市場トラブルを解決に導く調査の進め方~海外製テレビの誤動作と電池焼損の事例に学ぶ~

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市場トラブルを解決に導く調査の進め方~海外製テレビの誤動作と電池焼損の事例に学ぶ~

【目次】

    市場で発生する製品トラブルは、単なる故障から環境要因、設計上の不具合まで多岐にわたります。特に海外製品の場合、初期対応や原因特定が解決の鍵を握ります。今回は、深夜に突然電源が入る海外製テレビの怪現象や、介護施設で発生したLEDライトの発火事故を事例として取り上げます。現場での詳細な調査や技術的解析がいかに重要であるかを解説し、問題解決に向けた「三現主義」の重要性について考察します。

     

    1. 海外製液晶テレビの誤動作

    (1)背景

    大手家電量販売店が年末商戦で、海外メーカーの高機能液晶テレビを破格の価格で販売を行った。売れ行きは好調であったが、販売開始から2週間くらいして、販売店に以下のクレームが発生した。(図1.1)

     

    「夜中寝ていると誰もいないはずのリビングから人の声が聞こえてきた。恐る恐るのぞいてみると、消したはずのテレビがついていた。消し忘れたかと思いスイッチを切って寝たが、10日くらいしてまた同じ現象かまた発生した。何かテレビに問題がないでしょうか」  調べてみると、他店でも同じようなクレームが数件発生していることが判明した。海外のメーカーに問い合せたが、「他国にも販売しているが、他ではそのような問題が発生してないので、日本の設置環境に問題があるのではないか」との回答であった。

     

    市場トラブルを解決に導く調査の進め方~海外製テレビの誤動作と電池焼損の事例に学ぶ~

    図1.1 深夜のリビング(イメージ図)

     

    (2)障害調査

    同様のクレームが複数件発生していることから、問題が発生したお客様へ以下のアンケート調査をお願いした。アンケートのポイントは、日時や場所に偏りがあるか、集合住宅で近隣からの影響があるか、家の近くに大型の輸送貨物車が通って強力な無線が発信されている可能性がないか、近隣に大電力設備がある建物がないか、ペットの徘徊でリモコンに触れた可能性はないかなどを調査した。

    <アンケート内容>

    • ・発生の日時
    • ・住所(市区町村まで)
    • ・住まいは戸建て、マンション、アパートか
    • ・近所に国道/県道(2車線以上の幹線道路)や高速道路があるか
    • ・近所に荷物の集配所、アマチュア無線アンテナ、変電所、工場の有無
    • ・自宅に200Vの家電機器があるか
    • ・家族構成とペットの有無


    障害クレーム品と正常と思われる液晶テレビを各1台ずつ入手して、家電製品向の各種イミュニティ(EMS)試験に加え、さらに厳しいノイズを印加し...

    市場トラブルを解決に導く調査の進め方~海外製テレビの誤動作と電池焼損の事例に学ぶ~

    【目次】

      市場で発生する製品トラブルは、単なる故障から環境要因、設計上の不具合まで多岐にわたります。特に海外製品の場合、初期対応や原因特定が解決の鍵を握ります。今回は、深夜に突然電源が入る海外製テレビの怪現象や、介護施設で発生したLEDライトの発火事故を事例として取り上げます。現場での詳細な調査や技術的解析がいかに重要であるかを解説し、問題解決に向けた「三現主義」の重要性について考察します。

       

      1. 海外製液晶テレビの誤動作

      (1)背景

      大手家電量販売店が年末商戦で、海外メーカーの高機能液晶テレビを破格の価格で販売を行った。売れ行きは好調であったが、販売開始から2週間くらいして、販売店に以下のクレームが発生した。(図1.1)

       

      「夜中寝ていると誰もいないはずのリビングから人の声が聞こえてきた。恐る恐るのぞいてみると、消したはずのテレビがついていた。消し忘れたかと思いスイッチを切って寝たが、10日くらいしてまた同じ現象かまた発生した。何かテレビに問題がないでしょうか」  調べてみると、他店でも同じようなクレームが数件発生していることが判明した。海外のメーカーに問い合せたが、「他国にも販売しているが、他ではそのような問題が発生してないので、日本の設置環境に問題があるのではないか」との回答であった。

