ランチェスター戦略とは?事例でわかりやすく解説
わかりやすい理論と数多くの実績から、ランチェスター戦略は「競争戦略のバイブル」「小が大に勝つ法則」と言われ、業種・業態・企業規模に関係なく、顧客をめぐって競合と争う企業において、幅広く採用されています。今回は、ランチェスター戦略を解説します。
1. ランチェスター戦略とは
ランチェスター戦略は、マイケル・ポーター教授によって提唱された戦略的アプローチで、主に市場における競争者との関係を分析するために使用されます。この戦略は、ランチェスターの法則と呼ばれる法則に基づいています。
(1)ランチェスターの法則
ランチェスターの法則は、市場における企業の市場シェアと競争力の関係を示す法則です。この法則によれば、市場シェアが高い企業は、市場における競争力も高まります。逆に、市場シェアが低い企業は、競争力も低くなります。この法則を理解することで、企業は自社の市場ポジショニングや競争力を向上させるための戦略を立てることができます。
(2)ランチェスター戦略、市場における競争者とは
ランチェスター戦略は、市場における競争者との関係を重視し、競争力を維持・向上させるための戦略を構築することを目的としています。競争者との比較や市場シェアの分析を通じて、自社の強みや弱みを把握し、競争優位性を確保するための施策を講じることが重要です。ランチェスター戦略を用いることで、企業は市場環境の変化に適応し、競争力を維持・強化することができます。
2. 有効なランチェスター戦略を構築するには
ランチェスター戦略を構築するためには、以下のステップに整理できます。
- ①自社の強みと弱みの把握:自社のリソース、能力、特長を正確に把握し、競合優位性を見極めることが重要です。
- ②市場の分析と理解:市場のトレンド、競合状況、顧客ニーズなどを分析し、市場環境を理解することが必要です。
- ③戦略の選択:自社の強みと市場の要求に基づいて、適切な戦略を選択することが重要です。競争戦略や成長戦略などを検討します。
- ④市場の変化への柔軟性と適応性:市場は常に変化するため、柔軟性を持ち、変化に適応することが成功の鍵となります。戦略の見直しや修正が必要な場合もあります
3. ランチェスター戦略の成功事例
- ①トヨタ自動車は、生産効率や品質管理の向上に重点を置き、コスト削減や製品の信頼性向上を実現しました。これにより、競合他社よりも優れた製品を提供することで市場での成功を収めました。
- ②コカコーラ社は、世界中での広範な流通網やマーケティング戦略を活用し、競合他社との競争をリードしました。また、ブランドイメージや消費者の忠誠心を高めるための取り組みも成功を収めました。
- ③Appleは、製品の独自性やブランド価値を高めることで、競合他社との差別化を図りました。これにより、高付加価値製品を提供することで市場での優位性を確立しました。
4. ランチェスター戦略の二つの基本原則、強者の戦略と弱者の戦略
ランチェスター戦略は、市場における自社のポジションを「強者」と「弱者」の二つに明確に分類し、それぞれの立場に合わせた異なる戦略を提唱している点が最大の特徴です。この二つの原則を理解し、自社の立ち位置を正しく見極めることが、戦略を成功させるための第一歩となります。
(1)強者の戦略:市場シェアの維持・拡大
市場において高いシェアを誇る「強者」は、広範なリソースと知名度を背景に、市場全体を支配することを目標とします。強者が取るべき戦略は「ミート戦略」や「総合戦」と呼ばれ、弱者の挑戦をあらゆる面で封じ込めることにあります。
- 広範囲のカバー
強者は、市場のあらゆるセグメントに製品やサービスを提供し、顧客の多様なニーズに応えます。これにより、弱者が入り込む隙間をなくし、市場全体を掌握します。 - 物量と質の両立
