「シナリオプラニング」将来に対してあらかじめ準備する

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 今回はマクロ環境分析の一つの手法である「シナリオプラニング」を解説します。

◆関連解説『アイデア発想法とは』

 

1.シナリオプラニングとは

 シナリオプラニングとは、もとともは米国が第二次世界大戦中に軍の作戦演習に開発した手法で、その後シェルが1970年代の第一次石油ショックによる原油価格の高騰のシナリオを想定し、他の石油メジャーに先駆け対応をしたことから注目を浴びるようになった手法です。

 シナリオプラニングでは、まさにシェルが行なったように、対象となる課題の事象に対して将来起こりえるシナリオを想定し、その将来に対してあらかじめ準備することを目的としています。テーマ創出においては、シナリオプラニングでは将来に起こりえるシナリオを描き、それを更に将来に向けての市場の課題やニースに展開し、テーマの創出に結び付けるという利用の仕方をします。

 

2.シナリオプラニングではないもの

 ここでさらに理解を深めていただくために、シナリオプラニング「ではないもの」について説明します。

(1)将来を「予測」するものではない

 注意すべきなのが、シナリオプラニングは将来を「予測」するものではないことです。シナリオプラニングとは、対象とするなんらかの経営課題について将来起こる可能性のある、代表的なオプションを「複数」策定するものです。どれか一つのシナリオに絞り込むとことはしません。なぜなら、シナリオプラニングにおいては、将来は「予測」できないことを前提としています。将来を規定する様々な影響因子の大半に「現在では読みきることが不可能な」不確実性が存在するために、将来を想定しようとすれば複数の可能性のあるシナリオになるからです。またどのシナリオがどの程度の確率で起こるかも議論しません。すべてのオプションが起こる可能性があることを前提とします。

(2)全てのシナリオオプションを提示するものではない

 上で複数のシナリオオプションを考えると書きましたが、どのぐらいの数のオプションを考えれば良いのでしょう?現実には将来起こる可能性のあるシナリオは無限にあります。まず、将来を規定する影響因子が数多く存在します。そして、その因子毎に考えられる将来の道筋は数多くあります。これらの組み合わせとなると、数学的に言えば無限とは言えないにしても相当の数になります。仮にそれぞれ100個づつあるとすると、100の2乗すなわち1万通りになります。その上、厳密に考えれば因子の変化は連続的な部分が大半ですから、その結果シナリオ数は無限大になります。無限大のシナリオを想定することはいずれ不可能です。

 そもそも、企業がシナリオプラニングをする以上、時間と費用の制約があり、現実的に実施できるシナリオ数は限定的な数のシナリオになります。現実的には3~4つ程度のシナリオを選んで、シナリオを創出します。

 ここで本来無限大存在するシナリオの中で、ほんの3~4つのシナリオだけを考えることに意味があるのか、という疑問が湧かもしれません。シナリオプラニングにおいては、将来に重大な影響を与える影響因子を、その影響の大きさと不確実性の大きさの2つの視点から上位2つ程度を選び、この影響因子ごとに2つの展開の可能性をもとに、2(影響因子1の2つの展開可能性)×2(影響因子2の2つの展開可能性)=4の大きなシナリオを考えます。

 これにより、全てのオプションではありませんが、企業が現実的に対処できる範囲内で、効率良くシナリオを創出します。もしシナリオプラニングを行なわなければ、1つの従来の延長線上の固定的シナリオのことしか考えないのでしょう。それが4つにもなるのですから、経営の視点から見れば十分と考えて良いのではないかと思います。

 加えて、シナリオプラニングを行なう中で、様々な影響因子を上の2つの影響因子に絞り込む前に、調査、検討、議論することで、現状より遥かに広い因子を想定する訳ですから、その過程で将来に対するシナリオプラニングの参加メンバーの知見は大きく広がります。その結果、細部はともかく大きな将来を見る俯瞰的な構想ができあがり、その結果策定する4つ程度のシナリオは、将来に向けて準備をするという目的からは十分な領域をカバーすることができるのです。

 

3.シナリオプラニングの進め方と特徴

 シナリオプラニングの進め方は、実は以前「マクロ環境分析」でも説明し...

