成熟市場における競争戦略:ランチェスター戦略(その2)

1. 小が大に勝つポイント

 ランチェスター戦略(その1)に続き、今回は、ランチェスター法則が、どのようにビジネスに応用できるのかを解説します。
 
 戦闘力を「営業力」に置き換えると、ビジネスにおいては、第一法則は「営業力=武器効率×兵力数」、第二法則は「営業力=武器効率×兵力数の2乗」となります。
 
 「武器効率」は質的な経営資源を指します。例えば、製品やサービスの品質、ブランドなど付加価値、技術力、営業スキルなどです。それに対して「兵力数」は量的な経営資源を指します。例えば、営業の数、販売代理店の数、売り場面積、店舗数などです。これら質的な経営資源と量的な経営資源を掛け合わせたものが企業の営業力を決定づけます。
 
 特定の商品、地域、顧客層といった部分的・局地的な競争であれば第一法則が適用され、総合的・広域的な競争であれば第二法則が適用されます。総合的・広域的な競争の場合は、第二法則の下、量的な経営資源が2乗で作用しますので、量的経営資源の乏しい会社は、部分的な競争に活路を見出さなければ勝ち目はなくなります。かつて1990年代に、日産自動車が苦境に陥ったのは、量的経営資源に勝るトヨタ自動車に対して、車種の面でも販売チャネルの面でも、総合的にトヨタ自動車に対抗しようとしたことが原因のひとつです。
 

2. 強者と弱者

 ランチェスター戦略は市場シェアを指導原理としています。そして、市場シェアを判断基準にして弱者と強者を定義づけます。強者とは市場シェア1位の企業であり、弱者とは2位以下のすべての企業を指します。ランチェスター戦略では、市場シェア1位の企業のみが強者です。
 
 強者と弱者は、経営規模の大小は関係ありません。また、強者と弱者の判断は、国内シェアのような大きな単位だけではなく、商品・地域・顧客層といった競合局面ごとに行います。例えば、商品で言えば、サントリーはウイスキーでは強者ですが、ビールでは弱者です。地域で言えば、国内全体のコンビニの強者はセブンイレブンですが、北海道のコンビニの強者はセイコーマートです。このように競争局面によって、強者と弱者は入れ替わります。
 
 商品・地域・顧客層の市場シェアに関する情報が乏しいために、自社が弱者か強者かの見極めが難しい場合は弱者と判断すべきです。自らを弱者とみなすのは言葉の響きからして気持ちよいものではありませんが、あくまでランチェスター戦略上のことです。迷ったら弱者と判断すべきなのは、弱者が強者の戦略をとった場合は、その戦略選択の誤りによって苦境を招く可能性があるためです。
 

3. 弱者の戦略・強者の戦略

 市場シェアが2位以下の弱者はどのような戦い方を採用すべきでしょうか。第一法則は「営業力=武器効率×兵力数」ですので、弱者の基本戦略は武器効率を高めること、すなわち「差別化戦略」です。差別化とは商品をはじめ、人材やサービスなどで質的な優位性を築くことです。基本戦略に加えて、弱者の5大戦法は、「局地戦」「接近戦」「一騎討ち戦」「一点集中主義」「陽動戦」です。(図2参照):図の番号は、この連載の通し番号です。
 
ランチェスター戦略
 図2.弱者の戦略、強者の戦略
 
 一方、兵力数の多い企業は第二法則の下、総合的・広域的な戦いを行うことで圧勝が期待できますので、強者の戦略を採用します。強者の基本戦略は「ミート戦略」で、弱者が行う差別化戦略をミート(=同質化)して差別化を封じ込めることです。かつて松下電器(現パナソニック)が、ライバルであるソニーが画期的な商品を開発するたびに、同じような商品を二番手で発売し、「マネシタ電器」と揶揄されたことがありました。しかし、5万店の系列販売店会を組織し、家電流通を抑えていた強者だからこそ有効に機能した正当な戦略なのです。同質化競争に持ち込むことで武器効率が同等となるため、兵力数で勝敗が決まります。 
 
 強者の基本戦略である「ミート戦略」に加えて、強者の5大戦法は「広域戦」「遠隔戦」「確率戦」「総合主義」「誘導戦」です。
 
 次回はランチェスター戦略の3つの結論について解説します。
 

この記事の著者

米澤 裕一

弱者の戦略で名高いランチェスター戦略の専門家としての知見、および法人営業30年の実務経験に基づいて、企業の課題に即した具体的な営業強化の支援を行います。

専門分野は以下の3つです。 一つ目は、補助金を活用した設備投資支援です。ものづくり補助金を得意としており、製造業に特化して支援しています。通算採択率は90%です。その他、経営力向上計画や経営革新計画などの法認定支援を行っています。 二…

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