静電シートとは

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◆  静電シートとは

 人体と電子機器など帯電した物体同士が接触すると、静電気の放電が発生します。この現象を「ESD:Electro-Static Discharge」と呼びます。クリーンルーム内では、静電気対策として静電シートを使うことが多いと思います。静電シートとは、あるメーカーの商品名ですが、かなり普及していますので、今では一般的に使われる呼び名です。静電気を逃がす目的(帯電防止)でビニールシートに黒い網目模様が入ったものです。これは片面にしか網目がついていないので、目的に応じて表裏を使い分けることが必要です。厚みは、0.1㎜、0.3㎜、0.5㎜などがあります。ビニールの色は、透明なものが最も多く使われていますが、グレーや紫外線カットを目的とした黄色などもあります。燃え難い(防炎)という特徴もあります。今回は、その用途と不具合事例を解説します。

1. 静電シートの用途

 静電シート(マット)には、いろいろな使い方がありますが、次の3点が主な用途です。

(1)例えば、クリーンベンチは四方が空いていますが、そこに間仕切りのカーテンのように吊るして、周囲の雰囲気よりも製品加工エリアの清浄度を上げようとする用途です。静電シートで囲むことで、クリーンベンチの上部から製品加工エリアにまで清浄な空気を吹き降ろす、ダウンフロー、或いは局所クリーンの考え方です。

 

(2)棚などに敷いて、製品容器や運搬容器と棚板が直接擦れるのを防ぐ目的で使われる場合もあります。容器と棚が擦れることで発生するゴミをなくすという考え方です。静電シートは摩擦抵抗が大きいので、製品容器などを引きずることが出来にくく、結果的に持ち上げて取り出すとか移動することになります。このことからもゴミが出にくいのです。加えて、扱いミスで、製品を滑らせて落下するなども防げます。地震でも、あまり大きくない場合、製品容器や運搬容器とビニールシートが密着しているので、落下、移動が殆どないようです。従って製品の保護や安全の確保にも効果が期待できます。

 

(3)床が穴開きタイプでない場合、その上を人が歩くことで床板同士が相互に擦れ、金属のゴミが出ます。また、設備に付属のロータリーポンプがクリーンルーム内に設置してある場合、オイルミストが浮遊しないよう塩ビ板などで囲う対策がされていることがあります。しかし、床面にオイルがこぼれたり、沁み込むと毛細管現象のように、グレーチングの隙間を伝わり広がります。これらがにじみ出て、靴底などに付着すると靴底と床面相互が汚れます。この浮き出てくるオイルと靴とが接触しないように敷く用途があります。

 

2. 静電シートの不具合事例

(1)帯電防止性能の低下

 クリーンブースなどに吊り下げた場合、網目を外側にしてあると、人と接触した場合、擦れにより徐々に削れて飛散、落下します。また気流などで静電シートが相互に擦れた場合も同じようなことが起きます。ゴミの発生もありますが、黒い線が部分的になくなるので、静電気が逃げ難くくなります。これは自然発生的に起きることですが、アルコールなどの溶剤で拭くことでも、黒い線が消えてしまいます。強制劣化の特長です。

 網目を下にして床に敷いた場合、人が踏むことで黒い網目が床に転写して、剥がしても床に残ります。シートの上を人が歩くことで徐々に劣化するので交換が必要になります。この時一気に剥がして、黒い粉が舞い上がり飛散して製品の品質を低下させた例があります。この上に新しい静電シートを敷くと、床に転写した網目模様と模様の網目にずれが起きます。床全体に黒っぽく見えますので、室内が汚れているような感じがします。

 また、網目の跡が床に残るので、そのままにしておくと靴底が真っ黒になります。網目を上にしてしいてしまうと、靴と網目が直接接触するので、やはり靴底が汚れますが、この場合は歩くたびに黒い粉が舞い上がります。これも毎日のことであり、歩留まり低下に繋がります。ゴミや汚れを防止する目的であったはずが、逆に品質低下を招くのです。

 

(2)作業者の意識低下

 まるで鳥小屋にいるようだ、とか、遠くまで良く見えない、室内が暗い感じがするというのは作業者の声です。現在では、この黒い網目は表面には見えず、透明シートの中に練り込まれているものがあります。表、裏ともに同じ性能ですので、表裏を気にすることなく使えます。また、ほとんど透明と言っていいので室内でも明るく見えます。ただし、普通のビニールシート・フィルムとは見分けはつきにくいので、一緒に使うことがないように注意しましょう。

 

(3)静電気防止と安全意識

 摩擦抵抗が高いので、写真1のように床に敷設すると作業者が歩く時に躓くことがあります。もし製品その他で両手がふさがっている場合は、転倒することで製品の破損やケガをすることもあります。クリーン化担当は、このようなクリーン資材には、クリーン化的に見てどうか。安全はどうか、そして費用はどうかを把握して、トラブルを未然に防げるように配慮しましょう。これも、クリーン化担当の重要な役目です。わずかですが、塩素系の...

