イノベーション活動とTRIZ(その2)

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 TRIZ何を作ったら良いか分らない状態の下で、新商品/新システムを考え出すために、イノベーション活動とTRIZの表題で、前回のその1に続いて解説します。
 
 

3.新商品を生み出す従来からの方法

 
 新商品を考え出すために従来からいろいろ工夫がなされてきています。その代表的なものには、0  Look VE(企画段階のVE)1)やQFD(品質機能展開)2)などがあります。一方でTRIZの中にも新商品を考え出すための方法があります。対象がある程度見えている場合はTRIZで「なぜなぜ分析」等を用いて原因を追究し「やるべきこと」をはっきりさせることも可能です。また、TRIZの主要な構成要素の一つである「技術進化の法則」3)を利用し、対象とする技術が将来進化するであろう姿を予測する方法もあります。
 
 TRIZを扱う方法の一つである「9画面法」4)を活用して、対象とする技術を「過去」から「現在」を経て「未来」を予測し、なおかつ対象技術を包含する技術システムを考えようとする方法もあります。これらの手法とマーケティング手法を組み合わせて5)用いられたりもしています。
 
 ここではこれらの方法についての説明は割愛しますが、これらは目的とする商品の狙い方や状況の捉え方によって差はあるものの、基本的には対象とするモノや技術に対して、現状の問題点を認識することから出発し、その問題を解決する新しい商品を考え出そうとするものです。
 
 問題がはっきりしていてターゲットの概要が見えるような場合は、多くの経験からの知見が生かされる従来から知られている方法で対処できます。しかし、前章で述べたような、「目標が漠然と」していて、単に「新商品を開発せよ」と言われるだけのような場合はターゲットを絞ることが困難で、どこから手をつけてよいか分らず、手をつけたとしてもそれが正しいことなのかどうか自信が持てないということになってしまいます。
 
 このような状況下でも新製品/新システムの企画ができるように、TRIZの進化の法則や9画面法の捉え方も組み込んだ製品化シナリオ作成のやり方を整理し説明します。これから述べる方法で得たシナリオを 0 Look VEやQFDで補強すると、更に良い企画とすることが可能になります。
 

4.新商品開発を進めるための方法(S2D)

 
新商品開発法(S2D)6)の概要を図2に示します。また、これらの各論は以下に述べます。
 
        TRIZ
                   図2.新商品開発法(S2D法)の概要
 

1)システム思考「上位目的とそのための手段の利用」

 
 まず、自分達が持っている技術を出発点にして商品のマップをとらえ、パラダイムシフトを考えることで現在保有している技術や商品にこだわらない範囲への拡張を図ります。これにより、商品や技術の必要性すなわち人間の顕在的および潜在的な欲求を引き出します。とはいえ、全く「土地勘」のない領域をめくらめっぽう探し回っても時間と労力の無駄遣いです。自分達が持っている技術領域の周辺から探るのが良策であり、自分達の力(時間・人手)に応じてその領域を広げていけばよいのです。したがって、自分達がよく知っている「現在のシステム」からスタートし、「現在のシステム」が社会から要求されている理由、つまり“何のためにこの現在のシステムがあるのか”を考えて「上位目的」をとらえます。更に現在のシステムおよび、上位目的を支える「Sub目的」や、Sub目的を支える「手段」を列挙します(図3)
 
           TRIZ
                     図3.上位目的とそのための手段の概念図
 
 例として、バイクのサイドミラーから出発します(図4)。ミラーはバイクを使う一部として存在しており、バイクを使うのは目的地に移動するためです。目的地への移動のためのSub目的として「楽に行く」「早く行く」「安全に行く」などがあります(ミラーは安全に行くための手段です)ミラーを使わずに安全に行くための別の手段として後方カメラが考えられます。それを更に発展させると「後方の映像を表示させるシステム」が考えられます。
 
      TRIZ  
                      図4.上位目的とそのための手段の具体例
 
 この例では「後方カメラ」やその「映像表示システム」、更に「居眠り監視機構」や、全く別視点の「自動誘導システム」や「車輌共有システム」など、もはやミラーとは関係ないシステムなどが提案されます。新商品のタネはたくさんころがっているのです。これらの「Sub目的」や「手段」の中で自分達が乗り出せそうな領域、即ち自分達の技術力、市場規模、競争力、etc.を考慮して絞り込み選択し、それを対象システムとします。
 
 これを基にして、次回、その3では、二つの方法で更にブラッシュアップします。
 
参考文献
1)澤口学「VEとTRIZ」同友館、2002年
2)赤尾洋二「品質展開入門」日科技連出版、1990年
3)三菱総合研究所知識創造研究部「革新的技術開発の技法 図解TR...
 TRIZ何を作ったら良いか分らない状態の下で、新商品/新システムを考え出すために、イノベーション活動とTRIZの表題で、前回のその1に続いて解説します。
 
 

