ICDD、ハナワルト法:金属材料基礎講座(その140)

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ICDD、ハナワルト法:金属材料基礎講座(その140)

【目次】

    1. ICDD(国際回折データセンター)

    XRDの物質同定のためには基準となる材料の回折データが必要です。X線回折図形のデータはアメリカのICDD(International Center for Diffraction Data:国際回折データセンター)によってデータ収集され、データベース化しています。

     

    そのデータはPDF(Powder Diffraction File:粉末回折ファイル)と呼ばれます。PDFデータベース化は1930年代後半にダウ・ケミカルによってX線回折と相分析に関する論文が発表され、1941年にアメリカASTM(米国材料試験協会)の支援によって行われました。1969年に専門組織としてJCPDS(Joint Committee on Powder Diffraction Standard:粉末回折標準共同委員会)が設立され、1978年に国際的な参加を強調するために組織名がICDDとなりました。

     

    PDFファイルは以前はJCPDSカードと呼ばれていましたが、現在の名称はICDDカードです。ICDDカードには格子面間隔d、相対強度、ミラー指数hklなどの情報が含まれており、既知の物質については化学式、化合物名、鉱物名、構造式、結晶系、融点、密度などのデータや文献情報なども記載されています。データ登録数は数万件になり、年々更新されています。

     

    XRDは物質が結晶質であれば、無機物、有機物を問わずに分析できます。結晶質の物質は金属材料以外にも鉱物(酸化物や硫化物など)、有機物、腐食生成物など多岐に渡り、その適応範囲も広いです。

     

    2. ハナワルト法

    XRDによる未知物質の同定方法はハナワルト法と呼ばれます。ハナワルト法では、まず回折図形を面間隔dと相対強度にまとめます。面間隔dは回折角2θからブラッグの式によって計算します。最も相対強度の強いピーク強度を100として、他のピーク強度を計算します。最も強度の高いピークから3本を抜き取り、これを3強線と呼びます。多くの物質ではこの3強線によって回折図形を特徴づけているため、検索データの中から面間隔dと相対強度の照合を行います。3強線が一致したらその他のピークについても照合を行い、一般に8強線が一致すると未知物質は同定されたと判断できます。

     

    未知試料が単一試料ではなく混合物であれば、一つの未知試料の8強線が一致しても、同定されないピークがまだ残るはずです。この時は、残ったピークの中で最も強度の高いピークを100として、残りのピークの相対強度を再計算し、3強線の照合を行います。そして、全てのピークが一致したら同定は完了となります。

     

    ハナワルト法は、現在ではPCソフトにICDDカードのデータが設定されているので回折パターンをデータ比較できます。また回折図形は全く異なる物質でも似た回折図形になることがあります。そのため未知試料の検索を絞り込むために、あらかじめEDSなどで元素分析を行うと効率的です。これは回折図形の検索では、元素、合金、酸化物などの情報を設定することで検索範囲を絞り込めるためだからです。

     

    また、元素ABの2成分からなる化合物の場合、化学成分分析のように元素A、元素Bそれぞれの組成を求めるのではなく、「化合物ABがどのような結晶構造をしてい...

    ICDD、ハナワルト法:金属材料基礎講座(その140)

    【目次】

      1. ICDD(国際回折データセンター)

      XRDの物質同定のためには基準となる材料の回折データが必要です。X線回折図形のデータはアメリカのICDD(International Center for Diffraction Data:国際回折データセンター)によってデータ収集され、データベース化しています。

       

      そのデータはPDF(Powder Diffraction File:粉末回折ファイル)と呼ばれます。PDFデータベース化は1930年代後半にダウ・ケミカルによってX線回折と相分析に関する論文が発表され、1941年にアメリカASTM(米国材料試験協会)の支援によって行われました。1969年に専門組織としてJCPDS(Joint Committee on Powder Diffraction Standard:粉末回折標準共同委員会)が設立され、1978年に国際的な参加を強調するために組織名がICDDとなりました。

       

      PDFファイルは以前はJCPDSカードと呼ばれていましたが、現在の名称はICDDカードです。ICDDカードには格子面間隔d、相対強度、ミラー指数hklなどの情報が含まれており、既知の物質については化学式、化合物名、鉱物名、構造式、結晶系、融点、密度などのデータや文献情報なども記載されています。データ登録数は数万件になり、年々更新されています。

       

      XRDは物質が結晶質であれば、無機物、有機物を問わずに分析できます。結晶質の物質は金属材料以外にも鉱物(酸化物や硫化物など)、有機物、腐食生成物など多岐に渡り、その適応範囲も広いです。

       

      2. ハナワルト法

      XRDによる未知物質の同定方法はハナワルト法と呼ばれます。ハナワルト法では、まず回折図形を面間隔dと相対強度にまとめます。面間隔dは回折角2θからブラッグの式によって計算します。最も相対強度の強いピーク強度を100として、他のピーク強度を計算します。最も強度の高いピークから3本を抜き取り、これを3強線と呼びます。多くの物質ではこの3強線によって回折図形を特徴づけているため、検索データの中から面間隔dと相対強度の照合を行います。3強線が一致したらその他のピークについても照合を行い、一般に8強線が一致すると未知物質は同定されたと判断できます。

       

      未知試料が単一試料ではなく混合物であれば、一つの未知試料の8強線が一致しても、同定されないピークがまだ残るはずです。この時は、残ったピークの中で最も強度の高いピークを100として、残りのピークの相対強度を再計算し、3強線の照合を行います。そして、全てのピークが一致したら同定は完了となります。

       

      ハナワルト法は、現在ではPCソフトにICDDカードのデータが設定されているので回折パターンをデータ比較できます。また回折図形は全く異なる物質でも似た回折図形になることがあります。そのため未知試料の検索を絞り込むために、あらかじめEDSなどで元素分析を行うと効率的です。これは回折図形の検索では、元素、合金、酸化物などの情報を設定することで検索範囲を絞り込めるためだからです。

       

      また、元素ABの2成分からなる化合物の場合、化学成分分析のように元素A、元素Bそれぞれの組成を求めるのではなく、「化合物ABがどのような結晶構造をしているか」という化合物の状態を表します。これはEBSDの解析方法と似ています。EBSDでは同じ結晶構造で違う物質(例えば銅とアルミニウム)は区別できませんが、XRDは同じ面心立方構造の銅とアルミニウムを区別できます。

       

      次回に続きます。

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      この記事の著者

      福﨑 昌宏

      金属組織の分析屋 金属材料の疲労破壊や腐食など不具合を解決します。

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