◆  静電シートとは

 人体と電子機器など帯電した物体同士が接触すると、静電気の放電が発生します。この現象を「ESD:Electro-Static Discharge」と呼びます。クリーンルーム内では、静電気対策として静電シートを使うことが多いと思います。静電シートとは、あるメーカーの商品名ですが、かなり普及していますので、今では一般的に使われる呼び名です。静電気を逃がす目的(帯電防止)でビニールシートに黒い網目模様が入ったものです。これは片面にしか網目がついていないので、目的に応じて表裏を使い分けることが必要です。厚みは、0.1㎜、0.3㎜、0.5㎜などがあります。ビニールの色は、透明なものが最も多く使われていますが、グレーや紫外線カットを目的とした黄色などもあります。燃え難い(防炎)という特徴もあります。今回は、その用途と不具合事例を解説します。

1. 静電シートの用途

 静電シート(マット)には、いろいろな使い方がありますが、次の3点が主な用途です。

(1)例えば、クリーンベンチは四方が空いていますが、そこに間仕切りのカーテンのように吊るして、周囲の雰囲気よりも製品加工エリアの清浄度を上げようとする用途です。静電シートで囲むことで、クリーンベンチの上部から製品加工エリアにまで清浄な空気を吹き降ろす、ダウンフロー、或いは局所クリーンの考え方です。

 

(2)棚などに敷いて、製品容器や運搬容器と棚板が直接擦れるのを防ぐ目的で使われる場合もあります。容器と棚が擦れることで発生するゴミをなくすという考え方です。静電シートは摩擦抵抗が大きいので、製品容器などを引きずることが出来にくく、結果的に持ち上げて取り出すとか移動することになります。このことからもゴミが出にくいのです。加えて、扱いミスで、製品を滑らせて落下するなども防げます。地震でも、あまり大きくない場合、製品容器や運搬容器とビニールシートが密着しているので、落下、移動が殆どないようです。従って製品の保護や安全の確保にも効果が期待できます。

 

(3)床が穴開きタイプでない場合、その上を人が歩くことで床板同士が相互に擦れ、金属のゴミが出ます。また、設備に付属のロータリーポンプがクリーンルーム内に設置してある場合、オイルミストが浮遊しないよう塩ビ板などで囲う対策がされていることがあります。しかし、床面にオイルがこぼれたり、沁み込むと毛細管現象のように、グレーチングの隙間を伝わり広がります。これらがにじみ出て、靴底などに付着すると靴底と床面相互が汚れます。この浮き出てくるオイルと靴とが接触しないように敷く用途があります。

 

2. 静電シートの不具合事例

(1)帯電防止性能の低下

 クリーンブースなどに吊り下げた場合、網目を外側にしてあると、人と接触した場合、擦れにより徐々に削れて飛散、落下します。また気流などで静電シートが相互に擦れた場合も同じようなことが起きます。ゴミの発生もありますが、黒い線が部分的になくなるので、静電気が逃げ難くくなります。これは自然発生的に起きることですが、アルコールなどの溶剤で拭くことでも、黒い線が消えてしまいます。強制劣化の特長です。

 網目を下にして床に敷いた場合、人が踏むことで黒い網目が床に転写して、剥がしても床に残ります。シートの上を人が歩くことで徐々に劣化するので交換が必要になります。この時一気に剥がして、黒い粉が舞い上がり飛散して製品の品質を低下させた例があります。この上に新しい静電シートを敷くと、床に転写した網目模様と模様の網目にずれが起きます。床全体に黒っぽく見えますので、室内が汚れているような感じがします。

 また、網目の跡が床に残るので、そのままにしておくと靴底が真っ黒になります。網目を上にしてしいてしまうと、靴と網目が直接接触するので、やはり靴底が汚れますが、この場合は歩くたびに黒い粉が舞い上がります。これも毎日のことであり、歩留まり低下に繋がります。ゴミや汚れを防止する目的であったはずが、逆に品質低下を招くのです。

 

(2)作業者の意識低下

 まるで鳥小屋にいるようだ、とか、遠くまで良く見えない、室内が暗い感じがするというのは作業者の声です。現在では、この黒い網目は表面には見えず、透明シートの中に練り込まれているものがあります。表、裏ともに同じ性能ですので、表裏を気にすることなく使えます。また、ほとんど透明と言っていいので室内でも明るく見えます。ただし、普通のビニールシート・フィルムとは見分けはつきにくいので、一緒に使うことがないように注意しましょう。

 

(3)静電気防止と安全意識

 摩擦抵抗が高いので、写真1のように床に敷設すると作業者が歩く時に躓くことがあります。もし製品その他で両手がふさがっている場合は、転倒することで製品の破損やケガをすることもあります。クリーン化担当は、このようなクリーン資材には、クリーン化的に見てどうか。安全はどうか、そして費用はどうかを把握して、トラブルを未然に防げるように配慮しましょう。これも、クリーン化担当の重要な役目です。わずかですが、塩素系のガスが出るようです。清浄度が極度に高いクリーンルームでは、使用しない方が良いようです。いわゆるケミカル汚染の影響が懸念される製品製造の場合です。

                                                 クリーン化       
写真-1:床に敷いた例
(床の穴あき部分は、気流の通り道ですので切り取ります)
 

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この記事の著者

清水 英範

在社中、クリーン化25年の経験、国内海外のクリーン化教育、現場診断・指導多数。ゴミによる品質問題への対応(クリーン化活動)を中心に、安全、人財育成等も含め多面的、総合的なアドバイス。クリーンルームの有無に限らず現場中心に体質改善、強化のお手伝いをいたします。

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