【SDGs取り組み事例】「麦こそ健康の源」 事業を通じ、従業員や市民の健康をサポート 株式会社はくばく(山梨県中央市)

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1941年の創業当初から大麦をはじめ、雑穀や小麦などの製造販売を進めている穀物食品メーカーの株式会社はくばく(山梨県中央市・長澤重俊社長)では、創業以来の「麦こそ健康の源」をモットーに、大学やクリニックなどと連携し、穀物の健康機能解明や食品開発を進めるほか、地元自治体と共同で市民の健康増進を支援するプロジェクトにも力を入れています。同社の取り組みを紹介します。

【目次】

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    戦時下の食糧管理法成立を機に、コメから大麦に

    創業時は、峡南精米株式会社として、コメを主力に取り扱っていましたが、戦時下の食糧管理法成立をきっかけに商材を大麦に切り替え、社名も峡南精麦株式会社に改名しています。同社の転機は1953年。大麦の中心部にある黒い筋(黒条線)を取り除くため、この筋に沿って半分に切断し、コメのような見た目となった大麦を白麦米と名付け、全国販売を開始。57年の社名変更(白麦米株式会社)を経て、92年に現在の社名となっています。

    はくばく本社工場

    写真説明】はくばく本社工場(同社提供)

    コホート研究を基に栄養指導など、従業員の健康を支援

    SDGs(持続可能な開発目標)活動については、穀物食品の販売をはじめとした、事業活動を通じた取り組みを進めるほか、古くから従業員の健康維持・健康増進を目的とした「健康社食」の設置などを行っています。そんな同社の特徴的な取り組みの一つに、従業員約230人を対象に進める「腸内環境コホート調査」があります。これは、大麦に多くの食物繊維が含まれていることに着目し、山梨大学大学院(山梨県中央市)や国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所(大阪府茨木市)と共同で、大麦の食物繊維が腸内環境に与える影響を調査。その結果、大麦摂取による脂質異常症のリスク低減効果が期待できる人と期待できない人が存在する「 個人差 」に 、腸内細菌が関係していることを解明しました。さらに機械学習を使い、大麦摂取による脂質異常症リスク低減効果が得られる人を腸内細菌から予測するモデルを構築することにも成功しています。この予測モデルから、脂質異常症に対する大麦効果の有無を腸内細菌の組成から事前に予測し、パーソナライズされた食事指導戦略を立てるなど、新しい栄養指導方法として将来的にも繋げていくとしています。
    コホート調査の内容ですが、従業員を対象にアンケートを実施し「普段から大麦を食べている」、「あまり食べていない」の2種類に分類したものに、健康診断や腸内フローラの検査結果などと合わせて解析したデータを使い、食事指導や栄養改善を実施しています。これら以外に、山梨本社や県内工場では、従業員の健康維持などを目的に、社員食堂で麦や雑穀を取り入れたメニューを提供しています。ご飯は基本的に麦ごはんか雑穀ごはんとなり、社員食堂の設置が難しい東京本社や営業所では「置き型社食」を導入。惣菜が1個100円で購入できる自動販売機を設けています。さらに同社で販売されているもち麦もしくは、十六穀米のパックご飯が無料で提供されています。

    製品開発だけでなく、穀物の腸内環境に与える影響などについての研究も行われている(左)。右は従業員の健康維持・健康増進を目的に提供されている「健康社食」

    写真説明】製品開発だけでなく、穀物の腸内環境に与える影響などについての研究も行われている(左)。右は従業員の健康維持・健康増進を目的に提供されている「健康社食」(同社提供)


    一方、食事面以外では、外部講師を招き、セミナー形式で従業員の睡眠や運動面をサポートする機会を設けています。これら積極的な取り組みが評価され、3年連続で経済産業省の「2024健康経営優良法人」に3年連続で認定されています。

    専用サイトで大麦のメリットを周知

    実は、日本人の主食となっているコメ以外に、朝食などで食べるパンや麺類にも食物繊維は含まれています。コメは3食取ることで多くの食物繊維が摂取できるため、糖質制限などでこれらを抜いてしまうとかえって、食物繊維を制限することにも繋がります。厚生労働省(日本人の食事摂取基準2020年版)では「18~64歳で男性21グラム以上、女性18グラム以上」としており「一日のうち1食の主食を玄米ごはん、麦ごはん、胚芽米ごはん、全粒小麦パンなどに置き換えると、効率的に食物繊維が摂取できる」としています。
    同社で調査した日本人の食物繊維摂取量をみると、全体的に野菜からの摂取量は変わらないものの、コメなど穀類からの摂取量が大きく減少していることが分かります。これは、食の欧米化によりコメなど、穀物の消費減少に比例する形で、食物繊維の摂取量も年々減ってきていることを現しています。食物繊維が不足することで、腸内フローラの悪化を招き、腸内毒素が生成されると高血圧や心疾患などにつながる可能性もあります。

    日本国内における穀物由来の食物繊維摂取量

    【図説明】日本国内における穀物由来の食物繊維摂取量(同社提供)

