建設業法の経営事項審査とは(その2)

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前回の(その1)に続けて、解説します。

6.経営事項審査の改善

該当した地域の特性や、決算時の状況で変わると思いますが、安定的に「総合評定値(P)」や「経営状況(Y)」を得ることができる「経常利益」を確保する経営体制を明確にしたいと思います。

 

経常利益/売上高×100%=1,462/616,821×100=0.237

 

  • 「0.737(+0.5%)の場合」の必要な経常利益額は、0.737×616,821/100=4,550千円
  • 「1.237(+1.0%)の場合」の必要な経常利益額は、1.237×616,821/100=7,600千円

 

経営事項審査での平均はおおよそ2%と言われています。また、その黒字企業の平均が3.5%くらいと言われています。それ以上は、目指したいところです。経常利益を高めるためには、その前の営業利益と、さらに前の売上総利益、つまり粗利が重要になってきます。売上原価や販管費などの経費を、どれだけ抑えられるかの勝負が大事になってきます。

 

経営状況(Y)の改善:x4シュミレーション

【比較計算】

 

経営状況(Y)の目標として知っている会社を、取り上げてみました。それぞれの会社が、状況に応じてその項目に沿った経営を行っています。どれが悪く、何が良いかは決める訳ではないと思います。今回は、経営状況(Y)のx4:売上高経常利益率を取り上げて、改善によって経営事項審査の総合評定の(P)は結果を確認したいと思います。詳細な経営状況(Y)のx4は、総合評価値(P)の向上の外、利益の改善に直結している項目でもあるから選んでします。経営状況(Y)のレーダーチャートを見ると、先の棒グラフでも売上高総利益率や売上高経常利益率が、比較的にくぼんでいます。

 

 

もちろん、売上高総利益率が低いまま、売上高経常利益率が増加することは困難です。工事全体で、始めから利益率が高い施工方法をとる必要があります。また、その利益を効果的に取り組んでいるから、この会社はx4は高まっていると読みました。

 

ベンチマークとしてどの会社を選んだかで、その対象会社では、何が問題で、どのように改善したいかを、優先順位を決めてから行います。経営事項審査では、経営規模等の評価としての、完成工事高(X1)や自己資本額及び利益額(X2)、元請完成工事高及び技術職員数(Z)と、その他の審査項目(社会性等)(W)と評価されているものがあります。

 

また、経営状況(Y)として評価される第三者機関が行われるものがあります。今回は、その(Y)で改善の可能性を検討したものです。そして、「収益性・効率性」:x3とx4は、改善の可能性があると判断したからです。そのなかでのx4が優先的に改善したいと考えたからです。事例が違えば、改善する対象が変わってきます。あくまでも事例と考えてください。

 

7.財務諸表

財務諸表には、「貸借対照表」「キャッシュフロー計算書」「損益計算書」の「財務三表」が書かれています。決算書には財務諸表が必ずついています。

 

会計期間は、原則として1年間で区切り、税務署に税金を支払っています。そして1年ごとに経営を見直すことで、資金は足りているか、利益は出ているか、無駄や不足がないかどうかなど、次年度の事業計画を立てています。決算書とは、正式には財務諸表といい、一定期間の会社の経営状態や財務状況を表す書類です。

 

企業活動は大きく3つに分けられ、資金調達、投資活動、営業活動の順に常に循環しています。そのいずれかの活動が滞ると、企業の成長や公共工事の遂行に支障を与えます。その中でも、「貸借対照表」「キャッシュフロー計算書」「損益計算書」の三つの書類は「財務三表」として重要視されています。これら「財務3表」を確認することにより、企業の状況がおおよそ把握することができます。このような参考の形で、財務諸表がつながっています。

 

 

8.経営事項審査の改善

(1)経営状況(Y)点アップのためにすべきこと

経営状況評点Yは、経営事項審査のうち経営状況を審査する「負債抵抗力」「収益性・効率性」「財務健全性」「絶対的力量」の4つに分けられ、それぞれ2指標ずつで合計8指標から経営状況評点Yを算出します。x4の「売上高経常利益率」は、そのうちの「収益性・効率性」に効率性を評価しています。ここに記載している対策は、一般的に言われる項目です。より詳細に検討する必要があります。

 

①売掛金の入金は早く

建設業の場合は請負金額が大きいため、完成工事の未収入金や受取手形の残高が一時的に増加することがあります。しかし、これは「営業キャッシュフロー」の評点を下げる要因となり、売掛債権は可能な限り早く回収するようにします。

 

②工事代金の前払いは積極的に受け入れる

請負工事で、工事代金の一部を前払いで受けられるケースがあります。未成工事の受入金の増加は、「営業キャッシュフロー」の評点を上げる要因となり、積極的に受け入れましょう。

