【インタビュー】ダイバーシティは企業存続に必要不可欠! 取り組みに懸ける思いと国内企業の現状

投稿日

パナソニック コネクト株式会社取締役 執行役員 山口有希子氏  
ヤンマーホールディングス株式会社取締役CSO 長田志織氏     

このほど、東京ポートシティ竹芝で、製造業の次の10年を模索するイベント「モノづくり未来大会議2024」が開かれ、「経営者が語る、サスティナブルなモノづくり産業の成長に必要なダイバーシティとインクルージョンについて」(キャディ株式会社主催)をテーマに、パナソニック コネクト株式会社取締役執行役員の山口有希子氏とヤンマーホールディングス株式会社取締役CSOの長田志織氏の対談が行われた。イベント終了後、これら取り組みに懸ける思いのほか、改革の難しさや国内企業の現状などを聞いた。

写真説明】左から長田志織氏と山口有希子氏

ビジネス・事業改革にカルチャー改革は必要条件 

Q. ダイバーシティを始めるに当たり、必要に迫られて始めるケースや「未来を作るためには、ダイバーシティしかない」、「同質性ではいけない」などといった考えがあるかと思うが、ダイバーシティを始めた当初、どのような思いが強かったか。 

山口氏:現在、当社代表の樋口(代表取締役社長 樋口 泰行氏)と共に企業改革を進めているが、企業がビジネス改革や事業改革に取り組むためには「カルチャー改革が絶対に必要」という方針を貫いている。未来に価値ある企業として存続するためにはDEI(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)も含め、カルチャー戦略は世界的に必要不可欠という信念のもと、活動を続けている。 

心理的安定性が低い組織は生産性も低く 

長田氏:心理的安全性の問題だと考えており、同質性が高いという時点で心理的安全性が低いとみている。心理的安全性がないから「似たようなものしか選べない、選ばない」、「周りと同じ振る舞いをする」。人として全員が異なった考えを持っているはずなのに、同質だと言われた時点で、強制されての出来事になってしまっている。 
心理的安全性の低い組織というのは、生産性が圧倒的に低い。私の経験からしても、心理的安全性を高く上げるだけで生産性は必ず20%くらい改善している。それほど違ってくるものだ。現在はダイバーシティ化した職場と、そうではない職場の二択しか存在していないと考えており、この2者は将来的にみた場合、勝負にならないと感じている。 
今は、どちらかというと心理的安全性が解放されている側は、小規模の企業が多く、企業規模が大きくなってくると、どうしても心理的安全性が落ちていってしまう。中には、軍隊のように上から命令して強要してくる人たちも存在している。それらの企業は、今は非常に高い競争力を持っているが、20年、30年先をみると、さまざまな価値観を理解し、組織が変わらなければ選ばれなくなってしまう。 

日本企業は“大企業病” 

Q.講演の中で、時代の変化に合わせた、企業のアップデートの難しさについて話していたが逆を言えば、従業員を心理的に楽になる方へ導いてくれている。 

長田氏:多様性である以上、出来上がった空間は誰にとっても息のしやすいものでなければならない。ただ、変わっていく過程は厳しいもので、変化に慣れていない大きな塊(集団)も存在するため、取り組みが滑り出すまでが難しい。実際、7年かかったが「これって自分たちにとっても良いことだ」という雰囲気が出てくると、徐々に浸透していき、最終的に良い状態が実現されてくる。 
 
山口氏:今の日本企業の問題は「大企業病」にあると思う。これまでは「背中を見て覚えろ」のような、言語化をせず、さらにコミュニケーションを取らないにも関わらず「分かっただろ」といった強要的な面があった。ダイバーシティは絶対的に必要なもので、コミュニケーションの方法をはじめ、色々なことを変えていかなければならないが、異なった意見の存在も前提とするため、とてもストレスフルな取り組みでもある。 
ダイバーシティの重要性は、意思決定の質を高めることにある。意思決定の際、企業の中でさまざまな意見がある中、議論することでクオリティが高い決定となっていく。これが企業のイノベーションや生き残るための源泉となると考えている。 

ダイバーシティの本質は「企業として強くなる」こと 

Q.ダイバーシティというと、一般的にどうしても男女比率や障害の有無など今、起きている現象に目が向きがちだが、本質はどこにあるか。

長田氏:一言で表すなら「企業として強くなる」こと。私が体験してきたからこそ、言えることだが、ダイバーシファイ(多様化)された人材群が多角的な知恵を出し合い、多角的な機能を発揮しながら成果を出している。また、取り組んでいるチームとそうでないチームとの実力に大きな差も現れている。 
 
