イノベーション活動とTRIZ(その3)

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 何を作ったら良いか分らない状態の下で、新商品/新システムを考え出すために、イノベーション活動とTRIZの表題で、前回のその2に続いて、最終回を解説します。
 
 

1-A)スーパーシステムへの移行の利用

 
 新商品としての新しい課題を「対象システム」として中心に置き、対象システムを包含する「スーパー
システム」や対象システムを支える「サブシステム」を考えます。この方法の基本である「9画面法 2)」を図5に示します。9画面法は対象の技術の過去も考慮し、そこから現在を通して、未来にあるべき姿を想定しようとします。対象システムを「後方映像表示システム」とした場合、ゴーグルへの表示や更には後方車の接近速度の超音波計測との併用で衝突危険信号を出すという未来の姿を描くことができます。
 
                       TRIZ
                                                             図5. 9画面法
 

1-B)技術システム進化の法則の利用

 
 生物の進化と同様に技術システムは「進化」していると捉え、進化には一定のパターンがあるという考え方1)3)4)です。最初に提案したG.Altshullerによる技術システムの進化の八つの法則をスタートとして、多くの研究者によって改良版が種々提案4)されています。筆者はG.Altshullerの法則を基本に改良した表1のものを用いています。
 
                     表1.技術システム進化の法則
                          TRIZ
 
 上位目的を支えるSub目的やその手段の中から選択した対象システムを「技術システム進化の法則」を適用することで、更に望ましい進化した形のシステムに発展させることができます。また、上記9画面法で得た未来の上位システムに対し技術システムの進化を適用することで、更なるブラッシュアップをさせることができます。 対象システムを「後方映像表示システム」とした場合、制御性向上の観点から、後方画像から後方の車との車間距離の縮まり方を計算し、危険領域に入る前から「予告の」警告を出させるという更に望ましいシステムに発展させることが考えられます。
 

2)10年後の未来素案の作成

 
 こうしてブラッシュアップしたシステムを、10年後に展開することを想定して商品/システムの姿を考えます。10年後の姿なので、技術的に確立していないことも含めてできるだけ理想的な状況をイメージし、個々のメンバーでシナリオ案(未来素案)を作成します。現状からの連続思考で未来を考える
のでは現在の延長線上から抜け出すことができないことが多いけれども、10年という近未来を考えることで、理想に近い状況を強制的に想定することになり、変革に踏み出せるようになります。
 

3)10年後の未来案(統合案)の作成

 
 各人の作成した未来素案を持ち寄り評価した上で、その中で最も良いと思われる案を選び、それを基本にその他の案の中の良い点を書き加えて「10年後の未来案(統合案)」を完成させます(図6)。
 
               TRIZ
                   図6. 10年後の未来案(統合案)の作成
 

4)製品化シナリオの作成

 
 この次のステップとして、3年後?10年後の社会変化を想定して商品が近い将来に受け入れられる形に仕立てます。社会変化として考える項目としては下記、図7の中の右部分ですが、詳細な数字は厚生労働省や国連機関から公表されていますので、それらを利用します。
 
               TRIZ
                          図7. 社会変化の視点と製品化シナリオの作成
 
 対象システムを「後方映像表示システム」とした場合、例えば高齢者にも見やすい後方の映像や、女性に受け入れられるデザインを取り入れるなどの要素を組み込んだ上で3年後を見据えたシステムに仕立てます。
 

5.新商品開発法(S2D)は新商品の企画を確実に短時間で行う方法

 
 図7に示したように、「システム思考:上位目的」→「ターゲットのブラッシュアップ」→「10年後の未来案」→「製品化シナリオ」のステップを順にたどることで、3年後をターゲットとした新商品の企画案に到達することができます。
 
  既存の商品の改良にとどまらず、市場から望まれる商品の形を体系的に考えることにより、新商品開発の企画が短時間でできるようになります。新商品や新システムを開発するために、ひたすら精神論でガンバっても時間と労力の無駄遣いに終ってしまいます。そのための企画を、周囲も納得できる内容でしかも短時間で提案するためにはステップを踏んだ正しいやり方が必要です。対象とする商品がはっきり定まっておらず状況があいまいな中で「画期的な新規商品を何とか考えろ」と言われて、どこから手をつけたものかどうやったらよいか分らず困っている方でも、上記のステップをたどれば確実に開発すべき新商品や新システムを企画できます。
 
