IoBとは、-活用事例、リスクおよび今後の展開-

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Iob

 

各種センサーデバイスの進化により、身の回りの事象データが取得できるようになってきました。すでにIoT(Internet of Things)は、実用化されておりますが1)、IoTの次のテーマとして、IoBという人体とインターネットを繋ぐ技術が登場してきています。今回は、IoBに焦点を当てて、その活用事例、リスクおよび今後の展開について解説します。

 

1.IoBとは

IoBとは「Internet of Bodies / Behaviors」の略で、「Internet of Bodies」は身体のインターネット、「Internet of Behaviors」は振舞いのインターネットという意味であり、身体の状態・振舞いをセンサー技術でインターネットを通じて取得・収集することと、そのための関連機器を指す言葉です2)。IoB普及の背景には、センサーの進化とインターネットの品質向上と普及、そして収集データ解析に用いられるAIの発達などにより、これらの技術革新が結合した結果、IoBの有用性が高められてきました。

 

以下の3段階がIoBにあります。第1段階は「データ定量化」で、身体にデバイスを身につけることで心拍や運動量といった計測し、数値としてデータ化することです。第2段階は「体内内蔵化」で、体内にデバイスを入れて通信機能を持たせることで遠隔診療が可能になります。第1段階はスマートウォッチや指輪型のオーラリングなどのウエアラブル・デバイスとして、そして第2段階は心臓のペースメーカーやスマートタトゥー、デジタルピルとして一部では実用化が進んでいます。

 

そして最後の第3段階の「ウェットウェア化」は、脳にデバイスを直接埋め込むことで、まだ実験の初期段階ですが、「一頭の猿がモニターを見ながら手を使わず、脳波だけでゲームをする動画」はIT企業の関係者に衝撃を与えたと言われています。ただしIoTであれば不具合で済むことでも、IoBになると生命のリスクを伴いますので、第3段階まで普及するかと言われると、我々の関心分野である「モノづくり」においてはあまり現実的でないと考えます。

 

2.IoTとIoBの関係

IoTは「Internet of Things」、すなわち「モノのインターネット」を意味し、モノ(物体)に通信機能を持たせてインターネットに接続する仕組みの総称です。これにより認識、検知、制御、遠隔操作といった機能をモノが自動的に行なえるようになります1)。代表的な事例としては、スマートフォンでエアコンのオン/オフおよび温度設定をする「遠隔操作機能」やバスの運行状況および道路の混雑状況が分かる「リアルタイム検知機能」は既に実用化されており、IoTの市場規模は2022年に全世界で1兆ドルの大台に達するとの予測がなされています。

 

それに対してIoBは「身体/行動のインターネット」を意味し、インターネット接続対象がモノかヒトかという違いがあります。「IoTの次はIoBビジネスの時代だ」と世界のテック企業が熱く注目する新技術領域と言えます。もともとIoT技術が盛んになった背景には、ディープラーニング(ニューラルネットワーク)に基づいたAI・機械学習の進化による予測技術の発展があります。これによりIoTで取得されたモノの状態の測定データ(例えば位置情報、購買データ、デバイスの使用状況など)を時系列に処理したり、相関解析することで特徴・法則を「学習」し、その学習結果に基づいて今後のヒトの状態を「予測」する手段として活用されるようになりました。AI技術の発展に伴って、その学習に必要なデータの収集対象がモノからヒトの身体/行動に拡張していくのは、自然な流れと言えるでしょう。

 

3.IoBの活用事例

IoBの活用事例として、身体情報、心臓ペースメーカー、自動車の運転情報、位置情報、顔認識などが提案されています。

 

ウェラブルデバイスによる身体情報の収集や心臓ペースメーカーは身体情報を取得する技術は「Internet of Bodies」です。これらは毎日の睡眠データを把握したり、身体機能を維持するために用いられます。

 

また自動車の運転情報、位置情報、顔認識技術は「Internet of Behavior」であり、これは取得データを快適な生活実現に利用する技術です。さらに現状のコロナ禍では、顔認識システムを使ったマスクの装着の有無の確認および警告や、新型コロナウイルスの蔓延を防ぐための感染経路の追跡に位置情報を取り入れるなどの局面で活用できます。

 

4.IoBのリスクとは

ヒトに関する新たなデータ取得活用が期待できるIoB技術ですが、その発展に伴い新たなリスクが発生する可能性が指摘されています。

 

(1)サイバーアタック・情報漏洩

インターネットに接続するので、サイバーアタックの標的になります。また、人為的ミスなどによる情報漏洩のリスクも考えられます。IoBの発展普及に際しては、セキュリティ対策と情報漏洩対策はもちろんですが、法整備も重要な課題になります。

 

