような状況では、せっかくのシステムも機能しません。現場には実績データのインプットを行うことが求められているのに、あとになって辻褄合わせ的なデータを入力してしまうといったことです。
 
 ただし、現場要員が故意に誤った情報をインプットすることは実際には少ないようです。一番問題なのは、よかれと思って行う行動が混乱を起こす要因となることです。代表的な行動に「サバを読む」という行為があります。
 
 次のような話です、本来の納期は5日後なのに、納期遅れがあるとまずいと心配した人があえて納期は4日後とインプットする。逆に本来のリードタイムは10日なのに、もしも何かあったらというリスクを考慮してリードタイムを12日と回答する。また、売れはじめたら欠品が起きないように手配数量をわざと増やす。
 
 また、サバ読みは、気が利くといわれている優秀な現場要員ほどよく行います。確かに人間同士の阿吽の呼吸で行なってきた現場では、こうしたサバ読みが作業をうまく回す秘訣になっていたこともありました。
 
 しかし、コンピュータの運用においては必ずしもいい状態ではありません。コンピュータで計算したり、指示したりした内容の精度が落ちる原因となるからです。もしもコンピュータから出てくるデータの精度に対して現場が少しでも疑問を持った場合、現場はその数字を信じなくなる可能性があります。サバ読み問題以外にも現場要員の意識が低いと次のような問題が起きやすくなります。
 
•先行手配部分の管理が軽視されやすく、過剰部品在庫や欠品問題が誘発されやすい
 
•顧客要求納期重視の裏で、作業改善や管理数字収集がおざなりにされやすい
 
•全体最適思考が機能せず、各人の経験に頼った業務管理となりやすい
 

4.マスタデータ、在庫データが整備されないとシステムは機能しない

 
 生産管理システムに限らず、システムの構築作業は予定時期には本番開始できない傾向があります。しかも期間だけが超過ならまだしも、開発期間延長によって開発費用も膨れ上げってしまうこともあります。その原因の一つがユーザ側の作業が遅延することです。代表的なユーザー側作業に、システム運用の基盤となるマスタデータの整備作業があります。
 
 生産管理システムでは、部品マスタの整備が最も大変な作業です。何万点もある部品の名称から購入先(製造工程)、単価、購入ロット数、リードタイムを本番運用開始時期までに準備することが求められます。マスタデータの整備を専任で行う要員がアサインできればいいのですが、現業と兼務状態の要員にこうした大量の作業を時間通りにこなしてもらおうとすると、大抵無理が生じます。現行システムからの単純移行であっても、データの内容に関するチェック作業は欠かせませんので、それなりの工数が必要になります。
 
 もうひとつ、マスタデータと並んで問題になるのが在庫データの精度です。この数字も間違っているとシステムはうまく機能しません。日頃の入荷、出荷作業をルール通りに行うことも大切ですが、現場作業員がいい加減な棚卸し作業をすると、生産管理システムから出るデータの信頼性が崩れてしまいます。
 

5.原価管理は慎重に検討する

 
 生産管理システムの構築に当たって、あわせて詳細な原価情報を収集して個別原価管理を強化しようとするケースがありますが、このシステムにはほ気を付けましょう。そもそも工場で詳細な製品原価管理をしなければならないというのは幻想です。
 
 本件に関しましては2016年3月に次の書籍を発刊しましたので、詳しくお知りになりたい方はお読みください。誰も教えてくれない「工場の損益の管理」に疑問 -そのカイゼン活動で儲けが出ていますか?- 本間峰一著、日刊工業新聞社
 
 

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この記事の著者

本間 峰一

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