仕事のやり方を統一するとは

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1. 自由度が高い物流作業

 多くの会社で仕事のやり方がばらばらだという現象が起きています。これに気づかない経営者もいますし、気づいていても何の違和感も抱かない方もいらっしゃいます。このような状況を皆さんはどのように考えますでしょうか。仕事のやり方がばらばらになる要因から考えていきましょう。物流作業は他の仕事と比較するとどちらかというと自由度が高い仕事だといえます。たとえば工場の中のA地点からB地点まで運搬することを例にとって考えてみます。その距離が50mだったとすると、その間をフォークリフトで運搬することが考えられます。別のやり方はどうでしょう。台車に載せて牽引車で運搬することもあるでしょう。他には?手押し台車で人が押しながら運ぶことが考えられます。
 
 このように、物流作業は同じ仕事をいろいろな方法でこなすことができるのです。ですから方法は特に決めずに作業者任せになっている可能性が高いのです。作業が機械加工だとすると、使用する機械が決まります。加工精度も決められており、一定の決められた品質のモノをアウトプットしなければなりません。組立作業も順序が決められ、組立に使う治工具も決まっています。ですから誰が行っても同じ方法でやらざるを得ないことになります。
 
 一方で物流作業の自由度は運搬に限りません。梱包作業でもピッキング作業でも人によってやり方が異なることの方が多いと思われます。この自由度の高さは一見よさそうにも感じられますが、デメリットの方が大きいと思います。その理由について考えてみましょう。まず考えられるのが作業品質のバラつきです。作業者任せにされている以上、仕事の結果もその人の特徴が出ます。几帳面な人と大雑把な人とでは当然結果品質に差が出てしまいます。もう一つ考えられるのが作業速度のバラつきです。やり方が異なれば仕事のスピードが異なるのはある意味で当然のことかもしれません。
 
SCM
 

2. 管理監督者と現場管理

 物流倉庫で仕事を見ていると、たとえば梱包作業で次のような現象に気づくことがあります。
 
・AさんとBさんとで梱包作業台の大きさが異なる
・梱包作業手順が異なる
・梱包に使用する緩衝材が異なる
・緩衝材の使用量が異なる
・結果的に作業速度が異なる
 
 いくら物流作業は自由度が高いからといって、同じ作業でこのような差が出ることは決して好ましいことではありません。この原因はどこにあるのでしょうか。はい、それはずばり管理監督者にあります。物流センターでいえばセンター長や現場リーダーに原因があるのです。
 
 管理監督者の最大のタスクとして「現場管理」が挙げられます。この現場管理の基本として作業の標準化があります。最小のコストで高品質のモノをアウトプットする方法を決めるのは管理監督者の役割であり、それが作業の標準化です。この考え方を持っていない管理監督者は本来やるべき仕事ができていないといわざるを得ません。自職場のすべての仕事を標準化し、誰がやっても同じ結果が出るようにしなければならないのです。自由度が高くても、その中でどのようなやり方がベストなのかを考える必要があるのです。
 
 そして考えた結果を標準作業とし、その作業を部下に教え込まなければなりません。管理監督者は部下の自律性を語る前に、仕事の基本を自ら構築し、それを教える必要があるのです。失格管理監督者は自分の怠慢を棚に上げ、「仕事は自ら考えてやるものだ」ともっともらしいことを口にして作業者任せにします。自由度の高い仕事を作業者任せにすることは自律性を求めることとは違います。標準作業を行った上でさらによいやり方を考えさせることが必要なのです。ですから、梱包の作業台の規格はこうである、作業手順はこの方法で、ということをきちんと決めてから部下に作業をしてもらいましょう。もし自職場でまだ作業者任せにしている点があるとすれば、管理監督者は十分に機能していないと考えた方がよさそうです。
 

3. 「形」と機転

 「御社ならではの仕事って何ですか?」このように聞かれて即答できますでしょうか。運送でも倉庫でもこれは、という統一した仕事をしていれば回答はできるでしょう。しかし回答ができないとすると、もしかしたら仕事の「形」ができていないのかもしれません。柔道や舞踊でも同じですが「形」の重要性については物流も認識しなければなりません。だからこそその会社の仕事のやり方はまず「形」として成立していなければなりません。庫内作業であれば標準作業という「形」があり、それに上乗せする形で何かしらの工夫が出てくるわけです。
 
 震災の日にディズニーランドのスタッフの対応が素晴らしかったという有名な話があります。それは顧客にお土産として販売するぬいぐるみを渡し、それで頭を保護するように指示を出したという話です。これは会社からの指示ではなく、スタッフの機転でした。ディズニーランドではこのようなスタッフの仕事の素晴らしさが話題になりますが、これもきちんとしたマニュアルがあり、それに上乗せする「スタッフの機転」があるからでしょう。
 
 宅配担当者は物流業というより販売業であり、サービス業です。この立場にある人はディズニーランドのスタ...