       

      市場トラブルを解決に導く調査の進め方~海外製テレビの誤動作と電池焼損の事例に学ぶ~

      図1.1 深夜のリビング(イメージ図)

       

      (2)障害調査

      同様のクレームが複数件発生していることから、問題が発生したお客様へ以下のアンケート調査をお願いした。アンケートのポイントは、日時や場所に偏りがあるか、集合住宅で近隣からの影響があるか、家の近くに大型の輸送貨物車が通って強力な無線が発信されている可能性がないか、近隣に大電力設備がある建物がないか、ペットの徘徊でリモコンに触れた可能性はないかなどを調査した。

      <アンケート内容>

      • ・発生の日時
      • ・住所(市区町村まで)
      • ・住まいは戸建て、マンション、アパートか
      • ・近所に国道/県道(2車線以上の幹線道路)や高速道路があるか
      • ・近所に荷物の集配所、アマチュア無線アンテナ、変電所、工場の有無
      • ・自宅に200Vの家電機器があるか
      • ・家族構成とペットの有無


      障害クレーム品と正常と思われる液晶テレビを各1台ずつ入手して、家電製品向の各種イミュニティ(EMS)試験に加え、さらに厳しいノイズを印加して再現実験を試みた。(図1.2)

       

      市場トラブルを解決に導く調査の進め方~海外製テレビの誤動作と電池焼損の事例に学ぶ~

      図1.2 テレビにノイズ印加(イメージ図)

       

      (3)結果

      アンケート結果から、障害発生日に規則性はなかったが、発生時刻はすべて深夜の0時から早朝であった。それ以外は、地域性や近隣の環境・設備などに共通点は見られなかった。新品とクレーム品のデレビで、イミュニティ(EMS)試験を実施したが、どちらも異常現象の再現は発生しなかった。


      以上の結果から、設置環境によって問題が発生する可能性はかなり低いと想定されるので、製品自体に下記の問題が潜んでいる可能性が高いとの結論に至った。

      • ・ CPU及びLSI内部の回路ミス
      • ・ CPU及びLSIまわりの部品不良または製造不良
      • ・ ソフトウェアまたはファームウェアのバグ

       

      (4)海外メーカーからの回答

      一応、大手家電量販店から海外メーカーへ調査内容を伝えてもらったが、当初は良い返答が得られるとは期待していなかった。しかし、半年後、大手家電量販店に確認してみたところ、海外メーカーから下記の回答が来て、無事に問題が解決したと連絡を受けた。

      <回答内容>

      「社内で再検証したところ、夜中に日本の週間テレビ番組(図1.3)をダウンロードするプログラムの一部に不具合が発見された。ある希な条件が重なった場合、テレビの電源をONにしていた。この現象が該当する地域は日本のみであった。」

       

      販売店からきちんとした調査レポートを提出したお陰で、海外メーカー側でも誠意ある対応を取ってもらえ、無事解決できた。 

       

      市場トラブルを解決に導く調査の進め方~海外製テレビの誤動作と電池焼損の事例に学ぶ~

      図1.3 週間テレビ番組

       

      2. リチウムイオン電池の焼損事故

      (1)背景

      強力マグネット付でどこでも便利に使える携帯型LEDライトを、介護施設で介護師さんが夜間勤務用に約20本、使用していた。図2.1に示すように、夜間患者さんからナースコールで呼ばれた際、介護ステーションのホワイトボードにマグネットで貼りつけてあるLEDライトを介護師さんが持って病室へ行き、ベット脇の明かり取りに利用していた。夜中の1時頃ナースステーションでポンと音がしたため、駆けつけてみると、ホワイトボートにマグネットで貼りつけていたLEDライトの1つが発火していたので、近くの流しに入れ鎮火させた。

