設計標準の必要性と作り方 (その2)

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 設計標準の必要性と作り方について、2回に分けて解説しています。今回はその2として、ベストコストでの設計を実現する設計標準の作り方について具体的な例を考えてみましょう。
 

1.事例:動力軸の設計

 図1のような動力を伝達するための動力軸を設計しようとしています。設計者は、この図面を一体もので描きました。つまり、プーリーの直径よりも大きな丸棒材からすべて削り出していくことになります。図1に類似する動力軸が十数種類あります。具体的には、プーリー間のピッチが異なるだけで、他のシャフト部やプーリー部の径、プーリー幅などが同じであったのです。
 
               seke1
図1.動力軸の設計事例
 
 一般に会社では、設計者の描いた図面の通りに作ることで考えます。製作する立場から考えるとこの動力軸は、プーリー外径よりも太い丸棒材からシャフト径まで結構な量を削ることになります。この場合、コストダウンは容易ではないでしょう。この動力軸について、プーリーとシャフトの2つに分けて、その2つを組合せるとしたらどうなるでしょう。削る量を大きく減らすことができますし、類似する動力軸も、同じ部品の組合せで済ますことができます。さらに、生産ロットを増やすことができ、コストダウンすることができます。
 
 このように欲しい形状や性能に対して、その作り方はたくさんあるということです。そして、ここからが肝心です。その欲しい形状や性能を満たすうえで、構造や構成と最適なコストの関係を知っておくことが必要です。しかし、コスト上の優位性を判断する能力は、多くの知識と経験を必要とします。当然、そのための時間も必要になってきます。
 
 ある会社の幹部の方から設計者の質を高めたいが、どうしたらよいかという相談を受けたことがあります。ここで述べている質とは、社内で用いられている製品の構造や原価について、固定化してしまっているため、設計者の意識改革を行い、現状を打破したいという主旨でした。
 
 ここで提案したことは、他の業界で設計の経験を持つ派遣社員を探して、社員の方たちと一緒に設計業務を遂行してもらい、刺激を与えることでした。派遣社員の方は、元大手の自動車メーカーで設計を担当されていました。自動車メーカーでは、早くから設計標準の整備がされており、要求される品質や性能に対してどのような構造や構成が、最適なコストになるかの選択基準をしっかりと持っているからです。
 
 この結果は、予想以上の成果をもたらしました。設計者の方たちが、従来の製品の構造や構成から抜け出すことができ、新しい構造や構成に対して強いコスト意識を持つことができるようになってきたのです。
 
 設計標準は、特定の製品を誰が設計しても同じような品質と性能を発揮でき、安定させることができるとともに、開発期間の短縮し、そして最適なコストへのガイド役になるものです。つまり、設計標準を設定することによって、コスト上の優位性を判断する能力をより短期間に高めることができます。
 

2.設計標準の作り方

 それでは、設計標準の作成する手順について、以下に紹介します。
 
(1)設計標準を作成するにあたっては、まず自社の対象とすべき製品を決めます。
(2)つぎに、製品の大きさや材料、形状などの特徴を整理します。(製品分析)
(3)作る製品によって、必要になる設備機械が異なってきます。そのリストアップを行います。
(4)それらの設備機械に関する詳細の加工工程を整理します。(工程の分析)
(5)設備機械に関するコスト情報の収集を行います。(コスト情報の収集)
(6)そして、設備機械には、加工限界があります。この加工限界を整理します。(加工限界分析)
(7)材料、部品のレベルに加工限界値を設定します。(設計標準基礎データ)
(8)ユニットレベルでの品質や性能などを条件とコスト情報を整備します。(ユニット別設計標準)
 
 設計標準の一貫として製品やサブアッセンブリなどを対象にプロトタイプを設定して、標準化と部品の共通化を図ります。この方法は、プロタイプをベースに製品の重量やサイズに応じたパラメータを求め、迅速に製品概算コストを求めることにも役立ちます。しかし、単にプロトタイプを設定しただけでは、大きな効果を得ることはできません。
 
 ベースになる各部品について、最...
 設計標準の必要性と作り方について、2回に分けて解説しています。今回はその2として、ベストコストでの設計を実現する設計標準の作り方について具体的な例を考えてみましょう。
 

