キャッシュフロー経営とサプライチェーンマネジメント

 キャッシュフロー経営をタイトルとするビジネス書がよく読まれているようです。キャッシュフローを上げる経営モデルの構築は極めて戦略的な経営です。TOC(DBR)などにもとづくプライチェーンマネジメントの制約は、生産設備や労働などの経営資源の能力であり、現実の能力をベースにしたマネジメントが、全体を最適しキャッシュフローを上げるメカニズムで実現されます。

 しかし、ビジネスにおけるもっとも重要で一般的な制約となる経営資源はキャッシュです。リードタイム削減による在庫削減は、運転資金を削減し必要とするキャッシュに余裕をもたらします。このことが、サプライチェーンマネジメントのモデル企業が急成長を遂げている最も大きな原因なのです。一般にはこの点が明確に述べられていませんが、筆者が最近強く認識している事実です。

表1 キャッシュフロー経営の例(デルコンピュータ)

キャッシュフロー経営とサプライチェーン

 上場企業の業績は期間会計利益だけでなくキャッシュフローを見ないと分からないため、それを開示することで株価に反映されるようになっています。キャッシュフロー経営とは、従来の原価計算にもとづく経費を在庫という資産に変換して利益を出す収益性のマネジメントのみではなく、キャッシュベースでの儲けを示す利益向上のマネジメントです。

 資材調達の支払いによるキャッシュアウトから製品販売による入金でのキャッシュインまでのリードタイムの短縮は、棚卸在庫という運転資金の削減につながります。バランスシート上に計上されている資材・仕掛在庫・製品在庫は、販売という活動によって売掛金となり、回収業務で現預金になり、再び資材購入の業務によって在庫になという具合に、資金は循環しています。

 年商100億円の経営で棚卸在庫回転が4回転から5回転に早まると、資金循環サイクルのなかで在庫残高が25億円(100億円/4回)から20億円(100億円/5回)になり、在庫残高減少によって運転資金差5億円のキャッシュがたちまち増加します。4回転(3ヶ月)と5回転(2.4ヶ月)のリードタイムの0.6ヶ月短縮、すなわち20%の経営スピードアップによる効果は絶大です。

 この運転資金回転の為のシステム投資が1億円だとしても残りのキャッシュフローが4億円増えることになるのです。在庫資産の一部がシステム資産になるだけで4億円のキャッシュを生むわけです。従来の収益性の指標で見る経常利益への影響でも、5億円の在庫削減は運転資金の金利と倉庫等の在庫維持コストが20%ならば1億円の経費削減が期待できます。

キャッシュフロー経営による全体最適

図1 キャッシュフロー経営による全体最適

 キャッシュフロー計算の上では営業資金収支と投資資金収支に区分しても、最終的にはトータルでのキャッシュフローすなわちフリーキャッシュフローを上げることが重要です。運転資金は借入か自己資金のいずれかであり、金詰りの場合にはこれがビジネス拡大の制約となります。サプライチェーンでの生産能力や販売能力の制約と同じく、資金的制約もまたスループットを決めているのです。

 かって日本の金融は、銀行からの潤沢な間接金融と手形決済などによる運転資金があったせいで、在庫という運転資金の制約をあまり意識する必要がありませんでした。ところがバブルがはじけて以降、運転資金の調達はビジネス拡大の大きな制約となりました。その意味で、事業規模の拡大すなわちスループット増大に関係する運転資金の節約が、経営上での重要事項となったのです。

 売上を維持しつつ在庫回転を速くすることは、付加価値が付かないで滞留している時間の無駄をなくすこととも言えます。この無駄な在庫を少なくしようとすると、機会損失となるのは生産・物流・販売の供給業務の速度がばらついて、同期を取ることが難しいからです。

 機会損失の最小化と在庫の最小化を同時に達成することが優れたキャッシュフロー経営であり、そのメカニズムを知り最適なアクションをとることがサプライチェーンマネジメントです。アクションとは情報を得て(計測)、決定して行動(制御)することであり、キャッシュフロー経営とサプライチェーン経営は同義語ですが、多くのビジネス書ではキャッシュフローの重要性と計算手順だけに焦点が当てられており、その本質である「どうしたらキャッシュフローがよくなるのか?」の課題に答えていません。キャッシュフロー経営における「制御」の方法は、実はサプライチェーンマネジメントのメカニズムにあるのです。


この記事の著者

今岡 善次郎

在庫が収益構造とチームワークの鍵を握ります。人と人、組織と組織のつながり連鎖をどうマネジメントするかを念頭に現場と人から機会分析します。

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