事例 新QC七つ道具:親和図法の使い方(その14)

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  KJ法
 
【目次】
序論   ←掲載済
第4章  親和図法の使い方 ←今回
第5章  マトリックス・データ(MD)解析法の使い方
第6章  マトリックス図法の使い方
第7章  系統図法の使い方
第8章  アロー・ダイヤグラム法の使い方
第9章  PDPC法の使い方
第10章 PDCA-TC法の使い方
 

新QC七つ道具:第4章 親和図法の使い方

 

4.3 事例に見る親和図法による混沌解明のノウハウ

 

4.3.3 活用事例の詳細説明

 
 前節で紹介した“事例A、B”を使い、両者の比較も交えて、各ステップの具体的なノウハウと勘どころを解説します。
 

Step 1:テーマの選定

 
 この連載が対象とする21世紀型スタッフワークの場合、前節で説明したように「テーマは主体性を持ち」(ポイント1)、「あるべき姿を問う形」(ポイント2)にすることが望ましいのです。しかしこの事例の場合、1N7研で与えられたテーマは“これからのQAはどうなるか?”という“思想構築のための課題”であり、上記趣旨に反する主体性のないものでした。
 
 ところが、筆者が実務上のテーマである“QA体系図の再設計”への活用を企図したこともあり、与えられたテーマを“これからのQAはどうあるべきか?”に変更して取り組んだので、結果的にテーマに主体性を持たせることができました。いま一つのポイントである“あるべき姿”についても、当時筆者は“10年先を見越したQA体系図の設計”を目指していたので、テーマにある“これからの”の中に“10年先を見越した”を含めて取り組みました。
 
 このように、結果的にテーマ選定の両ポイントをクリアした形となっていたことが、初挑戦にもかかわらず成果を生むことができたと感じており、ポイントとして強調したゆえんです。特に、完成したQA体系図がかなり先進的なものとなり得たのは、筆者のねらいがそうであったというよりも、データ採取に関わるテーマが“これからのQAはどうなるか?”と、将来展望を模索する形になっていたことが大きいと感じられ、改めてテーマ選定の重要さを感じた次第です。以下に、テーマに関する本事例特有の事項について説明します。
 

【特記事項】テーマ変更は自己課題とした

 
 当初テーマの変更をメンバーと指導講師に申請しようと思いましたが、最終的に申請せずに終わりました。申請しないで自己課題とした理由は、メンバーの会社の事情がそれぞれ違うので、メンバーそれぞれが主体性を念頭にしたのでは、データの拡散がひどくなり、解析に堪えないものになる心配があったのと、“~はどうなるか?”で採取したデータは、QAの将来を模索する形となるので、“10年先を見越した”を念頭に置いた“~はどうあるべきか?”のベースとしても貴重だと考えたからです。
 

Step 2:メンバーの選定

 
 メンバーは、1N7研生をグループ分けしたB班の、筆者を含めた6人です。このテーマは、一企業の範疇にとどまらない、高度で未来志向のものだったので、それぞれ立派な企業のTQC推進関係者からなるメンバー構成は願ってもない格好のものでした。特に、筆者の場合、顧客がすべて企業であったので、エンドユーザーと直結した会社のメンバーからのデータは貴重で、特にPL関連の結論の充実に有効でした。以上のように、この事例では、テーマに対して、願ってもない好条件のメンバーに恵まれたのです。
 
 しかし、通常はメンバーを社内から選ぶことになるので、このようなわけにはいかないが、このステップでは、前節であげたポイントを念頭にベストメンバーを選定することに注力します。その上で、入手データの質に対する不安感があるときは、Step3のポイント1にあげたように、メンバーの勉強を促すとよいでしょう。
 

Step 3:言語データの採取

 
 本事例でも、採取手段はBS(ブレーン・ストーミング)法ですが、QCに一家言を持つそうそうたるメンバーだっただけに、“BSの四原則”の確認の必要はまったくなく、活発にして有用なデータを入手することができました。ただ、データの偏り(欠落)が見られ、データ採取におけるデリケートさを痛感しました。その理由を【特記事項】で、反省点を【反省事項】で詳述します。
 