(2)デバイスの不備・故障

重要な身体データを収集するIoBデバイスは、ソフトウェアの不備やデバイス故障が大問題に発展するため、その予兆を捉えるAIの開発と、サポートが最重要です。

 

(3)責任の所在が不明確

使用中のIoB機器に不具合が発生したり、IoB機器が原因で何らかのトラブルが起こったりした場合の対応をどうするかという課題もあります。もともと機器に不具合があったのか、使用方法が悪かったのかがはっきり判断できないケースも起こる可能性があります。こうした不具合・トラブルの責任と解決方法を開発者と使用者のどちらが担うのかといった問題について明確に定めることは現時点では難しいと考えられます。

 

上記はIoBをネガティブにとらえた見方です。例えばターゲティング広告はプライバシーの観点からすればBehaviorsにいちいちInternetが付いてくるのでうっとうしいと思われがちですが、本来のInternet of Behaviorsの趣旨はInternetでBehaviorsを改善する/より豊かなものにすることが目的です。私たちはIoTをモノにInternetが付いてくると理解している節がありますが、IoTも本来の目的はInternetでモノの挙動を改善することであり、その目的はそのままIoBにも適用されるべきと考えます。

 

5.IoBの今後の展開

 これまで説明したようにIoTの次の段階としてIoB技術の発展は必然的であると考えますが、特に「モノづくり」に関連する「消費者向けIoB」分野の最新研究成果を以下に紹介します。

 

(1)注意喚起機能:脳や目の動きを監視するウエアラブル眼鏡。運転中のドライバーや学校での生徒の行動に注意喚起することが期待されている。

 

(2)センサー付き衣類:人体の体温や血流を常時監視するウエアラブルで、乳幼児用オムツとして活用すれば、言葉を話せない赤ちゃん...

Iob

 

各種センサーデバイスの進化により、身の回りの事象データが取得できるようになってきました。すでにIoT(Internet of Things)は、実用化されておりますが1)、IoTの次のテーマとして、IoBという人体とインターネットを繋ぐ技術が登場してきています。今回は、IoBに焦点を当てて、その活用事例、リスクおよび今後の展開について解説します。

 

1.IoBとは

IoBとは「Internet of Bodies / Behaviors」の略で、「Internet of Bodies」は身体のインターネット、「Internet of Behaviors」は振舞いのインターネットという意味であり、身体の状態・振舞いをセンサー技術でインターネットを通じて取得・収集することと、そのための関連機器を指す言葉です2)。IoB普及の背景には、センサーの進化とインターネットの品質向上と普及、そして収集データ解析に用いられるAIの発達などにより、これらの技術革新が結合した結果、IoBの有用性が高められてきました。

 

以下の3段階がIoBにあります。第1段階は「データ定量化」で、身体にデバイスを身につけることで心拍や運動量といった計測し、数値としてデータ化することです。第2段階は「体内内蔵化」で、体内にデバイスを入れて通信機能を持たせることで遠隔診療が可能になります。第1段階はスマートウォッチや指輪型のオーラリングなどのウエアラブル・デバイスとして、そして第2段階は心臓のペースメーカーやスマートタトゥー、デジタルピルとして一部では実用化が進んでいます。

 

そして最後の第3段階の「ウェットウェア化」は、脳にデバイスを直接埋め込むことで、まだ実験の初期段階ですが、「一頭の猿がモニターを見ながら手を使わず、脳波だけでゲームをする動画」はIT企業の関係者に衝撃を与えたと言われています。ただしIoTであれば不具合で済むことでも、IoBになると生命のリスクを伴いますので、第3段階まで普及するかと言われると、我々の関心分野である「モノづくり」においてはあまり現実的でないと考えます。

 

2.IoTとIoBの関係

IoTは「Internet of Things」、すなわち「モノのインターネット」を意味し、モノ(物体)に通信機能を持たせてインターネットに接続する仕組みの総称です。これにより認識、検知、制御、遠隔操作といった機能をモノが自動的に行なえるようになります1)。代表的な事例としては、スマートフォンでエアコンのオン/オフおよび温度設定をする「遠隔操作機能」やバスの運行状況および道路の混雑状況が分かる「リアルタイム検知機能」は既に実用化されており、IoTの市場規模は2022年に全世界で1兆ドルの大台に達するとの予測がなされています。

 

それに対してIoBは「身体/行動のインターネット」を意味し、インターネット接続対象がモノかヒトかという違いがあります。「IoTの次はIoBビジネスの時代だ」と世界のテック企業が熱く注目する新技術領域と言えます。もともとIoT技術が盛んになった背景には、ディープラーニング(ニューラルネットワーク)に基づいたAI・機械学習の進化による予測技術の発展があります。これによりIoTで取得されたモノの状態の測定データ(例えば位置情報、購買データ、デバイスの使用状況など)を時系列に処理したり、相関解析することで特徴・法則を「学習」し、その学習結果に基づいて今後のヒトの状態を「予測」する手段として活用されるようになりました。AI技術の発展に伴って、その学習に必要なデータの収集対象がモノからヒトの身体/行動に拡張していくのは、自然な流れと言えるでしょう。