豊富な資金力を活かし、大規模な広告宣伝、販売チャネルの強化、そして研究開発への投資を行います。弱者が単一の強みで戦いを挑んできても、物量と質の面で圧倒します。 - 新技術への先行投資
イノベーションを牽引し、常に市場をリードすることで、弱者が新技術で追いつくことを困難にします。 - 防御的な姿勢
弱者が特定の分野で優位に立とうとすると、強者はその分野にリソースを集中させ、弱者の成長を妨害します。
コカ・コーラやトヨタ自動車のような企業は、まさにこの強者の戦略を実践しており、広大な市場を維持し続けています。
(2)弱者の戦略:一点集中突破と差別化
一方、市場シェアが低い「弱者」は、強者と同じ土俵で戦っては勝てません。弱者が取るべき戦略は「ゲリラ戦」や「一点集中戦略」と呼ばれ、強者が手薄な領域や、強者には真似できない独自の強みで勝負を挑むことにあります。
- 市場のニッチ(隙間)を狙う
強者が重視しない、あるいは見過ごしている特定の顧客層や地域、特定のニーズに特化します。これにより、強者との直接対決を避け、自社がナンバーワンになれる小さな市場を創造します。 - 一点集中主義
限られたリソースを一つの商品、一つのサービス、または一つの地域に集中投下します。例えば、特定の地域でのみ圧倒的なシェアを築く「地域限定戦略」や、特定の機能に特化した製品を開発する「差別化戦略」がこれに当たります。 - 独自の価値創造
価格競争ではなく、独自の技術、サービス、ブランドイメージなどを通じて、顧客に特別な価値を提供します。強者はコストをかけて弱者の真似をしようとはしないため、この独自の価値が弱者の強力な武器となります。 - 柔軟性とスピード
弱者は組織が小さい分、市場の変化や顧客のニーズに素早く対応できます。このスピード感は、強者にはない大きな強みです。
多くのベンチャー企業や中小企業は、この弱者の戦略を巧みに活用して、大手企業に打ち勝つ成功を収めてきました。
5. ランチェスター戦略を事業に活かすための具体的なステップ
ランチェスター戦略は単なる理論ではなく、具体的な行動指針として活用できる点が魅力です。自社の事業に適用する際には、以下のステップを順に踏むことが効果的です。
【自社の立ち位置を客観的に把握する】
まず、自社が属する市場において、強者なのか弱者なのかを正確に判断します。市場シェア、顧客数、ブランド知名度などを競合と比較し、現実的な立ち位置を把握します。
【戦場の選定と絞り込み】
弱者であると判断した場合、強者と直接ぶつかる「広い戦場」を避け、自社が勝てる「狭い戦場」を選びます。これは、特定の地域、特定の顧客層、特定の製品ラインなど、自社の強みを最大限に活かせるニッチな市場を見つける作業です。
【一番を目指せる目標を設定する】
選定した狭い戦場において、「一番」になるための具体的な目標を設定します。「顧客満足度ナンバーワン」「この地域でのシェアナンバーワン」など、定量的かつ達成可能な目標を立てることが重要です。
【継続的な改善と市場分析】
戦略を実行した後は、常にその効果を測定し、市場の変化に応じて戦略を修正していくことが不可欠です。顧客の反応や競合の動きを継続的に分析し、戦略の精度を高めていきます。
ランチェスター戦略は、規模の大小に関わらず、すべての企業が競争のなかで生き残り、成長するための羅針盤となります。自社の立ち位置を正しく理解し、適切な戦略を選択することで、市場における勝利を掴むことができるでしょう。
6. まとめ
ランチェスター戦略は「実務体系」が整備されていることが特徴の一つです。世の中には様々な経営戦略がありますが、ほとんどは理論のみです。それぞれの経営戦略を自分のビジネスや実務に落とし込む作業は、自らで試行錯誤しなければなりません。それに対して、ランチェスター戦略では「担当地域でいかにしてNO1になるか」「担当顧客をいかに攻略してシェアを上げていくか」など、実績と事例が豊富な四つの実務体系を参考にして、成果を追及することができます。