ユーザーエクスペリエンス(UX)

 
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近年モノづくり界では、ユーザーエクスペリエンス(UX)というキーワードが急浮上しています。日立製作所や東芝などの製造業大手が、UX専門の組織を立ち上げ、巷(ちまた)では「UXデザイナー」という職種の求人も増加傾向にあります。機能や性能といった技術面が優れている工業製品であっても、UXの考慮が欠けていると顧客の不評をうけてしまい、顧客満足度向上の観点から、UXは生き残りのための至上命題となりつつあります。
 
 このUXとは一体、何物なのでしょうか、UX(ユーザーエクスペリエンス)とは、読んで字のごとく、「ユーザーがシステムから得られる体験」を意味します。ISO 9241-210においては「製品、システム、サービスを使用した、および/または、使用を予期したことに起因する人の知覚(認知)や反応」と定義されています。要するに、ユーザーが製品やサービスを使用した結果として得られる体験、全てを指す概念です。ここで言う「体験」は、快適や満足といったポジティブな反応だけに限らず、不快感や不満といったネガティブな反応も含まれることになります。
 
 UXと語感が似ているため混同されがちな概念にUI(ユーザーインターフェイス)があります。UIは、ユーザーとシステムとの間でやりとりを行う接点を意味しており、身近な例として、スマートフォンの画面表示やタッチパネル式入力が挙げられます。UXは、UIを含んだ包括的な概念となっており、良いUIは、良いUXの必要条件であるが十分条件ではありません。
 
 例えば、洗練されたUIを採用しているシステムであっても、処理待ち時間が極めて長く、ユーザーがストレスを大きく感じる場合は、そのシステムのUXが高いとは言えません。UX向上のためには、UI以外の領域(例: メッセージ内容の理解しやすさ、レスポンスの迅速さ)の品質も十分に考慮する必要があります。
 
 筆者の経験上、UXを損なう要因として「製品の挙動が自分の期待に反する」「かゆい所に手が届かない」「操作が難解で目的達成の手順が分からない」などが挙げられます。対人間の付き合いでも当てはまりますが、事前の期待が大きいほど、予期せぬ挙動(結果)にガッカリする度合いが大きいのです。このガッカリの原因は「製品の設計がエンジニア視点であり、ユーザー視点を考慮していない」ことの影響が大きいと言えます。エンジニアの”期待”するユーザー像は、”実際”のユーザー像と食い違うことが多いのですが、エンジニアはその食い違いに無自覚な傾向があります。
 
 ユーザーは「製品を使って自分の目的を果たす」というユースケースを、心に思い描いています。他方、エンジニアは、技術的な都合に基づき「機能の集合体」として製品を設計しがちです。ユーザーにとって重要なのは、製品がもたらす「ストーリー」で、「夢」と言い換えても良いかもしれません。その文脈では、エンジニアは「夢の語り部」となる必要があります。だが、ストーリー(線)を上手く語れず、技術論(点)を語ってしまいます。
 
 実際の製品では、ユースケースの実現に複数の機能を横断的に使う場合が多いようです。例えば、「ハードディスク・レコーダーで録画予約する」というユースケースの実現には「チャンネルの設定」「電子番組表の操作」「ハードディスクの管理」「録画予約の実行」といった複数の機能が前提となるでしょう。この場合、エンジニアは、個々の機能に閉じず、機能間のつながりを意識すべきです。ストーリーは、機能の一連の流れです。各機能に閉じて考えると、製品全体がチグハグとなり、首尾一貫したストーリーが成立しなくなります。UXを向上するには、設計時に、ユースケースを十分に考慮し、ユーザー視点を常に意識することが肝要です。
 
  この文書は、 2015年10月22日の日刊工業新聞掲載記事を筆者により改変したものです。
 

この記事の著者

坂東 大輔

技術士(情報工学部門)と通訳案内士(英語)の二刀流のEngineering SAMURAIが貴社のお悩みを一刀両断致します。

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