 今回はマクロ環境分析の一つの手法である「シナリオプラニング」を解説します。

◆関連解説『アイデア発想法とは』

 

1.シナリオプラニングとは

 シナリオプラニングとは、もとともは米国が第二次世界大戦中に軍の作戦演習に開発した手法で、その後シェルが1970年代の第一次石油ショックによる原油価格の高騰のシナリオを想定し、他の石油メジャーに先駆け対応をしたことから注目を浴びるようになった手法です。

 シナリオプラニングでは、まさにシェルが行なったように、対象となる課題の事象に対して将来起こりえるシナリオを想定し、その将来に対してあらかじめ準備することを目的としています。テーマ創出においては、シナリオプラニングでは将来に起こりえるシナリオを描き、それを更に将来に向けての市場の課題やニースに展開し、テーマの創出に結び付けるという利用の仕方をします。

 

2.シナリオプラニングではないもの

 ここでさらに理解を深めていただくために、シナリオプラニング「ではないもの」について説明します。

(1)将来を「予測」するものではない

 注意すべきなのが、シナリオプラニングは将来を「予測」するものではないことです。シナリオプラニングとは、対象とするなんらかの経営課題について将来起こる可能性のある、代表的なオプションを「複数」策定するものです。どれか一つのシナリオに絞り込むとことはしません。なぜなら、シナリオプラニングにおいては、将来は「予測」できないことを前提としています。将来を規定する様々な影響因子の大半に「現在では読みきることが不可能な」不確実性が存在するために、将来を想定しようとすれば複数の可能性のあるシナリオになるからです。またどのシナリオがどの程度の確率で起こるかも議論しません。すべてのオプションが起こる可能性があることを前提とします。

(2)全てのシナリオオプションを提示するものではない

 上で複数のシナリオオプションを考えると書きましたが、どのぐらいの数のオプションを考えれば良いのでしょう?現実には将来起こる可能性のあるシナリオは無限にあります。まず、将来を規定する影響因子が数多く存在します。そして、その因子毎に考えられる将来の道筋は数多くあります。これらの組み合わせとなると、数学的に言えば無限とは言えないにしても相当の数になります。仮にそれぞれ100個づつあるとすると、100の2乗すなわち1万通りになります。その上、厳密に考えれば因子の変化は連続的な部分が大半ですから、その結果シナリオ数は無限大になります。無限大のシナリオを想定することはいずれ不可能です。

 そもそも、企業がシナリオプラニングをする以上、時間と費用の制約があり、現実的に実施できるシナリオ数は限定的な数のシナリオになります。現実的には3~4つ程度のシナリオを選んで、シナリオを創出します。

 ここで本来無限大存在するシナリオの中で、ほんの3~4つのシナリオだけを考えることに意味があるのか、という疑問が湧かもしれません。シナリオプラニングにおいては、将来に重大な影響を与える影響因子を、その影響の大きさと不確実性の大きさの2つの視点から上位2つ程度を選び、この影響因子ごとに2つの展開の可能性をもとに、2(影響因子1の2つの展開可能性)×2(影響因子2の2つの展開可能性)=4の大きなシナリオを考えます。

 これにより、全てのオプションではありませんが、企業が現実的に対処できる範囲内で、効率良くシナリオを創出します。もしシナリオプラニングを行なわなければ、1つの従来の延長線上の固定的シナリオのことしか考えないのでしょう。それが4つにもなるのですから、経営の視点から見れば十分と考えて良いのではないかと思います。

 加えて、シナリオプラニングを行なう中で、様々な影響因子を上の2つの影響因子に絞り込む前に、調査、検討、議論することで、現状より遥かに広い因子を想定する訳ですから、その過程で将来に対するシナリオプラニングの参加メンバーの知見は大きく広がります。その結果、細部はともかく大きな将来を見る俯瞰的な構想ができあがり、その結果策定する4つ程度のシナリオは、将来に向けて準備をするという目的からは十分な領域をカバーすることができるのです。

 

3.シナリオプラニングの進め方と特徴

 シナリオプラニングの進め方は、実は以前「マクロ環境分析」でも説明しましたが、対象の市場について将来を既定する影響因子を構造化し、その影響因子(グループ)の中で、上で述べたように「影響の大きさ」と「不確実性の大きさ」の2つの視点から、もっとも大きな2つの影響因子を選択し、2×2=4の4つのシナリオを策定します。

 この時重要視することは、社内・社外の英知を活用することです。社内では多様な知見を持つ人たちでチームを構成し、同時に社外の専門家の意見を単にレポートや資料を読むだけでなく、直接インタビューをしたり、実際に社外の専門家にチームに入ってもらうということで、外部の意見も積極的に取り入れます。

 また、特に影響因子について議論する場合、その市場に影響を与える様々なステークホルダの視点で考えます。冒頭のシェルの場合で言えば、産油国の政府というステークホールダの視点から考えて、「産油国政府は、増大する世界の石油需要に対し、石油メジャーにその供給を任せ続けることはない」と考えたことが、第1次石油ショックを想定するきっかけになりました。

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この記事の著者

浪江 一公

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。


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