【SDGs取り組み事例】発想は“世界中の子供たちにサッカーを” 株式会社モルテン

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一つのボールが学びと遊びのきっかけづくりに 

株式会社モルテン(広島県広島市)

モルテン社が生産するマイフットボールキット

目次

1.スポーツ用品の製造販売など4事業を柱に独自ブランド展開
2. マイフットボールキット誕生のきっかけとなった途上国の現状
3.イラストで表現した無言語の説明書に込められた思い
4.玩具ではない「ボールメーカーが作るサッカーボールを」
5.「子供たちに国境はない」国内外の反響に手応え
6. 企業と社会の“Win-Win”関係の構築が目標

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1. スポーツ用品の製造販売など4事業を柱に独自ブランド展開

株式会社モルテン(代表取締役社長 最高経営責任者 民秋清史氏)の創業は1958(昭和33)年。社名「molten(モルテン)」の由来は「melt」の過去分詞で「溶解する」、「鋳造する」、「古いものから新しいものに脱皮する、生まれ変わる」といった意味を持ちます。競技用ボールと自動車部品の製造・販売で事業を開始した同社ですが、現在は医療・福祉機器ほか、2019(平成31、令和元)年からはマリン・産業用品を4つ目の事業として立ち上げ、ブランドを展開しています。なかでも競技用ボールはバスケットボールをはじめ、ハンドボールやバレー、サッカーの公式球に採用されるなど、世界中の主要リーグやチーム、プレイヤー、そしてスポーツを楽しむすべての人々から長年愛され続けています。

 

2.マイフットボールキット誕生のきっかけとなった途上国の現状

組み立て式のサッカーボール「MY FOOTBALL KIT(マイフットボールキット)」は、同社がSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)に貢献する製品として開発を行い2021(令和3)年1月にリリースされました。
マイフットボールキットは、企業や団体が世界中の子供たちに組み立て式サッカーボールを送り、SDGs目標の「質の高い教育をみんなに」(目標4)と「つくる責任・使う責任」(目標12)に貢献することを目的につくられたプロジェクトで、サッカーを通じ「子供たちに学習やスポーツの魅力を体感してほしい」との願いが込められています。マイフットボールキットは同社活動に賛同する企業や団体を中心に販売され、支援団体と連携して世界中の子供たちに届けられています。
マイフットボールキット誕生のきっかけは、まだ「SDGs」という言葉があまり一般的に浸透していなかった2018(平成30)年秋にさかのぼります。これまでも同社は、発展途上国や各支援団体にボールを寄贈していましたが途上国の一つ、カンボジアでは年間を通じ高温多湿(熱帯モンスーン気候)で、雨季が半年ほど続く環境下のため、2~3ケ月という速さでボールが痛むほか、空気が抜けた際に注入するための空気入れもないことから、最終的にゴミとして廃棄されてしまうという、つらい現実を知ったことをきっかけに、マイフットボールキットの企画・開発が始まりました。これらを背景に商品企画を進めるなか「サッカーボールでSDGsの目標を達成し社会貢献できないか?」、「それならば、空気を入れる必要がなく、メンテナンスも不要でゴミとならないボールを開発してみてはどうだろうか?」といった視点で、マイフットボールキットの開発が進み出しました。

組み立て式のサッカーボール「MY FOOTBALL KIT(マイフットボールキット)

写真説明】組み立て式のサッカーボール「MY FOOTBALL KIT(マイフットボールキット)」(同社提供)

 

 

