ムーアの法則の限界とは

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半導体

 

半導体関連でムーアの法則が崩壊かという話を耳にすることがあります。今、ムーアの法則になにかが起き、この法則の限界とその先にはどのような技術の選択肢があるのでしょうか。今回は、ムーアの法則の限界について概要を解説します。

 

【関連解説記事】 ・半導体とは   ・半導体工程とは

 

1.ムーアの法則とは

 

ムーアの法則は、シリコンチップ上の素子数、集積回路の集積度が2年間で倍になるという法則です。なぜ、この法則が今になって話題にされているのでしょうか。その理由は、最先端のナノレベルとなったプロセスが、この法則のロードマップ通りの技術開発に限界を迎えている懸念からです。

 

2.高集積化、サイズが小さくなるだけではないメリットとは

 

半導体集積回路の集積度は、なぜここまでナノレベルへ成長してきたのでしょうか。それは、高集積化に多大なメリットがあるからです。集積度向上で半導体のチップのサイズが小さくなると、当然、製造コストが下がります。機能面では素子間の配線が短縮し、高速化・省電力化につながります。

 

インテルが1941年に発表したマイクロプロセッサーには2300個のトランジスタが使われていましたが、今や最新のプロセッサーでは、10億個を超えるのです。

 

小型化と同時に処理速度が上昇したのもムーアの法則によるものです。ソフトウェア技術者は、遅いソフトウェアであっても将来はプロセッサーの性能向上でカバー出来るだろうという見通しがありましたが、これが成立しなくなるので、ムーアの法則の限界は、大問題です。

 

3. ITイノベーションの停滞

 

ムーアの法則の限界、何度も危機説が出ましたが、半導体技術者たちがこれを解決してきました。この為、微細化は順調にムーアの法則に沿って、進んできました。しかし、この微細化のスピードが落ちてきています。

 

微細化のスピードが落ちてくるとITイノベーションも停滞するということになります。 問題になっているのは電力的な限界と経済的な限界で、これがきわめて深刻になっているのが現状です。半導体製造技術の限界ではないのです。

 

4.小型化は原子レベルへ

 

半導体集積回路は際限なく小型化できるものでありません。トランジスタのサイズを半減させていくと、やがて層の厚さが原子1個の直径に等しい部分がトランジスタ内にできるのです。ムーアの法則は、有効性を失いました。チップに搭載するトランジスタの数を仮に2倍に増やすことができたとしても、以前の方法に従うわけにはいきません。

 

絶縁層の厚さを半分にすると、導電性は倍ではなく1万倍になります。これをトンネル現象と言います。30年間絶縁層に使用されていた二酸化ケイ素はもう使えません。現在、これに代わって絶縁体に使用している素材は、酸化ハフニウムとケイ酸ハフニウムです。これらは二酸化ケイ素とは異なる素材です。小型化は原子レベルに限りなく到達してしまいます。

 

5.微細化止まるのか

 

1990年代は、プラズマプロセスのチャージングダメージで、微細化はこれ以上不可能といわれていました。その後、先駆的研究に救われて、徹底的な対策の結果、現在に至るまでプラズマ・ドライエッチングが使われ続けています。すなわち、この問題で微細化が止まることは無かったのです。

 

その後、半導体の微細化はもう限界ではないかと言われたのが、露光装置の解像限界に達した2006年頃です。それでも、この微細化の限界は、ArF(アルゴン・フッ素)ドライから延命したArF液浸、ダブルパターニング技術により打破されました。微細化の限界はあっさり打破されたのです。

 

シリコンの次に来るものについて、半導体業界は新たなテクノロジー、プロセス、業界の構造を生み出す必要に迫られています。今後のチップとシリコンは量子力学の世界に入り通常のトランジスタのような動作ではなく今までの常識は通用しません。そしてこのことが、ムーアの法則の限界なのです。

 

6.ムーアの法則は生きていた

 

ムーアの法則は、半導体製品に集積されているトランジスタの数の増加、集積度でしたが年率2倍が年率18~24カ月というように数字は変わってきたものの、一定の成長率で伸びていることを表してきました。

 

一方、近年、この法則が変質して、7nm・5nmになるとこの法則は飽和する。というように、微細化を指す言葉になりました。微細化限界に近づいたので、この法則は成り立たなくなってきた、と表現されました。このため、微細化はムーアの法則という言葉に変わってしまっていたのです。微細化の指針では、動作速度は上がり、消費電...

