事例 新QC七つ道具:親和図法の使い方(その17)

 
  
 
【目次】
序論   ←掲載済
第1章  混沌解明とN7(新QC七つ道具)←掲載済
第2章  挑戦管理とN7の選択←掲載済
第3章  連関図法の使い方 ←掲載済
第4章  親和図法の使い方 ←今回
第5章  マトリックス・データ(MD)解析法の使い方
第6章  マトリックス図法の使い方
第7章  系統図法の使い方
第8章  アロー・ダイヤグラム法の使い方
第9章  PDPC法の使い方
第10章 PDCA-TC法の使い方
新QC七つ道具:第4章 親和図法の使い方

4.3 事例に見る親和図法による混沌解明のノウハウ

4.3.3 活用事例の詳細説明

Step14: B型文章化(口頭発表)

 B型文章化は、前節におけるステップの説明で言及したように、目的さえかなっておれば形式にこだわる必要はないので、事例紹介はあまり意味を持たないかもしれません。ただ、今回の場合、同じデータをもとにした2つのB型文章化があるので、それらの差を比較説明することにより、A型図解の完成度とB型文章化の関係について参考になるのではないかと思い解説しました。最後に、両事例のB型文章化を比較検討して思うところを下記にまとめました。
 

【特記事項1】事例AのB型文章化はA型図解の不十分さの補足説明が主眼

 事例Aの場合、B型文章化というよりは、最終結論の背景にある最終グループの解説の形をとり、施策についてかなり具体的に言及する形になっています。これは、A型図解の最終のグループ編成が短絡的であったため、最終表札に論理の飛躍やグループ内データの無視が見られ、B型文章化が、その補足説明になっているきらいがあります。そのために、内容が、各グループの具体的な点への言及にとどまり、B型文章化の本質である、“総括的な把握”に関する説明にまで及んでいないのです。
 
 A型図解のきちんとした詰めの大切さが再認識される反面教師的事例といえるでしょう。ただ、この場合は、QA体系の設計者が解析者と同じ筆者であったので、QA体系設計時に調整がなされ、実務上の支障はなかったのです。
 

【特記事項2】テーマがシステムのレベルアップを目指す場合のB型文章化のあり方

 この事例の場合は、将来を見越したQA体系が具備すべきと思われる内容を内部探検により抽出し、それらから、親和図法を活用して“基本方針”と“体系の基本的骨格”を結論づけるのがB型文章化の本旨です。その点、事例BのB型文章化は、当を得たものといえるでしょう。事例Aの場合も、事例Bの結論を導くもとになった具体的な内容に言及しているので、結果的に大差ないように思われがちですが、それは大きな誤りです。なぜなら、そういった具体的な内容は、“体系の基本的骨格”を結論づける上での“必要条件”ではあっても、結論づけられた基本的骨格を完成させる“十分条件”ではないからです。
 
 すなわち、新QA体系設計の際は、“基本的骨格”を導くもとになった具体的内容(A型図解)から脱却して、よりふさわしい新しい発想が求められるのです。
 

【特記事項3】混沌解明を主眼とした事例の場合のB型文章化のあり方

 ここでいう混沌とは“最近の若者は何を考えているのか分からない”といった類のもので、そういった混沌からの脱出を企図したテーマ“若者が理想とする企業像を探る”に親和図法で取り組むような場合で、オリジナル(KJ法)の領域です。この場合は、本書が対象とするテーマの場合とは根本的に違い、相手を“理解の縁”まで、懇切丁寧に導くための“B型文章化”が必要であり、必然的に長文となるのです。
 
 しかも、この場合は、“叙述”と“解釈”の厳格な識別が必須なので、その点をどのように表現するかの点でも技術的に難しいのです。ここで事例説明するわけにはいかないので、必要になったときのために、川喜田氏が、“文章化の責任を負う”としている、非常に良い事例[1](109p-117)があるので参考にしていただきたい。
 
 これは、本書のテーマとは直結しませんが、企業文化激変の現状を見るとき、場合によっては、本書で取り扱うテーマに先行する課題として必要になるケースもあるのではないか、と考えて取り上げたもので、参考にしていただければと思います。
 

4.3.4 事例に見る親和図法のおわりに

 親和図法について執筆するに当たり、オリジナルである“KJ法”を、掲載した参考文献をもとに、かなり徹底して勉強しなおしました。その結果、単なる個人的な経験則と考えていたことに対して、思わぬ裏づけや検証結果が手に入り、新たな発見につながるとともに、説明の充実にもつながったことは幸いでした。また、当初14ステップの説明用事例のつもりであった事例Bだが、その作成過程を通じ、今回の勉強で再確認した内容の検証と確認に加え、年来のテーマや疑問に対し、かなり明確な回答を得ることができました。
 
 そして、企業戦略に、個性豊かで創造性に富んだ少数意見をうまく採り入れたり、企業経営の重要課題であるナレッジ・マネジメントの死命を制する“暗黙知の形式知化”といった、これからの企業経営の枢軸に深く関わる事柄に対する「親和図法...
の役割」に気づいたことも見逃せない収穫でした。
 
 そういった意味で、当時QCとは無縁と思われていたKJ法(最終的には「親和図法」と命名)を、N7の1つに採り上げる決断をされた納谷部会長の慧眼に畏敬の念を禁じ得ないところです。(注4-16)
 
 本章では、それらを何とか伝えきろうと懸命な努力を払ったつもりだが、力及ばずの感が強く、内心忸怩たるものを感じています。願わくば、足らざるを読者諸兄諸姉のご賢察によりカバー願い、いささかなりともお役に立てていただければ幸甚至極です。
 
(注4-16)聞くところによると、N7の開発に取り組まれていた当時、QC手法開発部会において、問題自体が混沌として何処から手をつけてよいか分からない場合が多くなってきた状況を踏まえ、問題を具体的に把握したり、グループディスカッションで出た多くの人の意見や考えをコンセンサスを得た結論に導いたり、未知・未経験の問題に対する対処を可能にするQC手法のニーズが議論されていた。それを受けて、納谷部会長が「KJ法」のN7への採り上げを提案されて採用されたとのことです。
 
 次回は、章を飛び越えて、第9章  PDPC法の使い方を先に解説します。
 
【参考文献】   
 [1]「続・発想法」中公新書No.210
 

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