 

③費用は可能な限り下の項目で落とす

「平均利益額」のアップは、費用については建設業法の許す範囲内で営業外損益、特別損益で計上するようにします。特に工事原価の勘定科目を、特別損益で計上すことができれば「売上総利益」「経常利益」の2つの指標の点数アップの効果を得ることが出来ます。

 

④有利子負債は早期に返済する

支払利息は、評点を大きく下げる要因になります。資金的な余裕があれば、借入金は可能な限り早期に返済すべきです。

 

(2)その他の改善項目

その他(社会性等)評点W 令和5年1月改正(審査基準日:令和5年8月14日以降)

 

審査基準日が令和5年8月14日以降になってきたら 「建設工事に従事する者の就業履歴を蓄積するために必要な措置の実施状況(w10)」の評価を追加して、その他評点Wの計算式で算出します。

 

その他評点W=(担い手の育成及び確保に関する取組の状況(w1)+営業継続点数(w2)+防災協定点数(w3)+法令遵守点数(w4)+建設業経理点数(w5)+研究開発点数(w6)+建設機械保有点数(w7)+国又は国際標準化機構が定めた規格による登録状況wW8)×(1,750/200)

 

建設工事に従事する者の就業履歴を蓄積するために必要な措置(w10)の加点がないと、評点ダウンします。 それは、その他評点Wを算出する時の係数が(1,750/200)に変更されるためです。 令和5年1月改正前(令和3年4月改正)

 

9.担い手の育成及び確保に関する取組の状況点数(w1)

令和5年1月経審改正の「担い手の育成及び確保に関する取組の状況点数(w1)」は、 改正前の「労働福祉の状況点数(w1)」を以下のように、移行及び追加したものの点数を加算したものになります。

 

 

w9ワーク・ライフ・バランス(WLB)に関する取組

 

「ワーク・ライフ・バランス(WLB)に関する取組」点数は「女性活躍推進法に基づく認定」「次世代法に基づく認定」及び「若者雇用促進法に基づく認定」について、審査基準日における各認定の取得をもって、以下の評点で評価します。以下の取得している認定のうち、最も配点の高いものを評価します(最大5点)。 次世代法に基づく認定は「一般事業主行動計画」を策定し、届出し、公表及び従業員への周知を行った場合は該当します。以前は、労働局と県に届けて、主観点として加点されていたものです。これは令和5年1月からは、経営事項審査で評価されてきます。

 

10.w10建設工事に従事する者の就業履歴を蓄積するために必要な措置の実施状況

建設工事の担い手の育成・確保に向け、技能労働者等の適正な評価をするためには、 就業履歴の蓄積のために必要な環境を整備することが必要であり、CCUSの活用状況を、 加点対象とします。その審査項目の評価は、審査基準日が令和5年8月14日以降である場合に評価されます。審査対象工事には、該当する場合は以下の①~③のすべてを実施している場合に加点します。

  • ① CCUS上での現場・契約情報の登録
  • ② 建設工事に従事する者が直接入力によらない方法
  • ③ 経営事項審査申請時に様式第6号に掲げる誓約書の提出

 

経営事項審査の「その他(社会性等)評点W」の「w10建設工事に従事する者の就業履歴を蓄積するために必要な措置の実施状況」は、新規に追加して以下の要件に該当した場合に加点されています。

  • 審査対象工事のうち、民間工事を含む全ての建設工事で該当措置を実施した場合 15点
  • 審査対象工事のうち、全ての公共工事で該当措置を実施した場合        10点

 

11.建設キャリアアップシステムのポイント

建設キャリアアップシステムでは、一人ひとりの技能者がまちがいなく本人であることを確認したうえでシステムに登録し、IDが付与されたICカードを交付することが最初のスタートになります。ICカードが本人を証明する機能を担うことになります。その上で、いつ、どの現場に、どの職種で、どの立場(職長など)で働いたのか、日々の就業実績として電子的に記録・蓄積されます。同時に、どのような資格を取得し、あるいは講習を受けたかといった技能、研鑽の記録も蓄積されます。こうして蓄積された情報を元に、最終的には、それぞれの技能者の評価が適切に行われ、処遇の改善に結びつけること、さらには人材育成に努め優秀な技能者をかかえる事業者の施工能力が見えるようにすることを目指します。

 

12.主観的事項審査の申請項目

経営事項審査の客観点の他に、各自治体が定める主観点があります。例えば、石川県の主観的事項審査に書かれている次の項目を確認します。

 

