消費者の立場で行った開発事例-マッサージ機を品質工学で-

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 筆者が在籍した企業で体験したマッサージ器具の開発事例で、品質工学を活用した具体的な説明を行います。

◆関連解説『品質工学(タグチメソッド)とは』

 図1.マッサージいすの開発プロセス

 1970年代の企業はTQCが全盛でデミング賞を取得することが、企業のステータスになっていました。当時松下電工㈱の健康機事業部では、健康づくりを目指してマッサージ椅子を開発していました。そこで行われたことは、顧客のニーズを技術手段に変換する開発を「S-H変換」と名付けた技術開発や商品設計です。このS-H変換の内容は、その後肩たたき機の開発に発展しましたので、事例を紹介します。

 図2は肩たたき機の開発プロセスです。肩たたき器の開発プロセス

 図2.肩たたき機の開発プロセス

 この事例では、「肩の凝りをほぐして欲しい」というのがお客の要求ですから、目的機能はプロのマッサージ師の手技のたたき力と考えて、マッサージ師の手技の計測から開発が始まりました。

 手技を分類すると、図3に示すように、拳打法(こぶしたたき)や切打法(はり扇たたき)や空気手(ダンパーたたき)があり、たたき力について3種類の過渡特性を計測しました。

図3.プロのマッサージ師のモミ手技波形

 目的機能を満足するためには、「たたき機能」だけでなく、「運動伝達機能」と「運動制御機能」が独立機能として考えられますから、それらのシステムも同時に創造する必要があるのですが、ここでは「たたき機能」に絞って技術開発プロセスを説明します。 「たたき機能」は、入力電力をたたき力のエネルギーに変換することですから、たたき力を発生するシステムをたくさん創造することになります。

 図4で示すようにたたき力を発生する技術手段を5種類考案し、その中で機能とコストと技術力の面で考えて、ソレノイド機構を選択しました。

図4.たたき機能のシステム選択

 次に図5に示すように、ソレノイド機構の中で、入力電力をたたき力に変換する効率が最も良い機構として「誘い込み無極型ソレノイド」を選択し、パラメータ設計を行いました。技術手段の考案

 図5.肩たたき機のシステム設計

 同様にして、サブシステム(伝達機能,制御回路機能)はそれぞれ独立機能ですから、それぞれの機能について、機能性評価とパラメータ設計を行って技術開発を完了しました。 商品開発における「全体最適」は、目的機能(過渡特性)を満足する...

 筆者が在籍した企業で体験したマッサージ器具の開発事例で、品質工学を活用した具体的な説明を行います。

◆関連解説『品質工学(タグチメソッド)とは』

 図1.マッサージいすの開発プロセス

 1970年代の企業はTQCが全盛でデミング賞を取得することが、企業のステータスになっていました。当時松下電工㈱の健康機事業部では、健康づくりを目指してマッサージ椅子を開発していました。そこで行われたことは、顧客のニーズを技術手段に変換する開発を「S-H変換」と名付けた技術開発や商品設計です。このS-H変換の内容は、その後肩たたき機の開発に発展しましたので、事例を紹介します。

 図2は肩たたき機の開発プロセスです。肩たたき器の開発プロセス

 図2.肩たたき機の開発プロセス

 この事例では、「肩の凝りをほぐして欲しい」というのがお客の要求ですから、目的機能はプロのマッサージ師の手技のたたき力と考えて、マッサージ師の手技の計測から開発が始まりました。

 手技を分類すると、図3に示すように、拳打法(こぶしたたき)や切打法(はり扇たたき)や空気手(ダンパーたたき)があり、たたき力について3種類の過渡特性を計測しました。

図3.プロのマッサージ師のモミ手技波形

 目的機能を満足するためには、「たたき機能」だけでなく、「運動伝達機能」と「運動制御機能」が独立機能として考えられますから、それらのシステムも同時に創造する必要があるのですが、ここでは「たたき機能」に絞って技術開発プロセスを説明します。 「たたき機能」は、入力電力をたたき力のエネルギーに変換することですから、たたき力を発生するシステムをたくさん創造することになります。

 図4で示すようにたたき力を発生する技術手段を5種類考案し、その中で機能とコストと技術力の面で考えて、ソレノイド機構を選択しました。

図4.たたき機能のシステム選択

 次に図5に示すように、ソレノイド機構の中で、入力電力をたたき力に変換する効率が最も良い機構として「誘い込み無極型ソレノイド」を選択し、パラメータ設計を行いました。技術手段の考案

 図5.肩たたき機のシステム設計

 同様にして、サブシステム(伝達機能,制御回路機能)はそれぞれ独立機能ですから、それぞれの機能について、機能性評価とパラメータ設計を行って技術開発を完了しました。 商品開発における「全体最適」は、目的機能(過渡特性)を満足するように、目標曲線にチューニング設計を行うことになります。

 商品開発の段階では、部品の共通化は勿論ですが、機能性評価の汎用性が大切です。 図5の「システム設計」では、システムの効率(性能)を高めましたから、その後で「機能性評価とパラメータ設計」で、安定性と再現性を図る設計の最適化が必要になります。

 図3に示すように「たたき機能」の目標が曲線の場合は、標準SN比を用いて機能性評価を行った後で、最適条件の感度でβ1=1、β2=0になるように制御因子を使って目標曲線にチューニングを行います。

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この記事の著者

原 和彦

品質工学を通して製品開発、設計の真髄を伝えます

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