       

      市場トラブルを解決に導く調査の進め方~海外製テレビの誤動作と電池焼損の事例に学ぶ~

      図2.1 介護施設でLEDライトの使用例

       

      (2)故障解析

      障害品を含めて、使用していたLEDライト十数個を全て回収し、故障解析を行った。本品は海外製のため、現品からリバースエンジニアリングの手法で図2.2に示すように、構成図と回路図を作成して検証し、焼損した現品の痕跡状況を調査した。

       

      市場トラブルを解決に導く調査の進め方~海外製テレビの誤動作と電池焼損の事例に学ぶ~

      図2.2  LEDライトの構成図

       

      (3)リチウムイオン電池の特徴

      リチウムイオン電池は、正極・負極・電解液・セパレータの4つで構成されている。リチウムイオンが電解液の中の正極・負極を移動する際に充電・放電する仕組みで、図2.3に示すように、正極・負極は接触しないようセパレータで仕切られている。リチウムイオン電池のメリットは、長寿命かつ小型・軽量である点である。 目安として約500回の充電・放電サイクルに耐え、製品によっては6~10年程度使用できる場合もある。

       

              市場トラブルを解決に導く調査の進め方~海外製テレビの誤動作と電池焼損の事例に学ぶ~

      図2.3 リチウムイオン電池の構造

       

      リチウムイオン電池は、外部から強い衝撃や圧力などの機械的要因が加わると、セパレータが破れ、内部で正極と負極が短絡して、発熱・破裂・発火の可能性がある。過充電や過放電で、正極の電位が上昇して電解液の電位窓を超えると、電解液が酸化分解されて発熱する。温度上昇が70℃を超えるとセパレータが縮み始めて微少短絡が発生し、さらに温度が上昇する。100~140℃位まで上昇すると、機械的要因と同様に、熱暴走・発火に至る。

       

      (4)解析結果

      バッテリ充電部の回路検証では特に問題点は見いだせなかった。障害品を検証したところ、LEDライトのカバーに損傷痕があり、返品された正常品にも同様の傷痕があった。普段の使用時に落下などのリチウムイオン電池に機械的な衝撃が加えられたため、今回の焼損事故が発生したと推測された。焼損状況から、図2.4に示すような、バッテリ(BATT)→コネクタ→コイル→充電IC→FET×2個→保護IC→コネクタの過放電ルートが推定される。取扱説明書には「落下衝撃」の注意書きは記載されていたが、LEDライト本体にも注意喚起する表示を付けることを、販売元に提案した。

        

      市場トラブルを解決に導く調査の進め方~海外製テレビの誤動作と電池焼損の事例に学ぶ~

      図2.4 焼損ルートの推定

       

      3. まとめ

      市場で障害クレームが発生したときは、冷静に素早く対応する事が重要である。障害要因にはいくつかのパターンがある。

      • ①製品の正常な劣化、寿命
      • ②ユーザーの誤解で間違った使い方をした
      • ③本来の条件と異なる場所や工事で設置されている
      • ④製造不良、部品不良または設計不良

       

      ①②の場合は、素早く適切な説明が出来れば収束は早い

      ③の場合は、納得してもらえる様な指導説明が必要で、判りやすいマニュアルなどの改善が必要になる場合がある

      ④メーカーの責任なので、真摯に問題点を認め改善と顧客対策に取り組む


      いずれにしても「三現主義(現場、現物、現実)」で、机上ではなく、実際に現場で現物を観察して、現実を認識した上で、問題の解決を図ることが重要です。

       

       

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      この記事の著者

      芥 正二郎

      民需向け情報通信機器の開発設計業務に約30年従事 その後、電子部品から電子機器のEMC/製品安全試験の評価と対策、信頼性評価/故障解析の業務に約13年従事

      民需向け情報通信機器の開発設計業務に約30年従事 その後、電子部品から電子機器のEMC/製品安全試験の評価と対策、信頼性評価/故障解析の業務に約13年従事


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