 

3.IoBの活用事例

IoBの活用事例として、身体情報、心臓ペースメーカー、自動車の運転情報、位置情報、顔認識などが提案されています。

 

ウェラブルデバイスによる身体情報の収集や心臓ペースメーカーは身体情報を取得する技術は「Internet of Bodies」です。これらは毎日の睡眠データを把握したり、身体機能を維持するために用いられます。

 

また自動車の運転情報、位置情報、顔認識技術は「Internet of Behavior」であり、これは取得データを快適な生活実現に利用する技術です。さらに現状のコロナ禍では、顔認識システムを使ったマスクの装着の有無の確認および警告や、新型コロナウイルスの蔓延を防ぐための感染経路の追跡に位置情報を取り入れるなどの局面で活用できます。

 

4.IoBのリスクとは

ヒトに関する新たなデータ取得活用が期待できるIoB技術ですが、その発展に伴い新たなリスクが発生する可能性が指摘されています。

 

(1)サイバーアタック・情報漏洩

インターネットに接続するので、サイバーアタックの標的になります。また、人為的ミスなどによる情報漏洩のリスクも考えられます。IoBの発展普及に際しては、セキュリティ対策と情報漏洩対策はもちろんですが、法整備も重要な課題になります。

 

(2)デバイスの不備・故障

重要な身体データを収集するIoBデバイスは、ソフトウェアの不備やデバイス故障が大問題に発展するため、その予兆を捉えるAIの開発と、サポートが最重要です。

 

(3)責任の所在が不明確

使用中のIoB機器に不具合が発生したり、IoB機器が原因で何らかのトラブルが起こったりした場合の対応をどうするかという課題もあります。もともと機器に不具合があったのか、使用方法が悪かったのかがはっきり判断できないケースも起こる可能性があります。こうした不具合・トラブルの責任と解決方法を開発者と使用者のどちらが担うのかといった問題について明確に定めることは現時点では難しいと考えられます。

 

上記はIoBをネガティブにとらえた見方です。例えばターゲティング広告はプライバシーの観点からすればBehaviorsにいちいちInternetが付いてくるのでうっとうしいと思われがちですが、本来のInternet of Behaviorsの趣旨はInternetでBehaviorsを改善する/より豊かなものにすることが目的です。私たちはIoTをモノにInternetが付いてくると理解している節がありますが、IoTも本来の目的はInternetでモノの挙動を改善することであり、その目的はそのままIoBにも適用されるべきと考えます。

 

5.IoBの今後の展開

 これまで説明したようにIoTの次の段階としてIoB技術の発展は必然的であると考えますが、特に「モノづくり」に関連する「消費者向けIoB」分野の最新研究成果を以下に紹介します。

 

(1)注意喚起機能:脳や目の動きを監視するウエアラブル眼鏡。運転中のドライバーや学校での生徒の行動に注意喚起することが期待されている。

 

(2)センサー付き衣類:人体の体温や血流を常時監視するウエアラブルで、乳幼児用オムツとして活用すれば、言葉を話せない赤ちゃんの腸の具合を詳しく監視できる。

 

(3)インターネット接続の家具:家庭内の家具や家電製品を通じて、ヒトやペットの健康管理に効力を発揮する。尿の流れをモニターし、糖分などを検査するトイレ。体重に加えて水分量や筋肉量も把握し、個人の体調管理に役立つ体重計など。

 

(4)センサー付きベッド:睡眠中の身体の動きを分析し、睡眠の量や質に関するデータを収集・分析して健康管理に関するアドバイスをするベッド。

 

(5)健康追跡装置:心臓機能、睡眠パターン、アルコール摂取量など、あらゆる行動データを収集・分析するブレスレット、時計、指輪、スマホアプリなど。

 

これまで紹介したウエアラブルの国際市場規模は2025年までに700億ドルに拡大すると予測されています。さらにIoB市場全体では2019年の2,500億ドルが、2027年までに1兆4,630億ドルまで飛躍的に拡大するとの予測があります。現状のIoB技術は様々な課題とリスクが存在しますが、このような巨大市場に参入するためにも、日本の製造業は現段階から情報収集および基礎研究開発に取り組む必要があると考えます。

 

【参考資料】

1)平野、安武、片山、岡田:“AIとCAEを用いた実用化設計”、日刊工業新聞(2021).

2)浜田:“イーロン・マスク 次の標的 -「IoTビジネス」とは何か”、祥伝社新書(2021).

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この記事の著者

安武 健司

(CAE+実験)×原理原則=ソリューション提案

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