3.新商品を生み出す従来からの方法

 
 新商品を考え出すために従来からいろいろ工夫がなされてきています。その代表的なものには、0  Look VE(企画段階のVE)1)やQFD(品質機能展開)2)などがあります。一方でTRIZの中にも新商品を考え出すための方法があります。対象がある程度見えている場合はTRIZで「なぜなぜ分析」等を用いて原因を追究し「やるべきこと」をはっきりさせることも可能です。また、TRIZの主要な構成要素の一つである「技術進化の法則」3)を利用し、対象とする技術が将来進化するであろう姿を予測する方法もあります。
 
 TRIZを扱う方法の一つである「9画面法」4)を活用して、対象とする技術を「過去」から「現在」を経て「未来」を予測し、なおかつ対象技術を包含する技術システムを考えようとする方法もあります。これらの手法とマーケティング手法を組み合わせて5)用いられたりもしています。
 
 ここではこれらの方法についての説明は割愛しますが、これらは目的とする商品の狙い方や状況の捉え方によって差はあるものの、基本的には対象とするモノや技術に対して、現状の問題点を認識することから出発し、その問題を解決する新しい商品を考え出そうとするものです。
 
 問題がはっきりしていてターゲットの概要が見えるような場合は、多くの経験からの知見が生かされる従来から知られている方法で対処できます。しかし、前章で述べたような、「目標が漠然と」していて、単に「新商品を開発せよ」と言われるだけのような場合はターゲットを絞ることが困難で、どこから手をつけてよいか分らず、手をつけたとしてもそれが正しいことなのかどうか自信が持てないということになってしまいます。
 
 このような状況下でも新製品/新システムの企画ができるように、TRIZの進化の法則や9画面法の捉え方も組み込んだ製品化シナリオ作成のやり方を整理し説明します。これから述べる方法で得たシナリオを 0 Look VEやQFDで補強すると、更に良い企画とすることが可能になります。
 

4.新商品開発を進めるための方法(S2D)

 
新商品開発法(S2D)6)の概要を図2に示します。また、これらの各論は以下に述べます。
 
        TRIZ
                   図2.新商品開発法(S2D法)の概要
 

1)システム思考「上位目的とそのための手段の利用」

 
 まず、自分達が持っている技術を出発点にして商品のマップをとらえ、パラダイムシフトを考えることで現在保有している技術や商品にこだわらない範囲への拡張を図ります。これにより、商品や技術の必要性すなわち人間の顕在的および潜在的な欲求を引き出します。とはいえ、全く「土地勘」のない領域をめくらめっぽう探し回っても時間と労力の無駄遣いです。自分達が持っている技術領域の周辺から探るのが良策であり、自分達の力(時間・人手)に応じてその領域を広げていけばよいのです。したがって、自分達がよく知っている「現在のシステム」からスタートし、「現在のシステム」が社会から要求されている理由、つまり“何のためにこの現在のシステムがあるのか”を考えて「上位目的」をとらえます。更に現在のシステムおよび、上位目的を支える「Sub目的」や、Sub目的を支える「手段」を列挙します(図3)
 
           TRIZ
                     図3.上位目的とそのための手段の概念図
 
 例として、バイクのサイドミラーから出発します(図4)。ミラーはバイクを使う一部として存在しており、バイクを使うのは目的地に移動するためです。目的地への移動のためのSub目的として「楽に行く」「早く行く」「安全に行く」などがあります(ミラーは安全に行くための手段です)ミラーを使わずに安全に行くための別の手段として後方カメラが考えられます。それを更に発展させると「後方の映像を表示させるシステム」が考えられます。
 
      TRIZ  
                      図4.上位目的とそのための手段の具体例
 
 この例では「後方カメラ」やその「映像表示システム」、更に「居眠り監視機構」や、全く別視点の「自動誘導システム」や「車輌共有システム」など、もはやミラーとは関係ないシステムなどが提案されます。新商品のタネはたくさんころがっているのです。これらの「Sub目的」や「手段」の中で自分達が乗り出せそうな領域、即ち自分達の技術力、市場規模、競争力、etc.を考慮して絞り込み選択し、それを対象システムとします。
 
 これを基にして、次回、その3では、二つの方法で更にブラッシュアップします。
 
参考文献
1)澤口学「VEとTRIZ」同友館、2002年
2)赤尾洋二「品質展開入門」日科技連出版、1990年
3)三菱総合研究所知識創造研究部「革新的技術開発の技法 図解TRIZ」日本実業出版、1999年
4)D.Mann著、知識創造研究グループ訳「TRIZ実践と効用体系的技術革新」創造開発イニシアチブ、    2004年
5)澤口学「TRIZ、VE、マーケティングを活用した革新的新製品開発アプローチから誕生した次世代型ポータブルトイレ〜積水ライフテック株式会社のケース」
6)三原祐治「新商品開発法S2D-新商品の企画を確実に短時間で行う方法-」 :研究開発リーダー 2013年5月号、P.62
 
 
 

◆関連解説『USITとは』

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この記事の著者

三原 祐治

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