1.事例:動力軸の設計

 図1のような動力を伝達するための動力軸を設計しようとしています。設計者は、この図面を一体もので描きました。つまり、プーリーの直径よりも大きな丸棒材からすべて削り出していくことになります。図1に類似する動力軸が十数種類あります。具体的には、プーリー間のピッチが異なるだけで、他のシャフト部やプーリー部の径、プーリー幅などが同じであったのです。
 
               seke1
図1.動力軸の設計事例
 
 一般に会社では、設計者の描いた図面の通りに作ることで考えます。製作する立場から考えるとこの動力軸は、プーリー外径よりも太い丸棒材からシャフト径まで結構な量を削ることになります。この場合、コストダウンは容易ではないでしょう。この動力軸について、プーリーとシャフトの2つに分けて、その2つを組合せるとしたらどうなるでしょう。削る量を大きく減らすことができますし、類似する動力軸も、同じ部品の組合せで済ますことができます。さらに、生産ロットを増やすことができ、コストダウンすることができます。
 
 このように欲しい形状や性能に対して、その作り方はたくさんあるということです。そして、ここからが肝心です。その欲しい形状や性能を満たすうえで、構造や構成と最適なコストの関係を知っておくことが必要です。しかし、コスト上の優位性を判断する能力は、多くの知識と経験を必要とします。当然、そのための時間も必要になってきます。
 
 ある会社の幹部の方から設計者の質を高めたいが、どうしたらよいかという相談を受けたことがあります。ここで述べている質とは、社内で用いられている製品の構造や原価について、固定化してしまっているため、設計者の意識改革を行い、現状を打破したいという主旨でした。
 
 ここで提案したことは、他の業界で設計の経験を持つ派遣社員を探して、社員の方たちと一緒に設計業務を遂行してもらい、刺激を与えることでした。派遣社員の方は、元大手の自動車メーカーで設計を担当されていました。自動車メーカーでは、早くから設計標準の整備がされており、要求される品質や性能に対してどのような構造や構成が、最適なコストになるかの選択基準をしっかりと持っているからです。
 
 この結果は、予想以上の成果をもたらしました。設計者の方たちが、従来の製品の構造や構成から抜け出すことができ、新しい構造や構成に対して強いコスト意識を持つことができるようになってきたのです。
 
 設計標準は、特定の製品を誰が設計しても同じような品質と性能を発揮でき、安定させることができるとともに、開発期間の短縮し、そして最適なコストへのガイド役になるものです。つまり、設計標準を設定することによって、コスト上の優位性を判断する能力をより短期間に高めることができます。
 

2.設計標準の作り方

 それでは、設計標準の作成する手順について、以下に紹介します。
 
(1)設計標準を作成するにあたっては、まず自社の対象とすべき製品を決めます。
(2)つぎに、製品の大きさや材料、形状などの特徴を整理します。(製品分析)
(3)作る製品によって、必要になる設備機械が異なってきます。そのリストアップを行います。
(4)それらの設備機械に関する詳細の加工工程を整理します。(工程の分析)
(5)設備機械に関するコスト情報の収集を行います。(コスト情報の収集)
(6)そして、設備機械には、加工限界があります。この加工限界を整理します。(加工限界分析)
(7)材料、部品のレベルに加工限界値を設定します。(設計標準基礎データ)
(8)ユニットレベルでの品質や性能などを条件とコスト情報を整備します。(ユニット別設計標準)
 
 設計標準の一貫として製品やサブアッセンブリなどを対象にプロトタイプを設定して、標準化と部品の共通化を図ります。この方法は、プロタイプをベースに製品の重量やサイズに応じたパラメータを求め、迅速に製品概算コストを求めることにも役立ちます。しかし、単にプロトタイプを設定しただけでは、大きな効果を得ることはできません。
 
 ベースになる各部品について、最適なコストで設計されていることが重要になってきます。設計標準が、この最適なコストを追求していくために必要になってくるのです。
 

3.設計標準基礎データとは

 炭素鋼板という材料を用いて、機械に取り付けるカバーを設計するとします。形状は、L字に曲げます。そして、L字に曲げたかど部分の近くにタップ穴があいています。このカバーは、通常NCTプレス(タレパン)⇒ベンダー(曲げ)の2工程で製作できます。
 
しかし、タップ穴が、角の部分に近すぎるとどうなるでしょうか。製作方法は、NCTプレス(タレパン)⇒ベンダー(曲げ)⇒ボール盤(穴、タップ加工)になります。
 
 これは、タップ穴をあけてから曲げようとすると材料がのびてしまって、丸形状ではなくなってしまうからです。このため、タップ穴を後から加工するのです。
 
 当然工程が増えることによって、コストは上昇してしまいます。この場合、タップ穴は、かどの部分にどこまで近づけても2工程で済むのかということになります。これが、設計標準基礎データです。
 

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この記事の著者

間舘 正義

製品を切り口に最適コスト追求のためのコスト・ソリューションを提供します。

製品を切り口に最適コスト追求のためのコスト・ソリューションを提供します。


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