「オンライン品質工学」とは、キーワードからわかりやすく解説
1.「オンライン品質工学」とは
オンライン品質工学とは、製造工程で使われる品質工学であり、ここでの「ライン」とは製造ラインを指します。 タグチメソッドと言えば、システム出力を安定化するパラメータ設計を想起する人が多いでしょうが、それと双璧をなすのがこの体系です。 例えば定期的に調整が必要な装置があり、調整頻度を上げると不良発生率は減るものの、調整コストが増加します。不良も金額換算し、調整にまつわる全てのコストを関数化し、コスト最小の調整頻度を導出します。 同様の考えはフィードバック制御、計測器の校正、工程診断、フィードフォワード制御、予防保全、安全システム確認、検査設計などに設定されています。
2. 「オンライン品質工学」の考え方
タグチメソッドの「オンライン品質工学」は、品質特性が許容限界を飛び越えないようにするため、調整限界を設定してこれを越えた場合に、目標値になるよう「工程パラメータ」を調整するものです。これを「オンラインフィードバック制御」といいます。シューハートの管理図と異なり、管理限界としての3σを基準としません。損失関数に従い、機能限界と規格限界を設定して、基準外になった場合には原因を追究しないで、パラメータを調整することで目標値になるようにコントロールするものです。
3. 品質工学全般と「オンライン品質工学」の関係
品質工学では、QCDを同時達成を考えます。品質を改善するためには、開発段階では、パラメータ設計と許容差設計を行って、低コストで「市場品質」を改善します。生産段階では、オンライン品質工学でフィードバック制御を行い「出荷品質」を改善します。コストを改善するためには、パラメータ設計やフィードバック制御で市場品質や工程品質を改善します。品質改善の目的はコスト改善です。
4. オンライン品質工学の具体的な手法:調整限界と損失関数
オンライン品質工学の中心的な考え方は、「調整限界」の設定にあります。従来の統計的プロセス管理(SPC)で用いられる管理図が、プロセスの異常の有無を判断基準とするのに対し、オンライン品質工学は、製品や工程の特性値が、経済的な損失が発生し始める許容範囲内に留まっているかを判断基準とします。この許容範囲を逸脱した場合にのみ、調整というコストをかけて対応します。
損失関数に基づく調整限界の設定
オンライン品質工学では、損失関数と、調整にかかるコスト(作業時間、材料費、機会損失など)を比較し、調整すべきか否かの判断基準を定めます。具体的には、特性値がどの程度目標値から外れたら、その損失額が調整コストを上回るのかを計算し、それを調整限界として設定します。
5. 他の管理手法との比較と適用分野
シューハート管理図との本質的な違い
オンライン品質工学で用いる調整限界は、シューハート管理図の管理限界とは目的が根本的に異なります。シューハート管理図は、「異常原因」の検出、すなわちプロセスが統計的に管理状態にあるかを判断するために用いられます。管理限界を超えたら、プロセスの異常な変動源を探し、それを取り除くことが目的です。
一方、オンライン品質工学は、プロセスの変動源を探すことよりも、「製品が市場で許容できない損失を生むレベルになるのを防ぐ」ことに焦点を当てます。調整限界を超えたら、原因の追究をせずに、単に目標値に戻るようにパラメータを操作します。これは、原因追究に時間をかけるコストよりも、迅速に目標値に戻す方が経済的である、という判断に基づいています。
広範な適用分野
この経済性を重視したフィードバック制御の考え方は、製造ラインに留まらず、広範な分野で活用されています。
- 予防保全: 装置の摩耗や劣化のデータ(特性値)を追跡し、損失(故障による停止コスト)が保全コストを上回る前に、最適なタイミングで部品交換やメンテナンス(調整)を実施します。
- 在庫管理: 在庫量が調整限界(最小・最大在庫レベル)を超えた場合に、発注や生産調整を行うことで、欠品による販売機会損失と過剰在庫による保管コストのバランスを取ります。
サービスの品質管理: 待ち時間や応答時間などのサービス特性値をモニターし、許容レベルを超えそうになった場合に、人員配置などのリソースを調整し、顧客の不満(損失)を最小化します。
6. 品質工学全体における位置づけと展望
品質工学の三段階(開発・設計段階、生産段階)において、オンライン品質工学は生産段階における最後の砦の役割を果たします。
- システム設計: 根本的な技術の選択。
- パラメータ設計(開発段階): ノイズ(環境、経年劣化など)の影響を受けにくいロバストな製品設計を実現し、工程変動の許容範囲を広げます。
- オンライン品質工学(生産段階): パラメータ設計でも排除しきれない残存ノイズや緩やかなドリフトによって、特性値が目標値から離れた際に、最小のコストでそれを修正し、出荷品質を保証します。
つまり、開発段階のパラメータ設計で「品質のポテンシャル」を高め、生産段階のオンライン品質工学で「品質の実績」を経済的にコントロールする、という一貫した体系です。今後、IoTやAIの進展により、リアルタイムで膨大な工程データが取得可能になることで、オンライン品質工学の「調整限界」の導出や、「フィードバック制御」の精度が飛躍的に向上し、より洗練された自己調整型生産システムの実現に貢献すると期待されます。




