生産を見越した試作の方法とは

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  技術マネジメント
 
 今回は、次のような事例により、生産を見越した試作の方法を解説します。
 

1. 事例: 試作のタイミングで、注意をすべきこと

 機能性を持ったバッグの企画、開発をしている企業で、企画、また、構造や機能の一部を開発し、中国で試作、生産しいる事例です。中国での製造は何年にもなり、大きな問題もなく、協力関係も良好な事例です。そんな外注先に、今回、新しい生地を作ってバッグを作ってもらうことにしました。
 
 最初の試作は、問題なく出来上がってきました。特にその生地に問題はなく、工場からも、問題ありとの連絡はありませんでした。なお、試作数は一つです。2回目の試作は、別の箇所の改良が目的でした。できあがった試作は最初の試作同様に、生地の問題はありませんでした。しかし、その後、外注先から、その生地は使えないと連絡が来ました。製造上に問題があるとのことです。
 
 その後、色々と対策を相談したのですが、外注先は、頑として製造不可とのことで、結局、その生地は採用できませんでした。その生地は衣類には多用されているため、私は製造上問題ないと思っており、油断したかもしれません。最初の試作の時に、製造が困難なのはわかっていたはずです。それを、2回目の試作の後に製造上に問題があると言うのはおかしいのです。数を増やした場合にわかるような問題では無いはずです。
 
 試作の段階で製造上問題がないか確認するのは、当然です。数を作って始めてわかる問題もあります。通常、初期の試作から生産前のパイロット的な試作をしていくのですが、それぞれのタイミングで、どのような注意をすべきでしょうか。この事例で考えてみましょう。
 

2. 状況の整理と考察のポイント

 品質マネジメントシステムの観点から、状況を整理すると以下のようになります。
 
(1) 国内で機能性バッグの企画、開発を行い、試作、量産を外注(中国)。
(2) 外注先は、製造実績が何年もあり、問題もなかった。
(3) 指定した布地はすでに量産実績がある。
(4) 指定した布地は2回の試作でも使って問題なかった。
(5) 外注先から、製造上の問題で使えないと連絡があった。
(6) 相談したが、外注先は製造不可の判断は変えなかった。
 

 ◆ ポイントは、次の点にあります。

  • 製造上の問題とは、具体的に何か?(生産数量、コスト、品質)
  • 試作段階までに外注先は、量産時点の数量、コスト、貴社からの要求品質(バッグの生地として求められる評価項目等)を認識していたのか?本当の理由は?
 

3. 初期の試作、生産前パイロット試作における注意点

 企画、設計開発から量産導入までには、いくつかのステップがありますが、外注先が量産を前提にする試作、量産準備ができるようなチェ...
 
  技術マネジメント
 
 今回は、次のような事例により、生産を見越した試作の方法を解説します。
 

1. 事例: 試作のタイミングで、注意をすべきこと

 機能性を持ったバッグの企画、開発をしている企業で、企画、また、構造や機能の一部を開発し、中国で試作、生産しいる事例です。中国での製造は何年にもなり、大きな問題もなく、協力関係も良好な事例です。そんな外注先に、今回、新しい生地を作ってバッグを作ってもらうことにしました。
 
 最初の試作は、問題なく出来上がってきました。特にその生地に問題はなく、工場からも、問題ありとの連絡はありませんでした。なお、試作数は一つです。2回目の試作は、別の箇所の改良が目的でした。できあがった試作は最初の試作同様に、生地の問題はありませんでした。しかし、その後、外注先から、その生地は使えないと連絡が来ました。製造上に問題があるとのことです。
 
 その後、色々と対策を相談したのですが、外注先は、頑として製造不可とのことで、結局、その生地は採用できませんでした。その生地は衣類には多用されているため、私は製造上問題ないと思っており、油断したかもしれません。最初の試作の時に、製造が困難なのはわかっていたはずです。それを、2回目の試作の後に製造上に問題があると言うのはおかしいのです。数を増やした場合にわかるような問題では無いはずです。
 
 試作の段階で製造上問題がないか確認するのは、当然です。数を作って始めてわかる問題もあります。通常、初期の試作から生産前のパイロット的な試作をしていくのですが、それぞれのタイミングで、どのような注意をすべきでしょうか。この事例で考えてみましょう。
 

2. 状況の整理と考察のポイント

 品質マネジメントシステムの観点から、状況を整理すると以下のようになります。
 
(1) 国内で機能性バッグの企画、開発を行い、試作、量産を外注(中国)。
(2) 外注先は、製造実績が何年もあり、問題もなかった。
(3) 指定した布地はすでに量産実績がある。
(4) 指定した布地は2回の試作でも使って問題なかった。
(5) 外注先から、製造上の問題で使えないと連絡があった。
(6) 相談したが、外注先は製造不可の判断は変えなかった。
 

 ◆ ポイントは、次の点にあります。

  • 製造上の問題とは、具体的に何か?(生産数量、コスト、品質)
  • 試作段階までに外注先は、量産時点の数量、コスト、貴社からの要求品質(バッグの生地として求められる評価項目等)を認識していたのか?本当の理由は?
 

3. 初期の試作、生産前パイロット試作における注意点

 企画、設計開発から量産導入までには、いくつかのステップがありますが、外注先が量産を前提にする試作、量産準備ができるようなチェックリストを計画段階で準備します。そのチェックを企画段階、試作依頼の時、量産試作の時に自己評価してもらいフィードバックを受けるようにします。つまり、節目を設定し、見積もりを出す時や、試作を依頼する時に段階的に双方で量産にむけてリスクの有無を確認することです。
 
 チェックリストの内容は、Q,C,D(品質、コスト、生産数量)に係ることを盛り込みます。こうした活動は、「実現可能性検討」と呼ばれています。また、最初のチェックは、外注先を訪問され、生産工程現場の状況も見ながら評価することです。製造上の問題となった事象を早い段階でリスクとして検出し、対策を実施できる体制を維持することが肝要です。
 

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この記事の著者

鯨井 武

自動車産業品質マネジメントシステムに係る実務、品質・信頼性技法の経験が豊富。また、米国建設機械メーカーよりシックスシグマのブラックベルト認定。 社内品質、生産性向上活動支援。

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