【特記事項】入手データの偏り(欠落)が生じた

 
 データ採取における筆者の自主課題(~はどうあるべきか?)の影響を危惧し、発言には慎重を期したつもりでしたが、結果的に他班と比較したとき、決定的な違い(欠落)が見られました。というのは、N7提唱の書に、同じ1N7研での2つの事例が紹介されていますが、その双方にある“公的または、外的機関による影響”に関するデータが欠落していたのです。
 

【反省事項】データの偏り(欠落)の原因

 
 これは、当時筆者が他メンバーよりも本題への関心が高く、その分、内省によるデータが他メンバーより具体的で豊富だったため、筆者の内向き思考の発言が、皆の発言をリードする形となり、公的・外的な面に関するデータが欠落する結果になったように思われます。すなわち、“~はどうあるべきか?”となると、企業や産業界に関する主体的色彩の強いデータが先行することになり、公的・外的機関の動向・趨勢に関するものが欠落したものと思われます。読者の中には、リーダー的立場の方が多いと思われますが、反面教師として参考にしていただけるのではないかと思います。
 

Step 4:データの確認・整理

 
 この事例の場合は、会社も立場も違うメンバーがグループを形成していたこともあって、データに対する確認は、データの採取時、その内容や背景についての説明が同時進行で行われ、通常のステップとは違った形になりました。
 
 このように、データの背景説明を逐一実施する形式となったことにより、データに対する諸説明が、次の発言の呼び水になるなど思わぬメリットもありましたが、【特記事項】で詳述するようなデメリットが大きかったので、注意が必要です。
 

【特記事項】先行カード寄せの功罪

 
 ほとんどのデータについて、発言ごとにその内容や背景の確認を行ったので、データ採取に時間を要しましたが、その間に、メンバーの頭の中では、かなりのレベルで“カード寄せ”が先行実施されており、その分カード寄せは結構スムーズでした。
 
 このことは、時...
 
  KJ法
 
【目次】
序論   ←掲載済
第4章  親和図法の使い方 ←今回
第5章  マトリックス・データ(MD)解析法の使い方
第6章  マトリックス図法の使い方
第7章  系統図法の使い方
第8章  アロー・ダイヤグラム法の使い方
第9章  PDPC法の使い方
第10章 PDCA-TC法の使い方
 

新QC七つ道具:第4章 親和図法の使い方

 

4.3 事例に見る親和図法による混沌解明のノウハウ

 

4.3.3 活用事例の詳細説明

 
 前節で紹介した“事例A、B”を使い、両者の比較も交えて、各ステップの具体的なノウハウと勘どころを解説します。
 

Step 1:テーマの選定

 
 この連載が対象とする21世紀型スタッフワークの場合、前節で説明したように「テーマは主体性を持ち」(ポイント1)、「あるべき姿を問う形」(ポイント2)にすることが望ましいのです。しかしこの事例の場合、1N7研で与えられたテーマは“これからのQAはどうなるか?”という“思想構築のための課題”であり、上記趣旨に反する主体性のないものでした。
 
 ところが、筆者が実務上のテーマである“QA体系図の再設計”への活用を企図したこともあり、与えられたテーマを“これからのQAはどうあるべきか?”に変更して取り組んだので、結果的にテーマに主体性を持たせることができました。いま一つのポイントである“あるべき姿”についても、当時筆者は“10年先を見越したQA体系図の設計”を目指していたので、テーマにある“これからの”の中に“10年先を見越した”を含めて取り組みました。
 
 このように、結果的にテーマ選定の両ポイントをクリアした形となっていたことが、初挑戦にもかかわらず成果を生むことができたと感じており、ポイントとして強調したゆえんです。特に、完成したQA体系図がかなり先進的なものとなり得たのは、筆者のねらいがそうであったというよりも、データ採取に関わるテーマが“これからのQAはどうなるか?”と、将来展望を模索する形になっていたことが大きいと感じられ、改めてテーマ選定の重要さを感じた次第です。以下に、テーマに関する本事例特有の事項について説明します。
 

【特記事項】テーマ変更は自己課題とした

 
 当初テーマの変更をメンバーと指導講師に申請しようと思いましたが、最終的に申請せずに終わりました。申請しないで自己課題とした理由は、メンバーの会社の事情がそれぞれ違うので、メンバーそれぞれが主体性を念頭にしたのでは、データの拡散がひどくなり、解析に堪えないものになる心配があったのと、“~はどうなるか?”で採取したデータは、QAの将来を模索する形となるので、“10年先を見越した”を念頭に置いた“~はどうあるべきか?”のベースとしても貴重だと考えたからです。
 