①ISO9001の認証取得 5点

ISO14001の認証取得、エコアクション21の認証・登録、いしかわ事業者版環境ISOの登録は、いずれか 5点

②「次世代育成支援対策推進法」の行動計画を届出した者 10点
③「障害者の雇用の促進等に関する法律」に定める障害者を常時雇用している者 10点
④いしかわ中小企業チャレンジ支援ファンド事業、いしかわ農業参入支援ファンド事業、いしかわ里山振興ファンド事業の採択 10点
⑤アからシの項目 内5項目 最大項目

 

これらの項目の詳細を確認します。

①ISO9001の認証取得 5点、及び、ISO14001の認証取得、エコアクション21の認証・登録、 いしかわ事業者版環境ISOの登録は、いずれか 5点
②令和5年1月31日までに「次世代育成支援対策推進法」第12条に基づき、行動計画を厚生労働大臣に届出した者 10点
③令和4年度において「障害者の雇用の促進等に関する法律」第2条に定める障害者を常時雇用している者(以下のいずれか)10点

 

(1) 「障害者の雇用の促進等に関する法律」第43条に基づく障害 者雇用義務がある者で、障害者を雇用し、かつ常用労働者の数に対する障害者の割合(障害者雇用率)が、同法に定める率( 法定雇用率)以上である者
(2) 「障害者の雇用の促進等に関する法律」第43条に基づく障害者雇用義務がない者で、令和5年1月31日現在において、障 害者を1人以上雇用している者

 

④平成30年度から令和4年度において下記(1)~(3)いずれかの採択を受け、採択を受けた事業を営んでいる者 10点

 

(1) いしかわ中小企業チャレンジ支援ファンド事業の下記アから エに該当する支援メニューについて採択を受けた者
 ア 中小企業等による産業化資源活用新商品・新サービスの開発・販路開拓支援
 イ 小規模企業者による産業化資源活用新商品・新サービスの開発・販路開拓支援
 ウ 産業間・異業種等連携による新商品・新サービスの開発・販路開拓支援
 エ 海外企業等との連携による商品の開発・改良・販路拡大支援
(2) いしかわ農業参入支援ファンド事業の採択を受けた者
(3) いしかわ里山振興ファンド事業の「里山里海の地域資源を活用した生業の創出」について採択を受けた者
ただし、採択を受けた事業内容が下記の場合は加点しない。
・新商品等の開発
・事業化のために行う実現可能性調査、研究
・既に新分野に進出している事業者がさらなる顧客獲得等のために行う事業

 

⑤下のアからシに該当する者に、該当する項目数に応じて加点する。

各5点、最大5項目
 ア 令和5年1月31日現在において、いしかわ我がまちアドプト制度について、活動団体として活動を行っている者 (サポーターとして支援のみの場合は対象外)
 イ 令和5年1月31日現在において、消防団協力事業所表示制度について、市又は町から「協力事業所」として認定されている者
 ウ 令和5年1月31日現在において、いしかわ男女共同参画推進宣言企業の認定を受けている者
 エ 令和5年1月31日現在において、エコドライブ推進事業所の認定を受けている者
 オ 令和5年1月31日現在において、いしかわ版里山づくりISOの認証を受けている者
 カ 令和5年1月31日現在において、企業の森づくり推進事業について、協定を締結している者
 キ 令和5年1月31日現在において、協力雇用主として金沢保護観察所に登録している者
 ク 令和5年1月31日現在において、建設業法第26条第1項に定める主任技術者となりうる女性技術者を 雇用している者
 ケ 令和5年1月31日現在において、企業年金制度を導入している者
 コ 令和5年1月31日現在において、建設キャリアアップシステムの事業者登録を行っている者
 サ 令和5年1月31日現在において、就業規則に4週8休(または年間休日120日以上)の休日制度を明記し、労働基準監督署に届け出ている者
 シ 令和5年1月31日現在において、いしかわ健康経営宣言企業の認定を受けている者
 ス 防災士の資格を有する者を令和5年1月31日現在において雇用しており、当該防災士が事業所の所在する地域の自主防災組織の防災活動に取り組むことに協 力する者

 

該当する自治体の主観点の項目を確認する事も大事なことと考えます。

 

13.まとめに代えて

建設業は経営事項審査を通じて、企業のランクが評価されています。その評価において良い結果を得る為に、その分析が望ましいと考えました。経営事項審査の経営数値の改善は、その対策や検討を通じて行っています。しかし、経営事項審査のそのものの改善は、施工活動を通じてしか出来ないと考えます。工事ごとの競争参加資格の確認、及び総合評価の評価を受けて施工が始まります。その後の施工活動やその結果の工事成績評定が、企業規模の成長や利益率向上を得ています。


PDCAサイクルを求める企業組織の成長に向けて、意図ある改善が重要と考えています。

 

 

 


この記事の著者

竹田 将文

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