 この新商品開発法(S2D)は、ものづくりの企業だけでなく、新しいビジネスモデルの模索をしている方にもご利用いただける方法です。また、この方法は、自社の製品としてどのようなものがあるかを一通り理解されていて、かつ新しい商品を開発したいという意欲のある方であれば、技術者に限らず事務職、営業職などどなたにも使える方法です。又、この新商品開発法は新商品の企画を確実に短時間で行う方法です。ここで手にした企画を商品の形に仕上げるには、新しく開発すべき技術がいくつか含まれているのが通常で、技術開発のための次のステージに移すことが必要です。この技術開発に対してはTRIZ 1)3)4)7)や、その実践方法であるUSIT 8)9)という強力な方法が別途用意されていますので、これを用いて解決することができます。
 
参考文献
1) 澤口 学「VEとTRIZ」同友館、2002年
2) 赤尾洋二「品質展開入門」日科技連出版、1990年
3) 三菱総合研究所知識創造研究部「革新的技術開発の技法 図解TRIZ」日本実業出版、1999年
4) D.Mann著、知識創造研究グループ訳「TRIZ実践と効用体系的技術革新」創造開発イニシアチブ、2004年
5) 澤口 学「TRIZ、VE、マーケティングを活用した革新的新製品開発アプローチから誕生した次世代型ポータブルトイレ?積水ライフテック株式会社のケース」:http://www.hj.sanno.ac.jp/files/cp/page/6096/trizcon200.pdf
6) 三原祐治「新商品開発法S2D-新商品の企画を確実に短時間で行う方法-」 :研究開発リーダー 2013年5月号、P.62
7) 三原祐治「わかりやすい課題解決実践法-第1回 企業/社会の要求と技術者がやるべきこと」:研究開発リーダー 2012年2月号、P.42
8) 三原祐治「わかりやすい課題解決実践法-第2回 課題解決実践法-USIT」:研究開発リーダー 2012年3月号、P.36
9) http://www.triz-usit.com
 
 
 

◆関連解説『USITとは』

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 何を作ったら良いか分らない状態の下で、新商品/新システムを考え出すために、イノベーション活動とTRIZの表題で、前回のその2に続いて、最終回を解説します。
 
 

1-A)スーパーシステムへの移行の利用

 
 新商品としての新しい課題を「対象システム」として中心に置き、対象システムを包含する「スーパー
システム」や対象システムを支える「サブシステム」を考えます。この方法の基本である「9画面法 2)」を図5に示します。9画面法は対象の技術の過去も考慮し、そこから現在を通して、未来にあるべき姿を想定しようとします。対象システムを「後方映像表示システム」とした場合、ゴーグルへの表示や更には後方車の接近速度の超音波計測との併用で衝突危険信号を出すという未来の姿を描くことができます。
 
                       TRIZ
                                                             図5. 9画面法
 

1-B)技術システム進化の法則の利用

 
 生物の進化と同様に技術システムは「進化」していると捉え、進化には一定のパターンがあるという考え方1)3)4)です。最初に提案したG.Altshullerによる技術システムの進化の八つの法則をスタートとして、多くの研究者によって改良版が種々提案4)されています。筆者はG.Altshullerの法則を基本に改良した表1のものを用いています。
 
                     表1.技術システム進化の法則
                          TRIZ
 
 上位目的を支えるSub目的やその手段の中から選択した対象システムを「技術システム進化の法則」を適用することで、更に望ましい進化した形のシステムに発展させることができます。また、上記9画面法で得た未来の上位システムに対し技術システムの進化を適用することで、更なるブラッシュアップをさせることができます。 対象システムを「後方映像表示システム」とした場合、制御性向上の観点から、後方画像から後方の車との車間距離の縮まり方を計算し、危険領域に入る前から「予告の」警告を出させるという更に望ましいシステムに発展させることが考えられます。
 

2)10年後の未来素案の作成

 
 こうしてブラッシュアップしたシステムを、10年後に展開することを想定して商品/システムの姿を考えます。10年後の姿なので、技術的に確立していないことも含めてできるだけ理想的な状況をイメージし、個々のメンバーでシナリオ案(未来素案)を作成します。現状からの連続思考で未来を考える
のでは現在の延長線上から抜け出すことができないことが多いけれども、10年という近未来を考えることで、理想に近い状況を強制的に想定することになり、変革に踏み出せるようになります。
 