Step 2:メンバーの選定

 
 メンバーは、1N7研生をグループ分けしたB班の、筆者を含めた6人です。このテーマは、一企業の範疇にとどまらない、高度で未来志向のものだったので、それぞれ立派な企業のTQC推進関係者からなるメンバー構成は願ってもない格好のものでした。特に、筆者の場合、顧客がすべて企業であったので、エンドユーザーと直結した会社のメンバーからのデータは貴重で、特にPL関連の結論の充実に有効でした。以上のように、この事例では、テーマに対して、願ってもない好条件のメンバーに恵まれたのです。
 
 しかし、通常はメンバーを社内から選ぶことになるので、このようなわけにはいかないが、このステップでは、前節であげたポイントを念頭にベストメンバーを選定することに注力します。その上で、入手データの質に対する不安感があるときは、Step3のポイント1にあげたように、メンバーの勉強を促すとよいでしょう。
 

Step 3:言語データの採取

 
 本事例でも、採取手段はBS(ブレーン・ストーミング)法ですが、QCに一家言を持つそうそうたるメンバーだっただけに、“BSの四原則”の確認の必要はまったくなく、活発にして有用なデータを入手することができました。ただ、データの偏り(欠落)が見られ、データ採取におけるデリケートさを痛感しました。その理由を【特記事項】で、反省点を【反省事項】で詳述します。
 

【特記事項】入手データの偏り(欠落)が生じた

 
 データ採取における筆者の自主課題(~はどうあるべきか?)の影響を危惧し、発言には慎重を期したつもりでしたが、結果的に他班と比較したとき、決定的な違い(欠落)が見られました。というのは、N7提唱の書に、同じ1N7研での2つの事例が紹介されていますが、その双方にある“公的または、外的機関による影響”に関するデータが欠落していたのです。
 

【反省事項】データの偏り(欠落)の原因

 
 これは、当時筆者が他メンバーよりも本題への関心が高く、その分、内省によるデータが他メンバーより具体的で豊富だったため、筆者の内向き思考の発言が、皆の発言をリードする形となり、公的・外的な面に関するデータが欠落する結果になったように思われます。すなわち、“~はどうあるべきか?”となると、企業や産業界に関する主体的色彩の強いデータが先行することになり、公的・外的機関の動向・趨勢に関するものが欠落したものと思われます。読者の中には、リーダー的立場の方が多いと思われますが、反面教師として参考にしていただけるのではないかと思います。
 

Step 4:データの確認・整理

 
 この事例の場合は、会社も立場も違うメンバーがグループを形成していたこともあって、データに対する確認は、データの採取時、その内容や背景についての説明が同時進行で行われ、通常のステップとは違った形になりました。
 
 このように、データの背景説明を逐一実施する形式となったことにより、データに対する諸説明が、次の発言の呼び水になるなど思わぬメリットもありましたが、【特記事項】で詳述するようなデメリットが大きかったので、注意が必要です。
 

【特記事項】先行カード寄せの功罪

 
 ほとんどのデータについて、発言ごとにその内容や背景の確認を行ったので、データ採取に時間を要しましたが、その間に、メンバーの頭の中では、かなりのレベルで“カード寄せ”が先行実施されており、その分カード寄せは結構スムーズでした。
 
 このことは、時間的制約のある研修課題にとってはありがたかったのです。しかし、今回再挑戦してみてはじめて気づいたのですが、その分、カード寄せ時の親和性追求が発言者の説明の域を出ず、結果として、新たな発想を生むベースである“データに語らしめる”という点が希薄になったように思います。ただ、こういったことは、程度の差こそあれ日常的に行われがちであり、それを皆無にすることは難しいでしょう。後述しますが、筆者が、その後独自に追加した“Step 6 データの吟味・熟成”は、結果としてこの点に対する対策となっています。
 
 次回は、Step 5から解説を続けます。

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この記事の著者

浅田 潔

100年企業を目指す中小企業のため独自に開発した高効率な理念経営体系を柱に経営者と伴走します。

100年企業を目指す中小企業のため独自に開発した高効率な理念経営体系を柱に経営者と伴走します。


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