山口氏:マジョリティ(多数派)に合わせなければいけないということではなく、一人ひとりのポテンシャルを発揮できる職場となる。 

従来の組織経営からのアップデートが必要 

長田氏:今両親の介護のために辞めてしまう現象が起きてきている。企業側はリモートワークなどを組み合わせて勤務の継続を勧めるが「迷惑がかかるから」との理由で受け入れてもらえない。結局、従業員が「完璧な社員以外は許されない」と思ってしまうと、自分のことも許せなくなってしまう。これは社会にとって大きな損失だ。 
 
Q.就職活動時、自分には多くの企業から企業案内の資料が送られてきたが、女性には全く送られてこないといった時代があった。 

山口氏:まさに人権に関わる話。「女性だからこれはできないだろう」といった考えや、「オポチュニティ(機会)がなくなる」、「知らないうちに評価が下がる」など、理不尽なことが当たり前にあった。経営者の間で「男性は普通に下駄を履かされていたことに気付いていなかった」という話をするが、マイノリティ(少数派)を蔑(ないがし)ろにしてきた従来...

パナソニック コネクト株式会社取締役 執行役員 山口有希子氏  
ヤンマーホールディングス株式会社取締役CSO 長田志織氏     

このほど、東京ポートシティ竹芝で、製造業の次の10年を模索するイベント「モノづくり未来大会議2024」が開かれ、「経営者が語る、サスティナブルなモノづくり産業の成長に必要なダイバーシティとインクルージョンについて」(キャディ株式会社主催)をテーマに、パナソニック コネクト株式会社取締役執行役員の山口有希子氏とヤンマーホールディングス株式会社取締役CSOの長田志織氏の対談が行われた。イベント終了後、これら取り組みに懸ける思いのほか、改革の難しさや国内企業の現状などを聞いた。

写真説明】左から長田志織氏と山口有希子氏

ビジネス・事業改革にカルチャー改革は必要条件 

Q. ダイバーシティを始めるに当たり、必要に迫られて始めるケースや「未来を作るためには、ダイバーシティしかない」、「同質性ではいけない」などといった考えがあるかと思うが、ダイバーシティを始めた当初、どのような思いが強かったか。 

山口氏:現在、当社代表の樋口(代表取締役社長 樋口 泰行氏)と共に企業改革を進めているが、企業がビジネス改革や事業改革に取り組むためには「カルチャー改革が絶対に必要」という方針を貫いている。未来に価値ある企業として存続するためにはDEI(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)も含め、カルチャー戦略は世界的に必要不可欠という信念のもと、活動を続けている。 

心理的安定性が低い組織は生産性も低く 

長田氏:心理的安全性の問題だと考えており、同質性が高いという時点で心理的安全性が低いとみている。心理的安全性がないから「似たようなものしか選べない、選ばない」、「周りと同じ振る舞いをする」。人として全員が異なった考えを持っているはずなのに、同質だと言われた時点で、強制されての出来事になってしまっている。 
心理的安全性の低い組織というのは、生産性が圧倒的に低い。私の経験からしても、心理的安全性を高く上げるだけで生産性は必ず20%くらい改善している。それほど違ってくるものだ。現在はダイバーシティ化した職場と、そうではない職場の二択しか存在していないと考えており、この2者は将来的にみた場合、勝負にならないと感じている。 
今は、どちらかというと心理的安全性が解放されている側は、小規模の企業が多く、企業規模が大きくなってくると、どうしても心理的安全性が落ちていってしまう。中には、軍隊のように上から命令して強要してくる人たちも存在している。それらの企業は、今は非常に高い競争力を持っているが、20年、30年先をみると、さまざまな価値観を理解し、組織が変わらなければ選ばれなくなってしまう。 

日本企業は“大企業病” 

Q.講演の中で、時代の変化に合わせた、企業のアップデートの難しさについて話していたが逆を言えば、従業員を心理的に楽になる方へ導いてくれている。 

長田氏:多様性である以上、出来上がった空間は誰にとっても息のしやすいものでなければならない。ただ、変わっていく過程は厳しいもので、変化に慣れていない大きな塊(集団)も存在するため、取り組みが滑り出すまでが難しい。実際、7年かかったが「これって自分たちにとっても良いことだ」という雰囲気が出てくると、徐々に浸透していき、最終的に良い状態が実現されてくる。 
 
山口氏:今の日本企業の問題は「大企業病」にあると思う。これまでは「背中を見て覚えろ」のような、言語化をせず、さらにコミュニケーションを取らないにも関わらず「分かっただろ」といった強要的な面があった。ダイバーシティは絶対的に必要なもので、コミュニケーションの方法をはじめ、色々なことを変えていかなければならないが、異なった意見の存在も前提とするため、とてもストレスフルな取り組みでもある。 
ダイバーシティの重要性は、意思決定の質を高めることにある。意思決定の際、企業の中でさまざまな意見がある中、議論することでクオリティが高い決定となっていく。これが企業のイノベーションや生き残るための源泉となると考えている。 