3)10年後の未来案(統合案)の作成

 
 各人の作成した未来素案を持ち寄り評価した上で、その中で最も良いと思われる案を選び、それを基本にその他の案の中の良い点を書き加えて「10年後の未来案(統合案)」を完成させます(図6)。
 
               TRIZ
                   図6. 10年後の未来案(統合案)の作成
 

4)製品化シナリオの作成

 
 この次のステップとして、3年後?10年後の社会変化を想定して商品が近い将来に受け入れられる形に仕立てます。社会変化として考える項目としては下記、図7の中の右部分ですが、詳細な数字は厚生労働省や国連機関から公表されていますので、それらを利用します。
 
               TRIZ
                          図7. 社会変化の視点と製品化シナリオの作成
 
 対象システムを「後方映像表示システム」とした場合、例えば高齢者にも見やすい後方の映像や、女性に受け入れられるデザインを取り入れるなどの要素を組み込んだ上で3年後を見据えたシステムに仕立てます。
 

5.新商品開発法(S2D)は新商品の企画を確実に短時間で行う方法

 
 図7に示したように、「システム思考:上位目的」→「ターゲットのブラッシュアップ」→「10年後の未来案」→「製品化シナリオ」のステップを順にたどることで、3年後をターゲットとした新商品の企画案に到達することができます。
 
  既存の商品の改良にとどまらず、市場から望まれる商品の形を体系的に考えることにより、新商品開発の企画が短時間でできるようになります。新商品や新システムを開発するために、ひたすら精神論でガンバっても時間と労力の無駄遣いに終ってしまいます。そのための企画を、周囲も納得できる内容でしかも短時間で提案するためにはステップを踏んだ正しいやり方が必要です。対象とする商品がはっきり定まっておらず状況があいまいな中で「画期的な新規商品を何とか考えろ」と言われて、どこから手をつけたものかどうやったらよいか分らず困っている方でも、上記のステップをたどれば確実に開発すべき新商品や新システムを企画できます。
 
 この新商品開発法(S2D)は、ものづくりの企業だけでなく、新しいビジネスモデルの模索をしている方にもご利用いただける方法です。また、この方法は、自社の製品としてどのようなものがあるかを一通り理解されていて、かつ新しい商品を開発したいという意欲のある方であれば、技術者に限らず事務職、営業職などどなたにも使える方法です。又、この新商品開発法は新商品の企画を確実に短時間で行う方法です。ここで手にした企画を商品の形に仕上げるには、新しく開発すべき技術がいくつか含まれているのが通常で、技術開発のための次のステージに移すことが必要です。この技術開発に対してはTRIZ 1)3)4)7)や、その実践方法であるUSIT 8)9)という強力な方法が別途用意されていますので、これを用いて解決することができます。
 
参考文献
1) 澤口 学「VEとTRIZ」同友館、2002年
2) 赤尾洋二「品質展開入門」日科技連出版、1990年
3) 三菱総合研究所知識創造研究部「革新的技術開発の技法 図解TRIZ」日本実業出版、1999年
4) D.Mann著、知識創造研究グループ訳「TRIZ実践と効用体系的技術革新」創造開発イニシアチブ、2004年
5) 澤口 学「TRIZ、VE、マーケティングを活用した革新的新製品開発アプローチから誕生した次世代型ポータブルトイレ?積水ライフテック株式会社のケース」:http://www.hj.sanno.ac.jp/files/cp/page/6096/trizcon200.pdf
6) 三原祐治「新商品開発法S2D-新商品の企画を確実に短時間で行う方法-」 :研究開発リーダー 2013年5月号、P.62
7) 三原祐治「わかりやすい課題解決実践法-第1回 企業/社会の要求と技術者がやるべきこと」:研究開発リーダー 2012年2月号、P.42
8) 三原祐治「わかりやすい課題解決実践法-第2回 課題解決実践法-USIT」:研究開発リーダー 2012年3月号、P.36
9) http://www.triz-usit.com
 
 
 

◆関連解説『USITとは』

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この記事の著者

三原 祐治

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