ヒューマンエラーとは?2つの種類、予防方法を紹介
製品の生産や使用の過程での事故・不具合などトラブルの多くは、さまざまなヒューマンエラーが原因となって発生します。ここでは、ヒューマンエラー対策を行い、トラブルを防止していくための基本となる考え方、予防方法を解説します。エンジニアリング初心者はもとより広くものづくりに携わる皆さんに、この考え方を再確認していただければと思います。
1. ヒューマンエラーとは
ヒューマンエラーとは、人的ミス、人的過誤といわれており、人間の作業や行動により予期していない事故やトラブルが発生してしまうことをいいます。こういったヒューマンエラーは、どんな会社でも発生していますが、書類のミスなどの小さいミスから、生命に関わるような重大事故や問題へと発展することもあります。
(1)ヒューマンエラーの種類
① 意図して起こるケース
ルールや手順を無視して自己の利益を追求する行動、悪意を持って他者に害を与えるために行われる行為などがこのケースです。故意に行われるエラーのことを指します。
② 意図せず起こるケース
本来の意図とは異なる行動や判断が生じることは、知識不足や疲労、ストレス、注意散漫などが原因です。意図せず起こるケースは、誤って行われるエラーのことを指します。
(2)ヒューマンエラーに含まれないミスとは
① 故意に引き起こされたエラー
故意に引き起こされたエラーとは、セキュリティシステムを無効にしてしまうなど、意図的にシステムに問題を引き起こす行為がこれに該当します。人間の意図的な行動によって発生するミスです。
② マニュアル自体に誤りがあった場合
これは、文書や手順書などの情報が正しくないことが原因です。例えば、古いバージョンのマニュアルを使用してしまったり、不正確な情報が記載されている場合が考えられます。マニュアル自体に誤りがある場合は、人間のミスではなく、記述された情報の問題です。
③ 機械のトラブル
機械のトラブルとは、コンピュータのハードウェアの故障やソフトウェアのバグによってデータが消失したり、機械が予期せぬ動作をしたりすることです。機械やシステムの故障や不具合によって発生するミスです。
(3)ヒューマンエラーの類義語「人災」・「人為的ミス」
「人災」や「人為的ミス」は、人間の手によって引き起こされた災害や誤りを指す言葉です。一方「ヒューマンエラー」は、人間が行う作業や判断において発生する誤りやミスを指します。つまり、これらの用語は、人間の行動や判断によって生じた問題や失敗を表現する際に使われます。例えば、工場での作業中に作業員がミスを犯して機械が故障する場合、これはヒューマンエラーと言えますが、その結果として工場内で火災が発生した場合、これは人災です。ヒューマンエラーの類義語「人災」・「人為的ミス」は、人間が原因となって起こる問題や災害を指す際に、これらの言葉が使われます。
2. ヒューマンエラーに大きく関わるヒヤリ・ハットとは
ヒューマンエラーの発生を防止していくためには、重大事故や問題、トラブルに繋がる要因を普段から無くしていくことが重要なります。それが現場の安全へと繋がっていきます。そのためには、ヒヤリハットの対策をしっかりと行い、従業員からヒヤリハットを感じた内容などをしっかりと汲み上げないといけません。
ヒヤリハットとは、文字通り、作業や業務中にミスや事故に繋がりそうになり、ヒヤリとしたり、ハッとしてしまう事象のことです。
また似たような言葉に、「インシデント」がありますが、システムやサービスに問題がある事態が起こっており、そこで働く社員が悪影響を受けてしまうことを意味しており、現場で業務中に不具合が発生していて、それが原因になり、大きな事故やミスに繋がってしまうことをいいます。
ヒヤリハットを解説していく上で、欠かせない内容となってくるのが、ハインリッヒの法則です。
この法則は、1:29:300の法則であり、1件の重大事故の背後には、29件の軽微な事故があって、さらにその背後には、300件のヒヤリハットが存在しているといった内容になります。
3. ヒューマンエラーの発生原因
ヒューマンエラーの発生原因を、以下に説明していきます。
(1)作業員の知識や経験が足りない
業務が忙しくて、まともに教育ができていない会社も多いのですが、知識と経験の2つが足りずに、大きなミスや事故に発展する場合もあります。知識が足りないため、それが原因となって、判断ミスをしてしまうことも多くなってしまいます。こういった教育をしっかりと行えない状態を放置していて、現場を管理できていない会社で、大きなトラブルが起こっています。
(2)作業者の慣れが原因になる
作業者がベテランである場合によくあるパターンになりますが、仕事に慣れているからこそ、マニュアルやルールに従わず、手順を飛ばすなどの手抜き作業を行っている場合に、トラブルが発生してしまう事があります。また、慣れてくると、油断してしまう心が生まれてしまい、「大丈夫だろう」と間違った判断をしたり、不注意が起こってしまったり、結果として、労働災害に繋がってしまうこともあります。
(3)作業者の疲労状態を把握できない職場環境にある
現場の仕事は特に、作業者が身体を使って仕事を行っている為、身体への疲労の蓄積がありますが、休日が少なすぎたり、長時間労働をさせていたりすると、作業者の疲労がどんどん溜まっていってしまっています。疲労した状況で働いていると、作業者の注意力や認知力が低下して、安全行動を守れなかったり、うっかりミスをしてしまい、さまざまな事故へと繋がってしまうこともあります。職場環境を整えることも重要なポイントとなってきます。
4. ヒューマンエラーと危険予知トレーニング(KYT活動)
ヒューマンエラーを無くしていく上で、大切になってくるのが、危険予知トレーニングです。危険予知トレーニングとは、従業員から集まってきたヒヤリハットの内容と、安全衛生パトロールなどで発見した危険ポイントについて、危険に対する対策を検討したり、改善していくことをいいます。こういった活動に従業員を参加させることで、個人が普段から仕事の作業中にも、危険がないかを探しながら進めてくれるような考え方の教育へと繋がり、作業者の意識も改善されていきます。
5. ヒューマンエラーの対策
ヒューマンエラーの対策を、下記で説明していきます。
(1)ダブルチェックの重要性
ヒューマンエラーを防ぐ方法として、代表的なものが、「ダブルチェック」になります。作業員本人だけでなく、別の作業員にも確認を行ってもらうことを徹底することがダブルチェックになります。ヒューマンエラーを防ぐために、まず導入していくべき対策といえます。
(2)ヒューマンエラーが発生する組織や体制の改善
ヒューマンエラーが発生しやすい会社には、発生する要因を無くす対策を行っていない組織体や上司や経営陣の怠慢な勤務態度があると考えられます。企業側も、普段からKYT活動を積極的に行うなど、ヒューマンエラーによる事故を防いでいく努力が必要となってきます。これらの対策を行うことは、企業の責任だといえます。
6. まとめ
ヒューマンエラーは避けられない部分もありますが、適切なトレーニングやシステムの改善などを通じて、最小限に抑える努力が重要です。意図して起こるケースも意図せず起こるケースも、人間の性質や状況によって起こりうるものであり、その理解が重要です。ヒューマンエラーとは異なる原因によってミスが発生する可能性もありますので、システムやプロセスの改善によって、これらのミスを最小限に抑えることが重要です。
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