1. 自由度が高い物流作業

 多くの会社で仕事のやり方がばらばらだという現象が起きています。これに気づかない経営者もいますし、気づいていても何の違和感も抱かない方もいらっしゃいます。このような状況を皆さんはどのように考えますでしょうか。仕事のやり方がばらばらになる要因から考えていきましょう。物流作業は他の仕事と比較するとどちらかというと自由度が高い仕事だといえます。たとえば工場の中のA地点からB地点まで運搬することを例にとって考えてみます。その距離が50mだったとすると、その間をフォークリフトで運搬することが考えられます。別のやり方はどうでしょう。台車に載せて牽引車で運搬することもあるでしょう。他には?手押し台車で人が押しながら運ぶことが考えられます。
 
 このように、物流作業は同じ仕事をいろいろな方法でこなすことができるのです。ですから方法は特に決めずに作業者任せになっている可能性が高いのです。作業が機械加工だとすると、使用する機械が決まります。加工精度も決められており、一定の決められた品質のモノをアウトプットしなければなりません。組立作業も順序が決められ、組立に使う治工具も決まっています。ですから誰が行っても同じ方法でやらざるを得ないことになります。
 
 一方で物流作業の自由度は運搬に限りません。梱包作業でもピッキング作業でも人によってやり方が異なることの方が多いと思われます。この自由度の高さは一見よさそうにも感じられますが、デメリットの方が大きいと思います。その理由について考えてみましょう。まず考えられるのが作業品質のバラつきです。作業者任せにされている以上、仕事の結果もその人の特徴が出ます。几帳面な人と大雑把な人とでは当然結果品質に差が出てしまいます。もう一つ考えられるのが作業速度のバラつきです。やり方が異なれば仕事のスピードが異なるのはある意味で当然のことかもしれません。
 
SCM
 

2. 管理監督者と現場管理

 物流倉庫で仕事を見ていると、たとえば梱包作業で次のような現象に気づくことがあります。
 
・AさんとBさんとで梱包作業台の大きさが異なる
・梱包作業手順が異なる
・梱包に使用する緩衝材が異なる
・緩衝材の使用量が異なる
・結果的に作業速度が異なる
 
 いくら物流作業は自由度が高いからといって、同じ作業でこのような差が出ることは決して好ましいことではありません。この原因はどこにあるのでしょうか。はい、それはずばり管理監督者にあります。物流センターでいえばセンター長や現場リーダーに原因があるのです。
 
 管理監督者の最大のタスクとして「現場管理」が挙げられます。この現場管理の基本として作業の標準化があります。最小のコストで高品質のモノをアウトプットする方法を決めるのは管理監督者の役割であり、それが作業の標準化です。この考え方を持っていない管理監督者は本来やるべき仕事ができていないといわざるを得ません。自職場のすべての仕事を標準化し、誰がやっても同じ結果が出るようにしなければならないのです。自由度が高くても、その中でどのようなやり方がベストなのかを考える必要があるのです。
 
 そして考えた結果を標準作業とし、その作業を部下に教え込まなければなりません。管理監督者は部下の自律性を語る前に、仕事の基本を自ら構築し、それを教える必要があるのです。失格管理監督者は自分の怠慢を棚に上げ、「仕事は自ら考えてやるものだ」ともっともらしいことを口にして作業者任せにします。自由度の高い仕事を作業者任せにすることは自律性を求めることとは違います。標準作業を行った上でさらによいやり方を考えさせることが必要なのです。ですから、梱包の作業台の規格はこうである、作業手順はこの方法で、ということをきちんと決めてから部下に作業をしてもらいましょう。もし自職場でまだ作業者任せにしている点があるとすれば、管理監督者は十分に機能していないと考えた方がよさそうです。
 

3. 「形」と機転

 「御社ならではの仕事って何ですか?」このように聞かれて即答できますでしょうか。運送でも倉庫でもこれは、という統一した仕事をしていれば回答はできるでしょう。しかし回答ができないとすると、もしかしたら仕事の「形」ができていないのかもしれません。柔道や舞踊でも同じですが「形」の重要性については物流も認識しなければなりません。だからこそその会社の仕事のやり方はまず「形」として成立していなければなりません。庫内作業であれば標準作業という「形」があり、それに上乗せする形で何かしらの工夫が出てくるわけです。
 
 震災の日にディズニーランドのスタッフの対応が素晴らしかったという有名な話があります。それは顧客にお土産として販売するぬいぐるみを渡し、それで頭を保護するように指示を出したという話です。これは会社からの指示ではなく、スタッフの機転でした。ディズニーランドではこのようなスタッフの仕事の素晴らしさが話題になりますが、これもきちんとしたマニュアルがあり、それに上乗せする「スタッフの機転」があるからでしょう。
 
 宅配担当者は物流業というより販売業であり、サービス業です。この立場にある人はディズニーランドのスタッフと同じであると考えられます。つまり仕事の基本を守りながらさらにお客様が喜ぶような味付けをするということです。何も宅配担当者に限りません。トラックドライバーも同様です。トラックドライバーは荷主というお客様と接するとともに、着荷主という荷主にとってのお客様とも接します。ですから余計に機転が利くことが望まれます。ですからこのような点につきましては会社として指導していくことが必要です。
 
 トラックドライバーは誰であっても荷主、着荷主のところへ行ったときには普遍的な対応ができることが重要です。これが仕事を統一する「形」の部分です。そしてこれに上乗せする機転があってもよいでしょう。あそこの会社に運送を依頼すると非常に気持ちがいい、といわれるまでになりたいものですね。
 
 いかがでしょうか。仕事の標準化が遅れている物流ではまずこれを推し進めることが求められます。そのうえでお客様の満足度を高めるためのプラスアルファを考えていくべきです。繰り返しになりますが、作業員に仕事のしかたを任せることは慎むべきです。管理監督者はまず自分の責務として仕事を標準化して指示する必要があります。社内で仕事のしかたやその結果の品質やコストにばらつきが出るようなことは絶対に避けるようにしていきましょう。
  

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この記事の著者

仙石 惠一

物流改革請負人の仙石惠一です。日本屈指の自動車サプライチェーン構築に長年に亘って携わって参りました。サプライチェーン効率化、物流管理技術導入、生産・物流人材育成ならばお任せ下さい!

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