3.イラストで表現した無言語の説明書に込めた思い

マイフットボールキットが目指すSDGsのゴールは「4・質の高い教育をみんなに」、「目標12・つくる責任・使う責任」に貢献することを目標にしています。ボールの特長ですが、素材には再生ポリプロピレン(以下、PP)40%が使用されています。今年末までには再生PPの配合率をさらに上げるための研究・開発が進んでいるといいます(目標12)。
「子供たちにサッカーを通して様々なことを学んでほしい…」。そんな同社の思い(発想)すべてが詰まったボールキットですが、一つのボールを組み立てる過程において、子供たちの理解・発想(想像)力が養われるほか、友達とのコミュニケーションや完成した事への喜びに対する気付き、さらに自分でも出来るという達成感が味わえます。一つのボールが学ぶ楽しさと完成したボールでサッカーをする喜びを与えてくれるといった、きっかけ作りの教科書となっています。
3種類の部品計54個を組み立てることで完成するボール(4号球)ですが、組み立て式のため空気が不要となるほか、破損した際も壊れたパーツと組み替えるだけでボールは元通りに戻ります。また、再生紙を使った組み立て説明書は世界中の子供たちが組み立てられるよう、あえて文字(言語)は使用せずイラストで説明。母国の字を読むことが困難な子供たちへの配慮など、創意工夫が凝らされています。このほか、梱包時の袋の素材は、地球温暖化対策として焼却時にCO2が発生しない不織布を採用。袋はボールバッグとしても使用できます。

ボールバッグはCO2が発生しない不織布を採用している

写真説明】ボールバッグはCO2が発生しない不織布を採用している(同社提供)

 

4.玩具ではない「ボールメーカーが作るサッカーボールを」

「 “ボールメーカーが作るボールであり、玩具ではないサッカーボールを作る”という点に一番こだわった」というマイフットボールキットですが、試作段階から安全面の考慮をはじめ、蹴(け)り心地や衝撃対策など試行錯誤が続いたといいます。特に蹴り心地については、現地の子供たちが裸足で蹴ることも想定していたため、商品企画部と共にトライアル・アンド・エラーが繰り返し行われました。開始当初は「3回のリフティングでボールがばらけたため、ジョイント部などの構造改善を行ったところ、足を負傷(出血)してしまった」など、製品テストは常に裸足で行われたそうです。
このほか、樹脂材料で蹴り心地を再現するに当たっては、蹴った時の衝撃値(ヒトが感じる感覚)やボールを押した(荷重)時の固さ(安全面含め)などを数値化。これら数値のバランス調整に多くの時間が使われ、試作から完成まで約1年半が費やされました。

 

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5.「子供たちに国境はない」国内外の反響に手応え

試作段階から日本国内はじめ、タイやカンボジアの子供たちをモニターにイベントを開いてきた同社ですが、初めのうちは「何を作っているのか」と不思議がっている子供たちも、形が半球体くらいになってくると「作りたい、説明して!」と、興味関心も最高潮に達します。同社も、子供たちが実際に組み立て、半球体になったボールを頭に被った(写真下・㊧)ところで「達成感の半分は味わってもらえた」と感触を得たそうで「無言語の取り扱い説明書も含め、子供たちの世界に国境はないと改めて感じた。子供たちの楽しんでいる姿を見ると、喜びもひとしお」と振り返ります。

マイフットボールキットは3種類のパーツを使い組み立てる

写真説明】マイフットボールキットは3種類のパーツを使い組み立てる(同社提供)

これまで同社では、2021(令和4)年12月に国立競技場で開催された天皇杯決勝戦に、関東在住で障がいを持つ子供たちを招待。ゲーム開始前にフットボールキットの組み立てイベントを開いています。また、今年6月の日比谷音楽祭会場でもPRイベントが行われ「いずれも場面も好評だった。反響も大きく、肌感覚として今後の可能性を感じた」と話しています。

試作品の検証はカンボジアの学校で子供たちを対象に開かれた

写真説明】試作品の検証はカンボジアの学校で子供たちを対象に開かれた(同...

一つのボールが学びと遊びのきっかけづくりに 

株式会社モルテン(広島県広島市)

モルテン社が生産するマイフットボールキット

目次

1.スポーツ用品の製造販売など4事業を柱に独自ブランド展開
2. マイフットボールキット誕生のきっかけとなった途上国の現状
3.イラストで表現した無言語の説明書に込められた思い
4.玩具ではない「ボールメーカーが作るサッカーボールを」
5.「子供たちに国境はない」国内外の反響に手応え
6. 企業と社会の“Win-Win”関係の構築が目標

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1. スポーツ用品の製造販売など4事業を柱に独自ブランド展開

