「9画面法」とは、キーワードからわかりやすく解説
1. 9画面法とは
TRIZの9画面法とは、3×3=9つのセルを用意し、現状の該当技術/製品を中心に、取り巻く環境/システムを上、要素技術を下、過去を左、将来を右に配置する事で、技術/製品を時間、空間で整理する方法です。 これを使う事で、目前にある問題にとらわれることなく、広い視野で革新的なアイデアを発想する事が可能となります。 技術課題だけでなく、商品企画やマネジメント分野まで広く応用できるツールです。
2. 9画面法の構成
9画面法は、TRIZの中でも非常に分かりやすく、成果の出しやすいツールです。9画面法はシステムオペレーター、マルチスクリーンとも呼ばれ、「時間と空間」の2次元マトリクスの中で考える発想法です。現在のシステムまたは下位(サブ)システムレベルしか考えない場合の思い込み(心理的惰性)を打破できます。視野を連続的に「縮小(ズームイン)・拡大(ズームアウト)」しながらモノを見るという考え方を手に入れることができるのです。
9画面法の構成は、横軸に過去、現在、未来と表わす「時間軸」をとり、縦軸に下位(サブ)システム、システム、上位(スーパー)システムとシステムを拡大して考える「空間軸」をとります。9画面法は、正に、時空を超えてブレークスルーするツールなのです。
では、「システム」とは何なのでしょうか。制度、体系、機構、ソフトウェアなどどこにでも使える万能な用語となっています。複数のモノやコトから構成されていれば、何でもシステムと表現できます。断片的な捉え方では、根本的な課題解決には結びつきません。全体像を見据えながら個別課題を解決しようとしているのです。
9画面法は時間と空間の視点を加味した、TRIZの強みを活用したシンプルなツールです。シンプルなツールであるため、技術分野、マネジメント分野などの分野を問わず使えるわけです。「進化トレンド」と併せると、技術戦略、人材戦略、マーケティング戦略などのマネンジメント課題にも威力を発揮します。問題点や課題を抱え、藁をもつかむ想いのあなたに対して、自動的に視野を拡大し、新しい視点を提供してくれます。
3. 9画面法の実践的な使い方
9画面法は、その構成のシンプルさにもかかわらず、適用範囲は非常に広く、具体的な問題解決やアイデア創出において強力な効果を発揮します。実践的な使い方としては、まず解決したい問題、改善したい製品、あるいは構想中のアイデアを「現在のシステム」として中央のセル(システム・現在)に明確に位置づけることから始めます。この明確化が、後の考察の基盤となります。
次に、このシステムの構成要素、つまり、それを成り立たせている主要な部品や技術、機能などを「現在のサブシステム」として下のセル(サブシステム・現在)に記述します。これらは、システムが機能するために欠かせない直接的な要素です。一方、このシステムが組み込まれているより大きな枠組み、例えば、使用環境、関連法規、ユーザー、そのシステムが果たすべき目的や、それが属する市場などを「現在のスーパーシステム」として上のセル(スーパーシステム・現在)に書き出します。この上下の作業によって、問題の焦点を明確にしながらも、その周辺環境や構成要素との関連性を把握することができます。
続いて、時間軸の考察に移ります。まず過去の視点です。現在のシステムが過去にどのような姿であったか、あるいは、現在のシステムを構成する技術や製品の原型、先代モデル、その問題がどのようにして発生・顕在化したのかを「過去のシステム」として左のセル(システム・過去)に記述します。同様に、現在のサブシステムが過去にどのような要素で構成されていたか、その進化の過程を「過去のサブシステム」として左下のセル(サブシステム・過去)に、また、現在のスーパーシステムが過去にどのような状況であったか、その背景の変化を「過去のスーパーシステム」として左上のセル(スーパーシステム・過去)にそれぞれ記述します。この過去の視点を持つことで、現在の問題や技術が持つ「履歴」を理解し、現在の状態が必然的にたどり着いた結果であることを認識できます。
最後に、未来の視点に移ります。現在のシステムを今後発展させるにはどうすべきか、問題が解決された後の理想的な状態、あるいは技術の進化によって実現可能な姿を「未来のシステム」として右のセル(システム・未来)に具体的に描きます。そして、未来のシステムを支えるであろう新しい技術要素や、現在のサブシステムが進化・代替された姿を「未来のサブシステム」として右下のセル(サブシステム・未来)に記述します。さらに、システムを取り巻く環境(スーパーシステム)が将来どのように変化しているか、社会のトレンド、法規制の動向、ユーザーニーズの変化などを「未来のスーパーシステム」として右上のセル(スーパーシステム・未来)に記述します。
この9つのセルを埋める作業を通じて、思考は中央の「現在・システム」という制約から解放され、時空を超えて縦横無尽に移動します。特に、問題解決のヒントは、しばしば「過去のスーパーシステム」の変化や、「未来のサブシステム」の技術革新といった、現在のシステムから遠いセルの中に潜んでいることが多いのです。このツールを使うことで、既成概念にとらわれず、異なる次元からのアプローチが可能となり、創造的なブレークスルーが期待できるのです。この手法は、個人での思考整理はもちろん、チームでのディスカッションやアイデア出しのツールとしても非常に有効です。チームメンバーそれぞれの異なる視点を、共通のフレームワークに統合し、議論を促進することができます。
4. 9画面法の応用範囲と意義
9画面法は、単なる問題解決ツールに留まらず、広い意味での「戦略策定ツール」としても非常に大きな意義を持ちます。特に、技術の進化が加速する現代において、将来を見通す力は企業の競争力を左右します。このツールは、現在の技術や製品が持つ潜在的な課題を、時間軸と空間軸の両方から深く掘り下げることを可能にし、それによって生まれるべき革新的なアイデアの方向性を指し示します。
例えば、事業戦略を検討する際、「現在のシステム」を自社の主要製品・サービスと設定します。「現在のスーパーシステム」として市場・競合・顧客の変化を捉え、「未来のスーパーシステム」には、今後5年後、10年後の市場や社会の姿を予測して記述します。その未来の環境下で成功するためには、自社の製品・サービス(未来のシステム)がどうあるべきか、そしてそれを実現するためのコア技術(未来のサブシステム)は何であるべきかという逆算的な思考が可能になります。これは、将来の技術ロードマップや、必要な人材育成の計画を立てる上でも非常に強力な指針となります。
また、マネジメント分野においても、例えば組織構造を「システム」と捉えることで、過去の組織の変遷、現在の組織を取り巻く環境(スーパーシステム:業界、法規制)、そして将来の事業環境に適した理想的な組織構造を検討することができます。個々の部門やチーム(サブシステム)の役割を、過去から未来へと時系列で捉え直すことで、現在の組織が抱える硬直化や非効率性の原因を明確にし、次世代の組織デザインに繋げることが可能です。
9画面法の最大の意義は、思考の制約を意図的に取り外し、多角的かつ長期的な視点を強制的に導入することにあります。私たちは日々の業務の中で、どうしても目前の課題や、自身の専門分野に思考が閉じこもりがちです。この「心理的惰性」こそが、イノベーションを阻む最大の壁となります。9画面法は、この壁を打ち破り、「時間軸(過去・現在・未来)」と「空間軸(サブ・システム・スーパー)」という普遍的な二つの視点を用いて、創造的な思考を組織的に、かつ再現性高く導き出すことを可能にするのです。この普遍的なフレームワークを習得することは、変化の時代を生き抜くための、強力な武器となるでしょう。