ダイバーシティの本質は「企業として強くなる」こと 

Q.ダイバーシティというと、一般的にどうしても男女比率や障害の有無など今、起きている現象に目が向きがちだが、本質はどこにあるか。

長田氏:一言で表すなら「企業として強くなる」こと。私が体験してきたからこそ、言えることだが、ダイバーシファイ(多様化)された人材群が多角的な知恵を出し合い、多角的な機能を発揮しながら成果を出している。また、取り組んでいるチームとそうでないチームとの実力に大きな差も現れている。 
 
山口氏:マジョリティ(多数派)に合わせなければいけないということではなく、一人ひとりのポテンシャルを発揮できる職場となる。 

従来の組織経営からのアップデートが必要 

長田氏:今両親の介護のために辞めてしまう現象が起きてきている。企業側はリモートワークなどを組み合わせて勤務の継続を勧めるが「迷惑がかかるから」との理由で受け入れてもらえない。結局、従業員が「完璧な社員以外は許されない」と思ってしまうと、自分のことも許せなくなってしまう。これは社会にとって大きな損失だ。 
 
Q.就職活動時、自分には多くの企業から企業案内の資料が送られてきたが、女性には全く送られてこないといった時代があった。 

山口氏:まさに人権に関わる話。「女性だからこれはできないだろう」といった考えや、「オポチュニティ(機会)がなくなる」、「知らないうちに評価が下がる」など、理不尽なことが当たり前にあった。経営者の間で「男性は普通に下駄を履かされていたことに気付いていなかった」という話をするが、マイノリティ(少数派)を蔑(ないがし)ろにしてきた従来の組織経営自体をアップデートしていかなければいけない。 

トップが意識しないとカルチャーは変わらない 

Q.コミュニケーションを図るうえで、人間心理などを意識した取り組みがあれば。 

山口氏:DEIだけではなく、カルチャー改革にはいくつかの手法がある。例えばTeamsを使った方が効率がよくなると分かったので、強制的に使ってもらう。その中で「腹落ちしない」など、対応が難しい際はていねいに説明している。手法は色々あるものの、大切なのは、トップが意識しないとカルチャーは変わらないということ。これまでもDEIをはじめ、コンプライアンスや働き方改革、オフィス・工場の環境改善などさまざまな取り組みを行ってきたが、これらはトップの覚悟を以って、同時で進行していかなければ、実際に変わることはできないものだと思う。 
 
長田氏:当社もCHR(Corporate Health Responsibility:企業の従業員に対する健康責任)を中心に取り組みを進めており、さまざまな制度を設け、何にでも取り組めるよう整備されているが、まだ実績は少ない。 
卑近なことだが、人の心は簡単に傷付いてしまう。コミュニケーションロスで傷付いてしまうことのないように、一人ひとりに対し、可能な範囲で接するよう心掛けると同時に、周辺にも呼び掛けている。ワン・オン・ワンでもていねいに扱い、そのていねいさが伝わるように実施するしかないと思っている。 



【プロフィール】  
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山口有希子氏  
略歴  
パナソニック コネクト株式会社取締役 執行役員 ヴァイス・プレジデントCMO DEI担当役員、コネクトカルチャーHUB担当役員。  
パナソニックの企業向けソリューションビジネスを担うパナソニック コネクト株式会社取締役 兼 デザイン&マーケティング部門責任者。  
ダイバーシティ推進担当役員として、女性やLGBTQ+を含むジェンダーダイバーシティ、男性育休100%取得などの取り組み等を強力に推進している。  
日本IBM、シスコシステムズ、ヤフージャパンなど国内外の複数の企業にてマーケティング部門管理職を歴任。  
日本アドバタイザーズ協会 デジタルメディア委員会 委員長。一般社団法人Metaverse Japan理事。   
ダイバーシティコミュニティ「MASHINGUP」理事。 不登校児とその親を支援するNPO「優タウン」の副理事としても活動中。  
 
長田志織氏  
略歴  
ヤンマーホールディングス株式会社取締役CSO  
慶応義塾大学法学部卒。デロイトトーマツコンサルティングを経て、ユニゾンキャピタル傘下の東ハトにて経営企画の責任者を務め、EXIT後にユニゾンへ移籍。アデランスへのホワイトナイト提案などに従事。  
2009年の産業革新機構の立ち上げに参加し、小形風力発電・バイオ創薬等への成長投資や大企業からの事業カーブアウト・新規事業会社設立等を実行。  
2014年にヤンマーグループへ参画し、マリン事業の責任者を経て現職。ほか、経済産業省産業構造審議会の委員および日蘭貿易連盟アドバイザリーボードメンバーを務める。 

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