株式会社モルテン(代表取締役社長 最高経営責任者 民秋清史氏)の創業は1958(昭和33)年。社名「molten(モルテン)」の由来は「melt」の過去分詞で「溶解する」、「鋳造する」、「古いものから新しいものに脱皮する、生まれ変わる」といった意味を持ちます。競技用ボールと自動車部品の製造・販売で事業を開始した同社ですが、現在は医療・福祉機器ほか、2019(平成31、令和元)年からはマリン・産業用品を4つ目の事業として立ち上げ、ブランドを展開しています。なかでも競技用ボールはバスケットボールをはじめ、ハンドボールやバレー、サッカーの公式球に採用されるなど、世界中の主要リーグやチーム、プレイヤー、そしてスポーツを楽しむすべての人々から長年愛され続けています。

 

2.マイフットボールキット誕生のきっかけとなった途上国の現状

組み立て式のサッカーボール「MY FOOTBALL KIT(マイフットボールキット)」は、同社がSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)に貢献する製品として開発を行い2021(令和3)年1月にリリースされました。
マイフットボールキットは、企業や団体が世界中の子供たちに組み立て式サッカーボールを送り、SDGs目標の「質の高い教育をみんなに」(目標4)と「つくる責任・使う責任」(目標12)に貢献することを目的につくられたプロジェクトで、サッカーを通じ「子供たちに学習やスポーツの魅力を体感してほしい」との願いが込められています。マイフットボールキットは同社活動に賛同する企業や団体を中心に販売され、支援団体と連携して世界中の子供たちに届けられています。
マイフットボールキット誕生のきっかけは、まだ「SDGs」という言葉があまり一般的に浸透していなかった2018(平成30)年秋にさかのぼります。これまでも同社は、発展途上国や各支援団体にボールを寄贈していましたが途上国の一つ、カンボジアでは年間を通じ高温多湿(熱帯モンスーン気候)で、雨季が半年ほど続く環境下のため、2~3ケ月という速さでボールが痛むほか、空気が抜けた際に注入するための空気入れもないことから、最終的にゴミとして廃棄されてしまうという、つらい現実を知ったことをきっかけに、マイフットボールキットの企画・開発が始まりました。これらを背景に商品企画を進めるなか「サッカーボールでSDGsの目標を達成し社会貢献できないか?」、「それならば、空気を入れる必要がなく、メンテナンスも不要でゴミとならないボールを開発してみてはどうだろうか?」といった視点で、マイフットボールキットの開発が進み出しました。

組み立て式のサッカーボール「MY FOOTBALL KIT(マイフットボールキット)

写真説明】組み立て式のサッカーボール「MY FOOTBALL KIT(マイフットボールキット)」(同社提供)

 

 

3.イラストで表現した無言語の説明書に込めた思い

マイフットボールキットが目指すSDGsのゴールは「4・質の高い教育をみんなに」、「目標12・つくる責任・使う責任」に貢献することを目標にしています。ボールの特長ですが、素材には再生ポリプロピレン(以下、PP)40%が使用されています。今年末までには再生PPの配合率をさらに上げるための研究・開発が進んでいるといいます(目標12)。
「子供たちにサッカーを通して様々なことを学んでほしい…」。そんな同社の思い(発想)すべてが詰まったボールキットですが、一つのボールを組み立てる過程において、子供たちの理解・発想(想像)力が養われるほか、友達とのコミュニケーションや完成した事への喜びに対する気付き、さらに自分でも出来るという達成感が味わえます。一つのボールが学ぶ楽しさと完成したボールでサッカーをする喜びを与えてくれるといった、きっかけ作りの教科書となっています。
3種類の部品計54個を組み立てることで完成するボール(4号球)ですが、組み立て式のため空気が不要となるほか、破損した際も壊れたパーツと組み替えるだけでボールは元通りに戻ります。また、再生紙を使った組み立て説明書は世界中の子供たちが組み立てられるよう、あえて文字(言語)は使用せずイラストで説明。母国の字を読むことが困難な子供たちへの配慮など、創意工夫が凝らされています。このほか、梱包時の袋の素材は、地球温暖化対策として焼却時にCO2が発生しない不織布を採用。袋はボールバッグとしても使用できます。