半導体

 

半導体関連でムーアの法則が崩壊かという話を耳にすることがあります。今、ムーアの法則になにかが起き、この法則の限界とその先にはどのような技術の選択肢があるのでしょうか。今回は、ムーアの法則の限界について概要を解説します。

 

【関連解説記事】 ・半導体とは   ・半導体工程とは

 

1.ムーアの法則とは

 

ムーアの法則は、シリコンチップ上の素子数、集積回路の集積度が2年間で倍になるという法則です。なぜ、この法則が今になって話題にされているのでしょうか。その理由は、最先端のナノレベルとなったプロセスが、この法則のロードマップ通りの技術開発に限界を迎えている懸念からです。

 

2.高集積化、サイズが小さくなるだけではないメリットとは

 

半導体集積回路の集積度は、なぜここまでナノレベルへ成長してきたのでしょうか。それは、高集積化に多大なメリットがあるからです。集積度向上で半導体のチップのサイズが小さくなると、当然、製造コストが下がります。機能面では素子間の配線が短縮し、高速化・省電力化につながります。

 

インテルが1941年に発表したマイクロプロセッサーには2300個のトランジスタが使われていましたが、今や最新のプロセッサーでは、10億個を超えるのです。

 

小型化と同時に処理速度が上昇したのもムーアの法則によるものです。ソフトウェア技術者は、遅いソフトウェアであっても将来はプロセッサーの性能向上でカバー出来るだろうという見通しがありましたが、これが成立しなくなるので、ムーアの法則の限界は、大問題です。

 

3. ITイノベーションの停滞

 

ムーアの法則の限界、何度も危機説が出ましたが、半導体技術者たちがこれを解決してきました。この為、微細化は順調にムーアの法則に沿って、進んできました。しかし、この微細化のスピードが落ちてきています。

 

微細化のスピードが落ちてくるとITイノベーションも停滞するということになります。 問題になっているのは電力的な限界と経済的な限界で、これがきわめて深刻になっているのが現状です。半導体製造技術の限界ではないのです。

 

4.小型化は原子レベルへ

 

半導体集積回路は際限なく小型化できるものでありません。トランジスタのサイズを半減させていくと、やがて層の厚さが原子1個の直径に等しい部分がトランジスタ内にできるのです。ムーアの法則は、有効性を失いました。チップに搭載するトランジスタの数を仮に2倍に増やすことができたとしても、以前の方法に従うわけにはいきません。

 

絶縁層の厚さを半分にすると、導電性は倍ではなく1万倍になります。これをトンネル現象と言います。30年間絶縁層に使用されていた二酸化ケイ素はもう使えません。現在、これに代わって絶縁体に使用している素材は、酸化ハフニウムとケイ酸ハフニウムです。これらは二酸化ケイ素とは異なる素材です。小型化は原子レベルに限りなく到達してしまいます。

 

5.微細化止まるのか

 

1990年代は、プラズマプロセスのチャージングダメージで、微細化はこれ以上不可能といわれていました。その後、先駆的研究に救われて、徹底的な対策の結果、現在に至るまでプラズマ・ドライエッチングが使われ続けています。すなわち、この問題で微細化が止まることは無かったのです。

 

その後、半導体の微細化はもう限界ではないかと言われたのが、露光装置の解像限界に達した2006年頃です。それでも、この微細化の限界は、ArF(アルゴン・フッ素)ドライから延命したArF液浸、ダブルパターニング技術により打破されました。微細化の限界はあっさり打破されたのです。

 

シリコンの次に来るものについて、半導体業界は新たなテクノロジー、プロセス、業界の構造を生み出す必要に迫られています。今後のチップとシリコンは量子力学の世界に入り通常のトランジスタのような動作ではなく今までの常識は通用しません。そしてこのことが、ムーアの法則の限界なのです。

 

6.ムーアの法則は生きていた

 

ムーアの法則は、半導体製品に集積されているトランジスタの数の増加、集積度でしたが年率2倍が年率18~24カ月というように数字は変わってきたものの、一定の成長率で伸びていることを表してきました。

 

一方、近年、この法則が変質して、7nm・5nmになるとこの法則は飽和する。というように、微細化を指す言葉になりました。微細化限界に近づいたので、この法則は成り立たなくなってきた、と表現されました。このため、微細化はムーアの法則という言葉に変わってしまっていたのです。微細化の指針では、動作速度は上がり、消費電力は下がるので、微細化を進めれば進めるほど、半導体集積回路の集積度は毎年上がっていきました。

 

前述のようにトランジスタサイズが原子の大きさに近づいてきたために、微細化はもう限界に近づいてきた、といわれるようになりました。そこで、ムーアの法則は限界と言われたのです。

 

ところが、2次元的な微細化が限界なら、NANDフラッシュに見られるようにメモリセルを3次元構造にすることによって集積度を上げるようになりました。3次元的に半導体のトランジスタ構造を、モノリシックであろうとハイブリッドであろうと集積して使えるパッケージの形にすれば、ムーアの法則は生きていると表現できます。この法則の定義にはモノリシックという言葉はないのです。3次元集積回路も半導体製品に含めれば、まだムーアの法則は続くといえるでしょう。

 

 

 

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この記事の著者

大岡 明

改善技術(トヨタ生産方式(TPS)/IE)とIT,先端技術(IoT,IoH,xR,AI)の現場活用を現場実践指導、社内研修で支援しています。

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