市場を広く捉えて革新的テーマを手に入れる

1.「お客様第一主義」症候群

 現在の顧客は企業にとって大変重要です。とにかく、直近の売上を上げるための拠り所だからです。また、中には次の製品について直接的に要望してくれる顧客もあり、自社の将来の売上からも極めて有望な顧客です。従って当然ながら尊重しますし、そうでなければなりません。お客様は神様であり、なんとしてもこの既存顧客の満足度を向上させ、高い水準に維持することが第一優先です。 

 しかし、 革新的なテーマの継続的な創出の視点から言うと、かならずしも既存の目の前の顧客は神様ではありません。既存の顧客だけに目を向けていては、決して革新的なテーマを継続的に創出することはできないのです。

2.革新的テーマの場合

 自社の既存顧客は、通常自社以外に競合他社とも取引をしているものですし、競合他社も程度の差はあれ、その顧客にアプローチをしています。そのため、その既存顧客は競合他社にも要望を伝えている可能性が高いものです。その情報に基づき開発された製品は、競合他社との競争になる可能性が高いと考えられます。

 加えて、その顧客が市場を代表するニーズを持っている保障はどこにもありません。仮にその顧客が市場において大きなシェアを占めていても同じです。有名なハーバードビジネススクールのクリステンセン教授は「イノベーションのジレンマ」の中で、イノベーションのタネは既存の顧客ではなく、周辺に存在するチャレンジャー企業が手掛ける可能性が高いことを、様々な業界でのプレーヤー変遷の分析に基づき主張しています。

 人間も企業もその他の組織も、従来の状況が永遠に続くと錯覚してしまうものです。それは、様々な変化が起こる現在のビジネス環境の中で、従来のビジネスのやり方を根本的に変えるような動きは、見たくないという本能が働くためのようです。最近の日本のデジタル家電分野での世界市場での地盤低下も、このような組織の持つ本能的な特徴から説明できそうです。

3.非顧客に目を向ける

 つまり、革新的なテーマの継続的創出のためには、既存の顧客以外の顧客、ドラッカーが言うところの「非顧客(non-customers)」に目を向ける必要があるのです。そこには、これまでアプローチしながら受注できなかった顧客もいるでしょうし、またこれまでアプローチしていなかった潜在顧客もいます。革新的テーマ創出の視点から言うと、むしろ後者の顧客がより革新的なアイデアを持っている可能性が高いでしょう。

 近年リバースイノベーションというコンセプトが注目されています。これまで日本企業は、欧米の先進事例を真似て、追従するというパターンで成功してきました。そのため現在でも新しい製品やビジネスモデルなどのイノベーションについても、欧米企業の先進事例に強い関心を持つ企業があります。一方でリバースイノベーションとは、先進国ではなく発展途上国で売れている製品や顧客のニーズを収集して、単にそのローカル市場対象の製品としてだけではなく、他市場に対しても自社のイノベーションとして活かそうという考え方です。つまり、発展途上国の顧客のニーズは、これまで先進国にもありながら見逃がされてきた場合がある、というという主張です。場合によっては、むしろ先進国には様々な法規制やこれまで既になされた大きな投資等の制約があり、むしろ途上国のニーズが先進国のニーズを追い越して、より先進的である場合もあるのです。

 自社の活動が既存の顧客に偏重している企業は、是非視野を大きく広げて、市場の辺境にある顧客にも目を向けてみましょう。そこには、革新的テーマの発想を刺激する様々な発見の可能性があります。

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4.顧客よりも市場を見る

 上記のような視点を持って活動をすることで、単に新しいニーズを発見することができるだけでなく、今まで『顧客』単位で見ていた自社の活動対象が、『市場』という大きな視点で俯瞰的に見ることができるようになります。良く使われる英語の表現でeye-openingという言葉がありますが、まさに、新しい世界が見える、目を見開く経験をすることができます。3MではVOC(Voice of a Customer)ではなく、VOM(Voice of the Market)を見る必要性を強調していますが、まさにこれに相当します。

 携帯電話向け半導体メーカー技術者が以下のように言っていました。
「パナソニック、NEC、富士通など、多くの携帯電話端末製造企業と付き合っているので、全ての技術情報が集まります。携帯電話の会社は自社のことしか知りません。ですから、携帯電話の技術について最も良く知っているのは当社でしょう。」

 最近は日本の携帯電話メーカーや半導体メーカーが次々と撤退したり、事業を縮小したりしているので、ちょっと理解しにくいかもしれませんが、これは業界を問わず当てはまることです。まさにこの半導体メーカーの技術者は、VOCの視点ではなく、VOMの視点を持っています。

 さらにこのような情報や知識は簡単に獲得することができませんので、これらを蓄積することは競合企業に対して重要な差別化になります。製品の差別化はいつかは真似されてしまいますが、能力面での差別化はなかなか追従することが困難ですので、より一層価値が高いと言えます。


この記事の著者

浪江 一公

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。

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