ボールバッグはCO2が発生しない不織布を採用している

写真説明】ボールバッグはCO2が発生しない不織布を採用している(同社提供)

 

4.玩具ではない「ボールメーカーが作るサッカーボールを」

「 “ボールメーカーが作るボールであり、玩具ではないサッカーボールを作る”という点に一番こだわった」というマイフットボールキットですが、試作段階から安全面の考慮をはじめ、蹴(け)り心地や衝撃対策など試行錯誤が続いたといいます。特に蹴り心地については、現地の子供たちが裸足で蹴ることも想定していたため、商品企画部と共にトライアル・アンド・エラーが繰り返し行われました。開始当初は「3回のリフティングでボールがばらけたため、ジョイント部などの構造改善を行ったところ、足を負傷(出血)してしまった」など、製品テストは常に裸足で行われたそうです。
このほか、樹脂材料で蹴り心地を再現するに当たっては、蹴った時の衝撃値(ヒトが感じる感覚)やボールを押した(荷重)時の固さ(安全面含め)などを数値化。これら数値のバランス調整に多くの時間が使われ、試作から完成まで約1年半が費やされました。

 

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5.「子供たちに国境はない」国内外の反響に手応え

試作段階から日本国内はじめ、タイやカンボジアの子供たちをモニターにイベントを開いてきた同社ですが、初めのうちは「何を作っているのか」と不思議がっている子供たちも、形が半球体くらいになってくると「作りたい、説明して!」と、興味関心も最高潮に達します。同社も、子供たちが実際に組み立て、半球体になったボールを頭に被った(写真下・㊧)ところで「達成感の半分は味わってもらえた」と感触を得たそうで「無言語の取り扱い説明書も含め、子供たちの世界に国境はないと改めて感じた。子供たちの楽しんでいる姿を見ると、喜びもひとしお」と振り返ります。

マイフットボールキットは3種類のパーツを使い組み立てる

写真説明】マイフットボールキットは3種類のパーツを使い組み立てる(同社提供)

これまで同社では、2021(令和4)年12月に国立競技場で開催された天皇杯決勝戦に、関東在住で障がいを持つ子供たちを招待。ゲーム開始前にフットボールキットの組み立てイベントを開いています。また、今年6月の日比谷音楽祭会場でもPRイベントが行われ「いずれも場面も好評だった。反響も大きく、肌感覚として今後の可能性を感じた」と話しています。

試作品の検証はカンボジアの学校で子供たちを対象に開かれた

写真説明】試作品の検証はカンボジアの学校で子供たちを対象に開かれた(同社提供)

組み立てたボールでサッカーを楽しむ子供たち

写真説明】組み立てたボールでサッカーを楽しむ子供たち(同社提供)

 

6.企業と社会の“Win-Win”関係の構築が目標

同社も一連の活動(開発)を続けるなか「17の目標、169のターゲットを見てみると、我々も成長し、成長を皆に分配したうえで社会課題の解決も行っていかなければならない。ボランティア的な物ではないということに改めて気が付かされた」と話します。また、企画・開発に当たっても「子供たちが組み立てることで、創造性や空間認識能力を養える“玩具ではないボール”を作らなければいけない(目標4)。さらに製造業である以上、つくる責任・つかう責任も織り込んでいかなければならない(目標12)など、理解すればするほどSDGsのポリシーに傾斜していった」といいます。
これまでを振り返り、同社は「作る側や企画・販売サイドをはじめ、集まる人すべてが“社会貢献に関わっている”という、共通の価値観や考え方を持っていることが実感できた」と手応えを感じています。また「この活動(SDGs)を売り上げ(ビジネス)ベースに乗せることで、単なる慈善活動ではなく“Win-Winの関係が構築できる”という共通認識を社内に広め、大きな流れ(変化)を生み出していきたい。“持続可能な開発目標”である以上、企業として新たな目標を定め、さらにどのような改革ができるかが問われている。まだ取り組みも始まったばかりだが、世の中の流れに遅れをとらないよう、中身のともなった活動を続けていきたい」と意気込みを語ってくれました。

記事:産業革新研究所 編集部 深澤茂

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