    このほか、対外的な取り組みとして、同社サイト内に「Mugi Lab.(むぎラボ)」と「おいしい大麦研究所」を開設し、情報発信を行っています。Mugi Lab.は、大麦や食物繊維接種による、人体への影響のほか、腸活などに関する海外の最新研究を翻訳し、主に研究者向けとして公開しています。一方、おいしい大麦研究所は、消費者向けに大麦を使った和洋中のレシピをはじめ、麦ご飯の炊き方や効用などが紹介されています。同社も「腸活というと、どうしてもヨーグルトやキムチ、みそなどの発酵食品を摂取する人が多いが、食物繊維もしっかり取らないと、腸の中で菌が働かない。腸内環境のバランスを保つことはとても大事なため、当社としても、研究結果を基に食物繊維が豊富な大麦のメリットなどを周知していきたい」と話します。

    サイト内に設けられている「Mugi Lab.(むぎラボ)」(左)と「おいしい大麦研究所」

    写真説明】サイト内に設けられている「Mugi Lab.(むぎラボ)」(左)と「おいしい大麦研究所」(同社提供)

    子どもから大人までの健康を目的とした啓蒙活動に尽力

    地域貢献活動では、2020年から地元・北杜市と包括連携協定を結び、市民を対象とした食育や健康増進に努めています。同市が県内随一の米処(こめどころ)に加え、全人口(約46,000人)の約40%が65歳以上[1]と高齢化が進んでいることから、大麦や雑穀を食生活に取り入れてもらい、生活習慣病抑制などのサポートを通じた、健康づくりに貢献しようと始められました。
    内容は「地域ボランティア食生活改善推進員」、「対象者を絞った健康情報の提供」、「小学生対象食育教室」の3つを柱に進めるもので、地域ボランティア食生活改善推進員は、大麦雑穀の勉強会や調理実習を受けた後、同推進員が中心となり、市民イベントの開催や家庭訪問を実施。冊子の配布やアンケートを行い、大麦雑穀の普及活動を進めています。また、2カ所の市立病院に勤務する栄養士向けにも勉強会を開き、患者の栄養指導に役立ててもらっているほか、永年、健康課題を抱えている患者に「食生活の改善のきっかけに」と、もち麦の商品サンプルを配っています。

    市民イベントに参加し、大麦雑穀の普及活動を進める地域ボランティア食生活改善推進員(左)と、もち麦の商品サンプル

    写真説明】市民イベントに参加し、大麦雑穀の普及活動を進める地域ボランティア食生活改善推進員(左)と、もち麦の商品サンプル(同社提供)

    このほか、地元小学校の授業を活用した食育では、主に子どもの便秘をテーマとし、啓蒙活動を進めています。これは、NPO日本トイレ研究所(東京都港区)の調査[2]を基に、全国多くの小学校の給食で麦ごはんが提供されていることに注目。麦ごはんが提供される意味や体への影響などを紹介するほか、便の色や形などを記録するチャックシートを使い、これから思春期に入ることで、悩みとなる便秘について、早い段階から意識を向けてもらい、一緒に問題を解決していこうという取り組みです。
    さらに、これまでの実績を基に1ケ月の間、市民にもち麦を提供することで、食意識の変化や改善を体験してもらいながら、健康改善に繋げることを目的に「お米プラス健康増進プロジェクト」と銘打った新たな活動も始まりました。同社も「これまでの啓蒙活動に体験活動を加えることで、健康改善に対する意識を持ってもらい、実際に健康が改善する形が実現できたらと思う。また、高齢化問題を抱える他の市町村でも実施していきたい」と話します。

    子どもの便秘をテーマに、地元小学生を対象に行われた食育教室

    写真説明】子どもの便秘をテーマに、地元小学生を対象に行われた食育教室(同社提供)

    大麦、雑穀で日本の健康課題をサポートしたい

    北杜市以外での活動では、県内スポーツ少年団やスポーツクラブに出向き、親子を対象に大麦雑穀教室を開き、栄養管理や体力づくりなどを支援するほか、フードバンクや一人親世帯に対する食料支援、製品の製造過程で発生する大麦の外皮を肥料用として販売しています。外皮など産業廃棄物については、今後も研究を重ね、再資源化を目指すとしています。
    今後について「主力商品の大麦・雑穀は、これからの日本の健康課題をサポートできる食品と信じている。また、これまでの研究から大麦は、内臓脂肪の低減や食後血糖値の抑制、コレステロールの低減など、様々な根拠が取られているため、例えば、白米に大麦や雑穀を混ぜて食べる事から得られる効果などを周知し、SDGs目標3(すべての人に健康と福祉を)の部分で、しっかりと健康増進に向けた支援を進めていきたい」と話しています。

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    記事:産業革新研究所 編集部 深澤茂


    記事内説明

    [1] 2020年調査によると、北杜市における高齢者人口の割合は40.05%。2005年は28%だった。40年先の日本では、約2.6人に一人が65歳以上といわれている。※北杜市、内閣府ホームページより。
    [2] 約12,000人のうち、4人に一人の児童に便秘の疑いがあるとされている。※NPO日本トイレ研究所調査より。


    【会社概要】
    株式会社はくばく
    所在地:山梨県中央市
    HP:https://www.hakubaku.co.jp/


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